Title  愚祕抄  Description さても西行上人の歌勢を能々見侍れば、誠に比道の權者と覺侍り。天氣も常は無比の上手とおぼしめされけるにや。柿本の再誕の例のしごとよと、勅定ありき。已に今世此の道衰へもてきて、跡なくなりぬべかりしを、西行と申す聖、其の實を存せるが故に、風體をよみ直して、其のかたはら殘れりと申したるにや。但西行上人の樣をまなばんことは、其人ならでは、非器の輩の努々かなふまじき樣にて侍り。まね損ぜば、世にも平懷にも又かたはらいたくも聞ゆべきなり。  住吉の松の木間よりながむれば月おちかゝるあはぢ島山 此の歌を去る元久勅撰の時、・・・・これを何とよみてよかるべきと又仰せ下されしに、存ずる所を各々申しき。西行は松の木の門よりとおくべきにやと申しき、心はたしかなれども余り長く聞ゆるにや。・・・・ 又歌をよまむ時、あからさまにも其の座正しからで詠む亊なかれ。自由にて詠み習ひぬれば、如何にも晴の時よき歌よまれず。西行は毎度歌をよまむとては、縁行道してうそぶき詠みけるが故に、先年仙洞にて老若の勝負の御歌合當座なりしに、「西行いだすな、たて籠りてよませよ」と勅定ありき。げにもと覺えて侍りしか。されば其時は、さまで秀逸と覺しき歌はなかりき。  End  底本::   著名:  西行全集 第二巻   校訂:  久曾神 昇   発行者: 井上 了貞   発行所: ひたく書房   初版:  1981年02月16日 第 1刷発行  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.org)   入力日: 2001年03月29日  校正::   校正者:   校正日: $Id: guhi.txt,v 1.3 2010/01/10 07:58:32 nitobe Exp $