Title  古来風体抄 下  古來風體抄 下  Author  藤原俊成  Description  歳月のあらたまりかはる、花もみぢにつけても、歌のすがたことばはおもひよそへられ、そのほどしな%\もみるやうにおぼゆべき物なり。春のはじめゆきのうちよりさきいでたる、のきちかき紅梅しづのかきねの梅も、色はことごとながら、にほひはおなじくたをる袖にもうつり、かほり、身にしむ心ちするを、花のさかりになりぬれば、吉野山のさくらは殘れる雪にまがひ、増て雲ゐの花のさかりは、しら雲のかさなれるかと心もをよびがたきを、はるふかくなるまゝには、いでの山吹にかはづのなき、きしの藤なみにゆふべのうぐひす春の名殘おしみがほなるなども、さま%\身にしむこゝちするを、岩垣沼のかきつばた、山下てらす岩つゞじなどまで、ほどにつけては心うつらぬにあらず。卯月にもなれば、垣根のうの花にほとゝぎすのうちしのび、まがきのなでしこのあさ露にひらけたるほどなどは、又たぐひわすれぬべきを、さまでならぬ道のべのあふちの花の風にうちかほり、庭のあぢさゐのよひ/\にをける露に、夕月よのほのかにやどれるなどは、いみじくすてがたく見ゆるを、さ月の三日九重のうちをおもひいづれば、たち花のうちかほれる軒ちかく、あやめの御こしかきたてたるに、御はしのまへよりみなみざまに、なにとなき時の花を左右にたてわたしたる體、あやめの香にかほりあひたる體など、たとへんかたなき物なり。夏ふかくなりぬる夕暮に、池のはちすの色々ひらけたるは、氷さへかほる心ちするなどは、この世のほかまで思ひやらるゝものなり。秋の風たちぬれば、まがきのをみなへしにむしのこゑごゑ露けく、野べの秋はぎに鹿のつきまとへるなどは、さらにいふべきにもあらず。しをに藤ばかまなどはさまでならぬを、昔をわすれず夢の枕にかよひけんもあさからず。秋ふかくやう/\時雨ゆくまゝには、よもの山の梢色ふかくなりゆき、まがきの菊霜にうつろひゆくなどはいふべきにもあらぬを、外山のしぐれもことにぬらしけるにや。ぬるての紅葉のわきて色深きを、おりてみれば、枝さしなどはなつかしからずながら、色のふかさもあはれに、はしのたちえまゆみの紅葉などは、あだちのはらまで思ひやられ、ましてかえでの紅葉は、葉のさま枝くきまで、近くて見るさへあはれになつかしくぞみえたる。冬になりゆくまゝには、あしのかれ葉に霜をきまがひ、みぎはの氷にとぢられ、まして雪ふりぬれば岩ほにもさく花とうたがはれ、つゐのみどりの松のうへの雪などは、としさへ殘なくなるにつけても、袖の氷も身にしみまさる心地してこそはおぼゆるやうに、歌のすがた心もたゞかやうによそへてこゝろうれば、まことに姿たかくきよげにもえんにも、ゆたかにも、又さまでならねどひとふしおかしきさまも、ほと%\につけつゝよそへられぬべき亊なり。さていまは古今集の歌はじめより所々申侍べし。  Subtitle  古今和歌集  Subtitle  春歌  0001  ふるとしに、春立ける日よめる                在原元方 棟梁男 業平孫也 年のうちに春はきにけりひとゝせをこぞとやいはむことしとやいはむ  この歌まことに理つよく、又おかしくもきこえて、ありがたくよめる歌なり。  0002  春立ける日、よめる                紀貫之 袖ひぢてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらん  此歌古今にとりて心も詞もめでたくきこゆる歌なり。ひぢてといふ詞や、いまの世となりてはすこしふりにて侍らん。つも・かも・べらなりなどは、さる亊にて、それよりつぎ/\すこしかやうなることば共の侍るなるべし。  0003  題しらず               よみ人しらず 春がすみたたるやいづこみよしのの吉野の山に雪はふりつゝ。  この歌はたてるやとかきたる本も侍れど、よき本にはみなたゝるやとかけるなり。歌のたけすがたなどいみじく侍るを、いまの世にはたゝるやとこと葉ふりにたるなるべし。たてるにては又あまりにつよく、しなのをくるゝなるべし。  0004  二條の后の春のはじめの御歌 雪のうちに春は來にけりうぐひすのこほれるなみだいまやとくらむ  0005  題しらず                よみ人しらず 梅がえにきいる鶯春かけて鳴けどもいまは雪はふりつゝ  これらはいまの世にもいみじくおかし。  0006  雪の木に降りかゝれるを                素性法師 春たてば花とやみらん白雪のかゝれる枝にうぐひすのなく  これは又いみじくおかしきを、見らむのこと葉、いまの世にはすこしもちゐがたき也。わざとよめるとみゆるはおかしくもみゆるに、源のよりまさと申しゝものゝよみて侍る。  0007  題しらず                よみ人しらず こゝろざし深くそめてしおりければきえあえぬ雪の花とみゆるか  これはさきのおほきおほいまうち君の歌なりとかけり。此集の歌にはこゝろことばいみじくおかし。是より後はやう/\略して申べし。  0008  春の始によめる                藤原言直 はるやとき花や遲きと聞わかむ鶯だにもなかずも有かな  0009  寛平御時后宮の歌合の歌                源まさすみ 山風にとくる氷のひまごとにうち出る浪や春のはつはな  0010  題しらず                讀人しらず 深山には松の雪だに消えなくに都は野べの若菜つみけり  0011  歌たてまつれと、おほせられし時讀て奉れる                紀貫之 春日のゝわかなつみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらん  0012  寛平御時后宮歌合の歌                源宗干朝臣 ときはなる松のみどりも春くればいまひとしほの色まさりけり  0013  鴈のこゑをきゝてこしへまかりける人を思ひてよめる                凡河内躬恆 春くれば鴈かへるなり白雲の道ゆきぶりにことやつてまし  0014  題しらず                讀人しらず 折つれば袖こそにほへ梅の花ありとやこゝに鶯の鳴く  以上此歌ども、いづれも姿心いみじく侍り。そのうちこの歌梅をおりける袖の深く匂ひけるを、こゝには花なけれども鶯の香をたづねてなくらむ。心めでたく侍るなり。  0015  水邊に梅の花の咲けるをよめる                伊勢 春ごとにながるゝ河を花と見ておられぬ水に袖や濡れなむ  0016  なぎさの院にて櫻の花を見てよめる                在原業平朝臣 世中にたえて櫻のなかりせば春の心はのどけからまし  0017  題しらず                よみ人しらず 石ばしる瀧なくもがな櫻花手折てもこむみぬ人のため  石走とをき瀧なくもがなと言へる、文字つかひのめでたく侍る也。  0018  花ざかりに都をみやりてよめる                そせい法師 見渡せば柳さくらをこきまぜて都ぞ春の錦なりける  0019  歌たてまつれとおほせられし時よみて奉りける                つらゆき 櫻花咲にけらしも足引の山のかひよりみゆる白雪  けらしもといへるも、此歌にはかぎりなくめでたくきこゆ。  0020  やよひに、閏月ありけるとしよめる                伊勢 櫻花春くはゝれるとしだにも人の心にあかれやはせぬ  としだにもといひ、あかれやはせぬといひはげませる心姿、限りなく侍る也。  Subtitle  春下  0021  僧正遍昭につかはしける                惟喬みこ 櫻花ちらばちらなん散らずとも故郷人のきても見なくに  此おほん歌すがた、このみこいかでかくはよみたまひけるにか  0022  雲林院にて櫻の花のちりけるをみて讀る                承均法師 さくら散花の所は春ながら雪ぞふりつゝきえがてにする  0023  奈良のみかどの御歌                大同帝 故郷となりにし奈良の都にも色は變らず花ぞ咲きける  0024  題しらず                よみ人しらず かはづなくゐでの山吹散りにけり花のさかりにあはましものを  たち花の清友が歌也  0025  やよひのつごもり雨の降りけるに藤の花をおりて人につかはしける                業平の朝臣 濡れつゝぞしゐて折りつる年のうちに春はいくかもあらじと思へば  しゐてといふ言葉に、姿も心もいみじく侍るなり。歌はたゞ一言葉にいみじくも、ふかくなる物に侍る也。  Subtitle  夏歌  0026  奈良のいそのかみでらに郭公を聞てよめる                素性法師 いそのかみふるき都のほとゝぎす聲ばかりこそ昔なりけれ  0027  月の面白かりける夜曉がたに讀る                清原深養父 夏の夜はまだよひながら明にけり雲のいづこに月かくるらん  0028  みな月のつごもりの日よめる                躬恆 夏と秋と行かふ空のかよひぢはかたへ凉しき風や吹くらむ  Subtitle  秋歌  0029  秋立日うへのをのこども、賀茂のかはらに河逍遙しけるともにまかりてよめる                貫之 河風の凉しくもあるか打寄する浪とともにや秋は立らん  0030  是貞親王家歌合歌                大江千里 月みればちゞにものこそ悲しけれ我身ひとつの秋にはあらねど  0031                讀人しらず 奧山に紅葉ふみ分なく鹿の聲きく時ぞあきは悲しき  0032  朱雀院のをみなへしあはせに                左のおほいまうち君 をみなへし秋の野風に打なびき心ひとつを誰によすらん  0033  秋歌合しける時よめる                紀淑望 もみじせぬときはの山は吹風の音にや秋をきゝわたるらむ  0034  神のやしろのあたりを、まかりける時、いがきのうちの紅葉を見てよめる                貫之 千はやふる神のいがきにはふ葛も秋にはあへずうつろひにけり  0035  仙宮に菊を分て人のいたれるかたを讀る                素性法師 濡れてほす山路の菊の露のまにいつか千とせを我はへにけん  此歌濡れてほすとをける五文字の殊にめでたく侍るに、又山路の菊の露のまにといへるもありがたくつゞけて侍によりて、すゑの句もなにとなくひかれて、いみじくきこゆるなり。  0036  白菊の花を讀る                躬恆 こゝろあてにおらばやおらむ初霜のをきまどはせる白菊の花  0037  みやづかへ、久しくつかまうまつらで山里にこもりける時よめる                藤原關雄 おく山の岩がきもみぢ散りぬべしてる日の光見るときなくて  關雄が住みける山里は、今の襌林寺なり。  0038  題しらず                よみ人しらず たつた河もみぢみだれてながるめりわたらば錦中やたえなむ  0039 龍田河紅葉はながる神なびのみむろの山に時雨ふるらし  此二首の歌さきのは奈良の帝聖武天皇の御歌、つぎのは柿本人丸の歌也  0040 秋は來ぬ紅葉は宿にふりしきぬ道ふみわけてとふ人はなし  0041  二條后東宮御息所と申ける時、御屏風に龍田川に紅葉流れたるかた書きたる所をよ  める                業平朝臣 千はやふる神代もきかず立田川からくれなゐに水くくるとは  神代もきかず立田川といへるわたりのめでたき也。  0042  長月のつごもりに大井にてよめる                貫之 ゆふづくよ小倉の山に鳴く鹿の聲のうちにや秋はくるらん  Subtitle  冬歌  0043  題しらず                よみ人しらず 大空の月の光し寒ければかげみし水ぞまづこほりける  0044 梅花それともみえず久堅のあまぎる雪のなべてふれゝば  此歌人丸が歌と申す  0045 雪ふりて年のくれぬる時にこそつゐにもみぢぬ松もみえけれ  Subtitle  賀歌  0046  右大將藤原朝臣四十賀のうしろの屏風の歌 春日野にわかなつみつゝ萬世をいはふ心は神ぞしるらん  0047  秋                躬恆 住吉の松を秋風吹からに聲うちそふるおきつしら浪  Subtitle  別歌  0048  題しらず                中なごん行平朝臣 立わかれいなばの山の嶺におふる松としきかばいまかへりこむ  此歌あまりにぞくさりすぎたれど、姿おかしきなり。 0049                よみ人しらず かぎりなき雪ゐのよそにわかるとも人を心にをくらさむやは  0050  しがの山ごえにて石井のもとにて、ものいひける人にわかれける時よめる                貫之 むすぶ手のしづくににごる山の井のあかでも人にわかれぬるかな  此歌むすぶてのとをけるより、しづくににごる山の井のといひて、あかでもなどいへる、大かたすべて言葉ことのつゞきすがた心かぎりなく侍なるべし。歌の本たいはたゞ此歌なるべし。  Subtitle  羇旅歌  0051  もろこしにて月を見てよみける                安倍仲磨 あまの原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出し月かも  0052  おきの國にながされける時、舟に乘りていで立とてよめる                小野篁 わだの原八十島かけて漕出ぬと人にはつげよあまの釣舟  ひとにはつげよといへるすがた心たぐひなく侍る也。  0053  題しらず                讀人しらず ほの%\とあかしの浦の朝ぎりに島がくれ行舟をしぞ思ふ  柿本朝臣人磨歌也  此歌上古中古末代まであひかなへる歌也。  0054  朱雀院奈良におはしましける時たむけ山にて                菅原のおとゞ 此たびはぬさもとりあへず手向山紅葉のにしき神のまに/\  Subtitle  戀歌  0055  題しらず                貫之 よしの河岩波たかく行水のはやくぞ人をおもひそめてし  0056                よみ人しらず 我戀はむなしき空にみちぬらし思ひやれども行かたもなし  0057 戀せじとみたらし河にせしみそぎ神はうけずもなりにけるかな  此歌は伊勢物語の歌なり  業平朝臣の歌にやおぼつかなし。いかにもめでたき歌ども也。  0058 戀すれば我身は影となりにけりさりとて人にそはぬものゆへ  此歌などはたゞこの比の人の歌のめでたきにて侍るなり。  0059                小野小町 思ひつゝぬればや人の見えつらんゆめとしりせばさめざらましを  0060                みつね 我戀は行ゑもしらずはてもなしあふをかぎりとおもふばかりぞ  0061                大納言國經 明ぬとていまはの心つくからになどいひしらぬ思ひそふらむ  0062                よみ人しらず さむしろに衣片敷今宵もや我を待らんうぢのはしひめ  0063                素性法師 今こんといひしばかりに長月の有明の月をまち出つるかな  0064               河原左大臣 みちのくのしのぶもぢずり誰ゆへにみだれそめにし我ならなくに  0065  五條の后宮のにしのたいに住みける人を、行衞知らず成て、又のとし梅の花ざかり  に月のかたぶくまであばらなるいたじきにふしてこぞを戀て讀る、                なりひらの朝臣 月やあらぬ春やむかしの春ならぬ我身ひとつはもとの身にして  月やあらぬといひ、春やむかしなどつゞける程かぎりなくめでたき也  Subtitle  哀傷歌  0066  さきのおほいまうち君を白河にをくり侍りける夜よめる                素性法師 血の涙おちてぞ瀧つ白河は君が代までの名にこそ有けれ  0067                壬生忠岑 瀬をせけば淵と成てもよどみけりわかれをとむるしがらみぞなき  0068  藤原利基朝臣左近中將にてすみける曹司の身まかりて後、庭のすすきしげりたりけ  るを見てよめる。                御春在助 君がうへし一むらすゝき蟲の音のしげき野べとも成にけるかな  0069  甲斐國にまかりて身まかりにける時讀ける                在原滋春 業平朝臣男也在                     二の君といふ かりそめのゆきかひぢとぞ思ひこしにまはかぎりの門出なりけり  Subtitle  雜歌  0070  二條后春宮御息所と申ける時、大原野にまうで給へりけるに、御車より御うちきを  給ひて讀ける                なりひらの朝臣 大原やをしほの山もけふこそは神代のこともおもひいづらめ  0071  五節のまひ姫を見てよめる                良峯宗貞 あまつ風雪のかよひぢ吹とぢよをとめのすがたしばしとゞめん  0072  題しらず                よみ人しらず 我こゝろなぐさめかねつさらしなやをばすて山にてる月を見て  0073 千はやぶる宇治のはしもりなれをしぞあはれと思ふとしのへぬれば  0074                藤原興風 誰をかもしる人にせんたかさごの松もむかしの友ならなくに  0075                をのゝたかむら しかりとてそむかれなくにことしあればまづなげかれぬあなう世間  0076  おきの國にながされ侍てよみける 思ひきやひなのわかれにおとろへてあまのなはたくいさうせむとは  0077  題しらず                よみ人しらず いざこゝにわが世はへなむすがはらやふしみの里のあれまくもおし  0078 我やどはみわの山本戀しくばとぶらひきませ杉たてるかど  これは三わの明神の御歌と申す  0079  ふる歌にくはへて奉りける長歌おくの反歌                たゞみね 君が代は相坂山の岩清水木がくれたりと思ひけるかな  Subtitle  誹諧歌  0080  題しらず                左のおほいまうち君 もろこしの吉野の山にこもるともをくれんと思ふ我ならなくに  此歌は漢朝に商山と申す山は我朝のよし野の山のやうに、みなみに侍るなり。よりてかくよめるが誹諧の心に侍るなり。  0081                伊勢 なにはなるながらのはしもつくるなりいまは我身をなににたとへん  此歌はながらのはし、くちにし後またつくらざれども、はしはつくりつべきものなるゆへに、つくるなりとよめるか又誹諧の心にて侍るなり  0082                讀人しらず 世をいとひ木のもとごとに立よればうつぶしぞめのあさのきぬなり  Subtitle  已上古今集  Description  萬葉集はとき世ひさしくへだゝりて、歌の姿ことばうちまかせてまなびがたかるべし。古今歌こそは本たいと仰信すべきものなれば、いづれもおろかならねど、その中にもことなるともを、ところ%\注し申侍なり。つぎに又後撰和歌集はしすこし又ところどころ申侍るべきなり。  Subtitle  後撰和歌集  Subtitle  春  0083  正月一日二條の后宮にておほうちぎをたまはりてよめる                藤原敏行朝臣 ふる雪の身のしろ衣うち着つゝ春來にけりとおどろかれぬる  0084  題しらず               閑院左大臣 なをざりにおりつる物を梅の花こき香に我や衣染めけん  0085                山邊赤人 わがせこに見せんと思ひし梅の花それとも見えず雪のふれゝば  Subtitle  春中  0086  やまとのふるの山にてよめる                僧正遍昭 いそのかみふるの山べの櫻花うへけん時をしる人ぞなき  0087  かへる雁をきゝてよめる                讀人しらず 歸かり雲路にまどふ聲すなりかすみ吹とけ春の山風  Subtitle  春下  0088  題しらず                ふかやぶ うちはえて春はさばかりのどけきをはなの心やなにいそぐらん  0089  月のおもしろかりける夜、花をみて                源信明 あたら夜の月と花とをおなじくは哀しれらん人に見せばや  0090  あがたの井戸の家より藤原のはるかたにつかはしける                きむひらがむすめ みやこ人きてもおらなむかはづなくあがたの井戸の山吹のはな  0091  題しらず                讀人しらず 山櫻さきぬる時はつねよりもみねのしら雲立まさりつゝ  まことやいづれの比よりたれがいひそめける亊にか。後撰には題しらず讀人もと(かき、拾遺には題よみ人しらずと)かくなりし、ちかき世の故人も申ときゝて、そのかみはさやうにもかき侍しを、なをふるき本どもあまたたづね見侍しかば、さま%\にかきたるさま、たゞ女などのかきうつす程にさやうなる亊を、人の申いでたるにこそとみえ侍しかば、後白河院の三代集かきてたてまつれとおほせられし時、後撰をも拾遺抄をもみな古今のおなじ亊にかきたてまつり侍しなり。よりてこれにもその定にかき侍しなり。  0092  やよひばかりに花のさかりに道をまかるとてよみ侍ける                僧正遍昭 折つればたぶさにけがる立ながら三世のほとけに花たてまつる  0093  やよひに閏月あるとしつかさめしの比申文にそへて小野の宮のおほいまうち君のい  ゑにつかはしける                つらゆき あまりさへありて行べき年だにもはるにかならずあふよしもがな  0094  返し                左大臣 つねよりものどけかるべき春なればひかりに人のなはざらめやは  Subtitle  夏歌  0095  なつの夜ふかやぶが琴ひくをきゝてよみ侍ける                藤原兼輔朝臣 みじか夜のふけ行くまゝに高砂のみねの松かぜふくかとぞみる  0096  かつらのみこのほたるをとりてと侍ければ、かりぎぬの袖につゝみて                うな井童男也 つゝめどもかくれぬものは夏むしの身よりあまれる思ひなりけり  又一説にはかつらのみこに、式部卿のみこすみ給ひけるを、かの宮の童女のおとこ、みこを思ひかけ申て、男みこのほたるをとりてと侍けるに、かざみの袖につゝみてたてまつるとてよめるともいへり。それをかつらのみこを、おとこみこかと心えて、此比も物にかくものなどの侍るなるこそいと見ぐるしく。  Subtitle  秋中  0097  題しらず                あめのみかどの御うた 秋の田のかりほの庵の苫をあらみわがころもでは露にぬれつゝ  0098  秋の歌とてよめる                ふかやぶ いくよへて後かわすれんちりぬべき野べの秋はぎみつる夜の月  Subtitle  冬歌  0099  題しらず                よみ人しらず 神無月ふりみならずみさだめなき時雨ぞ冬のはじめなりける  0100 ひとりぬる人のきかくに神無月にはかにもふるはつ時雨かな  0101  山に入とてよめる                増基法師 神無月時雨ばかりを身にそへてしらぬ山路に入ぞかなしき  0102  題しらず                よみ人しらず 雪ふりて年のくれぬる時にこそつゐにみどりの松もみえけれ  此歌は古今にありければ、ついにもみぢぬとあり。その言葉すこしはいかにぞきこゆるを、此集にはみどりのとあるはよきにはにたれども、又もみぢぬよりはこゝろのをとるなり。いづれもいかにぞおぼえながら年さむふして、しかうして後に、松柏ののちにしぼむ亊をしるといふこゝろのじみじくていづれをもえもらし侍らぬなり。  Subtitle  戀歌  0103  いひかはしける女のなをざりにいふにこそあめれといへりければつかはしける。                貫之 いろならばうつるばかりも染てまし思ふ心をえやはみせける  0104  おほつふねに物のたうびつかはしけるをさらにきゝ入ざりければ                閑院三のみこ貞元 大かたはなぞやわがなのおしからむむかしのつまと人にかたらむ  0105  返し                おほつふね 人はいさ我はなき名のおしければむかしもいまも知らずとをいはむ  0106  大納言國經卿の家に侍ける女を、忍びて行すゑまでちぎる亊侍りけるを、にはかに贈太政大臣のいゑにわたり侍にければ、せうそこをだにかよはさずなりにければ、この女の子のとし五ばかりなるが、本院のにしのたいにあそびけるかひなにかきて、母にみせたてまつれとてかきつけ侍ける                平貞文 むかしせし我かねごとのかなしきはいかに契りし名殘なるらむ  0107  返し                よみ人しらず うつゝとて誰ちぎりけんさだめなきゆめ路にまよふ我はわれかは  0108  女のもとにきぬをぬぎをきてとりにつかはすとてよみ侍ける                伊尹朝臣 すゞか山いせをのあまのすてごろもしほなれたりと人やみるらん  0109  こといできて後京極のみやすむどころにつかはしける                元良のみこ わびぬればいまはたおなじ難波なる身をつくしてもあはんとぞ思ふ  0110  題しらず                よみ人しらず 思ひつゝへにけるとしをしるべにてなれぬる物はこゝろなりけり  0111  菅原大臣家に侍けるをんなにかよひけるおとこ、中たえて又とひ侍りければ すがはらやふし見のさとのあれしよりかよひし人のあとはたえにき  Subtitle  雜歌  0112  仁和帝さがの御時のれいにてせり川の行幸し給ひける日                中納言行平朝臣 さがの山みゆきたえにしせり川の千世のふるみちあとはありけり  0113  世の中を思ひうらみて侍けるころ                なりひらの朝臣 すみわびぬいまはかぎりと山里につま木こるべきやどもとめてむ  0114  相坂の關に庵室してゐたりける時に、行かふ人をみてよみ侍ける                せみ丸 これやこの行もとまるも別てはしるもしらぬもあふ坂のせき  0115  かしらおろし侍ける日                僧正遍昭 たらちねはかゝれとてしも烏羽玉のわがくろかみをなでずやありけん  0116  左大臣家にてニ題をさぐりて歌よみ侍りけるに、露の字をとりてよみ侍ける                藤原國忠 われならぬ草葉も物は思ひけり袖より外にをけるしら露  Subtitle  祝歌  0117  左大臣家に子どものかうぶりし侍けるによめる                つらゆき 大原やをしほの山の小まつばらはや木だかゝれ千世のかげみん  0118  今上のみこにおはしましける時、大政大臣の家にわたりおはしまして、かへらせたまふ御をくり物に御本たてまつるとてよみ侍ける                太政大臣 貞信公 君がためいはふ心のふかければ聖の御代の跡ならへとぞ  0119  おほん返し                今上御製 をしへをくことたがはずは行末の道とをくともあとはまどはじ  Subtitle  已上後撰集  Subtitle  拾遺和歌集  Subtitle  春歌  0120  平貞文家歌合                壬生忠岑 春たつといふばかりにやみよし野の山もかすみてけさはみゆらん  0121  承平四年中宮賀の屏風の歌                 【幹】                紀文〓 春がすみたてるを見ればあら玉のとしは山よりこゆるなりけり  0122  霞をよめる                山邊赤人 昨日こそとしはくれしか春がすみかすがのれにはや立にけり  0123  若菜をよませ給ひける                圓融院御製 かすが野におほくの年はつみぬれどおいせぬ物はわかななりけり  0l24  入道式部卿宮子日によみ侍ける                大中臣能宣 千とせまでちぎりし松もけふよりや君にひかれて萬代やへむ  0125       ちか1  權中納言義懷櫻のはなおしむ歌よみ侍けるによめる                藤原長たふ 身にかへてあやなく花をおしむかないけらば後の春もこそあれ  0126  亭子院歌合によめる                紀貫之 さくらちる木の下風はさむからで空にしられめ雪ぞふりける  此歌は古今に承均法師花のところは春ながらといへる歌の、ふるきさまなるをやはらげてよみなしたれば、すゑのよの人の心にかなへるなり。  Subtitle  夏歌  0127  屏風に                源順 我やどのかきねや春をへだつらむなつ來にけりとみゆる卯の花  0128  夏のはじめに讀ける                源しげゆき なつにこそさきかゝりけれ藤の花松にとのみも思ひけるかな  0129  天徳歌合に                平兼盛 みやま出て夜はにやきつるほとゝぎすあかつきかけて聲のきこゆる  0130  東宮にさぶらひける繪に、くらはし山にほとゝぎすなきたるところをよめる                藤原實方朝臣 さ月やみくらはし山のほとゝぎすおぼつかなくもなきわたるかな  此歌まことにありがたくよめるうたなり。よりていまの世の人の本體とする也。されどあまりに秀句にまつはれり。これはいみじけれどひとへにまなばむ亊はいかゞ。  0131  九條右大臣家の屏風によめる                平兼盛 あやしくも鹿の立どのみえぬかなをぐらの山にわれや來ぬらん  これほどの秀句はこひねがふべし  0132  河原院のいづみのもとにすゞみて讀る                惠慶法師 松かげの岩井の水をむすびあげてなつなきとしと思ひけるかな  Subtitle  秋歌  0133  延喜御時御屏風に                紀貫之 はぎのはのそよぐ音こそ秋風の人にしらるゝはじめなりけれ  0134  七夕 あまの川とをきわたりにあらねども君がふなではとしにこそまて  0135  少將に侍ける時駒迎にまかりてよめる                太宰大貳高遠 相坂のせきのいはかどふみならし山立いづるきりはらのこま  0136  延喜御時月次御屏風歌                紀貫之 あふさかのせきの清水にかげ見えていまやひくらんもち月のこま  此ふたつの歌はとり%\にまことにめでたき歌なり。  0137  屏風には八月十五夜池ある家にあそびしたる所を                源したがふ 水のおもにてる月なみをかぞふれば今夜ぞ秋の最中なりける  此歌又くらはし山のほとゝぎすの歌の風體なり  0138  三條太政大臣の家にてよめる                藤原爲頼 おぼつかないづくなるらんむしの音をたづねば草の露やみだれん  これ又ひとへに優なる體なり  0l39  題しらず                よしのぶ もみぢせぬときはの山にすむ鹿はをのれなきてや秋をしるらん  0140  くれの秋重之がせうそこしたる返亊によめる                平兼盛 くれてゆく秋のかたみにをく物はわがもとゆひの霜にぞ有ける  これこそあはれによめる歌に侍めれ  Subtitle  冬歌  0141  ならのみかど、たつた川に紅葉御覽じける行幸に詠める                柿本人丸 龍田川もみぢ葉流る神なびのみむろの山にしぐれふるらし  是は古今の歌なり誠にめでたくも侍かな  0142  題しらず                紀つらゆき おもひかね妹がり行けば冬の夜のかは風さむみ千鳥なくなり  0143  屏風に                平かねもり ふしつけし淀のわたりを今朝みればとけんごもなく氷しにけり  是一のすがたなり。朝などはうちまかせぬ歌のことばなれど、此歌にとりていとおかしかるべし  0144                清原のもとすけ 高砂の松にすむ鶴冬くればおのへの霜やをきまさるらむ  0145  月を見てよめる                惠慶法師 あまの川空さへさえやわたるらむ氷とみゆる冬の夜の月  Subtitle  別離  0146  配所にして古郷につかはしける                菅贈太政大臣 君がすむ宿の梢をゆく/\とかくるゝまでも返り見しみや  Subtitle  物名  0147  あらふねのみやしろ                すけみ 莖も葉もみなみどりなるふかぜりはあらふねのみやしろくみゆらん  Subtitle  雜歌  0148  冷泉院東宮の御時月を待つ心うへのをのこどもよみ侍けるに                仲文東宮藏人 有明の月のひかりをまつほどにわが世のいたくふけにけるかな  ありがたくよめる歌なり  0149  水上秋月といへることをよめる                菅原文時 水のおもに月のしづむを見ざりせばわれひとりとや思ひはてまし  0150  遠き所にまかるとて女につかはしける                大江爲基 わするなよ程は雲井に成ぬとも空行月のめぐりあふまで  0151  圓融院御時齋宮下侍けるにはゝの前齋宮                齋宮女御 世にふれば又もこえけり鈴鹿山むかしのいまになるにやあるらん  此歌も秀句あまりなるにや  Subtitle  戀歌  0152  天徳御時歌合に                壬生忠見 戀すてふ我名はまだき立にけり人しれずこそ思ひそめしが  0153                平兼盛 しのぶれど色に出にけりわがこひは物やおもふと人のとふまで  0154  題しらず                人まろ おく山の岩がきぬまのみごもりに戀やわたらむあふよしをなみ  0155 たのめつゝこぬ夜あまたになりぬればまたじと思ふぞまつにまされる  比二首歌などはたゞ此比の人のうたにてもいみじくこそ侍れ  0156  入道攝政まかりけるに門ををそくあくといひ侍ければよみていだしける                右大將道綱母 歎きつゝひとりぬる夜のあくるまはいかに久しき物とかはしる  Subtitle  雜歌  0157  ことありて後                菅贈太政大臣 こちふかばにほひをこせよ梅花あるじなしとて春をわするな  0158  北白川にて花見に、人々まうできたりければよめる                公任卿 春來てぞ人もとひける山ざとは花こそやどのあるじなりけれ  0159  延喜御時南殿の櫻ちりしきて侍ければよめる                源公忠朝臣 とのもりのとものみやつここゝろあらばこの春ばかりあさきよめすな  0160  左大臣女御入内の屏風に                公任卿 紫の雲とぞみゆるふぢのはないかなるやどのしるしなるらむ  0161  しはすのつごもりによめる                きのつらゆき むば玉の我くろがみに年くれてかゞみのかげにふれる白雪  Subtitle  雜歌  0162  いなりにきうでゝけさうしはじめて侍りける女のこと人にあひて侍ければつかはしけ  る                長たふ 我といへばいなりの神もつらきかな人のためとはいのらざりしを  此歌いみじくおかしきすがたなり。たゞそのふしとなけれど、歌はかくよむべきなるべし  Subtitle  哀傷  0163  あさがほの花を人につかはすとて。                藤原道信朝臣 あさがほをなにはかなしと思ひけむ人をも花はさこそみるらめ  0164  恆徳公の服ぬぎ侍とて かぎりあればけふぬぎすてつ藤衣はてなき物はなみだなりけり  0165  題しらず                よみ人しらず 山寺の入相のかねのこゑごとにけふもくれぬと聞くぞかなしき  0166  少納言藤原むねまさがしがにて出家し侍りと、聞てつかはしける                公任卿 さゞ浪や志賀のうら風いかばかりこゝろのうちのすゞしかるらむ  0167  性空上人のもとにつかはしける                いづみしきぶ くらきよりくらき道にぞ入にけるはるかにてらせ山のはの月  0168  南天竺より婆羅門僧正東大寺供養にあひに、ぼだいのなぎさにつきたりける時詠侍ける                行基菩薩 靈山の釋迦のみまへにちぎりてし眞如朽せず逢見つるかな  0169  返し                婆羅門僧正 かびらゑにともにちぎりしかひありて文珠のみかほあひ見つるかな  0170  聖徳太子、かたをかの山邊道人家におはしましけるに、飢人路頭にふせる。太子馬よりおりてあゆみより給ひて、むらさきの御ぞをぬぎて、うへ人にたまふとてよみたまひける歌 しなてるやかた岡山にいひにうへてふせる旅人あはれおやなし  0171 おやなしになれ/\けめやさすたまの君はやなきいゐにうへて  0172  飢人かしらをもたげて、おほん返しをたてまつる いかるがやとみのを河のたえばこそ我おほ君のみなはわすれめ  已上五首上の卷にしるせりといへども、この集にいれるをもらさむ亊いかがとてかさねて書記也  Subtitle  已上拾遺集  Subtitle  後拾遺集  Subtitle  春  0173  正月一日よみ侍りける                小大君 いかにねておくる朝にいふことぞ昨日をこぞとけふをことしと  0174  みちの國に侍りける時春立日よめる                光朝法師母 出てみよいまはかすみも立ぬらむ春はこれよりすぐとこそきけ  0175  春從東來といふ心をよめる                源師賢朝臣 あづま地はなこその關もあるものをいかでか春のこえてきつらん  0176  春立つ日よめる                橘俊綱朝臣 相坂のせきをや春もこえつらむをとはの山のけさはかすめる  0177  一條院御時うへのをのこども春の歌とてこひ侍ければよめる                むらさきしきぶ みよし野は春のけしきにかすめどもむすぼほれたる雪の下草  0178  題しらず                いづみしきぶ 春がすみたつやをそしと山河の岩まをくゞる音きこゆなり  0179  たかつかさ殿の七十賀の屏風に、臨時客の所をよめる                赤染衞門 むらさきの袖をつらねてきたるかな春立つ亊はこれぞうれしき  0180  入道前太政大臣大饗の屏風に臨時客の所を詠侍ける                入道前太政大臣 きみませとやりつるつかひきにけらし野べのきぎすはとりやしつらん  0181  正月ばかり津の國に待ける時、人のもとにつかはしける                能因法師 こゝそあらむ人にみせばや津の國のなにはあたりの春のけしきを  0182  後冷泉院の御時、后宮歌合に殘雪をよめる                藤原範永朝臣 花ならでおらまほしきはなにはえのあしのわか葉にふれる白雪  0183  題しらず                大江よしとき 梅がかを夜はのあらしの吹ためて眞木の板戸のあくる待けり  0184                よみ人しらず 山ざとはかきねの梅のうつり香にひとりねもせぬ心ちこそすれ  0185  かへる雁をよめる                津守國基 うすゞみにかく玉づさとみゆるかなかすめる空に歸るかりがね  0186  白川院にて花をみて讀侍ける                大納言長家 あづま路の人にとはゞや白河のせきにもかくや花はにほふと  0187  題しらず                紫式部 世中をなになげかまし山ざくらはなみるほどのこゝろなりせば  0188  宇治前太政大臣花見になんときゝてつかはしける                大納言齋信 いにしへの花みし人はたづねしを老は春にもしられざりけり  0189  粟田右大臣家にて殘花をよみ侍ける                藤原爲時 をくれても開べき花はさきにけり身をかぎりとも思ひけるかな  Subtitle  夏歌  0190 正子内親王繪合し侍けるに、かねのさうしにかきて侍りける                さがみ みわたせば浪のしがらみかけてけりうの花さける玉川の里  0191  ほとゝぎすをよめる                能因法師 時鳥きなかぬよひのしるからばぬるよも一よあらまし物を  0192  花橘をよめる                さがみ 五月やみ空なつかしくにほふかな花たちばなに風や吹らん  0193  宇治の前太政大臣三十講の後歌合し侍けるに詠侍ける                大納言長家 なつの夜も凉しかりけり月影は庭白妙に霜とみえつゝ  Subtitle  秋歌  0194  八月十五夜に詠る                惟宗爲經 いにしへの月かゝりせばかつらぎの神はよるとも契らざらまし  0195  題しらず                曾根好忠 なけやなけ蓬が杣のきり%\すすぎゆく秋はげにぞ悲しき  0196  叢の露をよめる                範永 けさきつる野原の露に我ぬれぬうつりやしぬる萩の花ずり  0197  永承四年内裏歌合に                堀川右大臣 いかなればおなじ時雨に紅葉するはゝそのもりのうすくこからむ  Subtitle  冬歌  0198  承保三年十月今上御かりのつゐでに、大井河みゆきもせさせ給ける日よませ給ふける                御製 大井川ふるきながれをたづね來てあらしの山の紅葉をぞ見る  0199  かつらの山里にてしぐれのいたくふり侍りけるによめる                藤原兼房朝臣 あはれにもたえず音する時雨かなとふべき人もとはぬ栖に  0200  落葉如雨といふ亊をよめる                源頼綱 木葉ちるやどは聞わく方ぞなきしぐれする夜も時雨せぬよも  0201                藤原家經 紅葉ちる音はしぐれの心地してこずえの空はくもらざりけり  0202  十月ばかり山ざとによるとまりて詠める                能因法師 神無月ねざめにきけば山ざとのあらしの聲は木葉なりけり  0203  永承四年内裏歌合に千どりをよみ侍ける                堀川右大臣 さほ川の霧のあなたになく千鳥こゑはへだてぬ物にぞ有ける  0204  題しらず                和泉式部 さびしさにけぶりをだにもたゝじとて柴おりくぶる冬の山里  0205                増基法師 冬の夜にいくたびばかりねざめして物思ふ宿のひましらむらん  0206  障子の繪に雪のあした鷹がりしたる所をよみ侍ける                大納言長家 とやかへるしらふのたかのこゐをなみ雪げの空にあはせつる哉  0207  題しらず                好忠 岩間には氷のくさびうちてけり玉いし水もいまはもりこず  Subtitle  賀歌  0208  後一條院生れさせ給て、七夜に人々まいりあひて、女房さかづきだせと侍けるに                紫式部 めづらしきひかりさしそふさか月はもちながらこそ千代もめぐらめ  0209  三條院みこの宮と申ける時、帶刀陣の歌合によめる                大江よしとき 君が世は千代に一たびゐる塵のしら雲かゝる山となるまで  0210  承暦四年内裏歌合に                民部卿經信 君が代はつきじとぞ思ふ神風やみもすそ川のすまんかぎりは  0211  同四年内裏歌合によめる                式部大輔資業 君が世はしら玉椿八千代ともなにかいのらんかぎりなければ  Subtitle  羇旅歌  0212  くまのゝ道にておほん心ち例ならずおぼされけるに、あまのしほやくを御らんじて                花山院御製 たびの空夜半のけぶりとのぼりなば海人のもしほびたくかとやみん  0213  みちのくにゝまかり下りけるに、しら河の關にてよめる                能因法師 みやこをばかすみとゝもにたちしかど秋風ぞふく白川の關  Subtitle  哀傷歌  0214  一條院の御時皇后宣子かくれたまひて後、帳のかたびらの紐に結びつけられて侍ける 夜もすがら契しことをわすれずばこひんなみだの色ぞゆかしき  0215  圓融院法皇うせさせ給て、むらさき野に御さうそう侍けるに、ひとゝせこの所にて子日せさせ給ひし亊など、思ひ出てよみ侍ける                大納言行成 おくれじとつねの御幸はいそぎしをけぶりにそはぬたびのかなしき  0216  小式部なくなりて後、むまごどもの侍けるを見てよめる                いづみ式部 とゞめをきて誰を哀とおもふらんこはまさるらん子はまさりけり  0217  圓融院法皇うせさせ給て又のとし、御乳母藤三位のつぼねにくるみ色のかみにかきておい法しのてのまねにてさしをかせさせ給ひける                一條院御製                        しひ1 これをだにかたみとおもふを都にははがへやしつる椎柴の袖  0218  よしたかの少將うせて後、人の夢にみえける歌 しぐれとはちぐさの花ぞちりまがふなに故郷に袖ぬらすらむ  0219 きてなれし衣の袖もかはらぬにわかれし秋に成にけるかな  Subtitle  戀歌  0220  東宮と申ける時、故内侍のかみのもとに初てつかはしける                後朱雀院御製 ほのかにもしらせてしがなはるがすみかすみのうちに思ふ心を  0221  女につかはしける                實方朝臣 かくとだにゑやはいぶきのさしも草さしもしらじなもゆる思ひを  0222  公資にあひぐして侍けるに、中納言さだより忍びてをとづれけるをひまなきさまをやみけん。たえまがちにをとなひ侍ければつかはしける                さがみ あふ亊のなきよりかねてつらければさぞあらましにぬるゝ袖かな  0223  宇治前太政大臣家三十講の後歌合に戀のこゝろをよみける                掘川左大臣 あふまでとせめていのちのおしければ戀こそ人の命なりけれ  0224  題しらず                小辨 おもひしる人もこそあれあぢきなくつれなく戀に身をやかへてん  0225  中關白少將に侍ける時たのめてまうでこざりけるつとめて女にかはりてつかはしける                馬内侍 やすらはでねなまし物をさ夜更てかたぶくまでの月を見しかな  0226  題しらず                和泉式部 津の國のこやとも人をいふべきにひまこそなけれあしの八重ぶき  0227  清少納言人にしらせでたえぬ中にて侍けるに、ひさしくをとづれざりければ、よそよそにて物などいひけるを、さしよりてわすれにけりなといひ侍りければよめる                さねかたの朝臣 わすれずよまたわすれずよかはらやの下たくけぶりしたむせびつゝ  0228  夜ごとにこんといひて、よがれしけるおとこのもとにつかはしける                和泉式部 今夜さへあらばかくこそおもほえめけふくれぬまの命ともがな  0229  陽明門院皇后宮と申ける時、久しく内にまいらせ給はざりける時、五月五日たてまつらせ給ける                後朱雀院御製 あやめ草かけし袂のねをたえてさらにこひぢにまどふころかな  0230  高階なりのぶいし山にこもりて、久しくをとし侍らざりければ                いせだいふ 見るめこそあふみの海にかたからめふきだにかよへ志賀のうら風  0231  題しらず                左京大夫道雅 なみだやはまたもあふべきつまならんなくよりほかのなぐさめぞなき  0232  心かはりたる人につかはしける                周防内侍 契しにあらぬつらさも逢ふ亊のなきにはえこそ恨ざりけれ  0233  心かはりたりける女につかはしける                清原元輔 ちぎりきなかたみに袖をぬらしつゝ末の松山浪こさじとは  0234  題しらず                よしたゞ あぢきなし我身にまさる物やあると戀せし人をもどきし物を  0235  承暦二年内裏歌合に                辨のめのと こひすともなみだの色のなかりせばしばしは人にしられざらまし  0236  永承六年内裏歌合に                さがみ うらみれびほさぬ袖だにある物をこひにくちなむ名こそおしけれ  0237  題しらず                和泉式部 さま%\に思ふこゝろはある物ををしひたすらにぬるゝ袖かな  0238                長たふ わが心かはらむ物かかはらやのしたたくけぶりわきかへりつゝ  0239  永承四年内裏歌合に                堀川右大臣 うしとてもさらに思ひぞかへされぬこひはうらなき物にぞ有ける  0240  題しらず                源重之 松島やをじまが磯にかつぎせし海士の袖こそかくはぬれしか  Subtitle  雜歌  0241  例ならずおはしまして位さらんとおぼしめしける時、月あかゝりけるを御らんじて                三條院御製 こゝろにもあらでうき世にながらへば戀しかるべき夜半の月かな  0242  後朱雀院御時月のあかゝりける夜うへにのぼらせ給ひて、いかなる亊か申させ給ひけむ                陽明門院 いまはたゞ雲井の月をながめつゝめぐりあふべき程も知られず  0243  來むといひつゝこざりける人のもとに、月のあゝかりける夜つかはしける                少辨 なをざりの空だのめせで哀にもまつにかならずいづる月かな  0244  返し                小式部 たのめずばまたでぬる夜もありなまし誰ゆへかみる有明の月  0245  月のいりなむとするをみて詠ける                僧正深覺 ながむれば月かたぶきぬ哀われこの世のほどもかばかりぞかし  0246  五月五日、六條の前齋院に物がたりあはせし侍けるに、小辨をそくいだすとて方人とめて、つぎの物がたりをいだし侍けるを、宇治前太政大臣小辨の物がたりはみどころあらむとてまたれ侍けるに、岩垣沼といふ物がたりをいだすとて詠侍ける                小辨 引すつる岩がきぬまのあやめ草おもひしらずも今日にあふかな  0247  大納言行成物がたりなどして、内の御物いみにこもれば、いそぎかへりて、つとめて鳥のこゑにもよほされてといひ侍ければ、夜ふかかりけん鳥の聲は凾谷關の亊にやといひつかはしたりけるを、立かへりこれはあふ坂の關になんといへりければよみてつかはしける                清少納言 夜をこめて鳥の空ねははかるともよにあふ坂の關はゆるさじ  0248  中關日のいみに法興院にこもりてあかつき千鳥の鳴を聞てよめる                圓松法師 明ぬなりかもの河瀬になく千鳥けふもはかなくくれんとすらん  0249  修行に出たつ日よみ侍ける                増基法師 ともすればよもの山べにあくがれしこゝろに身をもまかせつるかな  0250  良暹法師大原にこもりぬと聞てつかはしける                素意法師 み草ゐしおぼろの清水そこすみてこゝろに月のかげはうかぶや  0251  返し                良暹法師 ほどへてや月もうかばん大はらやおぼろの清水すむ名ばかりぞ  0252  延久五年後三條院住古にまいらせ給へりけるに詠侍ける                大納言經信 おきつ風吹にけらしなすみよしの松のしづえをあらふしら浪  Subtitle  釋教  0253  普門品                前大納言公任 世をすくふうちには誰かいらざらむあまねきかどは人しさゝねば  Subtitle  已上後拾遺  おほかたみな近き世の人の心にかなひて、もらすべきもなく侍れど、ことなるともを注つけ侍ればみないみじくおかしくこそ侍めれ  Subtitle  金葉和謌集  Subtitle  春  0254  ほり河院の御時百首歌めしけるに、立春の心をつかうまつりける                修理大夫顯季 打なびきはるは來にけり山がはの岩間の氷いまやとくらむ  0255                東宮大夫公實 はるたちて梢にきえぬ白雪はまだきにさける花かとぞみる  0256                藤原顯仲朝臣 いつしかと明行空のかすめるは天の戸よりや春は立らむ  これよりはところ%\をしるしつけ侍るべし  0257  花隨風といふことを                攝政左大臣 よしの山みねのさくらやさきぬらんふもとの里ににほふはる風  0258  宇治前太政大臣家歌合に                源俊頼朝臣 山ざくらさきそめしより久かたの雲井にみゆる瀧のしら糸  0259  後冷泉院御時皇后宮歌合に                堀河右大臣 春雨にぬれてたづねん山ざくら雲のかへしの嵐もぞ吹く  0260  堀河院御時中宮の御方にて、風靜花芳といふこゝろを                としより朝臣 木ずゑには吹くともみえずさくら花かほるぞ風のしるしなりける  Subtitle  夏歌  0261  卯花を詠侍ける                攝政大臣 うの花のさかぬかきねはなけれども名にながれたる玉川の里  0262  承暦二年内裏歌合郭公を人にかはりてよめる                孝善 ほとゝぎすあかで過ぬる聲によりあとなき空をながめつるかな  0263  さみだれをよめる                參議師頼 五月雨は沼の岩がき水こえてまこもかるべき方もしられず  O264  水風晩凉といふ心を                としよりの朝臣 風ふけば蓮の浮葉に玉こえてすゞしくなりぬ日ぐらしの聲  0265  家の歌合に花橘をよみ侍ける                權中納言俊忠 さ月やみ花橘のありかをば風のつてにぞ空に知りける  0266  二條關白家にて雨後野草といふ亊をよめる                としよりの朝臣 此里も夕立しけり淺ぢふの露のすがらぬ草の葉もなし  0267  公實卿家にて對水待月といふ亊をよめる                藤原基俊 夏の夜の月まつほどの手すさびに岩もるしみづいくむすびしつ  Subtitle  秋歌  0268  田家秋晩といふ心をよみ侍ける                大納言經信 夕されば門田のいなば音づれてあしのまろやに秋風ぞふく  0269  奈良花林院歌合によめる                權僧正永縁 いかなれば秋は光のまさるらむおなじみかさの山のはの月  0270  きり%\すをよめる                前齋院六條 露しげき野べにならびてきり%\すわが手枕のしたになくなり  0271  夜聞鹿といふことをよめる                内大臣家越後 夜半になく聲に心ぞあくがるゝわが身は鹿のつまならねども  0272  家の歌合に草花をよみ侍ける                權中納言俊忠 夕露に王かづらして女郎花野はらの風におれやふすらむ  0273  堀川院御時題をさぐりて歌つかうまつりけるに、薄をとりてよめる                としよりの朝臣 鶉なくまのゝ入江のはまかぜにおばななみよるあきのゆふ暮  0274  攝政左大臣家にてもみぢをよめる                藤原仲實 もずのゐるはしの立枝のうす紅葉たれわが宿の物とみるらむ  Subtitle  冬歌  0275  深山の霰といふ心をよみ侍ける                大藏卿匡房 はし鷹のしらふに色やまがふらんとかへるやまにあられふるなり  0276  たかゞりをよめる                内大臣家越後 ことはりやかたのゝ小野に鳴きゞすさこそはかりの人はつらけれ  0277  前太政大臣家歌合に雪歌                皇后宮攝津 ふる雪に杉の青葉もうづもれてしるくもみえず三わの山本  0278  百首の中に雪をよめる                隆源法師 都だに雪ふりぬればしがらぎの眞木のそま山跡たえぬらん  0279  攝政左大臣家にて歳暮の心をよめる                藤原永實 かぞふれば殘すくなき身につめばせめてもおしき年のくれかな  0280  年のくれをよみ侍ける                中納言國信 なに亊を待ともなしに明くれてことしもけふに成にけるかな  Subtitle  賀歌  0281  宇治前太政大臣家歌合に祝の心をよみ侍ける                中納言通俊 君か代はあまのこやねのみことよりいはひぞそめしひさしかれとは  0282                大藏卿匡房 君が代はかぎりもあらじ三かさ山みねにあさ日のさゝむかぎりは  Subtitle  戀歌  0283  たのめてあはぬ戀といふ亊をよめる                源顯國 あひみんとたのむればこそくれはとりあやしやいかゞたちかへるべき  0284  實行卿家歌合によめる                藤原道經 戀わびてをさふる袖やながれ出るなみだの川のゐぜきなるらん  0285  國信卿家歌合に                俊頼朝臣 よとともに玉ちる床のすがまくらみせばや人に夜はのけしきを  0286  俊忠卿家に戀の十首歌よませ侍ける時、ちかふ戀といふ心をよめる                皇后宮式部 あひみての後つらからば世々をへてこれよりまさる戀にまどはん  0287  戀の歌とて詠侍ける                藤原成通 後世と契し人もなきものをしなばやとのみいふぞはかなき  Subtitle  雜歌  0288  おほみねの笙の岩やにてよみ侍ける                僧正行尊 草の庵をなに露けしとおもひけんもらぬ岩やも袖はぬれけり  0289  百首歌の中に述懷長歌よみてたてまつりける反歌                俊頼朝臣 世中はうき身にそふる影なれやおもひすつれどはなれざりけり  0290  小式部内侍うせて後上東門院よりとし比給はりける亊を、なきあとにもたまはりけるに、小式部内侍と書き付られたりけるをみてよめる                和泉式部 もろともに苔の下にもくちずしてうづもれぬ名をみるぞ悲しき  0291  月あかかりける夜、膽西上人につかはしける                僧正行尊 いさぎよき空のけしきをたのむかな我まどはする秋のよの月  Subtitle  已上金葉集  Subtitle  詞花和歌集  Subtitle  春  0292  堀川院御時百首歌めしける時、立春の心をよみ侍ける                大藏卿匡房 氷ゐし志賀のから埼うちとけてさゞなみよする春風ぞふく  0293  寛和二年内裏歌合に                藤原惟成 昨日かも霰ふりしかしがらきの外山の霞春めきにけり  0294  天徳四年内裏歌合に                平兼盛 故郷は春めきにけりみよし野のみかきが原を霞こめたり  0295  初聞鶯といふ亊をよめる                道命法師 たまさかに我まちえたる鶯の初音をあやな人や聞らん  0296  題しらず                曾禰好忠 雪きえばゑぐの若菜もつむべきに春さへはれぬみ山べの里  0297  冷泉院東宮と申ける時百首歌たてまつりけるによめる                源重之 春日野にあさなく雉の羽音は雪の消まにわかなつめとや  此歌どもみなまことにめづらしげにおもしろく侍るなるべし  0298  白川に花見にまかりてよめる                としよりの朝臣 しら川の春のこずゑをみわたせば松こそ花のたえまなりけれ  0299  三月盡によませたまひける おしむとてこよひかきおくことのはやあやなく春のかたみ成べき  Subtitle  夏歌  0300  題しらず                能因法師 山びこのこたふる山のほとゝぎす一聲なけば二聲ぞきく  0301                大納言公教 まつほどはぬる夜もなきにほとゝぎすなくねは夢の心ちこそすれ  0302  世をそむかせ給て後花橘を御らんじて                花山院御製 宿ちかくはなたち花はうへてみじむかしを忍ぶつまとなりけり  0303  題しらず                よしたゞ 杣川のいかだの床のうきまくらなつはすゞしきふしどなりけり  Subtitle  秋歌  0304  津の國に住ける比、大江爲基任はてゝのぼりけるにつかはしける                僧都清因 君まさばとはまし物を津の國の生田のもりの秋の初風  0305  承暦三年内裏歌合に                顯綱朝臣 七夕にこゝろかはすとおもはねどくれゆく空はうれしかりけり  0306  題しらず                右大臣 いかなればおなじ空なる月かげの秋しもことに照りまさるらむ  0307                和泉式部 秋ふくはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらん  0308  九月十三夜月照菊花といふ亊をよませ給へける                新院御製 あきふかみ花には菊のせきなればしたばに月ももりあかしけり  Subtitle  冬歌  0309  題しらず                大江嘉言 山ふかみちりてつもれる紅葉ばのかはけるうへに時雨ふるなり  0310  旅宿時雨といふ亊をよみ侍ける                膽西上人 いほりさすならの木蔭にもる月のくもると見れば時雨ふるなり  0311  鷹がりをよめる                ながたふ 霰ふるかた野のみのゝすりごろもぬれぬ宿かす人しなければ  Subtitle  戀歌  0312  題しらず                實方朝臣 いかでかはおもひありとも知らすべきむろの八島のけぶりならでは  0313  堀川院御時百首                修理大夫顯季 我戀は吉野の山のおくなれやおもひいれども逢人もなし  0314  題しらず                平祐擧 むねはふじ袖は清見が關なれやけぶりもなみもたゝぬ日ぞなき  0315                新院御製 瀬をはやみ岩にせかるゝ瀧河のわれてもすゑにあはんとぞ思ふ  0316                藤原道經 我戀はあひそめてこそまさりけれしかまのかぢの色ならねども  0317  大江きんよりにわすられてよめる                さがみ 夕ぐれはまたれし物をいまはたゞ行くらん方を思ひこそやれ  Subtitle  雜歌  0318  御修行のほどさくらの花のしたにてよませ給ひける                花山院御製 木本をすみかとすればをのづから花みる人になりぬべきかな  0319  新院くらいの御時后宮の御かたにて、藤花年久といふ亊をよませ給けるに詠侍ける                大納言師頼 春日山きたの藤なみさきしよりさかゆべきとはかねてしりにき  0320  左衞門督家成布引瀧見にまかりたりけるによめる                藤原隆季 雲いよりつらぬきかくるしら玉をたれぬの引の瀧といひけん  0321  家歌合によめる                左京大夫顯輔 夜もすがらふじの高根に雲きえてきよ見が關にすめる月影  0322  新院百首歌たてまつりける時、述懷の歌とてよめる                藤原季通朝臣 いとひてもなをしのばるゝ我身かな二たびくべきこの世ならねば  0323  神祇伯顯沖廣田社にて歌合し侍けるに、寄月述懷の心をよみ侍りける                左京大夫顯輔 難波江のあしまにやどる月みれば我身ひとつもしづまざりけり  此歌いみじくおかしき歌なり。これは拾遣集に菅原文時歌に  水の面に月のしづむをみざりせばわれひとりとや思ひはてまし  といへる歌をいますこしゆたかにひきなしてみえ侍なり。此歌はむかしの歌にもはぢざる歌なり  0324  大江擧周をもくわづらひて、かぎりにみえければよめる                赤染衞門 かはらむと思ふ命はおしからでさてもわかれん亊はかなしき  此歌はいみじくありがたく、あはれによめる歌なり  0325  新院位におはしましける時、海上遠望といふ亊をよみ侍ける                關白前太政大臣 わだの原こぎ出てみれば久かたの雲井にまがふ沖つ白波  Subtitle  已上詞花集  Subtitle  千載和歌集  Subtitle  春  0326  立春日よみ侍りける                源俊頼朝臣 春のくるあしたのはらをみわたせばかすみも今日ぞ立はじめける  0327  堀川院御時、百首歌たてまつりける時、讀侍りける                中納言國信 みむろ山谷にや春の立ぬらん雪の下みづ岩たゝくなり  0328  百首の歌たてまつりける時、初春の心をよめる。                待賢門院堀川 雪ふかき岩のかげ道あとたゆるよしのゝ里も春は來にけり  0329  堀川院御時百首歌奉りける時、殘雪をよみ侍りける                前中納言匡房 道たゆといとひし物をやまざとにきゆるはおしきこぞの雪かな  0330  承暦二年内裏後番歌合に鶯をよめる                藤原顯綱朝臣 春たてば雪の下みづうちとけて谷のうぐひす今ぞ鳴なる  0331  後冷泉院御時、皇后宮歌合に詠る                大納言隆國 山ざとのかきねに春やしるからんかすまぬさきに鶯のなく  0332  法性寺入道前太政大臣内大臣に侍ける時、十首歌よませ侍けるに、霞の歌とてよめる                源俊頼朝臣 けぶりかとむろの八島を見し程にやがても空のかすみぬるかな  0333  右大臣に侍ける時、家に歌合し侍けるに、かすみの歌とて詠侍ける                攝政右大臣 かすみしく春のしほぢをみわたせばみどりをわくるおきつしら浪  0334  堀河院御時百首のうちわかなの歌とてよめる                源としよりの朝臣 春日野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬるかな  0335  梅花夜芳といふ心をよめる むめがかはおのが垣ねをあくがれてかまやのあまりにひまもとむなり  0336  百歌づゝ歌めしける時、春歌とてよませ給うける                崇徳院御製 あさゆふに花まつころは思ひねのゆめのうちにぞさきはじめける  0337                待賢門院堀河 いづかたに花さきぬらんと思ふより四方の山邊にちるこゝろかな  0338  故郷の花といふ心をよめる                讀人しらず さゞ浪や志賀の都は荒れにしをむかしながらの山ざくらかな  0339  百首歌とてたてまつりける時、花の歌とてよめる                藤原季通朝臣 芳野山花はなかばにちりにけりたえ%\のこる峯のしら雲  0340  ほり河院の御時、百首のうちくれの春のこゝろをよめる                河内 けふ暮れぬ花のちりしもかくぞありし二たび春はものを思ふよ  Subtitle  夏歌  0341  卯花歌とて                仁和寺後入道法親王 玉河とをとに聞しは卯花を露のかざせる名にこそ有けれ  0342  堀河院御時百首歌奉りける時、あふひの歌とてよめる                藤原基俊 あふひ草照る日は神のこゝろかは影さすかたにまづなびくらん  0343  かものいつき、おりたまひて後、まつりのみあれの日人の葵を奉りて侍けるに、かきつけられ侍ける                式子内親王 神山のふもとになれしあふひ草引わかれても年ぞへにける  0344  暮天郭公といへる心を                仁和寺法親王 ほとゝぎすなをはつごゑをしのぶ山ゆふゐる雲のそこに鳴なり  0345  後朱雀院御時一品内親王歌合に花橘をよめる                枇杷殿皇太后宮の五節 たゞならぬ花たちばなの匂ひかなよそふる袖はたれとなけれど  0346  百首歌めしけるとき、はな橘のうたとてよませたまひける                崇徳院御製 さみだれに花橘のかほる夜は月すむ秋もさもあらばあれ  0347  堀河院の御時、百首歌奉りけるときともしの心を                前中納言匡房 ともしする宮城が原の下露に忍ぶもぢずりかはくまぞなき  0348  題しらず                としよりの朝臣 あはれにもみさほにもゆるほたるかな聲たてつべき此世と思ふに  Subtitle  秋歌  0349  秋立日よめる                侍從乳母 秋立と聞つるからにわが宿の荻の葉風のふきかはるらん  0350はじめの心を詠る                寂然法師 秋はきぬ年も半に過ぬとや荻ふく風のおどろかすらん  0351  題しらず                いづみ式部 人もがなみせも聞かせも荻の花さく夕かげの日ぐらしの聲  0352  百首歌たてまつりける時、秋の歌とてよめる                藤原季通朝臣 野分する野邊のけしきをみる時はこゝろなき人あらじとぞ思ふ  0353                としなり 夕されば野べの秋風身にしみて鶉なくなり深草の里  0354  題しらず                としよりの朝臣 なにとなく物ぞかなしきすがはらや伏見の里の秋の夕ぐれ  0355  俊忠卿かつらの家にて水上月といへる心をよめる あすもこむ野路の玉川萩こえて色なる波に月やどりけり  0356  百首の歌の内鹿をよめる                待賢門院掘川 さらぬだに夕さびしき山ざとの霧のまがきにをじか鳴なり  0357  題しらず                讀人しらず おどろかすをとこそ夜の小山田は人なきよりも淋しかりける  0358                源兼昌 我かどのおくてのひだにおどろきてむろのかり田に鴫ぞ立なる  Subtitle  冬歌  0359  題しらず                和泉式部 と山吹くあらしのかぜの音きけばまだきに冬のおくぞ知らるゝ  0360                馬内侍 ね覺して誰かきくらん此ごろの木葉にかゝる夜半の時雨を  Subtitle  羇旅歌  0361  題しらず                藤原範永朝臣 在明の月も清水にやどりけり今夜はこえじ相坂のせき  0362  法性寺入道前太政大臣内大臣に侍ける時、關路月といふ心をよみ侍りける                中納言師俊 はりま路や須磨の關やの板びさし月もれとてやまばら成らん  0363  崇徳院に百首歌めしける時、たびの歌とてよめる                待賢門院安藝 篠の葉を夕露ながらおりしけば玉ちるたびの草まくらかな  Subtitle  戀歌  0364  掘河院御時百首歌にはじめの戀のこゝろをよめる                俊頼朝臣 なにはえの藻にうづもるゝ玉かしはあらはれてだに人を戀ばや  0365  俊忠卿家歌合に戀の心をよめる                後二條關白家の筑前 思ふよりいつしかぬるゝたもとかななみだやこひのしるべなるらん  0366  題しらず                和泉式部 とにかくにいはゞなべてに成ぬべしねになきてこそみすべかりけれ  0367 うらむべき心ばかりはあるものをなきになしてもとはぬ君かな  Subtitle  雜歌  0368  上東門院より六十賀おこなひ給ひける時詠侍ける                法成寺入道前太政大臣 かぞへしる人なかりせばおく山の谷の松とや年をつままし  0369  題しらず                赤染衞門 物おもはぬ人もやこよひながむらんねられるまゝに月を見るかな  0370                さがみ ながめつゝむかしも月はみし物をかくやは袖にひまなかるべき  Subtitle  已上千載集  Description  撰集のかずとてはし%\ばかりかきいで侍を、思はずに歌のおほくよろしく侍ければ、いづれもすてがたくは侍れどたゞすこしをかきつけ侍るなり。歌のすがたはこのしふどもに見え侍なり。金葉集は撰者のさほどの歌人に侍れば、歌どももみなよろしく侍を、すこし時の花をおる心のすゝみけるにや、當時の人のみはじめよりつゞけたちたるやうにて、いかにぞ見え侍なるべし。詞花集はことざまはよくみえ侍を、あまりおかしきさまのふりにて、ざれ歌のさまのおほく侍なり。あしまにやどる月みればといへる歌は、いとありがたく侍ものをとよりざまに歌のふりのいかに成にけるにか、その風體の歌をばえらばずして、ざれうたにのみなりにけるは、かつはさかしうするものどもの侍りけるにこそ。  千載集は又をろかなるこゝろひとつにえらびけるほどに、歌をのみおもひて、人を忘にけるに侍めり。されども後拾遺の比までのうたかずおほくのこりて侍けるなむ集の冥加にはみえける、生年已八十四にてかきつけ侍ことゞもいかばかりひが亊おほく侍らむと、申かぎりもなくは思ふたまへながら思ふところにまかせてかきしるし侍りぬる、ゆくすゑのうしろめたさこそあさましくさふらヘ。  此草紙の本體はかのみやより、おほきなるさうしをたまひて、かやうの亊かきて奉れと侍しかば、たゞその御さうしにかきみてんとばかりにて、なにとなきよしなし亊をおほくしるしつけ侍しや。そのうヘ生年已八十四の人にもみせだにもあはせ侍らず、たゞあさきみづくきの跡にまかせしるしつけ侍にしかば、いかばかりひが亊はおほく侍らむとおぼえ侍を、又御覽んぜむと侍れば、いまさらになをすべきにあらで、又おなじ亊をしるしつけ侍心のはかなさ、申かぎりなくこそかたはらいたく侍れ、これかきしるしいで侍し亊も、又五年にまかりなりにけり。     建仁元年五月日  古來風體抄上。天福二年五月日書冩之   一帖愚本依有紛失  之亊申出  新院御本冩之畢件御本即家本也  正中二年林鐘四日雨中  扶病身終功而己                藤爲基 在判  *以下異本     建仁元年五月日       依式子内親王仰被進之  古今  八十二首  後撰  三十七首  拾遺  五十三首  後拾遣 八十一首  金葉  三十八首  詞花  三十四首  千載  四十五首    已上三百七拾首  阿波國文庫  Description  解題           【久松潛一】  藤原俊成の著で、奧書によると俊成が式子内親王の仰せで八十四歳の年建仁元年五月に記して奉つたとある。元祿三年の刊本五册があり續郡書類從卷四百五十八に收められて居る。冩本の傳はるもの此較的尠いが、こゝでは家藏の冩本を底本として、竹柏園藏本によつて校訂し、併せて續郡書類從本を參照した。冩本は何れもまだ善本といひがたい點があつて、古冩本の出現がまたれる。本書は上下二卷に分れ、上卷には歌に對する見解をあげて、萬葉集の各卷から秀歌をえらんで居り終りに萬葉集に對する見解が見られる。下卷ははじめに四季の椎移を美しい文でのべ、次に古今、後撰、拾遺、後拾遺、金葉、詞花、千載集から秀歌を擧げて居る。歌論書とにふよりは歌集の選抄を主體とするとも見られるが、この古來の歌風の變遷を實例の上から示さうとする所に俊成の歴史的立塲があり、この立塲の上にたつて、幽玄の見解をといた所に俊成の偉なる所があるのである。和歌の歴史的研究の先驅として、和歌研究史上にも注意すべき書である。俊成には外に正治奏状や、六百番歌合の判詞等その見解を見得るもの尠くないが、本書はその代表的述作である。  End  底本::   著名:  中世歌論集   編者:  久松 潛一 編   発行所: 岩波書店   初版:  昭和九年三月五日   発行:  昭和十三年七月三十日 第四刷  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.org)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年2月1日〜2003年3月7日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年05月03日