Title  山家集類題  Note 注意:翻刻作業中・新渡戸   *印:検討思案中   「序文」「凡例」「目録」は作業中につき誤謬が存在します。 【序一オ】  Description 苔のころも着たらむ人のうらな るたまに心かけてはつとまとてもあ らしを大和歌をは仏の真言に もかなふへけれとわかのうらにおり たちてとろはるゝことに宝珠なら ぬなかりしと円位ひしりのおの つから難事風骨にてよのつねの 【序一ウ】 こかね糸か絵をちりはむとてかたな のあとをあらはし花鳥をぬひもの すとて針目みらるゝたくひのうた 人らはひとつむしろにねてかたらは れむやと此ひしりの集のむかし よりつたはれるくさ/\ありて異 同すくなからぬを我友柳斎せち 【序二オ】 にたゝしあはせたりしかさるを書 肆のもとむるまゝに題によりて歌 をたくへみわきよきさまにかいつら ねられしは文化のこゝのかへりの年 になむ有けるかく物をらるゝはと し*のひろはれたる玉の光をゆ くすゑのよにかゝやかさむの心かまへ 【序二ウ】 ならむとよろこひて***の* **しにかくはそのとしの秋たつ 日にそありける 【凡一オ】  Description  凡例 一 山家集はよにもてはやす人多あなれはふみのいちくらも いつもむなしきまてにあかなひぬされは桜木もいつしか かけて紙にすりてはいとわかりかたくなむこれをたゝして *にちりはめむと元長等かせちにもとむるもいなみ かたけれはひらきみるに一朝一夕にあらためかたし にておよそ*類の題をならへて一帖となせしは 今の山家集のこときをよくたゝして板にゑりつく るまてのためになん 一 今の山家集西行上人の手択そのまゝつたはりしもの とはみえさることあまたありされといつれをもて 【凡一ウ】 正本とすへきなけれは今の集はしめてすりし一本あり それをもてこたひの類題は書集ぬしかれはかへ字仮名 もそのまゝにて誤れりとおほしきもたゝし侍らす 一 或人秘蔵して頓阿法師のもたりし山家集といふあり またやことなき官家の御蔵本と云あり其他異本の山 家集五六本はかりたゝし合せしに悉異同あり此異本の 集は板本にある所の歌みつか一つ斗にしてならへかたも またことなりされとも**かよはしてみれは**な きにしもあらすこれらをたゝし合せてかたはらに しるして在来のことき山家集をつきて出すへし 一 集中の歌勅撰にいりたるも多しこれまた異同あり 【凡二オ】 嗣出の大本につはらかにしるすへし 一 近代の識者此上人の歌を難破せしあり*難あたれりと もおもほへねと*に**をかきけるその中に心なき 身にもあはれはしられけり鴫たつ沢の秋の夕くれといふ 歌をも*せりまた或人は此歌を秋の歌とせりしかれとも 詞書に物へまかるとてと有をもて**を考いまは哀傷 の部に出せりかゝるたくひのことあまたありこれら大本* 正にくはしく**へし 一 集中の歌伝写あまたらひにして畢竟誤れりとみゆるも ありはた愚なる心にはいかむともよみときかたき歌もあなり これらの考もかたはらにしるさまほしくおもほゆれと大本 【凡二ウ】 嗣出をまちてこたひはもらし侍る 一 今原本とせしにも闕句ありまたかんなをかへ字にかきう つせしより一首きこえぬ歌となれるもありそかたくひは 彼異本等にたゝしあはせてあらため置ぬ 一 今の集に題のあらはなるもありまた雑の中はた題 しらすなとあるに或は初春或は月雪花等をよめり とみゆるありそは其たくひにならへ出せとも題しらすと あるはしかしるして何くれの題とこまかに事つけおくこは 初学の人の詠例なともとめむ一助とせんとなりにて 目録の所にしるして集には本のまゝを出しぬみたり かはしく題を書付は上人の作意にたかはんことの 【凡三オ】 はゝかりあれはなり 一 遁世の後は住所いつれとさためたまはさりけりとみゆる に大かたは高野に住たまひけるよしなれと高野にての歌 も羇旅の部にくはへ置ける 一 みちのくつくしかた四国なとの修行も一たひのことゝも みえ侍らねと**国**ならへ出し置されはいつれ のことは書も本のまゝに出しぬ*心してみたまふへし 一 在来の山家集歌数千五百六十九首ありその中に 恋の歌一首秋の部に重出せりこれを除て千五百六十 八首かりそめに類題とすること左のことし   文化九年壬申三月        松本柳斎識 【凡三ウ】 類題上巻   春之部  二百廿五首  夏之部  百五首  秋之部  二百八十六首   冬之部  百九首    離別之部 七首   羇旅之部 百九十首   賀之部  十四首    計九百三十六首 同 下巻   恋之部  二百五十六首 雑之部  二百六首  哀傷之部 九十三首   釈教之部 五十六首   神祇之部 廿一首  計六百三十二首     *歌数千五百六十八首 【目一オ】  Section  山家集類題上巻目録  Subtitle  春部  Description  0001        0002        0003 ○年内立春雨    ○山居年内立春   ○深山立春  0004        0005        0006 ○山立春      ○浪華立春     ○初春逢坂山霞  0007-0011 ○立春朝の歌 五首 △初夢  △春曙  △山霞           △霞   △若水 等  0012        0013        0014 ○立春日      ○元日雨      ○家々春を翫ふ  0015        0016        0017-0018 ○春きて猶雪ふる  ○題しらす△里残雪 ○静忍法師贈答△残雪  0019-0022                0023-0028 ○題しらす 四首 △氷解 △小せりつむ ○子日 六首 △元日子日          △峯霞 △雪解           △小松引            0029-0036 △子日霞 △子日鶯 ○若菜 八首 △初子日わかな △雪中わかな △子日に松を送 等        △雨中わかな  △わかな懐旧                      0037 △老人わかな △若菜述懐        ○題しらす △ゑくの草茎 △野辺にわかなつむ人 等  0038        0039 ○海辺霞      ○いせのふたみにて海辺霞 【目一ウ】  0040                  0041 ○霞によせてつれなきことを       ○世にあらしと思ひ                      0043 ける頃東山にて霞を 二首        ○題しらす △みよしの                            霞  0044        0045-0047      0048 ○梅        ○山里の梅 三首  ○旅泊梅  0049        0050 ○古砌梅      ○さかに住ける云云梅の風にちりけるを  0051        0052 ○庵の前の梅を   ○いせのにしふく山にて庵の梅  0053        0054        0055-0058 ○閑中鴬      ○雨中鴬      ○住ける谷に鴬の声せす           0059         0060-0061 なりにけれは 四首 ○鴬によせて思を述 ○梅に鴬の鳴ける 二首  0062-0065                0066 ○題しらす 四首△谷の鴬   △梅に鴬 ○鳴たえたる鴬の谷         △田舎の谷の鴬△鴬を聞             0067        0068 に声のしけれは   ○深山不知春    ○山里柳  0069        0070        0071 ○柳風にみたる   ○雨中柳      ○水辺柳  0072        0073        0074 ○早蕨       ○霞に月の曇れるを ○山里の春雨といふこと 【目二オ】            0075-0078 を大原にて     ○きゝす 四首 △曙のー  △枯のゝー                   △片岡のー △焼のゝー  0079        0080-0081      0082 ○帰雁       ○霞中帰雁 二首  ○山家呼子鳥  0083        ????        0084 ○題しらす△ませに ○花        ○春の月あかゝりけるに       蝶のとふ                      0085-0086 花またしき桜の枝を風のゆるかしけるを  ○花を待心を 二首  0087        0088-0092 ○待花忘他     ○題しらす 五首 △またき桜 △よしのゝ風                    △花を尋  △花の*の雲 等  0093        0094        0095 ○独山の花を尋   ○老木桜処ゝ    ○老見花  0096        0097-0098 ○春は花を友とす  ○せか院の花盛なりけるころ 贈答  0099-0100 ○上西門院の女房法勝寺花みられけるをり 云云 贈答  0101        0102        0103 ○白川の花     ○庭の花波にゝたり ○山寺の花盛に昔         0104 をおもひ出て ○若き人ゝはかりなむ云云雨の降けるに花の下に車を立て  0105                  0106 ○世をのかれて東山に云云白川の花盛に  ○かきたえこととはす云云人 【目二ウ】                      0107 の花見に山里へまうてきたりと聞て    ○花の下に月をみて  0108                  0109 ○曙の花に鴬の啼けれは         ○屏風の画に春の 宮人むれて花みける所によそなる人のみやりてたてりけるを  0110-0111                0112-0113 ○花のをり高野より寂然と 贈答     ○閑ならむと思ひける                      0114-0140 ころ花見に人々のまうてきけれは     ○花の歌あまたよみけるに △花雪にゝたり   △花に鴬の鳴ける  △よしの山の花数多あり △花雲にゝたり   △花によせて述懐  △**の花かす/\あり                      0141-0144 △みねの花     △山の花      ○題しらす △侘人の涙に △しら川の花    △閑居花 等二十七首       にたる桜                      0145-0159 △よしの山の花ををしむ△山さとの花   ○花の歌十五首よみける △花ををしむ 等 四首 △白雲花にまかふ  △山に花を尋    △花のつほむ △風前の初花    △青柳の糸に花を  △花ををしむ                      0160-0169 △峯の落花     △山おろしに花のちる○百首歌の中花十首 △花のちるに    △寄花述懐 等 △よしの山の花数多あり△山さくら    △花の雪 △花のたき     △ねにかへる花 等 【目三オ】 0170         0171-0199 ○遠山残花     ○落花の歌あまたよみけるに △花ををしむ    △風前落花     △山の落花あまたあり △落花似氷     △落花似雪     △峯落花 △花の別      △花の衾      △夜落花 △しら雲によせて花ををしむ 等 二十九首  0200        0201        0202 ○雨中落花     ○風前落花     ○山路落花  0203        0204        0205 ○夢中落花     ○散て後花を思ふ  ○桜にならひてたて                      0206 りける柳に花のちりかゝりける      ○花のちりたりけるに                      0207 ならひて咲はしめける桜を        ○苗代  0208-0209                0210-0211 ○題しらす 二首 △たしろみゆる    ○かはつ          △庭のしみつ            0212 △山田の蛙     ○題しらす 一首 △みつの蛙 △江の蛙  0213-0214                0215-0216 ○菫 二首    △庭のすみれ     ○題しらす 二首          △あら田すみれ            0217        0218 △よこのゝすみれ  ○山路のつゝし   ○つゝし山のひかりたり △北野のすみれ 【目三ウ】  0219        0220-0221 ○かきつはた    ○山吹 二首  △きしの山ふき                   △山吹井手のことし  0222                  0223 ○伊勢のみつにて海辺の春の暮      ○三月一日たらて暮けるに  0224-0225 ○三月晦日に 二首  Subtitle  夏部  Description  0226        0227 ○題しらす △更衣 ○夏の歌よみけるに △山居初夏  0228        0229-0230     0231 ○夜卯花      ○水辺卯花 二首  ○社頭卯花  0232                  0233-0235 ○春のうちに郭公をきく         ○時鳥 △待時鳥 三首  0236        0237-0238 ○雨中待郭公    ○郭公をまちてあけぬ 二首  0239           0240 ○人にかはりて △待郭公 ○無言なりける頃郭公の初声を聞て  0241        0242        0243 ○不尋聞子規    ○雨中郭公     ○夕暮郭公 【目四オ】  0244        0245-0249 ○山寺の時鳥    ○時鳥を△**時鳥 △ーー聞めつらし△ーーをきく               △夜ーーを聞△花橘にーー 等五首  0250-0254 ○時鳥の歌五首よみけるに  △尋ーー  △待ーー  △山ーー               △川ーー  △山路ーー  0255-0664 ○百首歌の中郭公十首    △待ーー**△尋ーー  △聞て猶まつ               △雨中ーー △暁ーー  △深山ーー            0265-0266 △夜ーー      ○題しらす 二首  △山のほとゝきす △月前ーー 等             △夜のーーーーー 等  0267: ○五月晦日に山里にまかりて立帰にけるを時鳥もすけなく 聞捨て帰りしことなと人の申つかはしける返ことに  0268                  0270 ○五日さうふを人の遣したりける返事に  ○さることありて人の申            0271-0271 つかはしける返事に ○高野に中院と申所にあやめふきたる坊の                      0272-0274 侍けるに桜のちりけるかいとめつらしく覚て○五日山寺へ人のけふいる                   二首 物なれはとてさうふをつかはしたりける返事に△西にのみ心を云云                      △みな人の心の云云            0275 △五月雨の軒の雫云云○題しらす △空晴て云云あやめもふかぬ  等 三首           五月なるへしてふ歌 【目四ウ】  0276-0282                0283-0298 ○五月雨△江五月雨△橋五月雨△古郷五月雨○五月雨の歌十五首よみ     △閑居五月雨△小田五月雨 等七首 侍し人にかはりて  △浦五月雨△橋ーーー△川ーーー△江ーーー           △湊ーーー△船ーーー△舟橋ーーー△沼ーーー                0299    0300 △池ーーー△原ーーー    ○深山水鶏 ○題しらす △夏の夜 △山田ーーー 等歌ハ十六あり  0301-0302          0303    0304 ○夏の月歌よみけるに△原夏月○雨中夏月 ○海辺夏月          △山川ーー  0305        0306-0307 ○池上夏月     ○泉に向て月をみるといふことを 二首  0308        0309        0310 ○撫子       ○雨中撫子     ○ともし  0311        0312        0313 ○夏野の草     ○旅行草深     ○行旅夏  0314-0316                0317 ○題しらす △蓼のほ △蚊遣火     ○蓮池にみてり       △からす扇  0318        0319        0320 ○隣のいつみ    ○題しらす△いつみ ○水辺納涼  0321        0322-0324 ○木陰の納涼    ○題しらす △山下風涼しさ △河風蝉のことし                 △ひさき生て云云 等 三首  0325        0326        0327 ○涼風如秋     ○水声秋あり    ○山家待秋 【目五オ】  0328-0329           0330 ○題しらす △沢田のくらゝ生 ○六月祓       △山田のみつ  Subtitle  秋部  Description  0331        0332        0333 ○山里の初秋    ○山居初秋     ○初秋松風  0334        0335-0340 ○題しらす△秋初風 ○七夕 △七夕露 △ーー夜               △ーー風 △蜘の井かき            0341        0342-0343 たるをみて     ○秋の歌に露を   ○題しらす△*露 等 六首                     △原露  0344        0345        0346 ○萩        ○萩風露を払ふ   ○隣の夕の萩の風  0347        0348        0349 ○題しらす△秋の哀 ○野萩似錦     ○萩野にみてり  0350        0351-0352 ○萩野の家にみてり ○題しらす △萩のひまにこのてかしはの花                 △萩の花すり 等 二首  0353        0354        0355-0356 ○終日野の花をみる ○野径秋風     ○女郎花 二首  0357-0358      0359        0360-0361 ○水辺女郎花 二首 ○女郎花水に近し  ○女郎花帯露 二首 【目五ウ】  0362-0363                0364 ○草花露重 二首 △女郎花*      ○草花時を得たり  0367        0268        0367 ○霧中草花     ○行路草花     ○草花道をさいきる  0368-0369                0370 ○忍西入道と草の花の贈答        ○草花  0371-0372                0373 ○題しらす 二首 △池のうきくさ    ○薄路にあたりてしけし          △露草のはな  0374        0375-0384 ○古籬苅萱     ○人々秋の歌十首よみけるに △野秋風                         △野原花                      0385-0386 △野虫  △萩風  △山鹿  △秋時雨 ○秋の歌 △秋夕暮 △山月  △鹿月  △庭月  △暮秋       △秋哀 等 二首 【0387-0388:不明】  0389                  0390-0391 ○山里にて秋歌よみける △秋の蝉    ○田家秋夕 二首  0392        0393        0394-0409 ○題しらす△秋夕暮 ○野の家の秋の夜  ○虫の歌よみ侍けるに                         0410 △夕蛬  △月前虫 △野蛬 △夜虫 △野虫  ○独聞虫 △野秋虫 △閑*虫 △枕虫 △虫声幽 等十六首  0411        0412        0413 ○深夜聞蛬     ○故郷虫      ○雨中虫  0414        0415        0416 ○田家に虫を聞   ○夕の道の虫    ○物心ほそく哀なる 【目六オ】              0417 折しも庵の枕近う虫を聞 ○伏見に住ける人を尋て庭の草            0418-0419         0420 しけきに虫を聞て  ○秋の末に松虫を聞て 二首 ○十月初に                      0421 山里にまかりけるに蛬の声の僅にしけれは ○朝に初雁をきく  0422        0423        0424 ○船中初雁     ○夜に入りて雁を聞 ○雁声遠  0425        0426        0427 ○霧中雁      ○霧上雁      ○題しらす △風前雁  0428        0429        0430 ○暁の鹿      ○夕暮鹿      ○田庵の鹿  0431        0432 ○幽居に鹿を    ○人を尋てをのにまかりけるに鹿の鳴けれは  0433                  0434-0440 ○小倉の麓に住侍けるに鹿の鳴けるを聞て ○鹿 △萩のすかひにー                        △原のー            0441        0442 △夜ー  △夕ー  ○霧 △里の霧   ○霧行客をへたつ △山里ー 等 七首  0443-0444      0445        0446-0447 ○山家霧 【二首】 ○題しらす△山居霧 ○寂然高野に詣て                      0448 立帰て大原よりつかはしける贈答△嶺朝霧 ○ときはの里にて 【目六ウ】      0449 初秋月 ○松の絶まより僅に月のみえけるを △三日月  0450                     0451 ○入日影かくれけるまゝに月の窓にさし入けれは ○久月を待  0452        0453        0454-0460 ○雲間に月を待   ○閑に月を待    ○八月十五夜                      0461 △山ーー △川ーー △依月命を惜    ○くもれる十五夜 △こよひの月 等 七首  0462        0463        0464-0465 ○終夜月をみる   ○霧月を隔つ    ○名所月 △清見潟                          △明石  0466        0467        0468 ○月瀧をてらす   ○池の氷ににたり  ○池上月  0469-0470                0471 ○同心を遍昭寺にて 二首        ○海辺月  0472        0473-0474      0475 ○海辺明月     ○月前草花 二首  ○月前野花  0476        0477        0478 ○月照野花     ○月前萩      ○月前女郎花  0479-0480      0481        0482 ○月前薄 【二首】 ○月前紅葉     ○月前鹿  0483-0484      0485        0486 ○月前虫 二首   ○田家月      ○題しらす △月夜道 【目七オ】  0487: ○松の木のまより僅に月をみて月をいたゝきて道を行といふことを  0488        0489-0491      0492 ○旅宿の月を思ふ  ○旅宿月 三首   ○月前に遠く望  0493        0494 ○月前に友にあふ  ○遙なる所にこもりて都なりける人のもとへ            0495-0496 月の頃遣しける   ○人々住吉に参て月を翫けるに 二首  0497: ○春日に参りたりけるに常よりも月あかく哀なりけれは  0498             0499 ○月寺のほとりに明なり    ○月前に古をおもふ  0500-0505             0506    0507-0508 ○月によせて思ひを述けるに 六首 ○月前述懐 ○題しらす △依月惜命                              △月前思*  0509-0521 ○月   △夕月夜 △月前雲 △待月  △くもれる月△灘の月      △海の月 △山月  △月明  △原月   △月を雪 等      0522-0563 十三首 ○月の歌あまたよみけるに△月出山 △宵の月 △風前月                 △荒屋月 △古郷月 △月催哀 △月前虫 △山月  △嶺月  △袖月  △*家月 △草庵月 △月** △朝日山月△月前鳥 △月前雁 △月前嵐 △せとの月 等 四十二首?】0564-0576 四十四首 ○題しらす△かり田の月△岩井月 △閑居月 △月似雪                          【十三首?】           △谷月   △雨もる宿の月 等 十一首 【目七ウ】  0577-0586 ○百首歌中月十首  △*月  △池月  △浦月  △浜月           △観月  △月前風 △月前述懐 等  0587-0588                0589 ○九月十三夜 △月菊の露に映す     ○後九月月を翫ふ        △月秋の半にまされり  0590        0591        0592-0593 ○独聞擣衣     ○隔里擣衣     ○菊 △摘菊                        △菊厭霜 等二首  0594        0595 ○月前菊      ○鳥羽殿にて菊の御遊に  0596-0597                0598 ○覚堅阿闍梨と菊の贈答         ○題しらす △秋時雨  0599        0600        0601 ○紅葉未遍     ○山家紅葉     ○霧中紅葉  0602-0603      0604 ○紅葉色深 二首  ○賎かりける家に蔦の紅葉面白かりけるを  0605                0606-0607 ○寂蓮高野に詣て山の紅葉を     ○題しらす △秋時雨 二首  0608-0613 ○秋の末に法輪にこもりて △川暮秋 △山暮秋              △里ーー △ーー風 等六首  0614        0615        0616 ○終夜秋ををしむ  ○題しらす△野暮秋 ○秋の末に寂然高野 に参て暮の秋によせておもひを述けるに 【目八オ】  Subtitle  冬部  Description  0617                  0618 ○長楽寺にて夜紅葉を思ふといふことを  ○時雨 △あつまやのあまり  0619        0620        0621 ○山家時雨     ○閑中時雨     ○題しらす △夜時雨  0622        0623        0624 ○落葉△あらしの庭 ○暁落葉      ○月前落葉  0625        0626        0627 ○瀧上落葉     ○水上落葉     ○落葉網代にとゝまる  0628        0629-0630      0631 ○草花野路落葉   ○山家落葉 二首  ○題しらす △深山辺里  0632-0633               0634 ○冬のうたよみけるに △なには江の霜  ○水辺寒草            △をみなへしの霜   0635-0637      0638        0639 ○枯野の草 三首  ○山家枯草     ○野の枯草 双林寺にて  0640        0641        0642 ○氷留山水     ○瀧上氷      ○氷筏をとつ  0643: ○世をのかれてくらまの奥に侍りけるに懸樋の氷て水まてこさりけれは  0644-0648                0649 ○千鳥  △潟千鳥 △迫門ーー△河ーー ○題しらす △嶋千鳥      △汀ーー △湊ーー 等 五首  【目八ウ】  0650-0651      0652        0653 ○月かれたる草を照す○しつかなるよの冬月○庭上冬月         二首  0654-0655      0656        0657 ○山家冬月 二首  ○舟中霰      ○深山霰  0658         0659-0660     0661 ○桜の木に霰のたはしる○題しらす△山家霰○冬の歌よみける中に                   二首            0662        0663 △初雪       ○題しらす△山桜の雪○夜初雪  0664        0665        0666 ○庭雪似月     ○枯野雪      ○雪道を埋む  0667        0668 ○雪埋竹      ○仁和寺の御むろにて山家閑居見雪といふことを  0669        0670        0671 ○山居雪      ○雪朝待人     ○雪朝会友  0672                  0673 ○雪の朝霊山と申所にて眺望を      ○社頭雪  0674: ○加茂の臨時の祭かへり立の御神楽土御門の内裏にて侍り                      0675-0682 けるに竹のつほに雪のふりたりけるを   ○雪の歌よみけるに                      0683-0685 △山雪  △旅雪  △苔雪  △山家雪 ○題しらす△山雪 △雪似卯花△閑居雪 △かしきそりの歌 等八首   △山路雪 【目九オ】            0686-0695 △きその雪 等三首 ○百首歌中雪十首  △杣雪  △山里ー                     △湊ー  △筏ー                      0696-0697 △梢ー  △大原ー △比良雪      ○大原寂然入道贈答 △閑居ー △雪述懐 等  0698: ○秋の頃高野へ参るへきよしたのめて参らさりける人の許へ雪降て後申遣しける  0699: ○雪に庵うつもれてせむかたなく面白かりける今もきたらはとよみけむ を思ひ出てみけるほとに鹿の分てとほりけるをみて  0700-0709 ○冬歌十首よみけるに△山家閑 △山里冬月△芦の丸やの冬△池の氷           △河氷  △浦千鳥 △山家霰 △湖の氷            0710        0711-0712 △みよしのゝ雪   ○鷹狩       ○雪中鷹狩 二首 △山家烟  0713        0714        0715 ○月前炭竃     ○山里冬深     ○山里冬  0716                  0717-0719 ○冬のうたよみける中に △冬山里    ○題しらす △山家嵐                           △山家風            0720        0721 △山風 等 三首  ○山家歳暮     ○東山にて人々年の暮            0722-0723 に思ひを述けるに  ○年の暮にあかたより都なる人のもとへ申 【目九ウ】              0724 つかはしける△山家歳暮 ○歳暮に人の許へつかはしける       △残紅葉 等  0725: ○つねなきことをよせて △歳暮述懐  Subtitle  離別部  Description  0726: ○あひしりたりける人のみちのくへまかりけるに別の歌よむとて  0727: ○とし頃申なれたりける人に遠く修行するよし申て罷た りける名残多くて立けるに紅葉したりけるをみせまほし くて侍つるかひなくいかにと申けれは木の本に立寄てよみける  0728: ○遠く修行に思立侍りけるに遠行の別と云ことを人々よみ侍しに  0729: ○年久しくあひたのみたりける同行に放れて遠く修行して かへらすもやとおもひけるに何となく哀にて 【目十オ】  0730: ○遠く修行することありけるに斎院の前斎宮にまいり たりける人々別のうたつかふまつりけるに  0731: ○同折つほの桜の散けるをみてかくなむ覚え侍ると申       0732 ける   ○かへしせよとうけたまはりて扇に書て さしいてける 女房六角局  Subtitle  羇旅部  Description  0733: ○嵯峨に住ける頃隣の坊に申へきこと有て罷けるに道も             0734 なく葎のしけりけれは ○しほ湯にまかりたりけるにくしたりける人 九月晦日にさきへのほりけれはつかはしける人にかはりて  0735         0736 ○かへし 大宮女房  ○しほ湯出て京へ帰りまうてきて      加賀 【目十ウ】 古郷の【花】霜かれにけり哀なりける急帰りし人の許へ又かはりて  0737        0738 ○かへし をなし人 ○八月つきの頃よふけて北白川へまかりける よしある様なる家に秋風楽と申ことの音の聞えけれは  0739-0743 ○新院さぬきにをはしましけるに便に付て女房のもと            0744 より 贈答 五首  ○山里にまかりて侍けるに竹の風の荻に            0745 まかひて聞えれは  ○世をのかれてさかに住ける人のもと にまかりて後世のことをこたらすつとむへきよし申て  0746-0747      0748        0749 ○題しらす△草庵風 ○海辺重旅宿    ○寒夜旅宿      △野閑居  0750        0751-0752 ○旅にて晩鐘を聞て ○旅の泊にて △月の歌 二首  0753: ○四国のかた修行しけるとて仁和元年十月十日のよ賀茂に参りて  0754          0755-0760 ○題しらす△ふしみ過ひの○うち川をくたりける云云 六首      まて行てのうた 【目十一オ】                 0761 △猟船  △ふしつけ△たな井 ○天王寺へ参りけるとて天川と申 △**  △*なは △鱸釣船            0762-0763 所にて昔を思出て  ○天王寺へ参りけるとて江口と申所にて贈答  0764: ○天王寺へ参りて松に鷺の居たりけるを月の光にみて  0765                  0766 ○天王寺へ参りて亀井の水をみて     ○六波羅太政入道持經 者千人集て津の国和田と申所にて云云万燈会しけり夜更る                      0767 まゝに灯の消けるを各ともしつきけるをみて○あかしに人をまちて            0768 日数へにけるに   ○はりまの書写へ参るとて野中の清水をみて  0769: ○四国のかたへ具してまかりたりたる同行の都へかゑりけるに  0770                  0771-0774 ○いつか都へはかゑるへきなと申けれは  ○旅の歌よみけるに            0775-0784 △旅宿露 △山霞  ○讃岐の国へまかりてみの津に着て月の △海月 等 四首 あかゝりけれは云云 △月前鳥 △月前袂 △月前袖 △月前雲           いつれも月を*する歌すへて 十首 【目十一ウ】  0785-0786 ○さぬきの松山に詣て院の御跡を尋て △松山の波云云                    二首  0787                  0788-0791 ○しろみねと申所の御はかに参りて    ○同し国に大師のをは しましける御あたりの山に庵むすひて △海月  △閑栖隣                   △庵前松 等 四首  0792-0798 ○雪の降けるに   △山路雪 △松雪  △月前雪 △雪似梅           △*路雪 △各雪  △**氷 等 七首  0799                  0800-0801 ○花をしきに霰の降かゝりけれは     ○大師のうまれさせ給                      0802-0803 ひしと申所にて△しるしの木△あか井の月 ○まむたら寺の行道        等 二首                      0804 ところへのほりて △法依随喜      ○備前国小嶋と申          △筆の山 等 二首                      0805 嶋にわたりあみと申物をとる所にて    ○ひゝのしふかはと申方                      0806-0807 へまかりてつみと申物をひろふをみて   ○まなへと申嶋に京 よりあき人とものくたりてしはくの嶋に渡るときゝて △つみの                           うた         0808-0809 △かき蛤の歌 ○うしまとのせとにてあまの云云 △さたえ  等 二首                  △あはひ 等二首 【目十二オ】  0810-0813                0814 ○題しらす 四首 △小鯛ひく△桜鯛   ○国々めくり春帰り          △小にし蛤△いそな 等                      0815 て吉野の方へまからむとしけるに     ○西国のかたへ修行し 侍とてみつのと申所の同行をいさなひけれとゆかさりけれは  0816: ○西国へ修行してまかりける折小嶋と申所の八幡にて  0817: ○あきの一宮へ詣けるにたかとみの浦にて苫もる月をみて  0818             0819-0821 ○詣つきて月をみて      ○つくしのはらかと申いを             0822 をつる所にて △三首 ○りうもむにまいるとて  0823-0834 ○承和元年六月一日院熊野へまいらせ給ひけるついてに                  0825 住吉に御幸ありけるをみて 二首 ○夏熊野へ参りけるに岩田と申               0826 所に涼て*の同行のもとへ ○かつらきを尋けるに折にもあらぬ紅葉をみて  0827: ○熊野へ参りけるにやかみの王子の花をみて △みすの山風をよめり 【目十二ウ】  0828: ○那智にこもりて瀧に入堂し*の花をみて  0829                  0830-0831 ○熊野へ参りけるになゝこしの嶺の月をみて○新宮より 伊勢のかたへまかりけるにみきしまにて白髪の海人をみて 二首  0832                  0833 ○みたけよりさうの岩屋へ参りたりけるに ○をさゝのとまりと申所            0834-0836 にて露を      ○大峯のしむせむと申所にて月をみて△深山月                            △嶺の月       0837             0838 △各月  ○をは捨と申所にて月をみて  ○こいけと申すくにて 等 三首            0839 月をみて      ○さゝのすくにて月をみて  0840: ○へいちと申すくにて月をみけるに露の袂にかゝりけれは  0841-0842 ○あつまやと申所にて時雨ののちの月をみて 二首  0843             0844 ○ふるやと申すくにて月をみて ○平等院の名かゝれたる                   0845 そとはに紅葉の散かゝりけるをみて ○ちくさのたけにて 【目十三オ】  0846             0847 ○ありのと渡りと申所にて   ○行者かへりちこのとまり屏風た            0848 てなと申所にて   ○三重の瀧ををかみて △三業の歌  0849: ○転法輪のたけと申所にて釈迦の説法の座の石と申を拝て  0850        0851 ○題しらす△近江やす○伊勢のかたへまかりけるにすゝか山にて      かはらの歌  0852        0853 ○太神宮に参りて  ○伊勢にまかりて月をみて  0854                  0855-0858 ○錦のしまの磯わの紅葉の散けるを    ○いせのたうししま                 0859 すか嶋と申所にて △こいしの ○伊勢のふたみの浦にてかひあ           歌 四首                     0860 はせのためのはまくりひろふと申を聞て ○いらこへわたりゐかひ                 0861 あこやなととるをみて     ○かつを釣舟の帰るをみて  0862-0863 ○ふたつ有けるたかのいらこわたりすと申けるか云云 △たかの歌 二首  0864                  0865-0866 ○するかの国くのゝ山寺にて月をみて   ○みちのくのたわしのねと 【目十三ウ】                 0867 申山の桜の花をみて 二首   ○みちのくにまかりたりけるに実                 0868 方中将の御はかをみて     ○みちのくへまかり白川の関に            0869 とまりて      ○さきにいりてしのふと申渡りにて  0870           0871 ○たけくまの松の跡をみて ○しのふの奥に侍りける社の紅葉をみて  0872                  0873 ○をもはくの橋と申にて紅葉をみて    ○下野の国にて柴のけふ            0874 りをみて      ○名とり河にて岸の紅葉をみて  0875             0876 ○十月十二日衣河みにまかりて ○陸奥国にてとしの暮に  0877-0878 ○又のとし三月に出羽国へこえてたきの山と申山寺にて △さくら                           △旅宿風  0879                  0880 ○修行し侍るに花をもしろかりける所にて ○修行して遠くまか りけるをり人の思ひへたてたるやうなることの侍りけれは  0881-0882 ○秋遠く修行し侍ける程に侍従大納言成道*贈答 【目十四オ】  0883-0884 ○みやたてと申けるはした物花と申くた物を送ける贈答  0885-0886           0887 ○雪ふかゝりける頃時忠*贈答 ○寒かりける頃宮法印高野にこも                      0888-0889 らせ給て小袖給はせたりける又の朝申遣ける○宮法印高野に こもらせ給千日果てみたけに参らせ給ていひつかはしける贈答  0890: ○待賢門院の中納言の局世をそむきて小倉山の麓に住ける         0891           0892-0893 をとふらひて ○此歌をみて同院兵衛局の詠○同院の帥 の局ともなひて***ふるさ吹上**にて時雨を祈歌 二首  0894-0895                0896 ○待賢門院の女房堀川の局贈答      ○深夜水                 0897-0898 声といふことを高野にて    ○高野の奥の院の橋の上にて                 0899-0918 月をみて西住上人、贈答    ○入道寂然大原に住けるに高 野よりつかはしける贈答 二十首△山ふかみと初句にすゑて十首を 【目十四ウ】 をくられけるに△谷川水 △山月△はし紅葉△ましら△とちひろふ        △ふくろふ△嶺嵐△斧の音 △山家*△かせき △】 ○大原の里と*句の置て十首かへされけるに△暮秋哀△朧清水                     △炭窯烟△引板露                0919 △山家枕△草庵露△さゝくり ○高野にこもりたりける頃草庵に △***△落葉深△暮秋鹿            0920 花の散つみけれは  ○高野より都なる人の許へいひつかはしける  0921: ○思はすなること思ひ立よし聞えける人の許へ高野よりつかはしける  0922: ○高野にこもりたる人を京よりいつか出へきと申たる由聞て其人に                            かはりて  Subtitle  賀歌  Description  0923: ○むまこまうけて悦ける人のもとへいひつかはしける  0924-0936 ○祝 △雨によす △年に   △苔に   △鶴に 二首  △海に    △松に すみのえ かめ山 ひらの 等△星に     △日に    △竹に 等 十三首 【目十五オ】  Section  山家集類題上巻目録  Subtitle  恋部  Description  0937        0938 ○名を聞て尋恋   ○自門帰恋  0939        0940-0943      0944-0945 ○涙顕恋      ○夢会恋 四首   ○後朝恋 二首  0946        0947        0948 ○後朝時鳥     ○後朝花橘     ○後朝霧  0949        0950-0951      0952 ○帰る朝時雨    ○逢てあはぬ恋 二首○恨恋  0953        0954 ○ふたゝひ絶恋   ○商人に文をつくる恋  0955        0956 ○海路恋      ○九月ふたつ有ける年閏月を忌恋  0957: ○御あれの頃賀茂にてさうしに憚恋  0958        0959 ○同社にて神に祈恋 ○かものかたにさゝきと申里に            0960        0961-0962 て山里の恋     ○寄糸恋      ○寄梅恋 二首 【目十五ウ】  0963-0964      0965        0966 ○寄花恋 二首   ○寄残花恋     ○寄帰雁恋  0967        0968        0969 ○寄草花恋     ○寄鹿恋      ○寄苅萱恋  0970        0971        0972 ○寄霧恋      ○寄紅葉恋     ○寄落葉恋  0973        0974        0975 ○寄氷恋      ○寄水鳥恋     ○月   △寄月待恋                          △寄月*恋  0976-1011 △忍恋あまたあり  △弓はりによす   △別恋  △涙に 数首 △よな/\忍恋   △依月思をそふ   △入さの月△*に △袂によす あまた有△くもれる月に   △心から月をうつす △袖によす あまた有△もりによす    △有明によす 等 三十七首  1012-1071 ○恋   △身を恨恋△*思  △忍恋 △***恋 △川によす      △経年恋 △恨あまた有△**△岩代の松に△しのたの杜に △*に △逢てあはぬ△*に△*****いひてあはぬ△井に △不二に△あまに  △あいの中山に △煙に △関に△しは鳥に △夢に会 △夢を俟 △夏草に △紅に  △荻風に △露に △みるめに△渕に  △来世を △暁のかねに 等 六十首  1072-1181 ○恋百十首     △池によす△忍恋  △市に  △**に数多有           △梅に  △露に  △五月雨に△七夕に △花に  △夕立に △*風に △川にあまたあり  △鴫に △恨あまたあり   △枕に  △露に  △浦に  △山に 【目十六オ】 △うたかたに△祈  △衣にあまたあり  △涙にあまたあり △命にあまたあり  △思 あまたあり  △煙に  △ふしに △瀧にあまたあり  △蓑に  △をさなひて恋 △児めきて恋 △涙に △かけみちに△葛に  △もに住虫△空蝉に △小芹に            01182 △依恋世をいとふ 等○みなつき晦日に人にかはりて  1183-1192 ○百首歌の中恋十首      △なつなに △紅に △思                △しけめゆい△松に △月に △衣に △千鳥に 等  Subtitle  雑部  Description  1193: ○東山にあみた房と申ける上人の庵室にまかりて  1194: ○世をのかれけるをりゆかりなりける人のもとへいひ送りける  1195-1202 ○題しらす △山家つゝら△山家苔 △しるしの竿△かさとり山の雨       △杣か家  △杣くたす△山家草 等 八首  1203        1204        1205-1209 ○山寺の夕暮    ○夕暮山路     ○題しらす △鳩                           △鷺の村鳥 【目十六ウ】            1210-1212 △をし  △つる  ○ことりのうた   △ひはの村鳥△てりうそ △水乞鳥 等 五首           △こから 等 三首  1213-1214 ○屏風のゑに海のきはにをさなき賎しきものある所 以上 二首  1215-1226 ○題しらす △海上眺雲△くま山をろし△磯わの神△いせの浜荻       △荒磯松 △浦松風   △あはちのせとあまたあり                    1227    1228-1240 △ひたのひくしほ   △あさつま舟 ○竹風驚夢 ○題しらす △いふきをろし 等 十二首 △風** △あらし △松風  △こからし△嶺あらし△暁あらし △山家* △晩鐘 △ひくらしの声△谷松 △夕日の山△岩井の水            1241 △庵水音 等十三首 ○八条院の宮と申ける折白川殿にてむし                      1242ー あはせられける云云水に月のうつりたるを ○内に貝あはせせむと せさせ給ふけるに人にかはりて  △小貝ひろふ  △須崎の小貝                 △みしまえの桜貝△衣浦の袖貝                    1251-1260 △吹上の簾貝△色浜ますを貝△竹泊雀貝○百首歌中雑十首△沢のちどり △しらゝ浜烏貝△貝によす祝 等 九首        △湊のふね                             1261-1263 △よしのゝ瀧△岡への松△山家暮秋△しつはらの里△山家風○庚申のよ △詠月   △芦やの沖の舟△さゝかにの糸 等 くしにて詠 三首  △古今集梅によす  △後撰集桜によす           △拾遺集山吹によす 以上物名 【目十七オ】  1264        1265-1269 ○月蝕をよめる   ○題しらす △ゑそか千嶋 △ものゝふ                 △壺の石ふみ △鳥の歌 等 五首  1270: ○年頃聞渡りける人に初て対面申て帰る朝に  1271: ○同行に侍ける上人月の頃天王寺に籠りたりと聞て遣しける  1272-1273 ○堀河の局仁和寺に住侍けるに参へきよし申て程へにける 月の頃まへを通りけれは聞えける贈答  1274: ○ゆかりなくなりて住うかれ古郷へ帰りける人のもとへ  1275: ○ある人よをのかれて北山寺にゐたりけるを尋て  1276: ○ある宮はらにつけつかへ侍りける女房よをそむきて都は なれて遠くまからむと思立参らせけるにかはりて  1277-1278 ○侍從大納言成道のもとへ後の*をとろかし申たりける贈答  1279-1280 ○中院右大臣出家思立よしかたらひて後贈答 【目十七ウ】  1281-1282 ○爲なりときはに堂供養しけるのち贈答  1283-1288 ○ある人さまかへて仁和寺の奥に住たりけるを尋てあはさ りけれは其後人つかはして申たる贈答 六首  1289-1290 ○後の世のこと無下にをもはすしもなしとみえける人へ贈答  1291-1292 ○ある所の女房世をのかれて西山に住侍けるを尋て贈答  1293: ○阿闍梨兼堅よをのかれてのち仁和寺に出て僧綱に                 1294-1297 なりぬと聞て遣しける     ○新院歌あつめさせをはし ますと聞て大原の寂然寂超相空等贈答 四首  1298-1299           1300-1301 ○をなし頃右大将きむよし贈答 ○俊成歌あつめらるゝ                 1302-1303 と聞て歌つかはすとて贈答   ○院少納言の局此集        1304 をみて贈答 ○范蠡かちやうなむのこゝろを 【目十八オ】  1305: ○世につかうへかりける人のこもりゐたりけるもとへ遣しける  1306: ○人あまたしてひとりにかくしてあらぬさまにいひなしける  1307: ○世の中に大事いてきて新院あらぬさまにならせをはしまし                       1308-1315 仁和寺の北の院にをはしましけるを尋参りて ○さぬきにさそらひ 侍て後御心ひきかへ後の世の御つとめせさせ給ふと聞て女            1316-1317 房の許へ贈答 八首 ○ゆかりありける人の新院のかむたう なりけるをゆるしたまはりなむよしを申て御贈答  1318-1319 ○さぬきへをはして後歌といふことのよに聞えさりけれは寂然と贈答  1320: ○新院位にをはしましけるをりみゆきのすゝのろうを聞て  1321        1322-1326 ○述懐       ○心に思ひけることを△月に  △こゝろの月                     △終に行道△こゝろのし            1327-1331      1332 △枝なき木     ○五首述懐△山に  ○寄藤花述懐  等 五首          △露に 等 【目十八ウ】  1333         1334-1336 ○花立花によせて述懐 ○題しらす △しの竹に△はせをに                  △はまゆふに 等 三首  1337      1338-1343 ○老人述懐   ○題しらす △時雨に △涙に  △せりに               △花に  △朝顔に △かけ橋 等 六首  1344        1345 ○故郷述懐     ○大原の良暹の庵にて述懐  1346: ○周防内侍我さへ軒のと書付ける古郷にて述懐  1347-1355 ○百首歌の中述懐十首 一首 △嶺に △山にあまたあり            不足 △月に △ぬさ 等  1356            1357-1383 ○七月十五日舟岡と申所にて ○題しらす △山に                     △かゝみに                        1384 △露にあまたあり △竹に △月に △ぬえに ○泉のぬし △夢にあまたあり △しての山 等 二十七首 かくれ侍て後泉に向てふるきをおもふといふことを  1385          1386 ○友にあひて昔をこふる ○題しらす △花立花に昔をしのふ  1387        1388-1389 ○寄紅葉懐旧    ○十月中の十日頃法金剛院にて紅葉みける に上西門院をはしますよし聞て待賢門院の御時思ひ出られて兵衛の 【目十九オ】              1390-1394 局にさしをかせける贈答 ○題しらす △かねに  △古郷蓬                   △古郷の人 等 五首  1395              1396 ○さかのゝみしよにもかはりけれは○大覚寺の金岡かたてたる石を       1397 みて   ○瀧のわたりこたちあれて松斗並立けるを  1398: ○瀧殿の石とも閑院にうつされけると聞てみにまかりて  Subtitle  哀傷部  Description  1399: ○例ならぬ人の大事なりけるかう月に梨の花の咲たるをみて なしのほしきよしねかひけるに或人かしはにつゝみてつかはしたる返ことに  1400-1401              1402-1403 ○あき頃風わつらひける人を訪て贈答 ○院の小侍従例ならぬ こと大事と聞て訪ひけれは少しよろしくて人にもきかせぬ和琴の                 1404-1408 手ひきならしけるを聞て贈答  ○風わつらひて山寺へか 【目十九ウ】                 1409 えり入けるを人々訪て 五首  ○同行にて侍りける上人例ならぬこと            1410-1411 大事に侍けれは   ○待賢門院かくれさせをはしましける御跡に                 1412 て堀河の女房の許へ贈答    ○近衛院の御墓に参りて  1413: ○一院かくれさせをはしまして御所へ渡し参らせけるよ参り合       1414                1415 せて   ○をさめ参らせける所へ参らせけるに ○納参らせて後  1416-1419 ○右大将きむよし父のふくのうちに母なくなりぬと聞て 贈答                           四首  1420: ○母なくなりて山寺にこもりゐたりける人を程へて人のとひたり          1421 けれはかはりて ○ゆかりありける人はかなく成けるわさにとりへ            1422 山へまかりて帰るに ○父のはかなくなりにけるそとはを見て  1423: ○おやかくれたのみたりけるむこうせ又程なく娘にさへをくれけり            1424 と聞て       ○五十日の果つかたに二條院の御墓に参りて 【目二十オ】  1425-1426 ○御跡に三河内侍さふらひける九月十三夜人にかはりて贈答  1427: ○親にをくれて歎ける人を五十日過まてとはさりけれはあやしまれ           1428 ける人にかはりて ○ゆかりにつけて物を思ひける人のもとより                  1429 なとかとはさらむとある返ことに ○はかなくなりてとしへにける 人のふみを物の中よりみ出て人の許へみせにつかはすとて  1430-1433 ○同行に侍ける上人をはり思ふさまなりと聞て △寂然贈答 四首  1434-1437 ○侍従大納言入道はかなくなり給ひて云云贈答 四首  1438-1439          1440-1441 ○同日のりつなのもとへ贈答 ○おなしさまに世をのかれて 大原に住ける妹のはかなくなりけるをとふ贈答  1442-1451 ○院の二位の局身まかりける跡にとをのうた人々よみけるに △うたかたに △末のつゆもとのしつく △露に △舟岡のすそのつか △浅ちか原 △わすれかたみ △古郷云云 △しての山 △七日の数 等 【目二十ウ】  1452-1457 ○跡のことゝも果てなかのり院の少納言局等 贈答六首  1458-1468 ○兄の入道想空はかなくなりける頃寂然より五首ををくる             1469 かへし五首 付ニ一首 ○はかなくなりける人の跡に五 十日のうち一品経供養しけるに化城喩品を  1470: ○なき人の跡に一品経供養しけるに寿量品を  1471                    1472 ○秋ものへまかりける道にて △心なきみにも ○とりへ山にて                あはれは云云 とかくのことしける月をみて諸行無常のこゝろを  1473        1474-1481 ○暁の無常     ○無常の歌あまたよみける中に △露に                          △夢に               1482-1491 △塚夕暮 △舟に △山に ○百首歌の中無常十首 △蓮臺野 等 八首 △夢に   △さゝかにの糸 △露に △燈に △いろくつに△大網に    △浦嶋の箱 等 【目二十一オ】  Subtitle  釈教部  Description  1492: ○心さすことありて扇を仏に参らせけるに新院より給ける                 1493 女房承てつゝみ紙に      ○御かゑし承りける  1494             1495 ○仁和寺の宮にて道心逐年深  ○同夜閑中暁心  1496-1497           1498-1499 ○寂超入道談議すと聞て贈答  ○さたのふ入道觀音寺に                  1500-1501 堂つくり結縁すへきよし申て贈答 ○阿闍梨勝命千人 あつめて法華経結縁せさせけるに参りて後つかはしける 二首  1502-1503 ○世につかへぬへきやうなるゆかりあまたある人さもなかりけるを 思ひて清水に年越にこもりたりけるに遣しける 二首  1504             1505 ○心性さたまらすといふことを ○懴悔業障といふことを  1506             1507 ○遇教待龍花といふことを   ○日のいるつゝみのことし 【目二十一ウ】  1508        1509        1510 ○見月思西     ○暁念仏      ○易往無人  1511             1512 ○人命不停速於山水      ○菩提心論の乃至身命而不恍惜  1513             1514   1515-1516 ○疏文の心自悟心自証心    ○観心  ○序品 二首  1517             1518 ○方便品深著於五欲      ○譬喩品  1519        1520-1522      1523 ○五百弟子品    ○提婆品 三首   ○勧持品  1524-1525      1526        1527 ○寿量品 二首   ○一心欲見仏    ○神力品於我滅度後  1528        1529        1530 ○普賢品      ○心経       ○無上菩提の心を  1531                  1532-1537 ○和光同塵は結縁のはしめといふことを  ○六道のうたよみけるに                 1538-1547 △地獄 △餓鬼 △畜生    ○百首歌の中釈教十首 △修羅 △人  △天 △きりきわうの夢 三首 △無量義経 三首 △千手経 四首 【目二十二オ】  Subtitle  神祇部  Description  1548         1549-1550 ○月の夜かもに参りて ○題しらす △みあれのしめ                  △里人の大ぬさ小ぬさ 等二首  1551: ○俊惠天王寺にこもりて人々具して住吉に参りて歌よみけるに  1552: ○伊勢に斎宮をはしまさてあれたりけるをみて  1553-1554 ○斎院をりさせ給て本院のまへを過けるにあはれなることの侍り                     1555 けれはせむしの局のもとへ遣しける贈答 ○斎院をはしまさぬ ころにて祭のかへさもなかりけれは紫野を通るとて  1556-1557 ○北まつりのころかもにまいりたりけるに何ことも昔にかはりたる            1558        1559 をみて 二首    ○神楽に星を    ○百首歌の中神祇 十首 △神楽 二首 △賀茂 二首 △男山 二首    △熊野 二首 △みもすそ 二首 【目二十二ウ】 【白紙】 【上一オ】  Section  山家集類題巻上  Subtitle  春歌  0001:1076  としのうちに春たちて雨のふりけれは 春としも猶をもはれぬ心かな雨ふるとしの心ちのみして  0002:1075  山こもりして侍けるに年をこめて春に成ぬと聞けるからにかすみ  わたりて山河の音ひころにも似す聞えけれは かすめとも年のうちとはわかぬまに春をつくなる山川の水  0003:1080  山ふかく住侍けるに春立ぬときゝて 山路こそ雪の下水とけさらめ都の空は春めきぬらむ  0004:0008  山さとにはるたつといふことを 山さとは霞わたれる気色にて空にや春の立をしるらむ 【上一ウ】  0005:0009  難波わたりに年超に侍けるに春立心をよみける いつしかも春きにけりと津の国の難波のうらを霞こめたり  0006:0010  春になりけるかたゝかへにしかのさとへまかりける人にくしてまかりけ  るにあふ坂山の霞たりけるをみて わきてけふあふ坂山のかすめるはたちおくれたる春やこゆらむ  0007:0001  立春の朝よみける 年くれぬ春くへしとは思ひねにまさしくみえてかなふ初夢  0008:0002 山のはのかすむけしきにしるき哉今朝よりやさは春の明ほの  0009:0003 春たつと思ひもあへぬ朝戸出にいつしかかすむ音羽山哉  0010:0004 たちかはる春をしれともみせかほに年をへたつる霞なりける  0011:0005 とけそむるはつ若水のけしきにて春立ことのくまれぬるかな 【上二オ】  0012:1078  春立ひよみける 何となく春になりぬときくひより心にかゝるみよしのゝ山  0013:1079  正月元日雨ふりけるに いつしかも初春雨そふりにけるのへの若なも生やしぬらむ  0014:0006  家々に春を翫といふことを 門ことにたつる小松にかさゝれて宿てふやとに春はきにけり  0015:0011  はるきて猶雪 かすめとも春をはよその空にみてとけむともなき雪の下水  0016:0981  題しらす 春浅みすゝのまかきに風さえてまた雪消ぬしからきの里  0017:1082  さかにまかりたりけるに雪ふりかゝりけるをみをきて出しことなと申  つかはすとて をほつかな春の日数のふるまゝにさかのゝ雪は消やしぬらむ 【上二ウ】  0018:1083  かへし                静忍法師 立帰り君やとひくと待ほとにまた消やらすのへのあは雪  0019:0012  題しらす 春しれと谷の下水もりそくる岩まの氷ひま絶にけり  0020:0999 小せりつむ沢の氷のひまたえて春めき初るさくらゐの里  0021:1000              【の】 くる春は嶺の霞をさきたてゝ谷けかけひをつたふ也けり  0022:0990 雪とくるしみゝにしたく唐崎の道行にくきあしからの山  0023:0007  元日子日にて侍りけるに 子日してたてたるまつにうへそへむちよかさぬへき年のしるしに  0024:0016  子日 春ことにのへの小松を引人はいくらのちよをふへき成らむ  0025:0017 子日する人に霞はさき立て小松かはらをたなひきにけり  0026:0018 子日しに霞たなひくのへに出て初うくいすの声をきく哉 【上三オ】  0027:1201  五葉の下にふたはなる小松ともの侍けるを子日にあたりける         〔うイ〕  ひをりひつにひきそへてつかはすとて 君かためこえうの子日しつる哉たひ/\ちよをふへきしるしに  0028:1202  たゝの松ひきそへてこの松の思こと申へくなむとて 子日するのへの我こそぬしなるをこえうなしとて引人のなき  0029:0021  若菜 春日野は年のうちには雪つみて春は若菜のをふる也けり  0030:0020  雪中若菜 けふはたゝ思ひもよらて帰りなむ雪つむのへの若な也けり  0031:0022  雨中若菜 春雨のふるのゝ若な生ぬらしぬれ/\つまむかたみ手ぬきれ  0032:0019  わかなに初子のあひたりけれは人のもとへ申つかはしける わかなつむ今日に初子のあひぬれは松にや人の心ひくらむ  0033:0023  若莱によせてふるきををもふといふことを 【上三ウ】 わかなつむのへの霞そ哀なる昔を遠く隔つと思へは  0034:0024  老人の若菜といへることを 卯杖つき七草にこそ出にけれ年をかさねてつめる若なに  0035:0025  寄若菜述懐といふことを 若な生る春ののもりに我なりてうき世を人につみしらせはや  0036:1077  野に人あまた侍けるをなにする人そと聞けれはなつむものなり                          〔にイ〕  とこたへけるにとしのうちに立かはる春のしるしの若なか  さはとをもひて としははや月なみかけて越にけりむへつみけらしゑくのわか立  0037:1452  題しらす                        【ゑ】 沢もとけすつめとかたみにとゝまらてめにもたまらぬえくのくさくき  0038:0014  海辺の霞といふことを 【上四オ】 もしほやく浦のあたりは立のかて烟あらそふ春霞かな  0039:0015        〔にイ〕  おなし心を伊勢のふたみといふ所にて 波こすとふたみの松のみえつるは梢にかゝる霞なりけり  0040:0786  霞によせてつれなきことを なき人をかすめる空にまかふるは道をへたつる心なるへし  0041:0738  世にあらしとをもひける頃東山にて人々霞によせて思ひを  のへけるに 空になる心は春の霞にてよにあらしとも思ひたつ哉  0042:0739  おなし心をよみける 世をいとふ名をたにもさはとゝめ置て数ならぬ身の思ひ出にせむ  0043:0013  題しらす かすますは何をか春と思はましまた雪消ぬみよしのゝ山  0044:0037  梅を かにそまつ心しめ置梅の花色はあたにも散ぬへけれは 【上四ウ】  0045:0038  山里の梅といふことを かをとめむ人をこそまて山里のかきねの梅のちらぬ限は  0046:0039 心せむしつか垣ほの梅はあやなよしなく過る人とゝめける  0047:0040 この春はしつかかきほにふれわひて梅かゝとめむ人したしまむ  0048:0046  旅のとまりの梅 ひとりぬる草の枕のうつりかは垣ねの梅の匂ひ也けり  0049:0047  古き砌の梅 何となく軒なつかしき梅故に住けむ人のこゝろをそしる  0050:0041  さかに住けるに道をへたてゝ坊の侍りけるより梅の風にちり  けるを ぬしいかに風渡るとていとふらむよそにうれしき梅の匂を  0051:0042  庵の前なりける梅をみてよめる 【上五オ】 梅かゝを山ふところに吹ためて入こむ人にしめよ春風  0052:0043  いせのにしふく山と申す所に侍りけるに庵の梅かうはしくにほひ  けるを 柴の庵による/\梅の匂ひきてやさしきかたも有住ひ哉  0053:0027  閑中鴬といふことを 鴬のこゑそ霞にもれてくる人めともしき春の山里  0054:0028  雨中鴬 うくひすの春さめ/\と鳴ゐたる竹の雫や涙なるらむ  0055:0029  すみける谷に鴬の声せすなりにけれは ふるすうとく谷の鴬なりはては我やかはりて鳴むとすらむ  0056:0030 鴬は谷のふるすを出ぬともわか行方をはわすれさらなむ  0057:0031 うくいすは我をすもりにたのみてや谷の外へは出て行らむ  0058:0032 春のほとはわかすむ庵の友になりて古巣な出そ谷の鴬 【上五ウ】  0059:0026  鴬によせておもひをのへけるに うき身にて聞くもをしきは鴬の霞にむせふ曙のこゑ  0060:0044  梅に鴬の鳴けるを 梅かゝにたくへて聞は鴬の声なつかしき春の山さと  0061:0045 つくり置し梅のふすまに鴬は身にしむ梅のかやうつすらむ  0062:1006  題しらす 山ふかみ霞こめたる柴の庵にことゝふものは谷の鴬  0063:1007 過て行羽風なつかし鴬のなつさひけりな梅の立枝を  0064:1008 鴬は田舎の谷のすなれともたみたる声はなかぬ也けり  0065:1009 鴬の声にさとりをうへきかは聞嬉しさもはかなかりけり  0066:1084  鳴たえたりけるうくひすの住侍りける谷に声のしけれは 思ひ出て古巣にかへる鴬は旅のねくらや住うかるらむ 【上六オ】  0067:1081  深山不知春といふことを 雪分てとやまか谷の鴬は麓のさとに春やつくらむ  0068:0055  山里の柳 山かつのかた岡かけてしむる庵のさかひにたてる玉のを柳  0069:0056  柳風にみたる み渡せはさほのかはらにくりかけて風によらるゝ青柳の糸  0070:0057  雨中柳 中々に風のをすにそ乱ける雨にぬれたる青柳のいと  0071:0058  水辺柳 水底にふかきみとりの色みえて風に浪よる河柳かな  0072:0163  さはらひ なをさりに焼捨てしのゝさはらひは折人なくてほとろとやなる  0073:0054  霞に月のくもれるをみて 雲なくてをほろなりともみゆる哉霞かゝれる春のよの月  0074:0048  山さとの春雨といふことを大はらにて人々よみけるに 春雨の軒たれこむるつれ/\に人にしられぬ人のすみかゝ 【上六ウ】  0075:0033  きゝすを もえ出る若なあさると聞ゆ也ききす鳴のゝ春の曙  0076:0034 生かはる春の若草まちわひて原の枯野にきゝす鳴也  0077:0035 片岡にしはうつりして鳴きゝす立羽をとしてたかゝらぬかは  0078:0036 春霞いつち立出て行きにけむきゝすすむのを焼てける哉  0079:0051  帰雁 玉つさのはしかきかともみゆる哉とひをくれつゝ帰る雁かね  0080:0049  霞中帰雁といふことを 何となくをほつかなきは天の原霞にきえて帰る雁かね  0081:0050 かりかねは帰る道にやまとふらむこしの中山霞へたてゝ  0082:0052  山家よふことり 山さとに誰を又こはよふこ鳥ひとりのみこそすまむと思ふに  0083:1042  題しらす ませにさく花にむつれてとふてふのうら山しきもはかなかりけり 【上七オ】  0084:1085  春の月あかゝりけるに花またしき桜のえたを風のゆるかし  けるをみて 月みれは風に桜のえたなへて花かとつくる心ちこそすれ  0085:0061  花を待心を 今さらに春を忘るゝ花もあらし安く待ちつゝけふもくららさむ  0086:0062 おほつかないつれの山の峰よりかまたるゝ花の咲はしむらむ  0087:0059  待花忘他といふことを まつによりちらぬ心を山さくら咲なは花のおもひしらなむ   0088:1001  題しらす 春になる桜のえたは何となく花なけれともむつましき哉  0089:1002 空晴る雲なりけりなよしの山花もてわたる風とみたれは  0090:1003 さらに又霞にくるゝ山路哉花をたつぬる春のあけほの  0091:1004 雲もかゝれ花とを春はみて過むいつれの山もあたに思はて  0092:1005 雲かゝる山とは我も思ひ出よ花故なれしむつひ忘れす 【上七ウ】  0093:0060  独山の花をたつぬといふことを 誰かまた花を尋てよしの山苔ふみわくる岩つたふらむ  0094:0097  老木の桜の所々に咲たるをみて わきてみむ老木は花も哀也今いくたひか春にあふへき  0095:0096  老見花といふことを 老つとに何をかせまし此春の花待つけぬ我身なりせは  0096:0095  春は花を友といふことをせか院のさい院にて人々よみけるに をのつから花なきとしの春もあらは何につけてか日をくらさまし  0097:0102  せか院の花盛なりける頃としたゝかいひ送りける をのつからくる人あらはもろともになかめまほしき山さくら哉  0098:0103  返し なかむてふ数に入る可身なりせは君か宿にて春はへなまし  ---- 上七  0099:0104  上西門院女房法勝寺の花みられけるに雨のふりて暮にけれ  は帰られにけり又の日兵衛の局のもとへ花の御幸をもひ出さ  せ給らむと覚てかくなむ申さまほしかりしとてつかはしける みる人に花も昔を思ひ出てこひしかるへし雨にしほるゝ  0100:0105  返し いにしへを忍ふる雨と誰かみむ花もそのよの友しなけれは  0101:0139  白河の花庭面白かりけるをみて あたにちる梢の花をなかむれは庭には消ぬ雪そつもれる  0102:0138  庭の花波に似たりといふことをよみみけるに 風あらみ梢の花のなかれきて庭に波立つしら川のさと  0103:0099  山寺の花さかりなりけるにむかしを思ひ出て よしの山ほきちつたひに尋入て花みし春は一むかしかも  0104:0106  わかき人々はかりなむ老にける身は風の煩しさにいと  はるゝことにて有けるなむやさしくきこえける雨の  ふりけるに花の下に車を立てなかめける人に ぬるともとかけをたのみて思ひけむ人の跡ふむけふにもあるかな  0105:0107  世をのかれて東山に侍る頃白川の花さかりに人さそひけ  れはまかり帰りけるに昔をもひ出て ちるをみて帰る心や桜花むかしにかはるしるしなるらむ  0106:0092  かきたえてこととはすなりにける人の花見に山さとへまうて  きたりと聞てよみける 年をへてをなし梢とにほへとも花こそ人にあかれさりけれ  0107:0093  花の下にて月をみてよみける  ---- 上八 雲にまかふ花の下にてなかむれは朧に月はみゆるなりけり  0108:0094  春の明ほの花みけるに鴬の鳴けれは 花の色や声に染らむ鴬のなく音ことなる春のあけほの  0109:0098  屏風のゑを人々よみけるに春の宮人むれて花みける所に  よそなる人のみやりてたてりけるを 木のもとはみる人しけし桜花よそに詠て我は惜む  0110:1090  寂然もみちのさかりに高野に詣て出にける又のとしの  花のをりに申つかはしける もみちみし高野のみねの花盛たのめし人の待るゝやなそ  0111:1091  かへし 寂然 ともにみし嶺のもみしのかひなれや花の折にもをもひ出ける  0112:0090  閑ならむと思ひける頃花見に人々のまうてきけれは 花見にとむれつゝ人のくるのみそあたら桜のとかには有ける  0113:0091 花もちり人もこさらむをりは又山のかひにてのとか成へし  0114:0063  花のうたあまたよみけるに 空に出ていつくともなく尋れは雪とは花のみゆる也けり  0115:0064 雪とちし谷の古巣を思ひ出て花にむつるゝ鴬のこゑ  0116:0065 よしの山雲をはかりに尋入て心にかけし花をみる哉  0117:0066 おもひやる心や花にゆかさらむ霞こめたるみよしのゝ山  0118:0067 をしなへて花のさかりに成にけり山のはことにかゝるしら雲  0119:0068 まかふ色に花咲ぬれはよしの山春は晴せぬみねの白雲  0120:0069 よしの山梢の花をみし日より心は身にもそはすなりにき  ---- 上九  0121:0070 あくかるゝ心はさても山桜ちりなむ後や身にかへるへき  0122:0071 花みれはそのいはれとはなけれとも心のうちそくるしかりけり  0123:0072 白河の梢をみてそなくさむるよしのゝの山にかよふ心を  0124:0073 引かへて花みる春はよるはなく月みる秋は昼なからなむ  0125:0074 花ちらて月はくもらぬ世なりせはものを思はぬ我身ならまし  0126:0075 たくひなき花をし枝にさかすれは桜にならふ木そなかりける  0127:0076 身を分てみぬ梢なくつくさはやよろつの山の花のさかりを  0128:0077 桜さくよもの山辺をかぬるまにのとかに花をみぬ心ちする  0129:0078 花にそむ心のいかて残けむすてはてゝきとをもふわかみに  0130:0079 白河の春の梢のうくひすは花のことはをきくここちする  0131:0080 ねかはくは花の下にて春しなむその二月のもちつきのころ  0132:0081 仏には桜の花を奉れわかのちの世を人とふらはゝ  0133:0082 何とかや世にありかたき名をしたる花に桜にまさりしもせし  0134:0083 山桜かすみの衣あつくきて此春たにも風つゝまなむ  0135:0084 思ひやる高ねの雲の花ならはちらぬ七日ははれしとそ思ふ  0136:0085 のとかなる心をきへに過しつゝ花故にこそ春をまちしか  0137:0086 かさこしの嶺のつゝきに咲花はいつさかりともなくやちるらむ  0138:0087 ならひありて風さそふとも山桜尋る我を待つけてちれ  0139:0088 すそのやく烟そ春はよしの山花をへたつる霞也ける  0140:0089 今よりは花みむ人につたへをかむ世をのかれつゝ山にすまむと  0141:1051  題しらす わひ人の涙に似たる桜哉風身にしめは先こほれつゝ  0142:1052 よしの山やかて出しと思ふ身を花ちりなはと人や待らむ  ---- 上十  0143:1053 人もこす心もちらて山さとは花をみるにも便ありけり  0144:1011 をなしくは月の折さけ山桜花みるをりのたえまあらせし  0145:0145  花のうた十五首よみけるに よしの山人に心をつけかほに花よりさきにかかる白雲  0146:0146 山寒み花咲へくもなかりけりあまりかねても尋きにけり  0147:0147 かたはかりつほむと花を思ふよりそらまた心物になるらむ  0148:0148 おほつかな谷は桜のいかならむ嶺にはいまたかけぬ白雲  0149:0149 花ときくは誰もさこそは嬉けれ思ひしつめぬ我こゝろ哉  0150:0150 初花のひらけはしむる梢よりそはえて風のわたるなる哉  0151:0151 おほつかな春は心の花にのみいつれのとしかうかれそめけむ  0152:0152 いさことしちれと桜をかたらはむ中々さらは風やをしむと  0153:0153 風ふくと枝をはなれておつましく花とちつけよ青柳のいと  0154:0154 吹風のなへて梢にあたる哉かはかり人のをしむ桜を  0155:0155 なにとかくあたなる花の色をしも心にふかく染はしめけむ  0156:0156 おなし身のめつらしからすをしめはや花もかはらす咲はちるらむ  0157:0157 嶺にちる花は谷なる木にそ咲いたくいとはし春の山風  0158:0158 山をろしに乱れて花の散けるをいははなれたる瀧とみたれは  0159:0159 花もちり人も都へ帰りなは山さひしくやならむとすらむ  0160:1471  百首歌中花十首 よしの山花の散にしこの本にとめし心は我を待らむ  0161:1472 よしの山高ねの桜咲そめはかゝらむ物か花のうす雲  0162:1473 人はみなよしのゝ山へいりぬめり都の花にわれはとまらむ  ---- 上十一  0163:1474 尋いる人にはみせし山桜われとを花にあはむと思は  0164:1475 山桜咲ぬと聞てみにゆかむ人をあらそふ心とゝめて  0165:1476 山さくらほとなくみゆる匂ひ哉さかりを人にまたれ/\て  0166:1477 花の雪の庭につもると跡つけしかとなきやとゝいひちらせて  0167:1478 なかめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しくはるの夕暮  0168:1479 よしの山ふもとの瀧になかす花や嶺につもりし雪の下水  0169:1480 ねにかへる花ををくりてよしの山夏のさかひに入て出ぬる  0170:0144  遠山残花 よしの山一むらみゆる白雲は咲をくれたる桜なるへし  0171:0109  落花のうたあまたよみけるに 勅とかやくたす御門のいませかしさらは恐れて花やちらぬと  0172:0110 波もなく風ををさめし白川の君のをりもや花はちりけむ  0173:0111 いかてわれ此よの外の思ひ出に風をいとはて花をなかめむ  0174:0112 年をへて待もをしむと山さくら心を春はつくす也けり  0175:0113 よしの山谷へたなひく白雲は嶺の桜の散にや有らむ  0176:0114 山颪の木のもとうつむ花の雪はいはゐにうくも氷とそみる  0177:0115 春風の花のふゝきにうつもれて行もやられぬ志賀の山道  0178:0116 立まかふ嶺の雲をははらふとも花をちらさぬ嵐なりせは  0179:0117 よしの山花ふきくして峰こゆる嵐は雲とよそにみゆらむ  0180:0118 をしまれぬ身たにも世には有物をあなあやにくの花の心や  0181:0119 うき世にはとゝめおかしと春風のちらすは花ををしむ也けり  0182:0120 もろともに我をもくしてちりね花うき世をいとふ心ある身そ  0183:0121 思へたゝ花のなからむ木のもとに何をかけにて我身住なむ  ---- 上十二  0184:0122 なかむとて花にもいたくなれぬれは散わかれこそ悲しかりけれ  0185:0123 をしめはと思ひけもなくあたにちる花は心そかしこかりける  0186:0124 梢ふく風の心はいかゝせむしたかふ花のうらめしき哉  0187:0125 いかてかはちらてあれとも思ふへきしはしとしたふなさけしれ花  0188:0126 木のもとの花にこよひは埋れてあかぬ梢を思ひあかさむ  0189:0127 このもとの旅ねをすれはよしの山花のふすまをきする春風  0190:0128 雪とみてかけに桜の乱るれは花のかさきる春のよの月  0191:0129 ちる花ををしむ心やとゝまりて又こむ春の誰になるへき  0192:0130 春ふかみ枝もうこかてちる花は風のとかにはあらぬ成へし  0193:0131 あなかちに庭をさへ吹あらし哉さこそ心に花をまかせめ  0194:0132 あたにちるさこそ梢の花ならめすこしはのくせ春の山風  0195:0133 心えつたゝ一すちに今よりは花ををしまて風をいとはむ  0196:0134 よしの山桜にまかふ白雲の散なむ後は晴すもあらなむ  0197:0135 花とみはさすかなさけをかけましを雲とて風のはらふなるへし  0198:0136 風さそふ花の行方はしらねともをしむ心は身にとまりけり  0199:0137 花さかり梢をさそふ風ならてのとかにちらむ春はあらはや  0200:0143  雨中落花 梢うつ雨にしほれてちる花のをしき心を何にたとへむ  0201:0142  風の前の落花といふことを 山桜枝きる風の名残なく花をさなから我物にする  0202:0108  山路落花 ちり初る花の初雪ふりぬれはふみ分まうき志賀の山越  0203:0141  夢中落花といふことを前斎院にて人々よみけるに 春風の花をちらすとみる夢は覚てもむねのさはく也けり  ---- 上十三  0204:0160  散て後花をおもふといふことを 青葉さへみれは心のとまる哉散にし花の名残と思へは  0205:1089  桜にならひてたてりける柳に花のちりかゝりけるをみて 吹みたる風になひくとみしほとは花そ結へる青柳の糸  0206:0787  花のちりたりけるにならひて咲はしめけるさくらをみて ちるとみれは又咲花の匂ひにもをくれさきたつためし有けり  0207:0053  苗代 苗代の水を霞はたな引てうちひのうへにかくる也けり  0208:1454  題しらす たしろみゆる池のつゝみのかさそへてたゝふる水や春のよのため  0209:1455 庭になかすし水のすゑをせきとめて門田やしなふ頃にも有かな  0210:0169  蛙 ま菅生る山田に水をまかすれは嬉しかほにも鳴蛙かな  0211:0170 みさひゐて月もやとらぬ濁江に我すまむとて蛙鳴なり  0212:1034  題しらす かり残すみつのまこもにかくろひてかけもちかほに鳴蛙哉  0213:0161  菫 あとたえてあさちしけれる庭の面に誰分入て菫つみけむ  0214:0162 誰ならむあらたのくろに菫つむ人は心のわりなかりけり  0215:1031  題しらす 菫さくよこのゝつはな生ぬれは思ひ/\に人かよふなり  0216:1462 つはなぬくきたのゝちはらあせ行は心すみれそ生かはりける  0217:0165  山路のつゝし はひつたひをらてつゝしを手にそとるさかしき山のとり所には  0218:0166  つゝし山のひかたりといふことを つゝし咲山の岩かけ夕はへてをくらはよそのなのみ也けり  0219:0164  かきつはた 沼水にしけるまこものわかれぬを咲隔たるかきつはた哉  0220:0167  款冬 きし近みうへけむ人そうらめしき波にをらるゝ山ふきの花  0221:0168 山吹の花さくさとに成ぬれはこゝにもゐてとをもほゆる哉 【款冬(かんとう):フキノタウ 倭俗款冬二字云山吹大誤也(文明本節用集)】  ---- 上十四  0222:0172  伊勢にまかりたりけるにみつと申所にて海辺の春の暮  といふことを神主ともよみけるに 過る春潮のみつより船出して波の花をやさきにたつらむ  0223:0173  三月一日たらて暮けるによみける 春故にせめても物を思へとやみそかにたにもたらて暮ぬる  0224:0174  三月晦日に 今日のみと思へはなかき春の日もほとなく暮る心ちこそすれ  0225:0175 行春をとゝめかねぬる夕暮は明ほのよりもあはれなりけり  Subtitle  夏歌  0226:0176  題しらす 限あれは衣はかりをぬきかへて心は花をしたふなりけり  0227:0177  夏のうたよみけるに 草茂る道かりあけて山さとに花みし人の心をそみる  0228:0180  夜卯花 まかふへき月なきころの卯花はよるさへさらすぬのかとそみる  0229:0178  水辺卯花 たつた川きしのまかきをみ渡せはゐせきの波にまかふ卯花  0230:0179 山川の波にまかへる卯花を立かへりてや人はをるらむ  0231:0181  社頭卯花 神垣のあたりに咲も便あれやゆふかけたりとみゆる卯花  0232:0171  春のうちに郭公をきくといふことを 嬉しとも思ひそわかぬ郭公春きくことのならひなけれは  0233:0185  時鳥 我やとに花たちはなをうへてこそ山ほとゝきす待へかりけれ  ---- 上十五  0234:0186 尋れは聞かたきかと時鳥こよひはかりはまちこゝろみむ  0235:0187 時鳥まつ心のみつくさせて声をはをしむ五月也けり  0236:0201  雨のうちに郭公を待といふことをよみける ほとゝきすしのふ卯月も過にしを猶こゑをしむさみたれの空  0237:0189  郭公をまちて明ぬといふことを 時鳥なかて明けぬとつけかほにまたれぬ鳥のねそ聞ゆなる  0238:0190 ほとゝきすきかて明ぬる夏のよの浦島のこはまこと也けり  0239:0188  人にかはりて まつ人の心をしらは郭公たのもしくてやよをあかさまし  0240:0182  無言なりけるころ郭公の初こゑを聞て 時鳥人にかたらぬ折にしも初ね聞こそかひなかりけれ  0241:0183  不尋聞子規といふことを賀茂社にて人々よみけるに 郭公卯月のいみにゐこもるを思ひしりても鳴なる哉  0242:0202  雨中時鳥 五月雨の晴まもみえぬ雲路より山ほとゝきす鳴て過也  0243:0184  夕暮時鳥といふことを 里なるゝたそかれときの郭公きかすかほにて又なのらせむ  0244:0203  山寺の時鳥といふことを人々よみけるに 郭公きゝにとてしもこもらねと初瀬の山は便有けり  0245:0196  時鳥を ほとゝきす聞折にこそ夏山の青葉は花にをとらさりけれ  0246:0197 時鳥思ひもわかぬ一こゑをきゝつといかゝ人にかたらむ  0247:0198       【斗:はかり】 ほとゝきすいか斗なる契にて心つくさて人の聞らむ  0248:0199 かたらひし其よの声は時鳥いかなるよにも忘むものか  0249:0200 時鳥花たちはなはにほふとも身をうの花のかきね忘るな  ---- 上十六  0250:0191  時鳥のうた五首よみけるに ほとゝきすきかぬ物故まよはまし花を尋ぬ山路なりせは  0251:0192 待ことは初音まてかと思ひしに聞ふるされぬほとゝきす哉  0252:0193 聞をくる心をくして時鳥たかまの山のみねこえぬ也  0253:0194 大井河をくらの山のほとゝきすゐせきに声のとまらましかは  0254:0195 時鳥そのゝちこえむ山路にもかたらぬ声はかはらさらなむ  0255:1481  百首歌之中郭公十首 なかむ声や散ぬる花の名残なるやかてまたるゝ時鳥かな  0256:1482 春くれてこゑに花咲ほとゝきす尋ることもまつもかはらぬ  0257:1483 きかて待人思ひしれ時鳥聞ても人は猶そまつめる  0258:1484 所から聞きかたきかと郭公さとをかへても待むとそ思ふ  0259:1485 初声を聞ての後は時鳥待も心のたのもしき哉  0260:1486 五月雨の晴ま尋て郭公雲井につたふ声聞ゆ也  0261:1487 郭公なへて聞には似さりけりふかき山へのあかつきの声  0262:1488 時鳥ふかき山へにすむかひは梢につゝく声を聞くなり  0263:1489 よるのとこをなきうかされむ時鳥物思ふ袖を問にきたらは  0264:1490 ほとゝきす月のかたふく山のはに出つるこゑのかへりいる哉  0265:1466  題しらす 山さとの人もこすゑの松かうれに哀にきゐる時鳥かな  0266:1467 ならへける心はわれか郭公君まちえたる宵のまくらに  0267:0204  五月の晦日に山さとにまかりて立帰にけるを時鳥もすけなく きゝ捨て帰しことなと人の申つかはしける返ことに 時鳥名残あらせて帰りしか聞捨るにも成にける哉  ----  上十七  0268:0736  五日さうふを人のつかはしたりける返事に 世のうきにひかるゝ人はあやめ草心のねなき心地こそすれ  0269:0206  さることありて人の申つかはしける返ことに五日 折におひて人に我身やひかれましつくまの沼のあやめなりせは  0270:0207  高野に中院と申所にあやめふきたる坊の侍けるに桜のちりけるか  めつしくをほえてよみける 桜ちるやとにかさなるあやめをは花あやめとやいふへかるらむ  0271:0208 散花をけふのあやめのねにかけてくすたまともやいふへかるらむ  0272:0209  五月五日山寺へ人のけふいる物なれはとてさうふをつかはしたりける  返事に 西にのみ心そかゝるあやめくさこの世はかりのやとゝ思へは  0273:0210 みな人の心のうきはあやめ草西に思ひのひかぬ也けり  0274:0211 五月雨の軒の雫に玉かけて宿をかされるあやめ草哉  0275:0205  題しらす 空晴て沼のみかさををとさすはあやめもふかぬ五月成へし  0276:0212  五月雨 水たゝふ入江のまこもかりかねてむなてにすつる五月雨のころ  0277:0213 五月雨に水まさるらし宇治はしやくもてにかゝる波のしらいと  0278:0214 こさゝしく古里をのゝ道のあとを又さはになす五月雨のころ  0279:0215 つく/\と軒の雫をなかめつゝ日をのみくらす五月雨のころ  0280:0216 東屋のをかやか軒のいと水に玉ぬきかくるさみたれの頃  0281:0217 五月雨に小田のさ苗やいかならむあせのうき土あらひこされて  0282:0218 五月雨のころにしなれはあら小田に人にまかせぬ水たゝいけり  0283:0219  ある所にて五月雨のうた十五首よみ侍し人にかはりて 五月(雨)にほすひまなくてもしほ草烟もたてぬうらのあま人  ---- 上十八  0284:0220 五月雨はいさゝ小川の橋もなしいつくともなくみほになかれて  0285:0221 水無瀬河をちのかよひち水みちて船わたりするさみたれの頃  0286:0222 ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ  0287:0223 はやせ川つなてのきしを沖にみてのほりわつらふ五月雨の頃  0288:0224 水わくる難波ほり江のなかりせはいかにかせましさみたれのころ  0289:0225 舟とめしみなとのあしまさほたえて心行みむさみたれのころ  0290:0226 みな底にしかれにけりなさみたれて水のまこもをかりにきたれは  0291:0227 五月雨のをやむ晴まのなからめや水のかさほせまこもかり舟  0292:0228 さみたれにさのゝ舟はしうきぬれはのりてそ人はさしわたるらむ  0293:0229 五月雨の晴れぬ日かすのふるまゝにぬまのまこもはみかくれにけり  0294:0230 水なしと聞てふりにしかつまたの池あらたむる五月雨のころ  0295:0231 五月雨は行へき道のあてもなしをさゝかはらもうきに流て  0296:0232 さみたれは山田のあせの瀧まくらかすをかさねておつる也けり  0297:0233 河わたのよとみにとまる流木のうきはしわたす五月雨のころ  0298:0234 おもはすもあなつりにくき小川哉五月の雨に水まさりつゝ  0299:0237  深山水鶏 杣人の暮にやとかる心ちして庵をたたく水鶏なりけり  0300:0245  題しらす 夏の夜はしのゝ小竹のふし近みそよや程なく明くる也けり  0301:0250  夏の月のうたよみけるに なつのよもをさゝか原に霜そをく月の光のさえしわたれは  0302:0251 山川の岩にせかれてちる波をあられとそみる夏のよの月  0303:0254  雨中夏月 夕立のはるれは月そやとりける玉ゆりすふる蓮のうきはに  0304:0247  海辺夏月 露のほる芦の若葉に月冴て秋をあらそふ難波江のうら  ---- 上十九  0305:0252  池上夏月といふことを かけさえて月しもことにすみぬれは夏の池にもつらゝゐにけり  0306:0248  泉にむかひて月をみるといふことを むすひあくる泉にすめる月かけは手にもとられぬ鏡也けり  0307:0249 むすふ手にすゝしきかけをそふる哉清水にやとる夏のよの月  0308:0239  撫子 かき分て折は露こそこほれけれあさちにましる撫子のはな  0309:0240  雨中撫子といふことを 露をもみそのゝ撫子いかならむあらくみえつる夕立のそら  0310:0244  ともし ともしするほくしの松もかへなくにしかめあはせて明す夏のよ  0311:0241  夏のゝ草をよみける みまくさに原の小薄しかふとてふしとあせぬとしか思ふらむ  0312:0242  旅行草深といふことを たひ人の分る夏のゝ草しけみ葉末にすけの小笠はつれて  0313:0243  行旅夏といふことを 雲雀あかるおほのゝち原夏くれはすゝむ木かけをねかひてそ行  0314:1032  題しらす 紅の色なりなからたてのほのからしや人のめにもたてぬは  0315:1033 蓬生のさることなれや庭の面にからす扇のなそしけるらむ  0316:0246 夏のよの月みることやなかるらむかやり火たつるしつのふせやは  0317:0253  蓮池にみてりといふことを おのつから月やとるへきひまもなく池に蓮の花咲にけり  0318:0235  となりのいつみ 風をのみ花なきやとは待/\て泉のすゑを又むすふ哉  0319:1453  題しらす 君かすむきしの岩より出る水の絶ぬ末をそ人も汲ける  ---- 上二十  0320:0236  水辺納凉といふことを北白河にてよみける 水の音にあつさ忘るゝまとひ哉梢のせみの声もまきれて  0321:1169  木陰納凉といふことを人々よみけるに けふもまた松の風ふくをかへゆかむきのふすゝみし友にあふやと  0322:0238  題不知 夏山の夕下風のすゝしさにならの木かけのたゝまうき哉  0323:1035 柳はら河風ふかぬかけならはあつくやせみの声にならまし  0324:1036 ひさき生てすゝめとなれるかけなれや波打岸に風わたりつゝ  0325:0255  凉風如秋 またきより身にしむ風のけしき哉秋さきたつるみやまへの里  0326:0256  松風如秋といふことを北白川なる所にて人々よみて又水声  秋ありといふことをかさねけるに 松風の音のみなにか石はしる水にも秋はありける物を  0327:0257  山家待秋といふことを 山さとは外面のまくす葉をしけみうら吹かへす秋を待哉  0328:0996  題しらす あれにける沢田のあせにくらゝ生て秋待へくもなきわたり哉  0329:0997 つたひくるかけひを絶すまかすれは山田は水も思はさりけり  0330:0258  六月祓 みそきしてぬさとりなかす河のせにやかて秋めく風そ凉しき  Subtitle  秋歌  0331:0259  山里のはしめの秋といふことを さま/\の哀をこめて梢ふく風に秋しる深山へのさと  0332:0260  山居のはしめの秋といふことを 秋たつと人はつけねとしられけり山のすそのゝ風のけしきに  0333:0262  初秋の頃なるをと申所にて松風の音を聞て つねよりも秋になるをのまつ風はわきて身にしむ心ちこそすれ  0334:1029  題しらす すかるふすこくれか下の葛まきを吹うらかへす秋のはつ風  0335:0263  七夕 いそきをきて庭の小草の露ふまむやさしき数に人や思ふと  0336:0264 暮ぬめりけふ待つけて七夕は嬉きにもや露こほるらむ  0337:0265 天河けふの七日は長きよのためしにもひくいみもしつへし  0338:0266 ふねよする天の川への夕くれはすゝしき風や吹わたるらむ  0339:0267 待つけてうれしかるらむ七夕の心のうちそ空にしらるゝ  0340:0268  蜘のゐかきたるをみて さゝかにのくもてにかけて引いとやけふ七夕にかさゝきのはし  0341:0299  秋のうたに露をよむとて 大かたの露には何のなるならむ袂におくはなみた也けり  0342:1040  題しらす いそのかみふるきすみかへ分いれは庭のあさちに露そこほるゝ  0343:0986 をさゝはら葉すゑの露の玉にゝてはしなき山を行心ちする  0344:0290  萩 思ふにも過て哀に聞ゆるは萩のはみたる秋の夕かせ  0345:0292  萩の風露をはらふ をしかふす萩咲のへの夕露をしはしもためぬ萩の上風  ---- 上二十二  0346:0293  隣の夕の萩の風 あたりまて哀しれともいひかほに萩の音する秋の夕風  0347:0291  題しらす をしなへて木草の末の原まてもなひきて秋の哀みえける  0348:0277  野萩似錦といふことを けふそしるその江にあらふ唐錦萩咲のへにありける物を  0349:0275  萩野にみてり 咲そはむ所のゝへにあらはやは萩より外のはなもみるへく  0350:0276  萩野の家にみてりといふことを 分て出る庭しもやかてのへなれは萩のさかりを我物にみる  0351:0984  題しらす いはれのゝ萩か絶まのひま/\にこのてかしはの花咲にけり  0352:0985 衣手にうつりし花の色なれや袖ほころふる萩か花すり  0353:0274  終日野の花をみるといふことを 乱れ咲のへの萩はら分暮て露にも袖を染てける哉  0354:0270  野径秋風 末は吹風はのもせにわたるともあらくは分し萩の下露  0355:0281  女郎花 をみなへし分つる袖と思はゝやおなし露にもぬるとしれゝは  0356:0282 をみなへし色めくのへにふれはらふ袂につゆやこほれかかると  0357:0287  水辺女郎花といふことを 池の面にかけをさやかにうつしもて水かゝみみるをみなへし哉  0358:0288 たくひなき花のすかたを女郎花池のかゝみにうつしてそみる  0359:0289  女郎花水にちかしといふことを をみなへし池のさ波に枝ひちて物思ふ袖のぬるゝかほなる  0360:0285  女郎花帯露といふことを 花の枝に露のしら玉ぬきかけて折袖ぬらすおみなへし哉  ---- 上二十三  0361:0286 おらぬより袖そぬれけるをみなへし露むすほれてたてるけしきに  0362:0283  草花露重 けさみれは露のすかるに折ふして起もあからぬ女郎花哉  0363:0284 大方の野への露にはしほるれと我涙なきをみなへしかな  0364:0271  草花時を得たりといふことを いとすすきぬはれて鹿のふすのへにほころひ安き蘭かな 【蘭(ふちはかま):蘭草=藤袴の漢名】  0365:0273  霧中草花 ほに出るみ山か裾のむらすゝきまかきにこめてかこふ秋霧  0366:0272  行路草花 をらて行袖にも露そこほれける萩のはしけきのへの細道  0367:0269  草花道をさへきるといふことを 夕露をはらへは袖に玉消て道分かぬるをのゝ萩原  0368:1176  忍西入道西山のふもとに住けるに秋の花いかにをもしろからむ  とゆかしうと申つかはしける返事にいろ/\の花を折あつめて 鹿のねや心ならねはとまるらむさらてはのへをみなみする哉  0369:1177  かへし 鹿の立のへのにしきのきりはしは残多かる心ちこそすれ  0370:0278  草花をよみける しけり行しはの下草をはれ出て招くや誰をしたふ成らむ  0371:1037  題しらす 月のためみさひすゑしと思ひしにみとりにもしく池の浮草  0372:1043 うつり行色をはしらすことのはの名さへあたなる露草の花  0373:0279  薄路にあたりてしけしといふことを 花すゝき心あてにそ分て行ほのみし道のあとしなけれは  0374:0280  古籬苅萱 籬(色)あれて薄ならねとかるかやもしけきのへとは成ける物を  0375:0301  人々秋の歌十首よみけるに 玉にぬく露はこほれてむさしのゝ草の葉結ふ秋の初風  ---- 上二十四  0376:0302 ほに出てしのゝを薄まねく野にたはれてたてる女郎花哉  0377:0303 花をこそのへの物とはみにきつれくるれは虫の音をも聞けり  0378:0304 萩のはを吹過て行風の音に心みたるゝ秋の夕くれ  0379:0305 晴やらぬみ山のきりのたえ/\にほのかに鹿の声聞ゆなり  0380:0306 かねてより梢の色を思ふ哉時雨はしむるみ山へのさと  0381:0307 鹿のねをかきねにこめて聞のみか月もすみけり秋の山さと  0382:0308 庵にもる月のかけこそ淋しけれ山田のひたの音はかりして  0383:0309 わつかなる庭の小草の白露をもとめて宿る秋のよの月  0384:0310 何とかく心をさへはつくすらむ我なけきにてくるゝ秋かは  0385:0294  秋のうたよみける中に 吹わたる風も哀をひとしめていつくも凄き秋の夕暮  0386:0295 おほつかな秋はいかなる故のあれはすゝろに物のかなしかるらむ  0387:0296 何ことをいかに思ふとなけれとも袂かわかぬ秋の夕くれ  0388:0297 なにとなく物かなしくそみえ渡る鳥羽田の面のあきの夕暮  0389:0300  山里に人々まかりて秋のうたよみけるに 山さとの外面の岡の高き木にそゝろかましき秋の蝉哉  0390:0473  田家秋夕 なかむれは袖にも露そこほれける外面の小田の秋の夕暮  0391:0474 吹過る風さへことに身に己しむ山田の庵の秋の夕くれ  0392:1054  題しらす 風の音に物思ふ我か色そめて身にしみ渡る秋の夕暮  0393:0298  野の家の秋のよ ねさめつゝなかきよかなといはれのにいく秋まても我身へぬらむ  0394:0452  虫の歌よみ侍けるに  ---- 上二十五 夕されや玉うこく露のこさゝ生に声まつならす蛬かな  0395:0453 秋風にほすゑ波よる苅萱の下葉に虫の声乱る也  0396:0454 蛬なくなるのへはよそなるを思はぬ袖に露そこほるゝ  0397:0455 秋風のふけ行のへの虫のねのはしたなきまてぬるゝ袖哉  0398:0456 むしのねをよそに思ひてあかさねは袂も露はのへにかはらし  0399:0457 のへになく虫もや物はかなしきとこたへましかはとひてきかまし  0400:0458 秋のよに声もをします鳴虫を露まとろますきゝあかす哉  0401:0459 あきのよをひとりやなきてあかさまし友なふ虫の声なかりせは  0402:0460 秋のゝのを花か袖にまねかせていかなる人をまつむしの声  0403:0461 よもすから袂にむしのねをかけてはらひわつらふ袖の白露  0404:0462 ひとりねのねさめの床のさむしろに涙催すきり/\す哉  0405:0463 きり/\す夜寒になるを告かほに枕のもとにきつゝ鳴也  0406:0464 虫のねをよはり行かと聞からに心に秋の日数をそふる  0407:0465 秋ふかみよはるは虫の声のみか聞我とてもたのみやはある  0408:0466 虫のねにさのみぬるへき袂かはあやしや心物おもふらし  0409:0467 物思ふねさめとふらふ蛬人よりもけに露けかるらむ  0410:0468  独聞虫 ひとりねの友にはならて蛬なくねをきけは物思ひそふ  0411:0401  深夜聞蛬 我よとや更行月を思ふらむ声もやすめぬきり/\す哉  0412:0469  故郷虫 草ふかみ分入りてとふ人もあれやふり行宿の鈴むしの声  0413:0470  雨中虫 かへに生る小草に侘る蛬しくるゝ庭の露いとふらし  0414:0471  田家に虫を聞く 小萩咲山田のくろの虫のねに庵もる人や袖ぬらすらむ  ---- 上二十六  0415:0472  夕の道の虫といふことを 打くする人なき道の夕されは声たておくるくつは虫かな  0416:0790  物心ほそう哀なる折しも庵のまくらちかう虫の音聞け  れは そのをりの蓬かもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ  0417:0451  年ころ申されたる人の伏見に住と聞て尋まかりたりけるに庭の道も  みえすしけりて虫なきけれは 分て入袖に哀をかけよとて露けき庭にむしさへそなく  0418:0484  秋のすゑに松虫のなくをきゝて さらぬたに声よはりにし松虫の秋のすゑには聞もわかれす  0419:0485 限あれはかれ行のへはいかゝせむむしのねのこせ秋の山さと  0420:0504  十月しめつかた山さとにまかりたりけるに蛬のこゑのわつかに  しけれはよみける 霜うつむ葎か下の蛬あるかなきかに声聞なり  0421:0427  朝に初雁をきく 横雲の風にわかるゝしのゝめに山とひこゆる初雁の声  0422:0426  船中初雁 沖かけて八重のしほちを行船はほのかにそきく初かりのこゑ  0423:0428  夜に入て雁をきく 烏羽にかく玉つさの心ちして雁なき渡る夕やみの空  0424:0429  雁声遠を しら雲を翅にかけて行雁の門田の面の友したふなり  0425:0430  霧中雁 玉つさのつゝきはみえて雁かねの声こそ霧にけたれさりけれ  0426:0431  霧上雁 空色のこなたをうらに立きりの面に雁のかくる玉札 【玉札(ぎょくさつ):手紙の敬語 = 玉梓(章)(たまつさ)】  0427:0973  題しらす つらなりて風に乱て鳴雁のしとろにこゑの聞ゆなる哉  ---- 上二十七  0428:0444  暁の鹿 よを残すねさめに聞そ哀なる夢のゝ鹿にかくや鳴けむ  0429:0445  夕暮に鹿をきく しのはらや霧にまかひて鳴鹿の声かすかなる秋の夕くれ  0430:0447  田庵の鹿 小山田の庵近く鳴鹿のねにをとろかされてをとろかす哉  0431:0446  幽居に鹿をきく となりゐぬはたのかりやにあかすよはしか哀なる物にそ有ける  0432:0448  人を尋て小野にまかりけるに鹿の鳴けれは 鹿のねを聞につけても住人の心しらるゝをのゝ山さと  0433:0443  小倉の麓に住侍けるに鹿の鳴けるをきゝて をしかなく小倉の山のすそちかみたゝひとりすむ我心哉  0434:0436  鹿 したり咲萩のふるえに風かけてすかひ/\にをしか鳴なり  0435:0437 萩かえの露ためす吹秋風にをしかなく也宮城のゝ原  0436:0438 よもすから妻こひかねて鳴鹿の涙やのへのつゆと成らむ  0437:0439 さらぬたに秋は物のみかなしきをなみた催すさをしかの声  0438:0440 山颪に鹿のねたくふ夕くれをものかなしとはいふにや有らむ  0439:0441 鹿もわふ空のけしきもしくるめりかなしかれともなれる秋哉  0440:0442 何となくすまゝほしくそおもほゆる鹿のねたえぬ秋の山さと  0441:0432  霧 鶉なく折にしなれは霧こめて哀さひしき深草の里  0442:0433  霧行客をへたつ 名残多みむつことつきて帰り行人をは霧も立へたてけり  0443:0434  山家霧 立こむる霧の下にも埋れて心はれせぬ深山へのさと  0444:0435 よをこめて竹のあみ戸に立霧の晴はやかてやあけむとすらむ  ---- 上二十八  0445:0974  題しらす 晴かたき山路の雲にうつもれて苔の袂は霧朽にけり  0446:1071  寂然高野に詣て立帰りて大原よりつかはしける へたてこし其年月も有物を名残多かるみねの朝霧  0447:1072  かへし したはれし名残をこそはなかめつれ立帰りにし嶺の朝きり  0448:0261  ときはの里にて初秋月といふことを人々よみけるに 秋立と思ふに空もたゝならてわれて光を分む三日月  0449:1167  松の絶まよりわつかに月のかけろひてみえけるをみて かけうすみ松のたえまをもりきつゝ心ほそくや三日月の空  0450:1170  入日かけかくれけるまゝに月の窓にさし入けれは さしきつる窓の入日をあらためて光をかふる夕月夜かな  0451:0389  久月を待といふことを 出なから雲にかくるゝ月かけをかさねてまつや二むらの山  452:0390  雲間に月を待といふことを 秋の月いさよふ山のはのみかは雲の絶まにまたれやはせぬ  0453:0324  閑に月を待といふことを 月ならてさし入かけもなきまゝにくるゝ嬉しき秋の山さと  0454:0335  八月十五夜 山のはを出る宵よりしるき哉こよひしらする秋のよの月  0455:0336 かそへねとこよひの月のけしきにて秋の半を空にしる哉  0456:0337 天川名になかれたるかひありて今宵の月はことにすみけり  0457:0338 さやかなるかけにてしるし秋の月とよにあまれる五日也けり  0458:0339 打つけに又こむ秋のこよひまて月故をしくなる命かな  0459:0340 秋はたゝこよひ一夜の名也けりをなし雲ゐに月はすめとも  ---- 上二十九  0460:0341 思ひせぬ十五のとしも有物をこよひの月のかゝらましかは  0461:0342  くもれる十五夜を 月みれはかけなく雲につゝまれて今夜ならすは闇にみえまし  0462:0334  終夜月をみる 誰きなむ月の光に誘れてと思によはの明にける哉  0463:0405  霧月を隔つといふことを 立田山月すむみねのかひそなきふもとに霧の晴ぬかきりは  0464:0330  名所の月といふことを 清見かた沖の岩こすしら波に光をかはす秋のよの月  0465:0331 なへてなき所の名をや惜らむ明石は分て月のさやけき  0466:0388  月瀧をてらすといふことを 雲消るなちの高ねに月たけて光をぬける瀧のしらいと  0467:0329  月池の氷に似りといふことを 水なくて氷そしたるかつまたの池あらたむる秋のよの月  0468:0326  池上の月といふことを みさひゐぬ池の面のきよけれは宿れる月もめやすかりけり  0469:0327  同心を遍昭寺にて人々よみけるに 宿しもつ月の光のおほさはゝいかにいつこもひろ沢の池  0470:0328 池にすむ月にかゝれる浮雲は払ひのこせるみさひ也けり  0471:0325  海辺月 清見かた月すむよはの浮くもはふしの高ねの烟也けり  0472:0332  海辺明月 難波かた月の光にうらさえて波の面に氷をそしく  0473:0396  月前草花 月の色を花にかさねて女郎花うはものしたに露をかけたる  0474:0397 宵のまの露にしほれてをみなへし有明の月のかけにたはるゝ  ---- 上三十  0475:0395  月前野花 花の色をかけにうつせは秋のよの月そ野もりのかゝみなりける  0476:0394  月照野花といふことを 月なくは暮れはやとへ帰らましのへには花のさかりなりとも  0477:0393  月前荻 月すむと荻うへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし  0478:0398  月前女郎花 庭さゆる月也けりなをみなへし霜にあひぬる花とみたれは  0479:0391  月前薄 をしむよの月にならひて有明のいらぬをまねく花すゝき哉  0480:0392 花すゝき月の光にまかはましふかきますをの色にそめすは  0481:0404  月前紅葉 木のまもる有明の月のさやけきに紅葉をそへて詠つる哉  0482:0403  月前鹿 たくひなき心ちこそすれ秋のよの月すむ嶺の棹鹿のこゑ  0483:0399  月前虫 月のすむあさちにすたく蛬露のをくにや秋をしるらむ  0484:0400 露なからこほさてをらむ月影に小萩か枝の松虫のこゑ  0485:0402  田家月 夕露の玉しく小田の稲莚かへすほすゑに月そ宿れる  0486:0995  題しらす わつらはて月にはよるも通ひけり隣へつたふあせの細道  0487:1168  松の木のまよりわつかに月のかけろひけるをみて月をいたゝき  て道を行といふことを 汲てこそ心すむらめ賎の女かいたゝく水にやとる月影  0488:0419  旅宿の月を思ふといふことを 月は猶よな/\ことにやとるへし我むすひ置草の庵に  0489:0423  旅宿の月といへるこゝろをよめる 哀しる人みたらはと思ふ哉旅ねの床にやとる月かけ  0490:0424 月やとるをなしうきねの波にしも袖しほるへき契有けり  0491:0425 都にて月を哀と思ひしは数より外のすさひ也けり  ---- 上三十一  0492:0333  月前に遠くのそむといふことを 隈もなき月の光に誘はれて幾雲ゐまて行心そも  0493:0420  月前に友に逢ふといふことを 嬉しきは君にあふへき契ありて月に心の誘はれにけり  0494:0742  遙なる所にこもりて都なりける人のもとへ月のころつかはしける 月のみやうはの空なるかたみにて思ひもいてはこゝろ通はむ  0495:0415  人々住よしにまいりて月を翫けるに 片そきの行あはぬまよりもる月やさして御袖の霜にをくらむ  0496:0416 波にやとる月を汀にゆりよせて鏡にかくる住よしのきし  0497:0413  春日にまいりたりけるにつねよりも月あかく哀なりけれは ふりさけし人の心そしられけるこよひみかさの山を詠めて  0498:0414  月寺のほとりにあきらかなり 昼とみる月にあくるをしらましや時つく鐘の音なかりせは  0499:0406  月前に古をおもふ いにしへを何につけてか思ひ出む月さへかはる世ならましかは  0500:0407  月によせて思ひをのへけるに 世中のうきをもしらてすむ月のかけは我身の心ちこそすれ  0501:0408 よの中はくもりはてぬる月なれやさりともとみし影も待れす  0502:0409 いとふよも月すむ秋に成ぬれはなからへすはとをもふなる哉  0503:0410 さらぬたにうかれて物を思ふ身の心をさそふ秋のよの月  0504:0411 捨ていにしうきよに月のすまてあれなさらは心のとまらさらまし  0505:0412 あなかちに山にのみすむ心かな誰かは月のいるををしまぬ  ---- 上三十二  0506:0788  月前述懐 月をみていつれの年の秋まてか此よに我か契あるらむ  0507:1056  題しらす こむよにもかゝる月をしみるへくは命ををしむ人なからまし  0508:1057 此よにて詠なれぬる月なれは迷はむやみも照さゝらめや  0509:0311  月 秋のよの空にいつてふ名のみしてかけほのかなる夕月夜哉  0510:0312 天のはら月たけのほる雲路をは分ても風の吹はらはなむ  0511:0313 嬉しとや待つ人ことに思ふらむ山のはいつる秋のよの月  0512:0314 中々に心つくすもくるしきにくもらはいりね秋のよの月  0513:0315 いか斗うれしからまし秋のよの月すむそらに雲なかりせは  0514:0316 はりまかた灘のみ沖に漕いてゝあたり思はぬ月をなかめむ  0515:0317 月すみてなきたる海の面かな雲のなみさへ立もかゝらて  0516:0318 いさよはて出るは月のうれしくて入山のははつらきなりけり  0517:0319 水の面にやとる月さへ入ぬるはなみのそこにも山やあるらむ  0518:0320 したはるゝ心や行と山のはにしはしないりそ秋のよの月  0519:0321 あくるまて宵より空に雲なくて又こそかゝる月みさりけれ  0520:0322 あさち原葉すゑの露の玉ことに光つらぬる秋のよの月  0521:0323 秋のよの月を雪かと詠れはつゆも霰のこゝちこそすれ  0522:0343  月の歌あまたよみけるに 入ぬとや東に人はをしむらむ都にいつる山のはの月  0523:0344 待出てくまなき宵の月みれは雲そ心にまつかゝりける  0524:0345 秋風やあまつ雲井をはらふらむ更行まゝに月のさやけき  0525:0346 いつくとて哀ならすはなけれともあれたるやとそ月はさひしき  0526:0347 蓬分てあれたるやとの月みれはむかし住けむ人そこひしき  ---- 上三十三  0527:0348 身にしみて哀しらする風よりも月にそ秋の色はみえける  0528:0349 むしのねもかれ行のへの草の原に哀をそへてすめる月かけ  0529:0350 人もみぬよしなき山の末まてにすむらむ月のかけをこそ思へ  0530:0351 このまもる有明の月を詠れはさひしさそふる嶺の松風  0531:0352 いかにせむかけをは袖にやとせとも心のすめは月のくもるを  0532:0353 悔くもしつのふせやとをとしめて月のもるをもしらて過ける  0533:0354 あれわたる草の庵にもる月を袖にうつしてなかめつる哉  0534:0355 月をみて心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる  0535:0356 何こともかはりのみ行よの中にをなしかけにてすめる月かな  0536:0357 よもすから月こそ袖にやとりけれむかしの秋を思ひいつれは  0537:0358 なかむれは外のかけこそゆかしけれかはらしものを秋のよの月  0538:0359 行ゑなく月に心のすみ/\てはてはいかにかならむとすらむ  0539:0360 月かけのかたふく山をなかめつゝをしむしるしや有明の空  0540:0361 詠るもまことしからぬ心ちしてよにあまりたる月の影哉  0541:0362 行末の月をはしらす過きつる秋またかゝる影はなかりき  0542:0363 まことゝも誰か思はむひとりみて後に今宵の月をかたらは  0543:0364 月のため昼と思ふかかひなきにしはしくもりて夜をしらせよ  0544:0365 天のはら朝日山より出れはや月の光の昼にまかへる  0545:0366 有明の月のころにし成ぬれは秋は夜なかき心ちこそすれ  0546:0367 中々にとき/\雲のかゝるこそ月をもてなすかきり也けれ  0547:0368 雲はるゝ嵐の音は松にあれや月もみとりの色にはへつゝ  0548:0369 さためなく鳥やなくらむ秋のよは月の光ををもひまかへて  ---- 上三十四  0549:0370 誰もみなことはりとこそ定むらめ昼をあらそふ秋のよの月  0550:0371 かけさえてまことに月のあかきには心も空にうかれてそすむ  0551:0372 くまもなき月の面に飛かりのかけを雲かと思ひけるかな  0552:0373 詠れはいなや心のくるしきにいたくなすみそ秋のよの月  0553:0374 雲もみゆ風もふくれはあらくなるのとかなりつる月のひかりを  0554:0375 もろともにかけをならふる人もあれや月のもりくるさゝの庵に  0555:0376 中々にくもるとみえてはるゝよの月は光のそふここちする  0556:0377 うき雲の月の面にかゝれともはやく過るはうれしかりけり  0557:0378 過やらて月ちかく行浮雲のたゝよふみれはわひしかりけり  0558:0379 いとへともさすかに雲のうちちりて月のあたりをはなれさりけり  0559:0380 雲はらふあらしに月のみかかれて光えてすむ秋の空かな  0560:0381 くまもなき月のひかりを詠れはまつ姨捨の山そ恋しき  0561:0382 月さゆるあかしのせとに風吹は氷のうへにたゝむしら波  0562:0383 天のはらをなし岩戸を出れとも光ことなる秋のよの月  0563:0384 かきりなく名残をしきは秋のよの月にともなふあけほのゝ空  0564:0982  題しらす みをよとむ天の川きし波かけて月をはみるやさくさみの神  0565:0983 光をはくもらぬ月そみかきけるいなはにかゝるあさひこの玉  0566:0959 あらし吹嶺のこのまを分きつる谷の清水にやとる月影  0567:0960 うつらふす うらつふす苅田のひつち思ひ出てほのかにてらすみか月のかけ  0568:0961 にこるへき岩井の水にあらねともくまはやとれる月やさはかむ  0569:0962 独りすむ庵に月のさしこすは何か山への友とならまし  0570:0963 たつねきてこととふ人もなき宿にこのまの月のかけそさし入  ---- 上三十五  0571:0964 柴の庵はすみうきこともあらましを友なふ月のかけなかりせは  0572:0965 かけきえては山の月はもりもこす谷は梢のゆきとみえつゝ  0573:0966 雲にたゝこよひの月をまかせてむ厭ふとてしも晴れぬものゆゑ  0574:0967 月をみる外もさこそはいとふらめ雲たゝこゝの空にたゝよへ  0575:0968 はれまなく雲こそ空にみちにけれ月みることは思ひたゝなむ  0576:0969 ぬるれとも雨もるやとのうれしきはいりこむ月を思ふなりけり  0577:1491  百首歌の中月十首 にせしまや月の光のさひかうらはあかしには似ぬかけそすみける  0578:1492 池水に底きよくすむ月かけはなみに氷をしきわたす哉  0579:1493 月をみてあかしのうらを出るふねはなみのよるとや思はさるらむ  0580:1494 はなれたるしらゝの浜の沖の石をくたかて洗ふ月のしらなみ  0581:1495 思ひとけはちさとのかけも数ならすいたらぬくまも月はあらせし  0582:1496 大かたの秋をは月につゝませて吹ほころはす風の音かな  0583:1497 何ことか此よにへたる思出をとへかし人に月ををしへむ  0584:1498 思ひしるをよにはくまなきかけならす我めにくもる月の光は  0585:1499 うきことも思ひとをさしをしかへし月のすみける久方の空  0586:1500 月のよやともとをなりていつくにも人しらさらむ栖をしへよ  0587:0385  九月十三夜 こよひはと所えかほにすむ月の光もてなすきくの白露  0588:0386 雲消し秋のなかはの空よりも月はこよひそ名にをへりける  0589:0387  後九月つきをもてあそふといふことを 月みれは秋くはゝれる年はまたあかぬ心もそふにそ有ける  0590:0449  独聞擣衣 ひとりねのよさむになるにかさねはや誰ためにうつ衣なるらむ  ---- 上三十六  0591:0450  隔里擣衣 さよ衣いつこのさとにうつならむ遠く聞ゆるつちの音哉  0592:0476  菊 いく秋に我あひぬらむ長月のこゝぬかにつむ八重の白菊  0593:0477 秋ふかみならふ花なき菊なれは所を霜のをけとこそ思へ  0594:0478  月前菊 ませなくは何をしるしに思はまし月もまかよふしら菊の花  0595:0475  京極太政大臣中納言と申しけるをり菊ををひたゝしきほとにしたてゝ  鳥羽院にまいらせ給たりける鳥羽の南殿のひかしをもての  つほに所なきほとにうへさせ給ひけり公重少将人々すすめて菊  もてなさせけるにくはゝるへきよしあれは 君か住やとのつほには菊そかさる仙の宮といふへかるらむ  0596:1095  高野より出たりけると覚堅阿闍梨きかぬさまなりけれは菊  をつかはすとて 汲てなと心かよはゝとはさらむ出たるものを菊の下水  0597:1096  かへし 谷ふかく住かと思ひてとはぬまにうらみをむすふきくの下水  0598:0481  題しらす いつよはるもみちの色は染へきと時雨にくもる空にとはゝや  0599:0482  紅葉未遍といふことを いとゝ山しくれに色を染させてかつ/\をれる錦也けり  0600:0483  山家紅葉 染めてけりもみちのいろのくれなゐをしくるとみえしみ山へのさと  0601:0489  霧中紅葉 錦はる秋の梢をみせぬかな隔つる霧のやとをつくりて  0602:0487  紅葉色深といふことを 限あれはいかゝは色もまさるへきをあかすしくるゝ小倉山哉  0603:0488 もみちはのちらて時雨の日数へはいか斗なる色かあらまし 【斗:はかり】  0604:0490  賎かりける家に蔦の紅葉面白かりけるをみて  ---- 上三十七 思はすによしある賎のすみか哉蔦のもみちを軒にはゝせて  0605:0486  寂蓮高野に詣てふかき山の紅葉といふことをよみける さま/\に錦ありけるみ山哉花みし嶺を時雨そめつゝ  0606:1457  題しらす 秋の色は風そのもせにしきりたす時雨は音を袂にそきく  0607:1458 時雨初る花その山に秋くれてにしきの色もあらたむる哉  0608:0494  秋の末に法輪寺にこもりてよめる 大井河ゐせきによとむ水の色に秋ふかくなるほとそしらるゝ  0609:0495 小くら山ふもとに秋の色はあれや梢の綿風にたゝれて  0610:0496 我ものと秋の梢を思ふかな小倉の里に家ゐせしより  0611:0497 山さとは秋の末にそ思ひしる悲しかりけりこからしの風  0612:0498 暮果る秋のかたみにしはしみむ紅葉ちらすなこからしの風  0613:0499 秋くるゝ月なみわかぬ山賎の心うらやむ今日の夕暮  0614:0500  終夜秋ををしむ をしめとも鐘の音さへかはる哉霜にや露の結ひかふらむ  0615:1023  題しらす 錦をはいくのへこゆるからひつにおさめて秋は行にか有らむ  0616:1061  秋の末に寂然高野にまいりてくれの秋によせて  おもひをのへけるに なれきにし都もうとく成果て悲しさ添る秋の暮哉  ---- 上三十八  Subtitle  冬歌  0617:0501  長楽寺にて夜紅葉を思ふといふことを人々よみけるに よもすからをしけなく吹嵐かなわさと時雨の染る紅葉を  0618:0514  時雨の歌よみけるに 東屋のあまりにもふる時雨哉誰かはしらぬ神無月とは  0619:0512  山家時雨 宿かこふはゝその柴の色をさへしたひて染る初時雨哉  0620:0513  閑中時雨といふことを おのつから音する人もなかりけり山めくりする時雨ならては  0621:0503  題しらす ねさめする人の心をわひしめてしくるゝ音は悲しかりけり  0622:0509  落葉 あらしはく庭の落はのをしき哉まことのちりに成ぬと思へは  0623:0507  暁落葉 時雨かとねさめのとこに聞ゆるはあらしにたへぬこのは也けり  0624:0510  月前落葉 山颪の月に木葉を吹かけて光にまかふ影をみるかな  0625:0511  瀧上落葉 木枯に峯の紅葉やたくふらむむらこにみゆる瀧の白いと  0626:0508  水上落葉 立田姫染し梢のちるをりは紅あらふ山川の水  0627:0515  落葉あしろにとゝまる 紅葉よるあしろのぬのゝ色そめてひをくるゝとはみゆる也けり  0628:0493  草花野路落葉 紅葉ちる野はらを分て行人は花ならぬまて錦きるへし  0629:0505  山家落葉 道もなし宿は木葉に埋れぬまたきせさする冬籠かな  0630:0506 木葉ちれは月に心そあくかるゝみ山かくれにすまむと思ふに  0631:0502  題しらす 神無月木葉の落るたひことに心うかるゝみ山へのさと  0632:0521  冬のうたよみけるに 難波江の入江の芦に霜さえて浦風寒きあさほらけ哉  ---- 上三十九  0633:0522 玉かけし花のかつらもをとろへて霜をいたゝく女郎花かな  0634:0525  水邊寒草 霜にあひて色あらたむる芦のほの淋くみゆる難波江のうら  0635:0518  枯野の草をよめる 分かねし袖に露をはとめ置て霜に朽ぬるまのゝ萩原  0636:0519 霜かつく枯のゝ草は淋しきにいつくは人の心とむらむ  0637:0520 霜かれてもろくくたくる荻のはをあらく吹なる風の色哉  0638:0516  山家枯草といふことを覚雅僧都の坊にて人々よみけるに かきこめしすそのゝ薄霜枯て淋しさまさる柴の庵哉  0639:0517  野の渡りの枯たる草といふことを双林寺にてよみけるに さま/\に花咲たりとみしのへのをなし色にも霜枯にけり  0640:0567  氷留山水 岩ませく木葉わけこし山水を露もらさぬは氷也けり  0641:0568  瀧上氷 水上に水や氷をむすふらむくるともみえぬ瀧の白糸  0642:0569  氷筏をとつといふことを 氷わる筏のさほのたゆるれはもちやこさましほつの山越  0643:0584  世をのかれてくらまのをくに侍りけるにかけひの氷て水まて  こさりけるに春になるまてはかく侍るなりと申けるを聞て  よめる わりなしやこほるかけひの水故に思ひ捨てし春の待るゝ  0644:0561  千鳥 あはちかた磯わのちとり声しけしせとの塩風さえまさるよは  0645:0562 淡路潟せとの汐ひの夕くれにすまよりかよふ千鳥なく也  0646:0563 さゆれとも心安くそ聞あかす河瀬のちとり友くしてけり  0647:0564 霜さえて汀ふけ行浦風を思ひしりけになく千鳥哉  0648:0565 やせわたる湊の風に月更て汐ひる方にちとり鳴なり  ---- 上四十  0649:0566  題しらす 千鳥なくゑ嶋のうらにすむ月を波にうつしてみる今宵哉  0650:0530  月かれたる草をてらす 花にをく露にやとりし影よりもかれのゝ月は哀なりけり  0651:0531 氷しくぬまのあし原風さえて月も光そさひしかりける  0652:0532  しつかなるよの冬月 霜さゆる庭の木葉をふみ分て月はみるやととふ人もかな  0653:0533  庭上冬月といふことを さゆとみえて冬深くなる月影は水なき庭に氷をそしく  0654:0528  山家冬月 冬枯のすさましけなる山さとに月のすむこそ哀也けれ  0655:0529 月出る嶺の木葉もちりはてゝ麓のさとは嬉しかるらむ  0656:0557  舟中霰 せと渡るたなゝしをふね心せよあられみたるゝしまきよこきる  0657:0558  深山霰 杣人のまきのかりやの下ふしに音する物はあられ也けり  0658:0559  桜木にあられのたはしるをみて たゝはをちて枝をつたへる霰かなつほめる花のちる心ちして  0659:0977  題しらす 音もせて岩またはしる霰こそ蓬の宿の友に成けれ  0660:0978 あられにそ物めかしくは聞えける枯たるならの柴の落はは  0661:0523  冬の歌よみける中に 山さくら初雪ふれは咲にけりよしのはさとに冬こもれとも  0662:0580  題しらす 山桜をもひよそへて詠れは木ことの花は雪まさりけり  0663:0537  夜初雪 月出る軒にもあらぬ山のはのしらむもしるしよはの白雪  0664:0538  庭雪似月 木間もる月のかけともみゆる哉はたらにふれる庭の白雪  0665:0540  枯野に雪のふりたるを  ---- 上四十一 かれはつるかやかうはゝに降雪はさらにお花の心地こそすれ  0666:0543  雪道を埋む 降雪にしをりし柴も埋れて思はぬ山に冬籠する  0667:0548  雪埋竹といふことを 雪埋むそのゝ呉竹折ふしてねくら求るむら雀哉  0668:0581  仁和寺の御室にて山家閑居見雪といふことをよませ給  けるに 降つもる雪を友にて春まては日を送るへきみ山へのさと  0669:0583  山居雪といふことを 年の内はとふ人更にあらしかし雪も山路も深き住家を  0670:0545  雪朝待人といふことを 我やとに庭より外の道もかなとひこむ人の跡つけてみむ  00671:0547  雪朝会友といふことを 跡とむる駒の行ゑはさもあらはあれ嬉く君に行も逢ぬる  0672:0539  雪の朝霊山と申所にて眺望を人々よみけるに たけのほる朝日の影のさすまゝに都の雪はきえみ消すみ  0673:0550  社頭雪 玉かきは朱も緑も埋れて雪をもしろき松尾の山  0674:0549  加茂の臨時の祭かへり立の御神楽土御門内裏にて侍  りけるに竹のつほに雪のふりたりけるをみて うらかへすをみの衣とみゆる哉竹のうらはにふれる白雪  0675:0551  雪のうたともよみけるに 何となくくるゝ雫の音まても山へは雪そ哀なりける  0676:0552 雪降は野ちも山ちも埋れて遠近しらぬ旅のそら哉  0677:0553 あをね山苔のむしろの上にして雪はしとねの心地社すれ 【社:こそ】  ---- 上四十二  0678:0554 卯花の心ち社すれ山子さとの垣ねの柴をうつむ白雪 【社:こそ】  0679:0555 折ならぬめくりの垣の卯花をうれしく雪の咲せつる哉  0680:0556 とへな君夕くれになる庭の雪を跡なきよりは哀ならまし  0681:0541 あらち山さかしく下る谷もなくかしきの道をつくるしら雪  0682:0542 たゆみつゝそりのはやをもつけなくに積りにけりな越の白雪  0683:1448  題しらす 緑なる松にかさなる白雪は柳のきぬを山にをほへる  0684:1449 盛ならぬ木もなく花の咲にけり思へは雪をわくる山みち  0685:1450 波とみゆる雪を分てそこきわたるきそのかけ橋底もみえねは  0686:  百首歌中雪十首 しからきの杣のをほちはとゝめてよ初雪降ぬむこの山人  0687:1502 急すは雪に我身やとゝめられて山への里に春をまたまし  0688:1503 哀しりて誰か分こむ山さとの雪降埋む庭の夕くれ  0689:1504 湊川とまに雪ふく友ふねはむやひつゝ社よをあかしけれ 【社:こそ】  0690:1505 いかたしの浪のしつむとみえつるは雪をつみつゝ下すなりけり  0691:1506 たまりをる梢の雪の春ならは山さといかにもてなされまし  0692:1507 大原はせれうを雪の道にあけてよもには人も通はさりけり  0693:1508 晴やらて二むら山に立雲はひらのふゝきの名残也けり  0694:1509 雪しのく庵のつまをさしそへて跡とめてこむ人をとゝめむ  0695:1510 悔しくも雪のみ山へ分いらて麓にのみもとしをつみける  0696:1172  寂然入道大原にすみけるにつかはしける 大原はひらの高ねの近けれは雪ふるほとを思ひこそやれ  0697:1173  かへし 思へたゝ都にてたに袖さえしひらの高ねの雪のけしきは  ---- 上四十三  0698:0544  秋の頃高野へまいるへきよしたのめてまいらさりける人のもと  へ雪ふりてのち申つかはしける 雪深く埋てけりな君くやと紅葉のにしきしきし山路を  0699:0546  雪に庵うつもれてせむかたなく面白かりけり今もきたらは  とよみけむことを思ひ出てみけるほとに鹿の分て通りけるをみて 人こはと思ひて雪をみる程にしか跡つくることも有けり  0700:0570  冬歌十首よみけるに 花もかれもみちもちらぬ山さとは淋しさを又とふ人もかな  0701:0571 ひとりすむ片山影の友なれやあらしにはるゝ冬のよの月  0702:0572 津の国の芦の丸やの淋しさは冬こそわきてとふへかりけれ  0703:0573 さゆる夜はよその空にそをしもなく氷にけりなこやの池水  0704:0574 よもすから嵐の山に風さえて大井のよとに氷をそしく  0705:0575 さえ渡る浦風いかに寒からむちとりむれゐるゆふさきの浦  0706:0576 山さとは時雨しころの淋しきにあられの音は漸まさりける  0707:0577 風さえてよすれはやかて氷りつゝかへる波なきしかの唐崎  0708:0578 よしの山麓にふらぬ雪ならは花かとみてや尋いらまし  0709:0579 宿ことに淋しからしとはけむへし煙こめたる小野の山里  0710:0534  鷹狩 あはせたる木ゐのはしたかをきとらし犬かひ人の声しきるなり  0711:0535  雪中鷹狩 かきくらす雪にきゝすはみえねとも羽音に鈴をたくへてそやる  0712:0536 降雪にと立もみえす埋れてとり所なきみかりのゝ原  0713:0560  月前炭竃といへることを 限あらむ雲こそあらめ炭かまの烟に月にすゝけぬる哉  ---- 上四十四  0714:0582  山さとに冬深といふことを とふ人も初雪を社分こしか道とちてけりみ山へのさと 【社:こそ】  0715:0526  山さとの冬といふことを人々よみけるに 玉まきし垣ねのまくす霜かれて淋しくみゆる冬の山里  0716:0524  冬の歌よみける中に 淋しさにたへたる人の又もあれな庵ならへむ冬の山さと  0717:0979  題しらす 柴かこふ庵のうちはたひたちてすとをる風もとまらさりけり  0718:0980 谷風は戸を吹あけている物をなにと嵐の窓たゝくらむ  0719:0998 身にしみし荻の音にはかはれとも柴吹風も哀なりけり  0720:0586  山家歳暮 あたらしき柴のあみとをたちかへて年の明るを待わたる哉  0721:0587  東山にて人々としのくれに思ひをのへけるに 年くれしそのいとなみは忘られてあらぬさまなる急をそする  0722:0588  年のくれにあかたより都なる人のもとへ申つかはしける をしなへて同し月日の過行は都もかくや年はくれぬる  0723:0589 山さとに家ゐをせすはみましやは紅ふかき秋のこすゑを  0724:0590  歳暮に人のもとへつかはしける をのつからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほとに年の暮ぬる  0725:0591  つねなきことをよせて いつか我昔の人といはるへきかさなる年を送りむかへて  ---- 上四十五  Subtitle  離別歌  0726:1062  あひしりたりける人のみちのくにへまかりけるに別の歌よむとて 君いなは月待とても詠やらむあつまのかたの夕くれの空  0727:1102  とし頃申なれたりける人にとをく修行するよし申て罷たりける  名残をほくて立けるに紅葉のしたりけるをみせまほしくて侍つる  かひなくいかにと申けれは木の本に立よりてよみける 心をは深きもみちの色にそめて別て行やちるに成らむ  0728:1107  遠く修行に思ひ立侍りけるに遠行別といふことを人々まて  きてよみ侍しに 程ふれはをなし都のうちたにもをほつかなさはとはまほしきに  0729:1108  年ひさしくあひたのみたりける同行に放れてとをく修行し  てかへらすもやと思ひけるに何となく哀にてよみける さためなしいくとせ君になれ/\て別をけふは思ふなるらむ  0730:1158  遠く修行することありけるに芥院の前の斎宮にまいりたり  けるに人々別のうたつかふまつりけるに さりともと猶あふことを頼む哉しての山路をこえぬ別(は) 【芥:(サ/サ)「菩薩」抄物書き。六家本系テキストでは菩提院となっている】  0731:1159  同折つほの桜の散けるをみてかくなむをほえ侍と申ける 此春は君に別のをしき哉花の行ゑはおもひわすれて  0732:1160  かへしせよとうけたまはりて扇にかきてさしいてける 女房六角局 君かいなむかたみにすへき桜さへ名残あらせす風さそふ也  ---- 上四十六  Subtitle  羇旅歌  0733:0480  嵯峨に住ける頃となりの坊に申へきことありてまかりけるに  道もなく葎のしけりけれは 立よりて隣とふへき垣にそひて隙なくはへるやへ葎かな  0734:1139  しほ湯にまかりたりけるにくしたりける人九月晦日にさきへのほり  けれはつかはしける人にかはりて 秋は暮君は都へ帰りなは哀なるへき旅のそらかな  0735:1140  かへし             大宮の女房加賀 君をゝきて立出る空の露けさは秋さへくるゝ旅の悲しさ  0736:1141  しほ湯出て京へ帰りまうてきて古郷の花霜かれにける哀なり  けりいそき帰りし人のもとへ又かはりて 露をきし庭の小萩も枯にけりいつち都に秋とまるらむ  0737:1142  かへし                をなし人 したふ秋は露もとまらぬ都へとなとて急し舟出成らむ  0738:1058  八月つきの頃よふけて北白河へまかりけるよしある様なる家の  侍けるにことのをとのしけれは立とまりてきゝけり折哀に秋  風楽と申かくなりけり庭をみいれけれはあさちの露に  月のやとれるけしき哀也垣にそひたる荻の風身にしむらむ  とをほえて申入れてとをりけり 秋風のことに身にしむ今宵哉月さへすめる宿のけしきに  0739:1153  新院さぬきにをはしましけるに便に付て女房のもとより 水茎のかき流すへきかたそなき心のうちは汲てしらなむ  ---- 上四十七  0740:1154  かへし 程遠み通ふ心の行はかり猶かき流せ水茎の跡  0741:1155  又女房つかはしける いとゝしくうきに付ても頼む哉契し道のしるへたかふな  0742:1156 かゝりける涙にしつむ身のうさを君ならて又誰かうかへむ  0743:1157  かへし 頼むらむしるへもいさやひとつよの別にたにもまよふ心は  0744:1162  山さとにまかりて侍けるに竹の風の荻にまかひて聞えれは 竹の音も荻吹風のすくなきにくはへて聞はやさしかりけり  0745:1163  世をのかれてさかに住ける人のもとにまかりて後世のことをこたら  すつとむへきよし申て帰りけるに竹の柱をたてたりけるをみて よゝふとも竹の柱の一筋にたてたるふしはかはらさらなむ  0746:1164  題しらす 哀たゝ草の庵の淋きは風より外にとふ人そなき  0747:1165 哀なりより/\しらぬ野の末にかせきを友になるゝすみかは  0748:1069  海辺重旅宿といへることを 波ちかき磯の松かね枕にてうらかなしきは今宵のみかは  0749:0527  寒夜旅宿 旅ねする草の枕に霜さえて有明の月の影そまたるゝ  0750:1097  たひ(へ)まかりけるに入相をきゝて 思へたゝ暮ぬと聞しかねの音は都にてたに悲しき物を  0751:0417  旅(に)まかりけるにとまりて あかすのみ都にてみし影よりも旅こそ月は哀也けれ  0752:0418 みしまゝにすかたも影もかはらねは月そ都のかたみ也ける  0753:1111  そのかみ心さしつかうまつりけるならひに世をのかれてのちもか  もにまいりけるとしたかくなりて四国のかた修行しけるに  ---- 上四十八  又帰りまいらぬこともやとて仁和二年十月十日のよまい  りて幣まいらせけり内へもまいらぬことなれはたなうの社にとり  つきてまいらせ給へとて心さしけるに木間の月ほの/\と常より  も神さひ哀にをほえてよみける かしこまるしてに涙のかゝる哉又いつかはとをもふこゝに  0754:1456  題しらす ふしみ過ぬをかのやに猶とゝまらし日野まて行てこま心みむ  0755:1409  うちかはをくたりける船のかなつきと申ものをもてこいのくたる  をつきけるをみて 宇治川のはやせをちまふれふ船のかつきにちかふこにのむらまけ  0756:1410 こはへつとふぬまの入江のものしたは人つけをかぬふしにそ有ける  0757:1411 たねつくるつほ井の水のひく末にえふなあつまる落合のはた  0758:1412 しらなはにこあゆひかれてくたるせにもちまふけたるこめのしきあみ  0759:1413 みるもうきはうなはににくるいろくつをのからかさてもしたむもちあみ  0760:1414 秋風にすゝきつり船はしるめりうのひとはしの名残したひて  0761:1113  天王寺へまいりけるにかた野なと申渡り過てみはるかされたる  所の侍けるを問けれはあまの川と申をきゝて宿からむといひけ  むこと思ひ出されてよみける あくかれしあまのかはらと聞からにむかしの波の袖にかゝれる  0762:0767  天王寺にまいりけるに雨のふりけれは江口と申所に宿をかりけ  るにかさゝりけれは 世中をいとふまてこそかたからめかりの宿りを惜む君哉  0763:0768  かへし 家を出る人としきけはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ  ---- 上四十九  0764:1094  天王寺へまいりたりけるに松に鷺の居たりけるを月の光に  みて 庭よりも鷺居る松の梢にそ雪は積れる夏のよの月  0765:0878  天王寺へまいりて亀井の水をみてよめる 浅からぬ契の程そくまれぬる亀井の水に影うつしつゝ  0766:0877  六波羅太政入道持經者千人あつめて津の国わたと申所にて  くやう侍けるやかてそのついてに万燈会しけり夜更るまゝに  灯の消けるををの/\ともしつきけるをみて 消ぬへき法の光のともしひをかゝくるわたのみさき也けり  0767:1152  あかしに人をまちて日数へにけるに 何となく都のかたと聞空はむつましくてそ詠められぬる  0768:1112  はりま書写へまいるとて野中の清水をみけること一むかしに  なりにける年へて後修行すとてとをりけるにおなしさ  まにてかはらさりけれは 昔みし野中の清水かはらねは我影をもや思ひ出らむ  0769:1114  四国のかたへ具してまかりたりける同行の都へ帰りけるに かへり行人の心を思ふにもはなれかたきは都なりけり  0770:1115  ひとりみおきて帰りまかりなむするこそ哀にいつか都へは  帰るへきなと申けれは 柴の庵のしはし都へかへらしと思はむたにも哀なるへし  0771:1116  たひのうたよみけるに 草枕たひなる袖にをく露を都の人や夢にみるらむ  0772:1117 聞えつる都へたつる山さへにはては霞にきえにけるかな  ---- 上五十  0773:1118 和田の原はるかに波を隔きて都に出し月をみるかな  0774:1119 わたの原波にも月はかくれけり都の山を何いとひけむ  0775:1422  さぬきの国へまかりてみの津と申津につきて月のあかくて  ひゝのてもかよはぬほとにとをくみえわたりけるにみつと  りのひゝのてにつきてとひわたりけるを しきわたす月の氷をうたかひてひゝのてまはる味のむら鳥  0776:1423 いかて我心の雲にちりすへきみるかひありて月を詠む  0777:1424 詠をりて月の影にそ夜をはみるすむもすまぬもさなりけりとは  0778:1425 雲はれて身に愁へなき人の身そさやかに月の影はみるへき  0779:1426 さのみやは袂に影を宿すへきよはし心に月ななかめそ  0780:1427 月にはちてさし出られぬ心哉詠る袖に影のやとれは  0781:1428 心をはみる人ことにくるしめて何かは月のとり所なる  0782:1429 露けさはうきみの袖のくせなるを月みるとかにをほせつる哉  0783:1430 詠きて月いかはかりしのはれむこのよし雲の外になりなは  0784:1431 いつか我此世の空を隔たらむ哀/\と月を思ひて  0785:1371  さぬきにまうてゝ松山と申所に院をはしましけむ御  御跡尋けれともかたもなかりけれは 松山の波に流てこし舟のやかて空しく成にける哉  0786:1372 まつ山のなみのけしきはかはらしをかたなく君は成ましにけり  0787:1373  しろみねと申所に御はかの侍りけるにまいりて よしや君昔の玉の床とてもかゝらむ後は何にかはせむ  0788:1374  おなし国に大師のをはしましける御あたりの山に庵むす  ---- 上五十一  ひて住けるに月いとあかくて海のかたくもりなくみえ侍けれは くもりなき山にて海の月みれは島そ氷の絶ま也ける  0789:1375  すみけるまゝに庵いとあはれに覚て 今よりはいとはし命あれは社かゝる住居の哀をもしれ 【社:こそ】  0790:1376  庵のまへに松のたてりけるをみて 久にへて我後のよをとへよ松跡したふへき人もなき身そ  0791:1377 こゝを又我住うくてうかれなは松はひとりにならむとすらむ  0792:1378  雪のふりけるに 松の下は雪ふる折の色なれやみな白妙にみゆる山路に  0793:1379 雪つみて木も分かす咲花なれはときはの松もみえぬ也けり  0794:1380 花とみる梢の雪に月さえてたとへむ方もなき心地する  0795:1381 まかふ色は梅とのみみて過行に雪の花には香そなかりける  0796:1382 折しもあれ嬉しく雪の埋む哉きこもりなむと思ふ山路を  0797:1383 中々に谷の細道うつめ雪ありとて人の通ふへきかは  0798:1384 谷の庵に玉の簾をかけましやすかるたるひの軒をとちすは  0799:1385  はなまいらせけるをりしもをしきにあられのふりかかりけれは しきみをくあかのをしきにふちなくは何に霰の玉とまらまし  0800:1386  大師のむまれさせ給ひたる所とてめくりしまはしてそのしるし  の松のたてりけるをみて 哀也をなし野山にたてる木のかゝるしるしの契有けり  0801:1387 岩にせくあか井の水のわりなきは心すめともやとる月かな  又ある本に コレラ後人ノカケル事凡例二云カコトシ  ---- 上五十二  0802:1388  まむたらしの行道ところへのほるはよの大事にて手を  たてたるやうなり大師の御経かきてうつませおはし  ましたる山の嶺なりはうのそとは一丈はかりなるたむつきて  たてられたりそれへ日ことにのほらせおはしまして行道しおは  しましけると申伝たりめくり行道すへきやうにたむも二  重につきまはされたりのほる程のあやうさことに大事なり  かまへてはひまはりつきて めくりあはむことの契そたのもしききひしき山の誓みるにも  0803:1389  やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせさせをはしまし  たる嶺なりわかはいしさとその山をは申也その辺の人は  わかいしとそ申ならひたる山もしをはすてゝ申さす又ふての  山ともなつけたりとをくてみれはふてに似てまろ/\  と山の嶺のさきのとかりたるやうなるを申ならはしたる  なめり行道所よりかまへてかきつきのほりて嶺に  まいりたれは師にあはせおはしましたる所のしるしにたう  をたておはしましたりけりたうの石すゑはかりなくを  ほきなり高野の大たうはかりなりけるたうのあとゝ  みゆ苔はふかくうつみたれとも石をほきにしてあらはに  みゆふての山と申名につきて ふての山にかきのほりてもみつる哉苔の下なる岩のけしきを   善通寺の大師の御影にはそはにさしあけて大師の御   師かきくせられたりき大師の御手なともをはしましき   四の門のかく少々われてをほかたはたかはすして侍きすゑに   こそいかゝなりけむすらむとをほつかなくをほえ侍しか  0804:1390  備前国に小島と申島にわたりたりけるにあみと申  物をとる所はおの/\われ/\しめてなかきさほにふくろをつ  けてたてわたすなりそのさほのたてはしめをは一のさほとそ名  付たるなかにとしたかきあま人のたて初るなりたつるとて  申なることはきゝ侍しこそなみたこほれて申はかり  なく覚てよみける たて初るあみとる浦の初さほはつみの中にもすくれたる哉  0805:1391  ひゝしふかはと申方へまかりて四国のかたへ渡らむとしけるに  かせあしくてほとへけりしふかはのうらたと申所におさなきもの  とものあまた物をひろいけるをとひけれはつみと申もの  ひろふなりと申けるを聞て をりたちてうらたに拾ふあまのこはつみよりつみをならふ也けり  0806:1392  まなへと申島に京よりあき人とものくたりてやう/\のつみの物  ともあきなひて又しはくの島にわたりてあきなはむするよ  し申けるを聞て まなへよりしはくへかよふあき人はつみをかひにて渡るなりけり  0807:1393  くしにさしたる物をあきなひけるをなにそととひけれははま  くりをほして侍なりと申けるを聞て をなしくはかきをそさしてほしもすへきはまくりよりはなもたよりあり  0808:1394  うしまとのせとにあまのいていりてさたえと申ものをとりて  ---- 上五十四  船にいれ/\しけるをみて さたえすむせとの岩つほもとめ出ていそきしあまの気色なる哉  0809:1395  沖なるいはにつきてあまとものあはひとりけるところにて 岩のねにかたをもむきも波うきてあはひをかつくあまのむらきみ  0810:1396  題しらす こたいひくあみのかけなはよりめくりうきしわさあるしほさきのうら  0811:1397 霞しく波の初花をりかけてさくら鯛つる沖のあまふね  0812:1398 あま人のいそしく帰るひしきものは小にしはまくりからなしたゝみ  0813:1399 いそなつまむと思ひはしむるわかふのりみるめきはさひしきこゝろふと  0814:1086  国々めくりまはりて春帰りて吉野の方へまからむとしけるに人の  このほとはいつくにか跡とむへきと申けれは 花をみし昔の心あらためて吉野のさとに住むとそ思  0815:1120  西の国のかたへ修行してまかり侍とてみつのと申所にくしな  らひたる同行の侍けるにしたしきものゝ例ならぬこと侍とて  くせさりけれは 山城のみつのみくさにつなかれてこま物うけにみゆる旅哉  0816:1161  西国へ修行してまかりける折小嶋と申所に八幡のいはゝれ  給たりけるにこもりたりけり年へて又その社をみけるに松  とものふる木になりたりけるをみて 昔みし松は老木になりにけり我としへたる程もしられて  0817:0421  心さすことありてあきの一宮へ詣けるにたかとみのうらと申所  に風にふきとめられてほとへけりとまふきたる庵より月の  もるをみて  ---- 上五十五 波の音を心にかけてあかすかな苫もる月のかけを友にて  0818:0422  詣つきて月いとあかくて哀にをほえけれはよみける 諸ともに旅なる空に月も出てすめはやかけの哀なるらむ  0819:1468  つくしにはらかと申いをのつりをは十月一日にをろす也しはすにひき  あけて京へはのほせ侍るそのつりの縄はるかにとをくひきわたしてとをる  船のその縄にあたりぬるをはかこちかゝりてかうけかましく申てむつかしく侍る也その  心をよめる はらかつるおほわたさきのうけ縄に心かけつゝ過むとそをもふ  0820:1469 いせしまやいるゝつきてすまうなみにけことおほゆるいりとりのあま  0821:1470 いそなつみて波かけられて過にける鰐の住ける大磯の根を  0822:1444  りうもむにまいるとて せをはやみみやたき河を渡り行は心の底のすむ心地する  0823:1236  承和元年六月一日院熊野へまいらせ給ひけるついてに住吉に  御幸ありけり修行しめくりて二日の社に詣たりけるにすみの江あたらしく  したてたりけるをみて後三條院の御幸神も思出給ふらむと覚て  よめる 絶たりし君か御幸を待つけて神いかはかりうれしかるらむ  0824:1237  松のしつえをあらひけむ浪いにしへにかはらすやと覚て いにしへの松のしつえをあらひけむ波を心にかけてこそみれ  0825:1092  夏熊野へまいりけるに岩田と申所にすゝみて下向しける人に  つけて京へ同行に侍ける上人のもとへつかはしける 松かねの岩田の岸の夕すゝみ君かあれなとをもほゆるかな  0826:1093  かつらきを尋侍けるに折にもあらぬもみちのみえけるを何そと  問けれは正木なりと申をきゝて  ---- 上五十六 かつらきや正木の色は秋に似てよその梢のみとりなる哉  0827:0101  熊野へまいりけるにやかみの王子の花面白かりけれは社に書  付ける 待きつるやかみの桜咲にけりあらくをろすなみすの山風  0828:0867  那智にこもりて瀧に入堂し侍けるに此上に一二の瀧おはし  ますそれへまいるなりと申住僧の侍けるにくしてまいりけり花  や咲ぬらむと尋まほしかりける折ふしにてたよりある心ちして  分けまいりたり二の瀧のもとへまいりつきたり如意輪の瀧となむ  申と聞てをかみけれはまことにすこしうちかたふきたるやうに  なかれくたりてたうとくをほえけり花山院の御庵室の跡の侍ける  前に年ふりたる桜の木の侍けるをみて栖とすれはとよま  せ給ひけむことをもひ出られて 木のもとに住けむ跡をみつる哉那智の高ねの花を尋て  0829:1421  熊野へまいりけるになゝこしのみねの月をみてよみける 立のほる月のあたりに雲消て光重ぬるなゝこしの嶺  0830:1415  新宮より伊勢のかたへまかりけるにみきしまにふれのさたしけるうら  人のくろきかみはひとすちもなかりけるをよひよせて 年へたる浦のあま人ことゝはむ波をかつきて幾よ過にき  0831:1416 くろかみは過るとみえし白波をかつきはてたる身には知あま  0832:0931  みたけよりさうの岩やへまいりたりけるにもらぬ岩屋もとあり  けむをりおもひ出られて 露もらぬ岩やも袖はぬれけると聞すはいかにあやしからまし  0833:0932  をさゝのとまりと申所に露のしけかりけれは  ---- 上五十七 分きつるをさゝの露にそほちつゝほしそわつらふ墨染の袖  0834:1121  大みねのしむせむと申所にて月をみてよみける 深き山にすみける月をみさりせは思出もなき我身ならまし  0835:1122 嶺の上も同し月こそてらすらめ所からなる哀なるへし  0836:1123 月すめは谷にそ雲はしつむめる嶺吹はらふ風にしかれて  0837:1124  をはすての嶺と申所のみわたされて思ひなしにや月ことにみえけれは をは捨はしなのならねといつくにも月すむ嶺の名にこそ有けれ  0838:1125  こいけと申すくにて いかにして梢のひまをもとめえてこいけに今宵月のすむらむ  0839:1126  さゝのすくにて 庵さす草の枕に友なひてさゝの露にも宿る月かな  0840:1127  へいちと申すくにて月をみけるに梢の露の袂にかゝりけれは 梢なる月も哀を思ふへし光にくして露のこほるゝ  0841:1128  あつまやと申所にて時雨のゝち月をみて 神無月時雨はるれは東やの峰にそ月はむねとすみける  0842:1129 神無月谷にそ雲はしくるめる月すむ嶺は秋にかはらて  0843:1130  ふるやと申すくにて 神無月時雨ふるやにすむ月はくもらぬ影もたのまれぬ哉  0844:1131  平等院の名かゝれたるそとはに紅葉のちりかゝりけるをみて  花より外のとありけむ人そかしとあはれに覚てよみける 哀とも花みし嶺に名をとめて紅葉そけふはともに散ける  0845:1132  ちくさのたけにて 分て行色のみならす梢さへちくさのたけは心そみけり  ---- 上五十八  0846:1133  ありのと渡りと申所にて さゝふかみきりこすくきを朝立てなひきわつらふありのと渡り  0847:1134  行者かへりちこのとまりにつゝきたるすく也春の山伏はひやうふ  たてと申所をたひらかにすきむことをかたく思ひて行者ちこの  とまりにても思ひわつらふなるへし 屏風にや心を立て思ひけむ行者はかへりちこはとまりぬ  0848:1135  三重の瀧をかみけるにことにたうとく覚て三業のつみもすゝ  かるゝ心ちしてけれは 身につもることはの罪もあらはれて心すみぬるみかさねの瀧  0849:1136  てむ法輪のたけと申所にて釈迦の説法の座のいしと申所ををかみて こゝこそは法とかれたる所よと聞さとりをもえつるけふ哉  0850:1022  題しらす 近江路や野ちの旅人急かなむやすかはらとて遠からぬかは  0851:0743  世をのかれていせのかたへまかりけるにすゝか山にて すゝか山うきよをよそにふりすてゝいかになり行我身なるらむ  0852:1241  伊勢にまかりたりけるに太神宮にまいりてよみける 榊葉に心をかけむゆふしてゝ思へは神も仏なりけり  0853:1110  修行して伊勢にまかりたりけるに月の頃都思ひ出られ  てよみける 都にも旅なる月の影をこそをなし雲ゐの空にみるらめ  0854:1459  いせのいそのへちのにしきの嶋にいそわのもみちのちりけるを 浪にしく紅葉の色をあらふ故に錦の嶋といふにや有らむ  0855:1400  伊勢のたうしと申嶋にはこいしのしろのかきり侍浜にて  黒はひとつもましらすむかひてすかしまと申はくろかき  ---- 上五十九  り侍なり すかしまやたうしのこいしわけかへて黒白ませよ浦の浜かせ  0856:1401 さきしまのこいしの白をたかなみのたうしの浜に打寄てける  0857:1402 からすさきの浜のこいしと思ふ哉白もましらぬすかしまの黒  0858:1403 あはせはやさきをからすとこをうたはたふしすかしま黒白の浜  0859:1404  伊勢のふたみのうらにさるやうなるめのわらはとものあつまりてわさ  とのことゝをほしくはまくりをとりあつめけるをいふかひなきあま  人こそあらめうたてきことなりと申けれはかひあはせに  京よりひとの申させ給ひたれはえりつゝとるなりと申けるに 今そしるふたみのうらのはまくりをかひあはせとてをほふなりける  0860:1405  いらこへわたりたりけるにゐかひと申はまくりにあこやのむねと  侍るなりそれをとりたるからをたかくつみおきたりけるを  みて あこやとるゐかひのからをつみをきてたからの跡をみする也けり  0861:1406  沖のかたより風のあしきとてかつをと申いをつりける舟とも  のかへりけるをみて いらこさきにかつをつり舟ならひうきてはかちの浪にうかひてそよる  0862:1047  ふたつありけるたかのいらこわたりすると申けるかひとつのたかは  とゝまりて木のすゑにかゝりて侍と申けるを聞て すたかわたるいらこかさきをうたかひてなほきにかくる山帰かな  0863:1048 はしたかのすゝろかさてもふるさせてすへたる人のありかたのよや  0864:1103  するかの国くのゝ山寺にて月をみてよみける 涙のみかきくらさるゝ旅なれやさやかにみよと月はすめとも  0865:1460  みちのくにゝひらいつみにむかひてたわしのねと申山の侍にこときは  ---- 上六十  すくなきやうにさくらのかきりみえて花の咲たるをみてよめる 聞もせすたわしね山の桜花よしのゝ外にかゝるへしとは  0866:1461 をくに猶人みぬ花のちらぬあれや尋をいらむ山ほとゝきす  0867:0815  みちの国にまかりたりけるに野中に常よりもとをほしきつかのみえ  けるを人にとひけれは中将の御はかと申はこれかこと也と申  けれは中将とは誰かことそと又問けれは実方の御ことなりと  申けるいとかなしかりけりさらぬたに物哀におほえけるに霜  かれの薄ほの/\みえ渡りて後にかたらむ詞なきやうにをほえて 朽もせぬ其名はかりをとゝめ置て桔のゝ薄かたみにそみる  0868:1143  みちのくにへ修行してまかりけるに白川の関にとまりて所か  らにや常よりも月おもしろく哀にて能因か秋風そ吹と  申けむをりいつなりけむと思ひ出られて名残をほくおほえ  けれは関屋のはしらに書付ける 白川の関屋を月のもる影は人の心をとむるなりけり  0869:1144  さきにいりてしのふと申渡りあらぬよのことにをほえて  哀也都出し日数思ひつゝくれは霞とともにと侍ことの  あとたとるまてきにける心ひとつに思ひしられてよみける 都出てあふ坂超し折まては心かすめししら川の関  0870:1145  たけくまの松は昔になりたりけれとも跡をたにとてみに  まかりてよめる 枯れにける松なき宿のたけくまはみきと云てもかひなからまし  0871:0492  あつまへまかりけるにしのふのをくに侍ける社のもみちを  ---- 上六十一 ときはなる松の緑も神さひて紅葉そ秋はあけの玉垣  0872:1146  ふりたるたなはしをもみちのうつみたりける渡りにくゝてやすらは  れて人にたつねけれはをもはくのはしと申はこれなりと申けるを  聞て ふまゝうき紅葉の錦散しきて人も通はぬをもはくのはし   しのふの里よりをくに二日はかりいりてあり  0873:1147  下野の国にて柴の煙をみてよみける 都近き小野大原を思ひ出る柴の烟のあはれなる哉  0874:1148  名とり川をわたりけるにきしの紅葉のかけをみて 名とり川きしの紅葉のうつる影は同し錦を底にさへしく  0875:1149  十月十二日ひらいつみにまかりつきたりけるに雪ふり嵐はけしく  事外にあれたりけりいつしか衣川みまほしくてまかりむかひて  みけり河のきしにつきて衣川の城しまはしたることからやうかは  りてものをみる心ちしけり汀こほりてとり分さひけれは とりわきて心もしみてさえそ渡る衣川みにきたるけふしも  0876:0585  陸奥国にてとしのくれによめる 常よりも心ほそくそをもほゆる旅の空にて年の暮ぬる  0877:1150  又のとしの三月に出羽の国にこえてたきの山と申山寺に侍ける  桜の常よりも薄紅の色こき花にてなみたてりけるを寺の人々  もみけうしけれは たくひなき思ひいてはの桜かな薄紅の花のにほひは  0878:1151  おなしたひにて 風あらき柴のい庵は常よりもね覚そ物はかなしかりける  ---- 上六十二  0879:0100  修行しはへるに花をもしろかりける所にて 詠るに花の名たての身ならすはこの本にてや春をくらさむ  0880:1137  修行して遠くまかりけるをり人の思ひ隔たるやうなる事の侍けれは よしさらは幾へともなく山こえてやかても人に隔られなむ  0881:1098  あき遠く修行し侍けるほとにほとへける所より侍従大納言成道  のもとへつかしける あらし吹峰の木葉に友なひていつちうかるゝ心なるらむ  0882:1099  かへし 何となく落る木葉も吹風に散行かたはしられやはせぬ  0883:1087  みやたてと申けるはした物のとしたかくなりてさまかへなとして  ゆかりにつきてよしのに住侍けりをもひかけぬやうなれとも供養  をのへむれうにとてくた物を高野の御山へつかはしたりけるに  花と申くた物侍けるをみて申つかはしける をりひつに花のくた物つみてけりよしのゝ人のみやたてにして  0884:1088  かへし みやたて 心さし深くはこへるみやたてを悟りひらけむ花にたくへて  0885:0886  常よりも道たとらるるほとに雪ふかゝりけるころ高野へまいる  と聞て中宮大其のもとよりいつか都へはいつへきかゝる雪には  いかにと申たりけれは返ことに 雪分て深き山路にこもりなは年帰りてや君にあふへき  0886:1074  かへし 時忠卿 分て行山路の雪は深くともとく立帰れ年にたくへて  0887:0930  ことの外にあれさむかりける頃宮法印高野にこもらせ給ひ  ---- 上六十三  て此ほとの寒さはいかゝするとて小袖はせたりける又の朝申ける 今宵こそ哀みあつき心ちして嵐の音をよそに聞つれ  0888:1100  宮の法印高野にこもらせ給ておほろけにては出しと思ふに修  行せまほしきよしかたらせ給けり千日果てみたけにまいらせ  給ていひつかはしける あくかれし心を道のしるへにて雲に友なふ身とそ成りぬる  0889:1101  かへし 山のはに月すむましとしられにき心の空になるとみしより  0890:0761  待賢門院の中納言の局世をそむきてをくらのふもとに住  侍ける頃まかりたりけるにことからまことに優に哀なりけ  り風のけしきさへことにかなしかりけれはかきつけゝる 山おろす嵐の音のはけしきをいつならひける君か栖そ  0891:0762  哀なるすみかをとひにまかりたりけるに此うたをみて  かきつけゝる 同院兵衛局 うきよをは嵐の風にさそはれて家を出ぬる栖かとそみる  0892:0763  をくらをすてゝ高野のふもとにあまのと申山にすま  れけりをなし院の帥の局都の外の栖とひ申さてはいかゝ  とて分おはしたりけるありかたくなむかえるさにこかはへまいら  れけるに御山よりいてあひたりけるをしるへせよとありけれは  くし申て粉河へまいりたりけるかゝるついてはいまはあるまし  きことなり吹上みむといふことくせられたりける人々申  出て吹上へおはしけり道より大雨風ふきてけうなくなりにけり  さりとてはとて吹上に行つきたりけれともみ所なきやう  ---- 上六十四  にて社にこしかきすへて思ふにもにさりけり能因かなはし  ろ水にせきくたせとよみていひつたへられたる物をとおもひて  社にかきつけゝる あまくたる名を吹上の神ならは雲晴のきて光あらはせ  0893:0764 苗代にせきくたされし天川とむるも神の心なるへし   かく書たりけれはやかて西の風吹かはりてたちまちに雲はれて   うら/\と日なりにけりすゑの代なれと心さしいたりぬることには   しるしあらたなることを人々申つゝしむおこして吹上若浦おもふ   やうにみてかえられにけり。  0894:0765  待賢門院の女房堀川の局のもとよりいひをくられける 此よにてかたらひをかむ郭公しての山ちのしるへともなれ  0895:0766  かへし 時鳥なく/\こそはかたらはめしての山路に君しかゝらは  0896:1065  深夜水声といふことを高野にて人々よみけるに まきれつる窓の嵐の声とめてふくるとつくる水の音哉  0897:1174  高野のをくの院の橋の上にて月あかゝりけれはもろともになかめ  あかしてその頃西住上人京へ出にけり其よの月忘かたくて又  をなし橋の月の頃西住上人のもとへいひつかはしける ことゝなく君こひ渡る橋の上にあらそふ物は月の影のみ  0898:1175  かへし                西住上人 思ひやる心はみえて橋のうへにあらそひけりな月の影のみ  0899:1215  入道寂然大原に住侍けるに高野よりつかはしける 山ふかみさこそあらめと聞えつゝ音哀なる谷川の水  ---- 上六十五  0900:1216 山ふかみまきのはわくる月かけははけしき物のすこき也けり  0901:1217 山ふかみ窓のつれ/\とふものは色つき初るはしの立えそ  0902:1218 山ふかみ苔の莚の上にゐてなに心なくなくましら哉  0903:1219 山ふかみ岩にしたゝる水とめむかつ/\をつるとちひろふ程  0904:1220 山ふかみけちかき鳥のをとはせて物恐しきふくろうの声  0905:1221 山ふかみこくらき嶺の梢よりもの/\しくも渡る嵐か  0906:1222 山ふかみほたきるなりと聞えつゝ所にきはふをのゝ音哉  0907:1223 山ふかみいりてみとみる物はみな哀催すけしきなる哉  0908:1224 山ふかみなるゝかせきのけちかきに世に遠さかる程そしらるゝ  0909:1225  かへし                  寂然 哀さはかうやと君も思ひしれ秋くれかたの大原のさと  0910:1226 ひとりすむおほろの清水友とては月をそすます大原の里  0911:1227 炭かまの棚引けふり一すちに心ほそきは大原の里  0912:1228 なにとなく露そこほるゝ秋の田のひた引ならす大原の里  0913:1229 水の音は枕に落る心ちしてねさめかちなる大原の里  0914:1230 あたにふく草の庵の哀より袖に露をく大原の里  0915:1231 山風にみねのさゝくりはら/\と庭に落しく大原の里  0916:1232 ますらおかつま木にあけひさしそへてくるれはかへる大原の里  0917:1233 葎はふ門は木葉に埋れてひともさしこぬ大原の里  0918:1234 諸共に秋も山ちも深けれはしかそかなしき大原の里  0919:0140  高野にこもりたりける頃草の庵に花の散つみけれは ちる花の庵の上をふくならは風いるましくめくりかこはむ  ---- 上六十六  0920:0927  高野より京なる人のもとへいひつかはしける 住ことは所からそといひなからたかのは物の哀なるへき  0921:1138  思はすなること思ひ立よしきこえける人のもとへ高野より云つかはしける しほりせて猶山ふかく分入むうきこと聞ぬ所有やと  0922:1166  高野にこもりたる人を京より何ことか又いつか出へきと申たる  よし聞てその人にかはりて 山水のいつ出へしと思はねは心細くて住としらすや  Subtitle  賀歌  0923:1200  むまこまうけて悦ける人のもとへいひつかはしける ちよふへき二葉の松の生さきをみる人いかにうれしかるらむ  0924:1187  祝 ひまもなくふりくる雨のあしよりも数かきりなき君かみよ哉  0925:1188 ちよふへき物をさなからあつむとも君か齡をしらむ物かは  0926:1189 苔うつむゆるかぬ岩の深きねは君か千年をかためたるへし  0927:1190 むれ立て雲井にたつの声す也君か千年や空にみゆらむ  0928:1191 沢へよりす立はしむる鶴のこは松の枝にやうつりそむらむ  0929:1192 大海のしほひて山になるまてに君はかはらぬ君にましませ  0930:1193 君か代のためしになにを思はましかはらぬ松の色なかりせは  0931:1194 君か代は天つ空なる星なれや数もしられぬ心ちのみして  ---- 上六十七  0932:1195 光さすみかさの山の朝日こそけに万代のためしなりけれ  0933:1196 万代のためしにひかむ亀山の裾のゝ原にしける小松を  0934:1197 かすかくる波にしつえの色染て神さひまさる住の江の松  0935:1198 若はさすひらのゝ松はさらにまた枝にやちよの数をそふらむ  0936:0199 竹の色も君か緑に染られて幾よともなく久しかるへし  山家集類題巻上終  ---- 上六十八  Section  山家集類題巻下  Subtitle  恋歌  0937:0592  名を聞て尋恋 あはさらむことをはしらすはゝきゝのふせやと聞て尋行哉  0938:0593  自門帰恋 たてそめて帰る心はにしき木のちつか待へき心ちこそすれ  0939:0594  涙顕恋 おほつかないかにも人のくれはとりあやむるまてにぬるゝ袖哉  0940:0595  夢会恋 中々に夢に嬉しきあふことはうつゝに物をおもふ也けり  0941:0596 あふことを夢也けりと思わく心のけさは恨めしきかな  0942:0597 あふとみることを限りの夢ちにてさむる別のなからましかは  0943:0598 夢とのみ思ひなさるゝうつゝこそあひみることのかひなかりけれ  0944:0599  後朝 今朝よりそ人の心はつらからて明はなれ行空を恨むる  0945:0600 あふことをしのはさりせは道芝の露よりさきにをきてこましや  0946:0601  後朝時鳥 さらぬたに帰やられぬしのゝめにそへてかたらふ時鳥かな  0947:0602  後朝花橘 かさねてはこからまほしきうつりかを花橘に今朝たくへつゝ  0948:0603  後朝霧 やすらはむ大かたのよはあけぬともやみとかこへる霧にこもりて  0949:0604  帰るあしたの時雨 ことつけて今朝の別はやすらはむ時雨をさへや袖にかくへき  0950:0605  逢てあはぬ恋 つらくともあはすは何のならひにか身の程しらす人をうらみむ  0951:0606 さらはたゝさらてそ人のやみなましさて後も又さもやあらしと  0952:0607  恨 もらさしと袖にあまるをつゝまゝしなさけをしのふ涙なりせは  0953:0608  ふたゝひ絶恋 から衣たちはなれにしまゝならは重て物はおもはさらまし  ---- 下一  0954:0625  商人にふみをつくるこひといふことを 思ひかね市の中には人多みゆかり尋てつくる玉章  0955:0626  海路恋 波のしくことをも何かわつらはむ君かあふへき道と思はゝ  0956:0627  九月ふたつありける年閏月をいむ恋といふことを人々よみけるに 長月のあまりにつらき心にていむとは人のいふにや有らむ  0957:0628  御あれの頃賀茂にまいりたりけるにさうしにはゝかる恋といふこと  を人々よみけるに ことつくるみあれのほとをすくしても猶や卯月の心なるへき  0958:0629  同社にて神に祈恋といふことを神主ともよみけるに 天くたる神のしるしのありなしをつれなき人の行ゑにてみむ  0959:0624  かものかたにさゝきと申さとに冬ふかく侍けるにひと/\まうてき  て山さとの恋といふことを かけひにも君かつらゝや結ふらむ心細くもたえぬなる哉  0960:0609  寄糸恋 賎のめかすゝくるいとにゆつりをきて思ふにたかふ恋もするかな  0961:0610  寄梅恋 おらはやと何思はまし梅の花めつらしからぬ匂ひなりせは  0962:0611 行すりに一枝折し梅かゝの深くも袖にしみにける哉  0963:0612  寄花恋 つれもなき人にみせはやさくら花風にしたかふ心よはさを  0964:0613 花をみる心はよそにへたゝりて身につきたるは君かおもかけ  0965:0614  寄残花恋 葉かくれに散とゝまれる花のみそ忍ひし人にあふこゝちする  0966:0615  寄帰雁恋 つれもなく絶にし人を雁金のかえる心とをもはましかは  0967:0616  寄草花恋 折てたゝしほれはよしや我袖も萩の下えの露によそへて  0968:0617  寄鹿恋 つま恋て人めつゝまぬ鹿のねをうらやむ袖の操なる哉  ---- 下二  0969:0618  寄苅萱恋 一方にみたるともなき我恋や風さたまらぬのへの苅萱  0970:0619  寄霧恋 夕きりの隔なくこそ思ひつれかくれて君かあはぬ也けり  0971:0620(0491)  寄紅葉恋 我涙しくれの雨にたくへはやもみちの色の袖にまかへる  0972:0621  寄落葉恋 朝ことに声ををさむる風の音はよをへてかるゝ人のこゝろか  0973:0622  寄氷恋 春を待すはの渡りもある物をいつをかきりにすへきつららそ  0974:0623  寄水鳥恋 我袖の涙かゝるとぬれてあれなうらやましきは池のをし鳥  0975:0630  月 月待といひなされつる宵のまの心のいろの袖にみえぬる  0976:0631 しらさりき雲井のよそにみし月の影を袂に宿すへしとは  0977:0632 あはれともみる人あらは思はなむ月のをもてにやとす心を  0978:0633 月みれはいてやとよのみをもほえてもたりにくゝもなる心哉  0979:0634 弓はりの月にはつれてみし影のやさしかりしはいつかわすれむ  0980:0635 面影のわすらるましき別哉名残を人の月にとゝめて  0981:0636 秋の夜の月や涙をかこつらむ雲なき影をもてやつすとて  0982:0637 天原さゆるみそらは晴なから涙そ月のくまに成らむ  0983:0638 物思ふ心のたけそしられぬるよな/\月をなかめあかして  0984:0639 月をみる心のふしをとかにしてたよりえかほにぬるゝ袖哉  0985:0640 おもひ出ることはいつもといひなから月にはたへぬ心なりけり  0986:0641 あしひきの山のあなたに君すまは入とも月ををしまさらまし  0987:0642 なけゝとて月やは物を思はするかこちかほなる我なみた哉  0988:0643 君にいかて月にあらそふ程はかりめくり逢つゝ影をならへむ  0989:0644 白妙の衣かさぬる月かけのさゆるま袖にかゝるしら露  0990:0645 忍ねのなみたたゝふる袖のうらになつます宿る秋のよの月  ---- 下三  0991:0646 物思ふ袖にも月は宿りけり濁らてすめる水ならね共  0992:0647 こひしさを催す月の影なれはこほれかゝりてかこつ涙か  0993:0648 よしさらは涙の池に身をなして心のまゝに月をやとさむ  0994:0649 うちたえてなけく涙に我袖の朽なはなとか月を宿さむ  0995:0650 よゝふとも忘れかたみの思ひてはたもとに月のやとるはかりそ  0996:0651 涙ゆへくまなき月そくもりぬるあまのはら/\ねのみなかれて  0997:0652 あやにくにしるくも月の宿る哉よにまきれてと思ふたもとに  0998:0653 をもかけに君か姿をみつるより俄に月のくもりぬるかな  0999:0654 よもすから月をみかほにもてなして心のやみにまよふ頃哉  1000:0655 秋の月物思ふ人のためとてや影に哀をそへて出らむ  1001:0656 隔たる人のこゝろのくまにより月をさやかにみぬかかなしさ  1002:0657 涙故つねはくもれる月なれはなかれぬ折そ晴ま也ける  1003:0658 くまもなき折しも人を思ひ出て心と月をやつしつる哉  1004:0659 物思ふ心のくまをのこひすてゝくもらぬ月をみるよしもかな  1005:0660 恋しさや思ひよはるとなかむれはいとゝ心をくたく月哉  1006:0661 ともすれは月すむ空にあくかるゝ心のはてを知るよしもかな  1007:0662 詠むるになくさむことはなけれとも月をともにてあかす頃哉  1008:0663 物思ひて詠る頃の月の色にいか斗なる哀そふらむ  1009:0664 天雲のわりなきひまをもる月の影斗たにあひみてし哉  1010:0665 秋の月しのたのもりのち枝よりもしけき歎や隈になるらむ  1011:0666 思ひしる人あり明のよなりせはつきせすみをは恨さらまし  1012:0667  恋 数ならぬ心のとかになしはてししらせて社は身をも恨みし  ---- 下四  1013:0668 打向ふそのあらましの面かけをまことになしてみるよしもかな  1014:0669 山かつの荒野をしめて住そむるかた便なる恋もする哉  1015:0670 ときは山しゐの下柴かり捨むかくれて思ふかひのなきかと  1016:0671 歎くともしらはや人のをのつから哀と思ふことも有へき  1017:0672 何となくさすかにをしき命哉ありへは人や思ひしるとて  1018:0673 何故かけふまて物を思はまし命にかへて逢せなりせは  1019:0674 あやめつゝ人しるとてもいかゝせむしのひはつへき袂ならねは  1020:0675 涙川ふかくなかるゝみをならはあさき人めにつゝまさらまし  1021:0676 しはしこそ人めつゝみにせかれけれはては涙やなる瀧の川  1022:0677 物思へは袖になかるゝ涙川いかなるみをに逢せ有なむ  1023:0678 うきたひになとなと人を思へとも叶はて年の積りぬる哉  1024:0679 中々になれぬ思ひのまゝならは恨はかりや身につもらまし  1025:0680 何せむにつれなかりしをうらみけむあはすはかゝる思ひせましや  1026:0681 むかはしは我かなけきのむくひにて誰故君か物ををもはむ  1027:0682 身のうさの思ひ知らるゝことはりにをさへられぬは涙也けり  1028:0683 日をふれは袂の雨のあしそひて晴へくもなき我こゝろ哉  1029:0684 かきくらす涙の雨のあししけみさかりに物のなけかしきかな  1030:0685 物思へとかゝらぬ人もあるものを哀也ける身のちきり哉  1031:0686 岩代の松風きけは物を思ふ人も心はむすほゝれけり  1032:0687 なほさりのなさけは人のある物をたゆるは常のならひなれとも  1033:0688 なにとこはかすまへられぬ身の程に人を恨るこゝろ有けむ  1034:0689 うきふしをまつ思ひしる涙かなさのみ社はと慰れとも  ---- 下五  1035:0690 さま/\に思ひみたるゝ心をは君かもとにそつかねあつむる  1036:0691 物思へはちゝに心そくたけぬるしのたのもりの枝ならねとも  1037:0692 かゝる身にをふしたてけむたらちねの親さへつらき恋もする哉  1038:0693 おほつかな何のむくひの帰きて心せたむるあたとなるらむ  1039:0694 かきみたる心やすめのことくさは哀々となけくはかりそ  1040:0695 身をしれは人のとかとは思はぬに恨かほにもぬるゝ袖哉  1041:0696 中々になるゝつらさにくらふれはうとき恨はみさほ也けり  1042:0697 人はうし歎は露もなくさますこはさはいかにすへき心そ  1043:0698 日にそへて恨はいとゝ大海のゆたか也ける我なみた哉  1044:0699 さることのある也けりと思出て忍ふ心を忍へとそ思ふ  1045:0700 今そしる思ひ出よと契りしは忘むとての情也けり  1046:0701 なにはかた波のみいとゝ数そひて恨のひまや袖のかはらむ  1047:0702 心さしのありてのみやは人をとふなさけはなとゝ思ふ斗そ  1048:0703 中々に思ひしるてふことのはゝとはぬに過てうらめしき哉  1049:0704 なとかわれことの外なる歎せてみさほなる身に生れさりけむ  1050:0705 汲てしる人も有けむおのつからほりかねの井の底のこゝろを  1051:0706 けふり立富士の思ひのあらそひてよたけき恋をするかへそ行  1052:0707 涙川さかまくみをの底ふかみみなきりあへぬ我こゝろかな  1053:0708 せと口に立るうしほの大淀みよとむとしひもなき涙かな  1054:0709 いそのまに波あらけなる折々は恨をかつくさとのあま人  1055:0710 東路やあひの中山ほとせはみ心のをくのみえは社あらめ  1056:0711 いつとなく思ひにもゆる我身哉あさまの煙しめるよもなく  ---- 下六  1057:0712 はりまちや心のすまに関すへていかに我身の恋をとゝめむ  1058:0713 哀てふなさけに恋のなくさまは問ことのはや嬉しからまし  1059:0714 物思ひはまた夕くれのまゝなるに明ぬとつくるしは鳥のこゑ  1060:0715 夢をなとよころたのまて過きけむさらて逢へき君ならなくに  1061:0716 さはといひて衣かへして打ふせとめのあはゝやは夢もみるへき  1062:0717 恋らるゝうき名を人に立しとて忍ふわりなき我袂かな  1063:0718 夏草のしけりのみ行思ひかなまたるゝ秋の哀しられて  1064:0719 紅の色に袂のしくれつゝ袖に秋ある心ちこそすれ  1065:0720 哀とてなととふ人のなかるらむ物思ふやとの荻の上風  1066:0721 わりなしやさこそ物思ふ袖ならめ秋にあひてもおける露哉  1067:0722 いかにせむこむよのあまと成程にみるめかたくて過る恨を  1068:0723 秋ふかきのへの草葉にくらへはや物思ふ頃の袖のしら露  1069:0724 物思ふ涙ややかてみつせ河人をしつむる渕と成らむ  1070:0725 哀々このよはよしやさもあらはあれこむよもかくやくるしかるへき  1071:0726 たのもしなよひ暁のかねのをとに物思ふつみはつきさらめやは  1072:1259  恋百十首 思ひあまりいひ出てこそ池水の深き心の程はしられめ  1073:1260 なき名こそしかまの市に立にけれまたあひ初ぬ恋する物を  1074:1261 つゝめとも涙の色にあらはれて忍ふ思ひは袖よりそちる  1075:1262 わりなしや我も人めをつゝむまにしゐてもいはぬ心つくしは  1076:1263 なか/\にしのふけしきやしるからむかゝる思ひに習なき身は  1077:1264 気色をはあやめて人のとかむとも打まかせてはいはしとそ思ふ  1078:1265 心にはしのふと思ふかひもなくしるきは恋の涙也けり  ---- 下七  1079:1266 色に出ていつより物は思ふそと問人あらはいかゝこたへむ  1080:1267 逢ことのなくてやみぬる物ならは今みよ世にもありやはつると  1081:1268 うき身とてしのはゝ恋のしのはれて人の名たてに成もこそすれ  1082:1269 みさほなる涙なりせはから衣かけても人にしられましやは  1083:1270 歎あまり筆のすさひにつくせとも思ふ斗はかゝれさりけり  1084:1271 我歎く心のうちのくるしきを何とたとへて君にしられむ  1085:1272 今はたゝ忍ふ心そつゝまれぬなけかは人やをもひしるとて  1086:1273 心にはふかくしめとも梅の花をらぬ匂ひはかひなかりけり  1087:1274 さりとよとほのかに人をみつれとも覚ぬは夢の心地こそすれ  1088:1275 消かへり暮待袖そしほれぬるをきつる人は露ならねとも  1089:1276 いかにせむその五月雨の名こりよりやかてをやまぬ袖の雫を  1090:1277 さるほとの契はなにゝありなからゆかぬ心のくるしきやなそ  1091:1278 今はさは覚ぬを夢になしはてゝ人に語らてやみねとそ思ふ  1092:1279 をる人の手にはたまらて梅の花誰うつりかにならむとすらむ  1093:1280 うたゝねの夢をいとひし床の上の今朝いかはかり起うかるらむ  1094:1281 ひきかへて嬉しかるらむ心にもうかりしことを忘れさらなむ  1095:1282 七夕は逢をうれしと思ふらむ我は別のうき今宵哉  1096:1283 をなしくは咲初めしよりしめをきて人にをられぬ花と思はむ  1097:1284 朝露にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな  1098:1285 待かねて夢にみゆやとまとろめはね覚すゝむる荻の上風  1099:1286 つゝめとも人しるこひや大井川いせきのひまをくゝる白波  1100:1287 あふまての命もかなと思ひしは悔しかりける我こゝろ哉  ---- 下八  1101:1288 今よりはあはて物をは思ふとも後うき人に身をはまかせし  1102:1289 いつかはとこたへむことのねたき哉思ひもしらす恨きかせよ  1103:1290 袖の上の人めしられし折まてはみさほなりける我なみた哉  1104:1291 あやにくに人めもしらぬ涙かな絶ぬ心にしのふかひなく  1105:1292 荻の音は物思ふ我になになれはこほるゝ露に袖のしほるゝ  1106:1293 草しけみ沢にぬはれてふす鴫のいかによそたつ人の心そ  1107:1294 哀とて人の心のなさけあれな数ならぬにはよらぬなさけを  1108:1295 いかにせむうき名をよゝにたて果て思ひもしらぬ人のこゝろを  1109:1296 忘られむことを重て思ひにきなとをとろかす涙なるらむ  1110:1197 とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬ心ちこそすれ  1111:1298 つらからむ人ゆへ身をは恨みしと思ひしかとも叶はさりけり  1112:1299 今更に何かは人もとかむへきはしめてぬるゝ袂ならねは  1113:1300 わりなしな袖に歎きのみつまゝに命をのみもいとふ心は  1114:1301 色深き涙の河の水上は人をわすれぬ心なりけり  1115:1302 待かねてひとりはふせと敷妙の枕ならふるあらましそする  1116:1303 とへかしななさけは人の身のためをうき物とても心やはある  1117:1304 ことのはの霜かれにしに思ひにき露のなさけもかゝらましかは  1118:1305 夜もすから恨を袖にたゝふれは枕に波の音そ聞ゆる  1119:1306 なからへて人のまことをみるへきに恋に命のたゝむ物かは  1120:1307 たのめをきし其いひことやあたになりし波こえぬへき末の松山  1121:1308 川のせによに消ぬへきうたかたの命をなそや君かたのむる  1122:1309 かり初にをく露とこそ思ひしか秋にあひぬる我たもと哉  ---- 下九  1123:1310 をのつからありへはと社思ひつれ頼なくなる我命かな  1124:1311 身をもいとひ人のつらさを歎れて思ひ数ある頃にも有哉  1125:1312 すかのねのなかく物をは思はしと手向し神に祈し物を  1126:1313 打とけてまとろまはやは唐衣よな/\かへすかひも有へき  1127:1314 我つらきことをやなさむをのつから人めを思ふ心ありやと  1128:1315 ことゝへはもてはなれたるけしき哉うららかなれや人の心の  1129:1316 物思ふ袖に歎のたけみえてしのふしらぬは涙成けり  1130:1317 草の葉にあらぬ袂に物思へは袖に露をく秋の夕くれ  1131:1318 逢ことのなき病にて恋しなはさすかに人や哀と思はむ  1132:1319 いかにそやいひやりたりし方もなく物を思ひて過るころ哉  1133:1320 我はかり物思ふ人や又もあるともろこしまても尋てし哉  1134:1321 君に我いかはかりなる契ありてまなくも物を思ひそめ剱  1135:1322 さらぬたにもとの思ひのたえぬまに歎を人のそふる也けり  1136:1323 我のみそ我心をはいとをしむ哀む人のなきに付ても  1137:1324 うらみしと思ふ我さへつらき哉とはて過ぬる心つよさを  1138:1325 いつとなき思ひはふしの烟にておきふす床やうき島か原  1139:1326 これもみな昔のことゝいひなからなと物思ふ契なりけむ  1140:1327 なとか我つらき人ゆへ物を思ふ契をしもは結ひ置けむ  1141:1328 紅にあらぬ袂のこき色はこかれてものを思ふ涙か  1142:1329 せきかねてさはとて流す瀧つせにわく白玉は涙也けり  1143:1330 なけかしとつゝみし頃は涙たに打まかせたる心ちやはせし  1144:1331 詠こそうき身のくせとなり果て夕暮ならぬ折も別ぬ  ---- 下十  1145:1332 今は我恋せむ人をとふらはむよにうきことゝ思ひしられぬ  1146:1333 思へともおもふかひこそなかりけれ思ひもしらぬ人を思へは  1147:1334 あやひねるさゝめのこ蓑きぬにきむ涙のあめを凌かてらに  1148:1335 なそもかくことあたらしく人のとふ我物思ひはふりにし物を  1149:1336 しなはやと何思ふらむ後のよも恋はよにうきこととこそきけ  1150:1337 わりなしやいつを思ひの果にして月日を送るわか身なるらむ  1151:1338 いとをしやさらは心のをさなひてたまきれらるゝ恋もする哉  1152:1339 君したふ心のうちはちこめきて涙もろにも成我身哉  1153:1340 なつかしき君か心の色をいかて露もちらさて袖につゝまむ  1154:1341 いくほともなからふましき世中に物を思はてふるよしもかな  1155:1342 いつか我ちりつむとこを払ひあけてこむとたのめむ人を待へき  1156:1343 よたけたつ袖にたくへて忍ふ哉袂の瀧におつるなみたを  1157:1344 うきによりついに朽ぬる我袖を心つくしに何忍ひけむ  1158:1345 心からこゝろに物ををもはせて身をくるしむる我身也けり  1159:1346 ひとりきて我身にまとふ唐衣しほ/\と社泣ぬらさるれ  1160:1347 いひ立て恨はいかにつらからむ思へはうしや人のこゝろは  1161:1348 なけかるゝ心のうちのくるしさを人のしらはや君にかたらむ  1162:1349 人しれぬ涙にむせふ夕くれは引かつきてそ打ふされける  1163:1350 思ひきやかゝるこひちに入初てよく方もなき歎せむとは  1164:1351 あやうさに人めそ常によかれける岩の角ふむほきのかけ道  1165:1352 しらさりき身にあまりたる歎して隙なく袖をしほるへしとは  1166:1353 吹風に露もたまらぬ葛のはのうらかへれとは君をこそ思へ  ---- 下十一  1167:1354 我からともにすむ虫の名にしおへは人をは更にうらみやはする  1168:1355 むなしくてやみぬへきかな空蝉の此身からにて思ふなけきは  1169:1356 つゝめとも袖より外にこほれ出てうしろめたきは涙也けり  1170:1357 我涙うたかはれぬる心かなゆへなく袖のしほるへきかは  1171:1358 さることのあるへきかはとしのはれて心いつまてみさほ成らむ  1172:1359 とりのくし思ひもかけぬ露はらひあなくしたかの我心哉  1173:1360 君にそむ心の色の深さには匂ひもさらにみえぬ也けり  1174:1361 さもこそは人め思はすなりはてめあなさまにくの袖のけしきや  1175:1362 かつすゝく沢のこせりのねを白み清けに物を思はする哉  1176:1363 いかさまに思ひつゝけて恨みまし偏につらき君ならなくに  1177:1364 恨みてもなくさめてまし中々につらくて人のあはぬと思へは  1178:1365 打たえて君にあふ人いかなれや我身も同し世に社はふれ  1179:1366 とにかくにいとはまほしき世なれとも君か住にもひかれぬる哉  1180:1367 何ことにつけてか世をはいとはましうかりし人そ今はうれしき  1181:1368 あふとみしそのよの夢のさめてあれな長き眠りはうかるへけれと   此歌題も又人にかはりたることとももありけれとかゝす此歌   ともやまさとなる人のかたるにしたかひてかきたるなりされは   ひかことともやむかしいまのこととりあつめたれはときをりふし   たかひたることゝもゝ    コノ注雑下恋百十首ト云ニ書ソへ夕リヨテソレニシ夕力ヒ    テコゝニイ夕ス愚考大本再出ニクハシク云へシ  1182:1179  陰陽頭に侍けるものにある所のはした物もの申けりいと思ふ  ---- 下十二  やうにもなかりけれは六月晦日に遣しけるにかはりて 我ためにつらき心をみな月のてつからやかてはらへすてなむ  1183:1511  百首歌の中恋十首 ふるきいもかそのにうへたるからなつな誰なつさへとおほし立らむ  1184:1512 紅のよそなる色はしられねはふてにこそまつ染初けれ  1185:1513 さま/\の歎を身にはつみ置ていつしめるへき思なるらむ  1186:1514 君をいかにこまかにゆへるしけめゆい立もはなれすならひつゝみむ  1187:1515 こひすともみさほに人にいはれはや身にしたかはぬ心やはある  1188:1516 思ひ出よみつの浜松よそたつるしかのうら波たゝむ袂を  1189:1517 うとくなる人は心のかはるとも我とは人に心おかれし  1190:1518 月をうしと詠なからも思ふかなその夜斗の影とやはみし  1191:1519 我はたゝかへさてをきむさよ衣きてねしことを思ひ出つゝ  1192:1520 かは風にちとり鳴らむ冬のよは我思にて有けるものを  Subtitle  雑歌  1193:0740  いにしへころ東山にあみた房と申ける上人の庵室にまか  りてみけるに哀とをほえてよみける 柴の庵ときくは賤き名なれともよにこのもしき住居也けり  1194:0741  世をのかれけるをりゆかりなりける人のもとへいひ送ける 世中をそむきはてぬと云をかむ思ひしるへき人はなくとも  1195:0975  題しらす つゝらはふは山は下もしけゝれは住人いかにこくらかるらむ  1196:0976 熊のすむ苔の岩山恐しみむへなりけりな人も通はす  1197:0991 ねわたしにしるしの竿や立つらむこひのまちつるこしの中山  1198:0992 雲鳥やしこき山路はさてをきてをくちるはらのさひしからぬか  1199:0987 まさきわるひたのたくみや出ぬらむむら雨過ぬかさとりの山  1200:0988 河合やまきのすそ山石たてる杣人いかに凉しかるらむ  1201:0989 杣くたすまくにかおくの河上にたつきうつへしこけさ浪よる  1202:0970 分いりて誰かは人の尋へき岩かけ草のしける山路を  1203:1067  山寺の夕暮といふことを人々よみ侍けるに 嶺をろす松のあらしの音に又ひゝきをそふる入相の鐘  1204:1068  夕暮山路 夕されやひはらの嶺を越行は凄くきこゆる山はとの声  1205:1012  題しらす ふる畑のそはたつ木にを居る鳩の友よふ声の凄き夕暮  1206:0994 をりかくる波のたつかとみゆる哉すさきにきゐる鷺の村鳥  1207:0972 つかはねとうつれる影を友として鴦住けりな山川の水  1208:1451 みなつるは沢の氷のかゝみにてちとせの影をもてやなすらむ  1209:0971 山さとは谷のかけひのたえ/\に水こひ鳥の声聞ゆなり  ---- 下十四  1210:1417  ことりとものうたよみける中に 声せすと色こくなると思はまし柳のめはむひはのむら鳥  1211:1418 もゝそのゝ花にまかへるてりうそのむれ立おりはちるこゝちする  1212:1419 ならひゐてともをはなれぬこからめのねくらにたのむしゐの下枝  1213:1182  屏風の絵を人々よみけるに海のきはにをさなきいやしきものゝ有所を 磯なつむあまのさをとめ心せよ沖ふく風に浪高くなる  1214:1183  をなしゑにとまのうちにねをとろきたる所 磯による浪に心のあらはれてね覚かちなるとまやかた哉  1215:1010  題しらす 山もなき海の面にたなひきて波の花にもまかふしら雲  1216:0993 ふもと行舟人いかに寒からむくま山たけををろすあらしに  1217:1013 浪につきていそはにいますあら神は塩ふむきねを待にや有らむ  1218:1014 塩風にいせの浜荻ふせは先ほすゑに波のあらたむる哉  1219:1015 あら磯の波にそなれてはふ松はみさこのゐるそ便なりける  1220:1016 浦ちかみかれたる松の梢には波の音をや風はかるらむ  1221:1017 あはち嶋せとのなころは高くとも此汐わたにさし渡らはや  1222:1018 汐ち行かこみのともろ心せよまたうつ早きせと渡る也  1223:1019 磯にをる波のけはしくみゆる哉沖になころや高く行らむ  1224:1041 とをくさすひたのをもてにひく汐はしつむ心そ悲しかりける  1225:1020 おほつかないふきおろしの風さきにあさつま舟はあひやしぬらむ  1226:1021 くれ舟よあさつま渡り今朝なせそいふきのたけに雪しまくなり  1227:1066  竹風驚夢 玉みかく露そ枕にちりかゝる夢をとろかす竹のあらしに  1228:1104  題しらす 身にもしみ物あらけなるけしきさへ哀をせむる風の音かな  ---- 下十五  1229:1105 いかてかは音に心のすまさらむ草木もなひく嵐なりける  1230:1106 松風はいつもときはに身にしめと分て淋しき夕くれのそら  1231:0949 凩に木葉のおつる山さとは涙さへこそもろく成けれ  1232:0950 嶺渡る嵐はけしき山さとにそへて聞ゆる瀧川の水  1233:0951 とふ人も思ひたえたる山里の淋しさなくは住うからまし  1234:0952 暁のあらしにたくふ鐘のねを心の底にこたえてそきく  1235:0953 またれつる入相のかねの音す也あすもやあらは聞むとすらむ  1236:0954 松風の音あはれなる山里に淋しさそふる日くらしの声  1237:0955 谷のまにひとりそ松はたてりけり我のみ友はなきと思へは  1238:0956 入日さす山のあなたはしらねとも心をそかねておくりをきつる  1239:0957 何となくくむたひにすむ心哉岩井の水に影うつしつゝ  1240:0958 水の音は淋しき庵の友なれや嶺の嵐の絶ま/\に  1241:1205  八条院の宮と申けるをり白川殿にてむしあはせられけるに  かはりて虫入てとり出しける物に水に月のうつりたるよしを  つくりて夫心をよみける 行末の名にや流む常よりも月すみ渡る白川の水  1242:1206  二条院  内に貝あはせせむとせさせ給けるに人にかはりて 風たちて波ををさむる浦々に小貝をむれてひろふ也けり  1243:1207 なにはかたしほひにむれて出たゝむしらすのさきの小貝ひろいに  1244:1208 風吹は花咲波のおるたひに桜貝よるみしまえのうら  1245:1209 波あらふ衣のうらの袖貝をみきはに風のたゝみをく哉  1246:1210 なみかくる吹上の浜の簾貝風もそをろす磯にひろはむ  ---- 下十六  1247:1211 しほそむるますをのこ貝ひろふとて色の浜とはいふにや有らむ  1248:1212 波よする竹の泊のすゝめ貝うれしきよにもあひにけるかな  1249:1213 なみよするしららの浜のからす貝ひろいやすくもおもほゆる哉  1250:1214 かひありな君か御袖にをほはれて心にあはぬことしなきよは  1251:1560  百首歌の中雑十首 沢の面にふせたるたつの一声にをとろかされてちとり鳴也  1252:1561 友になりて同し湊を出るふねの行方もしらす漕分ぬる  1253:1562 瀧をつるよしのゝをくのみやかはの昔をみけむ跡したはゝや  1254:1563 我そのゝ岡へに立るひとつ松をともとみつつも老にけるかな  1255:1564 さま/\の哀ありつる山さとを人につたへて秋の暮ける  1256:1565 山かつのすみぬとみゆるわたり哉冬にあせ行しつはらのさと  1257:1566 山さとの心の夢にまとひをれは吹しらまかす風の音かな  1258:1567 月をこそ詠は心うかれ出めやみなる空にたゝよふやなそ  1259:1568 波たかき芦やの沖をかへる舟のことなくてよを過むとそ思ふ  1260:1569 さゝかにの糸よをかくて過にける人のひとなる手にもかゝらて  1261:1184  庚申のよくしくはりて歌よみけるに古今後撰拾遺これを  梅さくら山吹によせたる題をとりてよみける  古今梅によす 紅の色こき梅を折人の袖にはふかき香やとまるらむ  1262:1185  後撰桜によす 春風のふきをこせむに桜花となりくるしくぬしや思はむ  1263:1186  拾遺山吹によす 山吹の花咲井手の里こそはやしうゐたりと思はさらなむ  1264:1171  月蝕を題にてうたよみけるに いむといひて影にあたらぬ今宵しもわれて月みる名や立ぬらむ  ---- 下十七  1265:1025  題しらす いたけもるあまみか時に成にけりゑそかち島を烟こめたり  1266:1026 ものゝふのならすすさひはおひたゝしあけとのしさりかもの入くひ  1267:1027 むつのくのをくゆかしくそ思ほゆるつほのいしふみそとの浜風  1268:1028 あさかへるかりゐうなこのむら鳥ははらのをかやに声やしぬらむ  1269:1030 もろ声にもりかきみかそ聞ゆなるいひ合てやつまをこふらむ  1270:1109  年頃きゝ渡りける人に初て対面申て帰る朝に わかるともなるゝ思ひをかさねまし過にしかたの今宵なりせは  1271:0868  同行に侍ける上人月の頃天王寺にこもりたりと聞ていひつかは  しける いとゝいかに西にかたふく月影を常よりもけに君したふらむ  1272:0869  堀河局仁和寺に住み侍けるにまいるへきよし申たりけれともまきる  ことありて程へにけり月の頃まへを過けるを聞ていひ送られける 西へ行しるへとたのむ月かけの空たのめこそかひなかりけれ  1273:0870  かへし さしいらて雲ちをよきし月影はまたぬ心や空にみえけむ  1274:0816  ゆかりなくなりてすみうかれにける古郷へ帰りゐける人のもとへ すみすてし夫ふるさとをあらためて昔にかへる心地もやする  1275:0769  ある人よをのかれて北山寺にこもりゐたりと聞て尋ねまかり  たりけるに月あかゝりけれは 世をすてゝ谷底に住人みよと嶺の木のまを出る月影  1276:0770  ある宮はらにつけつかへ侍りける女房世をそむきて都はな  れて遠くまからむと思ひ立てまいらせけるにかはりて 悔しくもよしなく君に馴そめていとふ都のしのはれぬへき  1277:0745  侍從大納言成道のもとへ後のよのことをとろかし申たりける返ことに  ---- 下十八 おとろかす君によりてそ長夜の久しき夢はさむへかりける  1278:0746  かへし おとろかぬ心なりせは世中を夢そとかたるかひなからまし  1279:0747  中院右大臣出家思立よしかたり給けるに月のいとあかくよもすから  哀にて明にけれは帰けりそのゝちそのよの名残をほかりし  よしいひ送給とて よもすから月を詠て契置し夫むつことに闇ははれにし  1280:0748  かへし すむとみし心の月しあらはれは此世も闇は晴さらめやは  1281:0749  爲なりときはに堂供養しけるによをのかれて山寺に住侍ける  したしき人々まうてきたりと聞ていひつかはしける いにしへにかはらぬ君か姿こそけふはときはの形見なるらめ  1282:0750  かへし 色かへて独りのこれるときは木はいつをまつとか人のみるらむ  1283:0751  ある人さまかへて仁和寺のをくなる所に住と聞てまかりて  尋けれはあからさまに京にと聞て帰にけりそのゝち  人つかはしてかくなむまいりたりしと申たる返ことに 立よりて柴の烟の哀さをいかゝ思ひし冬の山さと  1284:0752  かへし 山さとに心はふかく住なから柴の烟の立帰にし  1285:0753  此歌もそへられたりける をしからぬ身を捨やらてふる程に長き闇にや又迷なむ  1286:0754  かへし 世を捨ぬ心のうちに闇こめて迷はむことは君ひとりかは  1287:0755  したしき人々あまたありけれは同し心に誰も御らむせよとつか  はしたりける返ことに又 なへてみな晴せぬ闇の悲しさを君しるへせよ光みゆやと  ---- 下十九  1288:0756  又かへし 思ふともいかにしてかはしるへせむをしふる道にいらはこそあらめ  1289:0757  後の世のこと無下に思はすしもなしとみえける人のもとへいひつかはし  ける 世中に心あり明の人はみなかくて闇にはまよはぬものを  1290:0758  かへし よをそむく心斗は有明のつきせぬ闇は君にはる剱  1291:0759  ある所の女房世をのかれて西山に住と聞て尋けれは住あらし  たるさまして人の影もせさりけりあたりの人にかくと申をきたり  けるを聞ていひ送りける しほなれしとまやもあれてうき波に寄かたもなきあまとしらすや  1292:0760  かへし とまのやに波立よらぬけしきにてあまり住うき程はみえけり  1293:0933  阿闍梨兼堅よをのかれて高野にすみ侍りけりあからさまに  仁和寺に出てかへりもまいらぬことにて僧綱になりぬときゝ  ていひつかはしける けさの色やわか紫に染てける苔の袂を思ひかへして  1294:0943  新院歌あつめさせおはしますときゝてときはにためたゝか歌  の侍けるをかきあつめてまいらせける大原よりみせにつかは  すとて              寂超長門入道 木の本に散ことのはをかく程にやかても袖のそほちぬる哉  1295:0944  かへし 年ふれと朽ぬときはのことのはを嘸しのふらむ大原のさと  1296:0945  寂超ためたゝか歌に我うたかきくしまたをとうとの寂  然かうたなととりくして新院へまひらせけるを人とりつたへ  まいらせけると聞てあにゝ侍ける想空かもとより 家の風つたふ斗はなけれともなとかちらさぬなけのことのは  ---- 下二十  1297:0946  かへし 家の風むねと吹へきこの本は今ちりなむと思ふことのは  1298:0947  新院百首のうためしけるに奉るとて右大将きむよしのもと  よりみせにつかはしたりけるかへし申とて 家の風吹つたへけるかひありてちることのはのめつらしき哉  1299:0948  かへし 家の風吹つたふともわかの浦にかひあることのはにて社しれ  1300:1257  左京大夫俊成うたあつめらるゝと聞て歌つかはすとて 花ならぬことのはなれとをのつから色もやあると君拾はなむ  1301:1258  かへし                  俊成 世を捨て入にし道のことのはそ哀も深き色はみえける  1302:1369  此集をみて返しけるに       院少納言の局 まきことに玉の声せし玉章のたくひは又もありける物を  1303:1370  かへし よしさらは光なくとも玉と云て詞のちりは君みかゝなむ  1304:0784  范蠡かちやうなむの心を すてやらて命ををふる人はみなちゝのこかねをもてかへるなり  1305:0735  世につかうへかりける人のこもりゐたりけるもとへつかはしける 世中にすまぬもよしや秋の月濁れる水のたゝふ盛りに  1306:1178  人あまたしてひとりにかくしてあらぬさまにいひなしけることの侍  けるをきゝてよめる 一すちにいかて杣木のそろひけむいつよりつくる心たくみに  1307:1245  世中に大事いてきて新院あらぬさまにならせをはしまして  御くしをろして仁和寺の北院にをはしましけるにまいりて  けむけむあさりいてあひたり月あかくてよみける  ---- 下二十一 かゝるよに影もかはらすすむ月をみる我みさへ恨しき哉  1308:1248  さぬきにて御心ひきかへて後の世のこと御つとめひまなくせ  させおはしますと聞て女房のもとへ申ける此文をかきて  若人不嗔打以何修忍辱 世中をそむく便やなからましうき折ふしに君かあはすは  1309:1249  是もついてにくしてまいらせける あさましやいかなるゆへのむくひにてかゝることしも有よ成らむ  1310:1250 なからへてつゐに住へき都かは此よはよしやとてもかくても  1311:1251 幻の夢をうつゝにみる人はめもあはせてやよをあかすらむ  1312:1252  かくて後人のまいりけるに その日より落る涙をかたみにて思ひ忘るゝ時のまそなき  1313:1253  かへし                  女房 めのまへにかはりはてにし世のうきに涙を君もなかしける哉  1314:1254 松山の涙は海に深くなりて蓮の池にいれよとそ思ふ  1315:1255 波の立心の水をしつめつゝ咲む蓮をいまはまつかな  1316:1180  ゆかりありける人の新院のかむたうなりけるをゆるし給ふへき  よし申いれたりける御返事に もかみ川つなてひくともいな舟のしはしかほとはいかりをろさむ  1317:1181  御返ことたてまつりけり つよくひく綱てとみせよもかみ川そのいな舟のいかり納めて   かく申たりけれはゆるし給ひてけり  1318:1246  さぬきへをはしまして後うたといふことのよにいときこえさりけれは  ---- 下二十二  寂然かもとへいひつかはしける ことのはのなさけ絶にし折ふしに有あふみ社かなしかりけれ  1319:1247  かへし                  寂然 しきしまや絶ぬる道になく/\も君とのみこそあとを忍はめ  1320:1464  さぬきの位にをはしましけるをりみゆきのすゝのろうを  聞てよみける ふりにける君かみゆきのすゝのろうはいかなるよにもたえすきこえむ  1321:0744  述懐 何ことにとまる心の有けれは更にしも又よのいとはしき  1322:0917  心に思ひけることを 濁りたる心の水のすくなきに何かは月のかけやとるへき  1323:0918 いかて我清くくもらぬ身となりて心の月のかけをみかゝむ  1324:0919 のかれなくつゐに行へき道をさはしらてはいかゝすくへかりける  1325:0920 愚なる心にのみやまかすへきしとなることもあるなるものを  1326:0921 のにたてる枝なき木にもをとりけり後の世しらぬ人のこゝろは  1327:0922  五首述懐 みのうさを思ひしらてややみなましそむく習ひのなきよなりせは  1328:0923 いつくにかみをかくさまし厭てもうきよにふかき山なかりせは  1329:0924 みのうさの隱かにせむ山さとは心ありてそすむへかりける  1330:0925 哀しる涙の露そこほれける草の庵をむすふちきりは  1331:0926 うかれ出る心はみにも叶はねはいかなりとてもいかにかはせむ  1332:0884  寄藤花述懐 西を待心に藤をかけてこそそのむらさきの雲をおもはめ  1333:0737  花たちはなによせて思ひをのへけるに 世のうきを昔語りになしはてゝ花橘におもひ出はや  ---- 下二十三  1334:1055  題しらす 我なれや風を煩ふしの竹はをきふし物の心細くて  1335:1044 風吹はあたになり行はせをはのあれはとみをも頼むへきよか  1336:1039 みくまのゝ浜ゆふ生る浦さひて人なみ/\に年そかさなる  1337:1256  老人述懐といふことを人々よみけるに 山深み杖にすかりている人の心の底のはつかしきかな  1338:1047  題しらす 時雨かは山めくりする心かないつまてとのみ打しほれつゝ  1339:1048 はら/\と落る涙そ哀なるたまらす物のかなしかるへし  1340:1049 何となくせりと聞こそ哀なれつみけむ人の心しられて  1341:1050 山人よ吉野のをくにしるへせよ花も尋む又をもひあり  1342:1432 つゆもありかへす/\も思出てひとりそみつる朝かほの花  1343:1433 ひときれは都をすてゝ出れともめくりてはなをきそのかけ橋  1344:0811  故郷述懐といふことをときはの家にてためなりよみける  にまかりあひて しけきのをいく一むらに分なして更にむかしをしのひかへさむ  1345:1063  大原に良暹かすみける所に人々まかりて述懐のうたよ  みてつま戸にかきつけける 大原やまたすみかまもならはすといひけむ人をいまあらせはや  1346:0814  周防内侍我さへ軒のと書付ける古郷にて人々思ひをのへ  けるに いにしへはついゐし宿も有物を何をか忍ふしるしにはせむ  1347:1521  百首歌之中述懐十首 一首不足 いささらは盛り思も程もあらしはこやか嶺のはるにむつれて  1348:1522 山深く心はかねてをくりてき身こそうきみを出やらねとも  ---- 下二十四  1349:1523 月にいかて昔のことをかたらせて影にそひつゝ立もはなれむ  1350:1524 うき世とし思はても身の過にける月の影にもなつさはりつゝ  1351:1525 雲につきてうかれのみ行心をは山にかけてをとめむとそ思ふ  1352:1526 捨てのちはまきれしかたは覚ぬを心のみをはよにあらせける  1353:1527 ちりつかてゆかめる道をなをくなして行々人をよにつかむとや  1354:1528 はとしまむと思ひもみえぬよにしあれは末にさこそは大ぬさの空  1355:1529 ふりにける心こそ猶哀なれおよはぬ身にもよを思はする  1356:0789  七月十五日月あかゝりけるに舟岡と申所にて いかて我こよひの月を身にそへてしての山路の人をてららさむ  1357:0731  題しらす 我宿は山のあなたに有物を何とうきよをしらぬこゝろそ  1358:0732 くもりなきかゝみの上にゐるちりをめにたてゝみる世と思ははや  1359:0733 なからへむと思ふ心そ露もなきいとふにたにもたらぬうきみは  1360:0734 思ひ出る過にしかたをはつかしみあるに物うきこの世也けり  1361:1434 捨たれとかくれてすまぬ人になれは猶よに有に似たる也けり  1362:1435 世中を捨て捨えぬ心地して都はなれぬ我身なりけり  1363:1436 捨し折の心をさらにあらためてみるよの人にわかれ果なむ  1364:1437 思へ心人のあらはやよにもはちむさりとてやはといさむ斗そ  1365:1438 くれ竹のふししけからぬよなりせはこの君はとてさし出なまし  1366:1439 あしよしを思ひわくこそくるしけれたゝあらるれはあられけるみを  1367:1440 深くいるは月ゆへとしもなき物をうき世忍はむみよしのゝ山  1368:0771 さらぬたによのはかなきを思ふみにぬえ鳴渡る明ほのゝ空  1369:0772 鳥へのを心のうちに分行はいまきの露に袖そそほつる  ---- 下二十五  1370:0773 いつのよになかきねふりの夢覚てをとろくことのあらむとすらむ  1371:0774 世中を夢とみる/\はかなくも猶おとろかぬ我こゝろかな  1372:0775 なき人もあるを思ふに世中はねふりのうちの夢とこそしれ  1373:0776 きしかたのみしよの夢にかはらねは今もうつゝの心ちやはする  1374:0777 ことゝなくけふくれぬめりあすも又かはらすこそはひま過るかけ  1375:0778 こえぬれは又も此よに帰りこぬしての山こそ悲しかりけれ  1376:0779 はかなしやあたに命の露消てのへに我身の送をかれむ  1377:0780 露の玉きゆれは又もをくものをたのみもなきは我み也けり  1378:0781 あれはとてたのまれぬ哉あすは又きのふとけふはいはるへけれは  1379:0782 秋の色は枯野なからも有物をよのはかなさやあさちふの露  1380:0783 とし月をいかて我身に送りけむきのふの人もけふはなきよに  1381:1445 思ひ出て誰かはとめて分もこむいる山道の露の深さを  1382:1446 くれ竹の今いくよかはおきふして庵の窓をあけおろすへき  1383:1447 そのすちにいりなは心なにしかも人め思ひてよにつゝむらむ  1384:1059  泉のぬしかくれてあとつたへたる人のもとにまかりて泉に向て  ふかきを思ふといふことをひと/\よみけるに すむ人の心くまるゝいつみかな昔をいかに思ひいつらむ  1385:1060  友にあひてむかしをこふるといふことを 今よりは昔かたりは心せむあやしきまてに袖しほれけり  1386:0729  題しらす 軒ちかき花立花に袖しめて昔をしのふ涙つゝまむ  1387:0810  寄紅葉懐旧といふことを法金剛院にてよみけるに いにしへをこふる涙の色に似て袂にちるは紅葉也けり  ---- 下二十六  1388:0812  十月中の十日頃法金剛院の紅葉みけるに上西門院をはし  ますよし聞て待賢門院の御とき思出られて兵衛殿の局に  さしをかせける 紅葉みて君か袂やしくるらむむかしの秋の色をしたひて  1389:0813  返し 色深き梢をみてもしくれつゝふりにしことをかけぬ日そなき  1390:0727  題しらす つく/\と物を思ふに打そへて折哀なる鐘のをとかな  1391:0728 なさけありし昔のみ猶しのはれてなからへまうき世にも有哉  1392:1045 故郷の蓬は宿のなになれはあれ行庭に先しけるらむ  1393:1046 ふるさとはみし世にもなくあせにけりいつち昔の人行にけむ  1394:0730 何ことも昔をきけはなさけ有てゆへあるさまにしのはるゝ哉  1395:441  さかのゝみしよにもかはりてあらぬやうになりて人いなむとし  たりけるをみて 此里やさかのみかりの跡ならむ野山もはてはあせかはりけり  1396:1442  大覚寺の金岡かたてたる石をみて 庭の岩にめたつる人もなからましかとあるさまにたてしをかねは  1397:1443  瀧のわたりのこたちあらぬことになりて松はかりなみたちたり けるをみて なかれみし岸のこたちもあせはてゝ松のみこそはむかしなるらめ  1398:1064  大覚寺の瀧殿の石とも閑院にうつされて跡もなくなりたりと  きゝてみにまかりたりけるに赤染かいまにかゝりとよみけむ  折をもひ出られて哀とおもほえけれはよみける 今たにもかゝりといひし瀧つせの其折まては昔なりけり  Subtitle  哀傷歌  1399:1463  れいならぬ人の大事なりけるか四月になしの花の咲たり  けるをみてなしのほしきよしをねかひけるにもしやと人に  尋けれはかれたるかしはにつゝみたるなしをたゝひとつつか  はしてこれはかりなと申たる返ことに 花の折かしはにつゝむしなのなしはひとつなれともありのみとみゆ  1400:0934  あき頃風わつらひける人を訪たりける返ことに 消ぬへき露の命も君かとふことのはにこそをきゐられけれ  1401:0935  かへし 吹過る風しやみなはたのもしき秋の野もせのつゆの白玉  1402:0936  院の小侍従例ならぬこと大事にふし沈てとし月へにけりと  聞て訪にまかりたりけるにこのほとすこしよろしきよし申  て人にもきかせぬ和琴の手ひきならしけるを聞て ことのねに涙をそへてなかす哉絶なましかはと思ふ哀に  1403:0937  かへし 頼むへきこともなき身をけふ迄も何にかゝれる玉のをならむ  1404:0938  風わつらひて山寺へかえり入けるに人々訪てよろしくなりなは  又と申侍けるにをの/\心さしを思ひしりて 定なし風煩はぬ折たにも又こむことを頼へきよに  1405:0939 あたに散木葉につけて思ふ哉風さそふめる露の命を  1406:0940 我なくは此さと人や秋ふかき露を袂にかけてしのはむ  1407:0941 さま/\に哀をほかる別哉心を君かやとにとゝめて  1408:0942 帰れとも人のなさけにしたはれて心は身にもそはすなりぬる   かへしともありけるきゝをよはねはかゝす  ---- 下二十八  1409:0792  同行にて侍りける上人例ならぬこと大事に侍けるに月の  あかくて哀なるをみける もろともになかめな/\て秋の月ひとりにならむことそ悲しき  1410:0793  待賢門院かくれさせをはしましにける御跡に人々又のとしの  御はてまてさふらはれけるに南をもてのはなちりける頃堀河  の房のもとへ申送ける 尋ぬとも風のつてにもきかしかし花と散にし君か行方を  1411:0794  かへし 吹風の行方しらする物ならは花とちるにもをくれさらまし  1412:0795  近衛院の御墓に人にくして参たりけるに露のふかゝりけれは みかゝれし玉の栖を露ふかきのへにうつしてみるそかなしき  1413:0796  一院かくれさせをはしましてやかて御所へ渡しまいらせけるよる高  野より出合て参たりけるいとかなしかりけり此後をはし  ますへき所御らむしはしめけるそのかみの御ともに右大臣  さねよし大納言と申けるさふらはれけるしのはせをはします  ことにて又人さふらはさりけり其をりの御ともにさふら  ひけることの思ひ出られて折しもこよひに参あひたるむかし  今のこと思ひつゝけられてよみける 今宵こそ思ひしらるれ浅からぬ君に契のあるみ也けり  1414:0797  をさめまひらせける所へ渡しまいらせけるに 道かはるみゆきかなしき今宵哉限の旅とみるに付ても  1415:0798  納まいらせて後御ともにさふらはれ人々たとへむかたなく  かなしなから限あることなりけれは帰られにけりはしめたること  ---- 下二十九  ありて明日まてさふらひてよめる とはゝやと思ひよりてそ歎かまし昔なからの我身なりせは  1416:0799  右大将きむよし父のふくのうちに母なくなりぬと聞て高野  よりとふらひ申ける かさねきる藤の衣を便にて心の色を染よとそ思ふ  1417:0800  かへし 藤衣かさぬる色はふかけれとあさき心のしまぬ斗そ  1418:0801  同なけきし侍ける人のもとへ 君かため秋は世のうき折なれや去年も今年も物を思ひて  1419:0802  かへし 晴やらぬ去年のしくれのうへに又かきくらさるゝ山めくり哉  1420:0803  母なくなりて山寺にこもりゐたりける人をほとへて思ひいてゝ  人のとひたりけれはかはりて 思ひいつるなさけを人のおなしくは其折とへな嬉しからまし  1421:0804  ゆかりありける人はかなくなりにけるとかくのわさにとりへ山  へまかりて帰るに 限なく悲しかりけりとりへ山なきを送りて帰る心は  1422:0805  父のはかなくなりにけるそとはをみて帰りける人に なき跡をそとはかりみて帰るらむ人の心を思こそやれ  1423:0806  をやかくれたのみたりけるむこうせなとして歎しける人の又  ほとなく娘にさへをくれけりと聞てとふらひけるに 此たひはさき/\みけむ夢よりもさめすや物は悲しかるらむ  1424:0807  五十日の果つかたに二條院の御はかに御仏供養しける  人にくして参りたりけるに月あかくて哀なりけれは  ---- 下三十 今宵君しての山路の月をみて雲の上をや思ひいつらむ  1425:0808  御跡に三河内侍さふらひけるに九月十三夜人にかはりて かくれにし君かみかけの恋しさに月に向てねをや鳴らむ  1426:0809  かへし                  内侍 我君の光かくれし夕よりやみにそまよふ月はすめとも  1427:0817  をやにおくれてなけきける人を五十日過まてとはさりけれは  問へき人のとはぬことをあやしみて人に尋ぬと聞てかく思ひ  て今まて申さゝりつるよし申て遣しける人にかはりて なへてみな君かなさけをとふ数に思ひなされぬことのはもかな  1428:0818  ゆかりにつけて物を思ひける人のもとよりなとかとはさらむとうら  みつかはしたりける返ことに 哀とも心に思ふ程はかりいはれぬへくはとひもこそせめ  1429:0819  はかなくなりてとしへにける人のふみを物の中よりみ出てむすめに  侍ける人のもとへみせにつかはすとて 涙をやしのはむ人は流すへき哀にみゆる水くきの跡  1430:0820  同行に侍ける上人をはりよく思さまなりと聞て申送ける                       寂然 乱れすと終り聞こそ嬉しけれさても別はなくさまねとも  1431:0821  かへし 此世にて又あふましき悲しさにすゝめし人そ心みたれし  1432:0822  とかくのわさ果て跡のことゝもひろいて高野へ参りて帰り  たりけるに                寂然 いるさにはひろふかたみも残りけり帰る山ちの友は涙か  ---- 下三十一  1433:0823  返事 いかてとも思ひわかてそ過にける夢に山ちを行心ちして  1434:0824  侍従大納言入道はかなくなりてよひ暁につとめする僧を  の/\帰りける日申をくりける 行ちらむけふの別を思ふにもさらに歎はそふこゝちする  1435:0825  かへし 臥しつむ身には心のあらはこそ更に歎もそふ心ちせめ  1436:0826  此歌も返しの外にくせられたりける たくひなき昔の人のかたみには君をのみこそたのみましけれ  1437:0827  かへし いにしへのかたみになると聞からにいとゝ露けき墨染の袖  1438:0828  同日のりつなかもとへつかはしける なき跡もけふまては猶名残有を明日や別を添て忍む  1439:0829  かへし 思へたゝけふの別のかなしさに姿をかへてしのふ心を   やかてその日さまかへて後此返事かく申たりけりいと哀也  1440:0830  おなしさまに世をのかれて大原にすみ侍りけるいもうとのは  かなく成にける哀とふらひけるに いかはかり君思はまし道にいらてたのもしからぬ別なりせは  1441:0831  かへし たのもしき道にはいりて行しかと我身をつめはいかゝとそ思ふ  1442:0832  院の二位の局身まかりける跡にとをのうた人々読けるに 流ゆく水に玉なすうたかたの哀あたなる此世也けり  1443:0833 きえぬめるもとの雫を思ふにも誰かは末の露の身ならぬ  1444:0834 送をきて帰りし道の朝露を袖にうつすは涙也けり  1445:0835 船岡のすそのゝ塚の数そへて昔の人に君をなしつる  1446:0836 あらぬよの別はけにそうかりける浅ちか原をみるにつけても  ---- 下三十二  1447:0837 後のよをとへと契しことのはや忘らるましき形見成らむ  1448:0838 をくれゐて涙にしつむ古さとを玉のかけにも哀とやみる  1449:0839 あとをとふ道にや君は入ぬらむくるしきしての山へかゝらて  1450:0840 名残さへ程なく過はかなしきに七日の数を重すもかな  1451:0841 跡しのふ人にさへ又別るへき其日をかねて知る涙哉  1452:0842  跡のことゝも果てちり/\に成にけるにしけのりなかのりなと涙なかして  けふにさへ又と申ける程に南面の桜に鶯の鳴けるをきゝてよみける 桜花ちり/\になるこのもとに名残ををしむうくひすの声  1453:0843  かへし              少將なかのり 散花は又こむ春も咲ぬへし別はいつかめくりあふへき  1454:0844  同日くれけるまゝに雨のかきくらしふりけれは 哀しる空も心の有けれはなみたに雨をそふるなりけり  1455:0845  かへし               院少納言局 哀しる空にはあらし侘人の涙そけふは雨とふるらむ  1456:0846  行ちりて又の朝つかはしける けさはいかに思ひの色のまさるらむきのふにさへも又別つゝ  1457:0847  かへし              少將なかのり 君にさへ立別つつけふよりそなくさむかたはけになかりける  1458:0848  あにの入道想空はかなくなりけるをとはさりけれはいひつかはしける                       寂然 とへかしな別の袖に露しけき蓬かもとの心ほそさを  1459:0849 待わひぬをくれさきたつ哀をも君ならてさは誰かとふへき  ---- 下三十三  1460:0850 別にし人のふたゝひ跡をみは恨やせましとはぬ心を  1461:0851 いかゝせむ跡の哀はとはすとも別し人の行方たつねよ  1462:0852 中々にとはぬは深きかたもあらむ心浅くも恨つるかな  1463:0853  かへし 分いりて蓬か露をこほさしと思も人をとふにあらすや  1464:0854 よそに思ふ別ならねは誰をかは身より外にはとふへかりける  1465:0855 隔なき法の詞にたよりえて蓮の露に哀かくらむ  1466:0856 なき人をしのふ思ひのなくさまは跡をもちたひ問こそはせめ  1467:0857 御法をは詞なけれととくと聞は深き哀はいはてこそ思へ  1468:0858  是はくしてつかはしける 露深きのへに成行古郷は思ひやるにも袖しほれけり  1469:0896  はかなくなりける人の跡に五十日のうちに一品経供養しけるに化城喩品 やすむへき宿をは思へ中空の旅も何かはくるしかるへき  1470:0904  なき人の跡に一品経供養しけるに寿量品を人にかはりて 雲晴るわしの御山の月かけを心すみてや君なかむらむ  1471:0479  あき物へまかりける道にて 心なき身にも哀はしられけり鴫たつ沢の秋の夕くれ  1472:0791  鳥部山にてとかくのことしけるけふりのうちより分て出る月 【「鳥辺山わしの高嶺のすゑならむ煙を分けて出つる月かけ」欠損】  影諸行無常のこゝろを はかなくて行にし方を思ふにも今もさこそは朝かほの露  1473:0785  暁無常を つきはてしその入あひの程なさを此暁に思ひしりぬる  1474:0859  無常のうたあまたよみける中に いつくにかねふり/\てたふれふさむと思ふ悲しき道芝の露  ---- 下三十四  1475:0860 おとろかむと思ふ心のあらはやは長きねふりの夢も覚へく  1476:0861 風あらき磯にかゝれるあま人はつなかぬ舟の心ちこそすれ  1477:0862 大浪にひかれ出たる心ちしてたすけ船なき沖にゆらる  1478:0863 なき跡を誰としらねと鳥へ山おの/\すこき塚の夕くれ  1479:0864 波高きよをこき/\て人はみな舟岡山を泊にそする  1480:0865 しにてふさむ苔の莚を思ふよりかねてしらるゝ岩かけの露  1481:0866 露と消は蓮臺野にををくりをけ願ふ心を名にあらはさむ  1482:1530  百首歌の中に無常十首 はかなしなちとせ思ひし昔をも夢のうちにて過にけるには  1483:1531 さゝかにのいとにつらぬく露の玉をかけてかされる世にこそ有けれ  1484:1532 うつゝをも現とさらに思はねは夢をは夢と何かをもはむ  1485:1533 さらぬこともあとかたなきをわきてなと露をあたにも云も置剱  1486:1534 灯のかゝけちからもなくなりてとまる光を待我身かな  1487:1535 水ひたる池にうるほふしたゝりを命に頼むいろくつやたれ  1488:1536 みきは近く引よせらるゝ大網にいくせの物の命こもれり  1489:1537 うら/\としなむするなと思ひとけは心のやかてさそとこたふる  1490:1538 いひすてゝ後の行方を思ひはてはさてさはいかにうら嶋のはこ  1491:1539 世中になくなる人を聞たひに思ひはしるををろかなるみに  Subtitle  釈教歌  1492:0879  心さすことありて扇を仏にまいらせけるに新院より給けるに  女房承てつゝみ紙に書付られける 有かたき法にあふきの風ならは心の塵をはらふとそ思ふ  1493:0880  御返し承りける ちり斗うたかふ心なからなむ法をあふきて頼むとならは  1494:0928  仁和寺の宮にて道心逐年深と云ことをよませ給けるに 浅く出し心の水やたゝふらむすみ行まゝにふかくなるかな  1495:0929  閑中暁心といふことを同夜 あらしのみ時々窓にをとつれて明ぬる空の名残をそ思ふ  1496:0871  寂超入道談議すと聞てつかはしける ひろむらむ法にはあはぬ身なりとも名を聞数にいらさらめやは  1497:0872  かへし つたへきく流なりとも法の水汲人からやふかくなるらむ  1498:0873  さたのふ入道觀音寺に堂つくりに結縁すへきよし申つかはす  とて              觀音寺入道生光 寺つくる此我谷につちうめよ君はかりこそ山もくつさめ  1499:0874  かへし 山くつす其力ねはかたくとも心たくみを添こそはせめ  1500:0875  阿闍梨勝命千人あつめて法華経結縁せさせけるに参  りて又の日つかはしける つらなりし昔に露もかはらしと思ひしられし法の庭かな  1501:0876  人にかはりてこれもつかはしける いにしへにもれけむことのかなしさはきのふの庭に心ゆきにき  ---- 下三十六  1502:1203  世につかへぬへきやうなるゆかりあまたありける人のさもなかりける  ことを思ひて清水にとし越にこもりたりけるにつかはしける 此春はえた/\ことにさかゆへし枯たる木たに花は咲めり  1503:1204  是もくして あはれひの深きちかひにたのもしき清きなかれの底くまれつゝ  1504:0881  心性さたまらすといふことを題にて人々よみけるに 雲雀たつあら野にをふる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉  1505:0882  懴悔業障といふことを まとひつゝ過けるかたの悔しさになく/\身をそけふは恨むる  1506:0883  遇教待龍花といふことを 朝日まつほとはやみにてまよはまし有明の月の影なかりせは  1507:1465  日のいるつゝみのことし 波のうつ音をつゝみにまかふれは入日の影のうちてゆらる  1508:0885  見月思西といふことに 山のはにかくるゝ月を詠れは我も心の西にいる哉  1509:0886  暁念仏といふことを 夢さむるかねのひゝきに打添て十度の御名をとなへつる哉  1510:0887  易往無人の文を 西へ行月をやよそに思ふらむ心にいらぬ人のためには  1511:0888  人命不停速於山水の文のこゝろを 山川のみなきる水の音きけはせむる命そ思ひしらるゝ  1512:0889  菩提心論に至身命而不恍惜文を あたならぬやかてさとりに帰りけり人のためにもすつる命は  ---- 下三十七  1513:0890  疏文に心自悟心自証心 まとひきてさとりうへくもなかりつる心をしるは心なりけり  1514:0891  観心 やみ晴て心の空にすむ月は西の山へやちかくなるらむ  1515:0892  序品 散まかふ花のにほひをさきたてゝ光を法の莚にそしく  1516:0893 花のかをつらなる軒に吹しめてさとれと風のちらす也けり  1517:0894  方便品深著於五欲の文を こりもせす浮世の闇にまよふ哉身を思はぬは心也けり  1518:0895  譬喩品 法しらぬ人をそけにはうしとみる三の車にこゝろかけねは  1519:0897  五百弟子品 をのつから清き心にみかゝれて玉ときかくる法をしるかな  1520:0898  提婆品 これやさは年つもるまてこりつめし法にあふこの薪なるらむ  1521:0899 いかにして聞ことのかくやすからむあたに思ひてえつる法かは  1522:0900 いさきよき玉を心にみかき出ていはけなき身に悟をそえし  1523:0901  勧持品 天雲のはるゝみそらの月影に恨なくさむをは捨の山  1524:0902  寿量品 わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり  1525:0903 さとりえし心の月のあらはれてわしの高ねにすむにそ有ける  1526:0905  一心欲見仏の文を人々よみけるに わしの山誰かは月をみさるへき心にかゝる雲しなけれは  1527:0906  神力品於我滅度後の文を 行末のためにとゝめぬ法ならは何か我身にたのみあらまし  1528:0907  普賢品 散しきし花の匂ひの名残多みたゝまうかりし法の庭哉  1529:0908  心経 何ことも空しき法の心にて罪ある身とは露も思はす  1530:0909  無上菩提の心をよみける  ---- 下三十八 わしの山上くらからぬ嶺なれはあたりをはらふ有明の月  1531:0910  和光同塵は結縁のはしめといふことをよみけるに いかなれはちりにましりてます神につかふる人はきよまはるらむ  1532:0911  六道のうたよみけるに地獄 罪人のしめるよもなくもゆる火の薪とならむことそ悲しき  1533:0912  餓鬼 朝夕の子をやしなひにすときけはくにすくれても悲しかるらむ  1534:0913  畜生 かくら歌に草とりかふはいたけれと猶其駒になることはうし  1535:0914  修羅 よしなしなあらそふことをたてにしていかりをのみもむすふこゝろは  1536:0915  人 有かたき人に成けるかひありて悟りもとむる心あらなむ  1537:0916  天 雲の上のたのしみとてもかひそなき扨しもやかて住しはてねは  1537:1550  百首歌の中釈教十首  きりきわうの夢のうちに 三首 まとひてし心を誰も忘つゝひかへらるなることのうき哉  1539:1551 ひき/\にわかたてつると思ひける人の心やせはまくのきぬ  1540:1552 末のよの人の心をみかくへき玉をもちりにませてける哉  1541:1553  無量義経 三首 さとりひろき此法を先とき置て二つなしとは云きはめけり  1542:1554 山桜つほみはしむる花のえに春をはこめて霞なりけり  1543:1555 身につきてもゆる思ひの消ましや凉しき風のあふかさりせは  1544:1556  千手経 三首 花まてはみににさるへし朽果て枝もなき木のねをなからしそ  1545:1557 誓ありてねかはむ国へ行へくはにしのことはにふさねたるかな  ---- 下三十九  1546:1558 さま/\にたな心なる誓をはなものことはにふさねたる哉  1547:1559  又一首のこゝろを  やうはいのはるの匂ひはへむきちのくとくなりしらむのあきの  いろは普賢菩提のしむさうなり 野への色も春の匂ひもおしなへて心そめたる悟りにそなる  Subtitle  神祇歌  1548:1420  月のよかもにまいりてよみ侍ける 月のすむみをやかはらに霜さえて千鳥とをたつ声聞ゆ也  1549:1038  題しらす 思ことみあれのしめにひく鈴のかなはすはよしならしとそ思ふ  1550:1024 里人の大ぬさ小ぬさたてなめてむなかたむすふのへに也けり  1551:1070  俊惠天王寺にこもりてひと/\くして住よしにまいり歌よみ  けるにくして 住よしの松かねあらふ浪の音を梢にかくる沖津しら波  1552:1244  伊勢に斎王をはしまさてとしへにけり斎宮こたちはかりさ  かとみえてついかきもなきやうになりたりけるをみて いつか又いつきの宮のいつかれてしめのみうちに塵をはらはむ  ---- 下四十  1553:1242  斎院をりさせ給て本院のまへを過けるに人のうちへいりけれは  ゆかしうをほえてくしてみまはりけるにかくやありけむとあはれ  に覚てをりておはしますところへせむしの局のもとへ申つかはし  ける 君すまぬ御うちはあれてありす川いむ姿をもうつしつる哉  1554:1243  かへし 思ひきやいみこし人のつてにしてなれし御うちを聞む物とは  1555:1238  斎院おはしまさぬころにてまつりのかへさもなかりけれはむらさ  き野をとをるとて 紫の色なきころの野へなれやかたまほりにてかけぬあふひは  1556:1239  北まつりの頃賀茂にまいりたりけるに折うれしくてまたるゝ程  につかひまいりたりはし殿につきてへいふしおかまるゝまては  さることにて舞人のけしきふるまひみしよのことともおほ  えすあつまあそひにことうつへいしうもなかりけりさ  こそすゑのよならめ神いかにみ給らむと恥しき心ちして  よみ侍ける 神の代もかはりにけりとみゆる哉其ことわさのあらすなるにて  1557:1240  深行まゝにみたらしのをと神さひてきこえけれは みたらしの流はいつもかはらぬを末にしなれはあさましのよや  1558:1235  神楽に星を ふけて出るみ山もみねのあか星は月待えたる心ちこそすれ  1559:1540  百首歌の中神祇十首  神楽 二首 めつらしなあさくら山の雲ゐよりしたひ出たるあか星の影  1560:1541 名残いかにかへす/\もおしからむそのこまにたつ神楽とねりは  1561:1542  賀茂 二首 みたらしにわかれすゝきて宮人のまてにさゝけてみとひらく也  ---- 下四十一  1562:1543 なかつきのちからあはせにかちにけるわかかたをかをつよく頼て  1563:1544  男山 二首 けふのこまはみつのさうふををひてこそかたきををちにかけてとをらめ  1564:1545  放生会 みこしをさの声さき立てくたります音かしこまる神の宮人  1565:1546  熊野 二首 みくまのゝむなしきことはあらしかしむしたれいたのはこふあゆみは  1566:1547 あらたなるくまの詣のしるしをはこほりのこりにうへきなりけり  1567:1548  みもすそ 二首 初春をくまなくてらす影をみて月に先しるみもすそのきし  1568:1549 みもすその岸の岩ねによをこめてかため立たる宮はしら哉  山家集類題巻下 終  ---- 下四十二  文化十一年戌三月      印    皇都書肆     風月庄左衛門             吉田四郎右衛門                   花押  End:  底本::   著名:  山家集類題   編著者: 松本 柳斎   発行所: 皇都書肆   発行:  文化十一年戌三月  参照::   著名:  西行上人歌集山家集類題   編著者: 松本 柳斎   編著者: 生形 貴重・宇野 陽美   発行所: 有限会社 和泉書院   発行:  1990年04月10日 初版第1刷発行   国際標準図書番号: ISBN4-87088-417-8  参照::   著名:  新訂 山家集   校訂:  佐佐木 信綱   発行者: 大塚 信一   発行所: 株式会社 岩波書店   初版:  1928年10月05日 第 1刷発行   発行:  1998年07月24日 第61刷発行   国際標準図書番号: ISBN4-00-300231-8  翻刻::   翻刻者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: Fujitsu FMV DESK POWER   入力日: 2001年04月02日-2001年05月22日  校正1::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2004年06月24日   0637:0520:3「萩のはを」->「荻のはを」   0719:0998:2「萩の音には」->「荻の音 には」   1065:0720:5「萩の上風」->「荻の上風」   1098:1285:5「萩の上風」->「荻の上風」   1105:1292:1「萩の音は」->「荻の音は」  校正2::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2005年01月15日  【誤】   0803:1389   やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせをはしまし【以下略】  【正】   0803:1389   やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせさせをはしま し【以下略】  校正3::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2005年02月07日   1265:1025:4「ち」->「ち」  校正4::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2005年02月08日   【誤】   0805:1391   ひゝしふかはと申へまかりて・・・【以下略】   【正】   0805:1391   ひゝしふかはと申へまかりて・・・【以下略】  校正5::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2008年08月13日   1097:1284   【誤】   朝にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな   【正】   朝にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな  校正6::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2008年10月25日   0477:0393   【誤】    月前   月すむとうへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし   【正】    月前   月すむとうへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし   1504:0881    心性さたまらすといふことを題にて人々よみけるに   【誤】   雲雀たつあら野にをる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉   【正】   雲雀たつあら野にをる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉  校正7::   校正者: 阿部 和雄   校正日: 2009年02月10日   0360:0285  女郎花帯露といふことを   【誤】  花の枝に露のしら玉ぬきかけて袖ぬらすおみなへし哉   【正】  花の枝に露のしら玉ぬきかけて袖ぬらすおみなへし哉 $Id: sanka_ruidai.txt,v 1.59 2020/01/20 00:07:46 saigyo Exp $