Title  山家集  Boook  山家集上  Subtitle  春  0001  たつはるのあしたよみける としくれぬ春くべしとはおもひねにまさしく見えてかなふ初夢  0002 山のはのかすむけしきにしるきかなけさよりやさは春のあけぼの  0003 はるたつとおもひもあへぬあさいでにいつしかかすむおとは山かな  0004 たちかはる春をしれとも見せがほにとしをへだつる霞なりけり  0005  家々翫春と云ふ事 かどことにたつる小松にかざられてやどてふやどに春はきにけり  0006  元日子日にて侍りけるに ねのひしてたてたる松にうゑそへんちよかさぬべきとしのしるしに  0007  山ざとに春立つと云ふ事 山ざとはかすみわたれるけしきにて空にやはるの立つを知るらん  0008  なにはわたりに、としこしに侍りけるに、春立つこころをよみける いつしかとはるきにけりと津のくにの難波のうらを霞こめたり  0009  春になりけるかたたがへに、しがのさとへまかりける人にぐしてまかりけるに、あふさか山のかすみけるをみて わきてけふあふさか山のかすめるはたちおくれたる春やこゆらん  0010  だいしらず はるしれと谷のほそみづもりぞくるいはまの氷ひまたえにけり  0011 かすまずはなにをか春とおもはましまだゆききえぬみよしのの山  0012  海辺霞と云ふ事を もしほやくうらのあたりは立ちのかでけぶりたちそふはるがすみかな  0013  同じ心を伊勢にふたみと云ふ所にて 波こすとふたみのまつの見えつるはこずゑにかかる霞なりけり  0014  子日 はるごとにのべの小松をひく人はいくらの千よをふべきなるらん  0015 子日する人にかすみはさきだちてこまつがはらをたなびきてけり  0016 ねのびしにかすみたなびくのべに出でてはつ鶯のこゑをききつる  0017  わかなにはつねのあひたりければ、人のもとへ申しつかはしける わかなつむけふにはつねのあひぬればまつにや人のこころひくらん  0018  雪中若菜 けふはただおもひもよらでかへりなむゆきつむのべのわかななりけり  0019  わかな かすがのはとしのうちにはゆきつみてはるはわかなのおふるなりけり  0020  雨中若菜 春雨のふるののわかなおひぬらしぬれぬれつまんかたみたぬきれ  0021  わかなによせてふるきをおもふと云ふ事を わかなつむのべのかすみにあはれなるむかしをとほくへだつとおもへば  0022  老人のわかなと云ふ事を うづゑつきななくさにこそおいにけれとしをかさねてつめるわかなに  0023  寄若菜述懐と云ふ事を わかなおふるはるののもりに我なりてうき世を人につみしらせばや  0024  寄鶯述懐 うき身にてきくもをしきはうぐひすの霞にむせぶあけぼのの山  0025  閑中鶯 鶯のこゑぞかすみにもれてくる人めともしき春の山ざと  0026  雨中鶯 鶯のはるさめざめとなきゐたるたけのしづくやなみだなるらん  0027  すみけるたにに、うぐひすのこゑせずなりければ ふるすうとくたにの鶯なりはてば我やかはりてなかんとすらん  0028 鶯はたにのふるすを出でぬともわがゆくへをばわすれざらなん  0029 うぐひすはわれをすもりにたのみてやたにのをかへはいでてなくらむ  0030 はるのほどはわがすむいほのともに成りてふるすな出でそ谷の鶯  0031  きぎすを もえいづるわかなあさるときこゆなりきぎすなくのの春の明ぼの  0032 おひかはるはるのわかくさまちわびてはらのかれのにきぎすなくなり  0033 春の霞いへたちいでてゆきにけんきぎたつ野をやきてけるかな  0034 かた岡にしばうつりしてなくきぎすたつはおととてたからぬかは  0035  山家梅 かをとめん人にこそまて山ざとの垣ねの梅のちらぬかぎりは  0036 心せんしづがかきねの梅はあやなよしなくすぐる人とどめけり  0037 このはるはしづが垣ねにふればひてむめがかとめん人したしまん  0038  さがにすみけるに、みちをへだてて房の侍りけるより梅の風にちりけるを ぬしいかに風わたるとていとふらんよそにうれしき梅のにほひを  0039  いほりのまへなりける梅をみてよみける 梅が香をたにふところにふききためていりこん人にしめよ春風  0040  伊勢にもりやまと申す所に侍りけるに、いほりにむめのかうばしくにほひけるを しばのいほにとくとくむめのにほひきてやさしきかたもあるすみかかな  0041  梅に鶯なきけるを むめがかにたぐへてきけばうぐひすのこゑなつかしき春の山ざと  0042 つくりおきしこけのふすまに鶯は身にしむ梅のかやにほふらん  0043  たびのとまりのむめ ひとりぬるくさのまくらのうつりがは垣ねのむめのにほひなりけり  0044  古砌梅 なにとなくのきなつかしきむめゆゑにすみけん人の心をぞしる  0045  山家春雨と云ふ事を、大原にてよみけるに はるさめののきたれこむるつれづれにひとにしられぬひとのすみかか  0046  霞中帰雁 なにとなくおぼつかなきはあまのはらかすみにきえてかへるかりがね  0047 かりがねはかへるみちにやまよふらんこしのなかやま霞へだてて  0048  帰雁 たまづさのはしがきかとも見ゆるかなとびおくれつつかへるかりがね  0049  山家喚子鳥 山ざとへたれをまたこはよぶこどりひとりのみこそすまんとおもふに  0050  苗代 なはしろのみづをかすみはたなびきてうちひのうへにかくるなりけり  0051  かすみに月のくもれるをみて くもなくておぼろなりともみゆるかな霞かかれる春のよの月  0052  山家柳 山がつのかたをかかけてしむるいほのさかひにみゆるたまのをやなぎ  0053  雨中柳 なかなかに風のほすにぞみだれける雨にぬれたる青柳のいと  0054  柳乱風 見わたせばさほのかはらにくりかけてかぜによらるるなをやぎのいと  0055  水辺柳 みなそこにふかきみどりの色みえて風になみよるかはやなぎかな  0056  待花忘他 まつによりちらぬこゝろをやまざくらさきなば花のおもひしらなん  0057  独尋山花 たれかまた花をたづねてよしの山こけふみわくるいはつたふらん  0058  待花 いまさらに春をわするる花もあらじやすくまちつつけふもくらさん  0059 おぼつかないづれのやまのみねよりかまたるる花のさきはじむらん  0060 そらにいでていづくともなくたづぬればくもとははなの見ゆるなりけり  0061 ゆきとぢしたにのふるすを思ひいでてはなにむつるる鶯のこゑ  0062  花の歌あまたよみけるに よしの山くもをはかりにたづねいりてこころにかけし花をみるかな  0063 おもひやる心やはなにゆかざらんかすみこめたるみよしののやま  0064 おしなべてはなのさかりに成にけりやまのはごとにかかるしらくも  0065 まがふいろに花さきぬればよしの山はるははれせぬみねのしら雲  0066 よし野山こずゑの花を見し日より心は身にもそはず成にき  0067 あくがるるこころはさてもやまざくらちりなんのちやみにかへるべき  0068 花みればそのいはれとはなけれども心のうちぞくるしかりける  0069 しらかはのこずゑをみてぞなぐさむるよしのの山にかよふ心を  0070 しらかはの春のこずゑの鶯ははなのことばをきくここちする  0071 ひきかへてはなみる春はよるはなく月見るあきはひるなからなん  0072 花ちらで月はくもらぬよなりせば物をおもはぬわが身ならまし  0073 たぐひなきはなをしえだにさかすれば桜にならぶ木ぞなかりける  0074 身をわけて見ぬこずゑなくつくさばやよろづのやまの花のさかりを  0075 さくらさくよものやまべをかぬるまにのどかにはなを見ぬここちする  0076 はなにそむこころのいかでのこりけんすてはててきと思ふ我が身に  0077 ねがはくは花のしたにて春しなんそのきさらぎのもちづきのころ  0078 ほとけにはさくらの花をたてまつれわがのちのよを人とぶらはば  0079 なにとかやよにありがたき名をえたる花もさかりにまさりしもせじ  0080 山ざくらかすみのころもあつくきてこの春だにも風つつまなん  0081 おもひやるたかねのくものはなならばちらぬなぬかははれじとぞ思ふ  0082 長閑なれこころをさらにつくしつつはなゆゑにこそ春はまちしか  0083 かざこしのみねのつづきにさく花はいつさかりともなくやちりけん  0084 ならひありて風さそふとも山ざくらたづぬるわれをまちつけてちれ  0085 すそのやくけぶりぞ春はよしの山花をへだつる霞なりける  0086 いまよりは花みん人につたへおかんよをのがれつつやまにすまへと  0087  しづかならんと思ひけるころ、花見に人人まうできたりければ 花見にとむれつつ人のくるのみぞあたらさくらのとがには有りける  0088 花もちり人もこざらんをりはまたやまのかひにてのどかなるべし  0089  かきたえ、こととはずなりにける人の、花みに山ざとへまうできたり、とききてよみける 年をへておなじこずゑににほへども花こそ人にあかれざりけれ  0090  花のしたにて月をみてよみける くもにまがふ花のしたにてながむればおぼろに月は見ゆるなりける  0091  春のあけぼの花みけるに鶯のなきければ 花の色や声にそむらん鶯のなくねことなる春のあけぼの  0092  春は花をともと云ふ事をせか院の齋院にて人人よみけるに おのづから花なきとしの春もあらばなににつけてか日をくらすべき  0093  老見花と云ふ事を おもひいでになにをかせましこの春の花まちつけぬ我が身なりせば  0094  ふる木のさくらの、ところどころさきたるをみて わきてみんおい木は花もあはれなりいまいくたびか春にあふべき  0095  屏風の絵を人人よみけるに、春の宮人むれて花みける所に、よそなる人の見やりてたてりけるを このもとは見る人しげしさくらばなよそにながめてかをばをしまん  0096  山寺の花、さかりりなりけるに、昔を思ひ出でて よしの山ほきぢづたひにたづね入りて花見しはるはひとむかしかも  0097  修行し侍りけるに、花のおもしろかりける所にて ながむるにはなのなたての身ならずはこのさとにてや春をくらさん  0098  くまのへまゐりけるに、やがみの王子の花おもしろかりければ、社に書きつけける まちきつるやがみのさくらさきにけりあらくおろすなみすの山かぜ  0099  せか院の花、さかりなりけるころ、としたかのもとよりいひおくられける おのづからくる人あらばもろともにながめまほしき山ざくらかな  0100  返し ながむてふかずに入るべき身なりせばきみがやどにて春はへぬべし  0101  上西門院の女房、法勝寺の花見侍りけるに、雨のふりてくれにければかへられにけり、又の日、兵衛のつぼねのもとへ、花のみゆき思ひ出でさせ給ふらんとおぼえて、かくなん申さまほしかりしとてつかはしける 見るひとに花もむかしをおもひいでてこひしかるべしあめにしをるる  0102  返し いにしへをしのぶるあめとたれかみんはなもそのよのともしなければ  わかき人人ばかりなん、おいにける身は、かぜのわづらはしさにいとはるる事にてとありける、やさしくきこえけり  0103  雨のふりけるに、花のしたにて車たててながめける人に ぬるともとかげをたのみておもひけん人のあとふむけふにも有るかな  0104  世をのがれて東山に侍りけるころ、白川の花ざかりに人さそひければまかりて、かへりてむかし思ひ出でて ちるをみてかへるこころやさくらばなむかしにかはるしるしなるらん  0105  山路落花 ちりそむる花のはつゆきふりぬればふみわけまうきしがの山ごえ  0106  落花の歌あまたよみけるに ちよくとかやくだすみかどのいませかしさらばおそれてはなやちらぬと  0107 波もなく風ををさめし白川のきみのをりもや花はちりけん  0108 いかで我このよのほかのおもひでにかぜをいとはで花をながめん  0109 年をへてまつもをしむもやまざくら心を春はつくすなりけり  0110 よし野山たにへたなびくしらくもはみねのさくらのちるにやあるらん  0111 吉野山みねなる花はいづかたのたににかわきてちりつもるらん  0112 山おろしのこのもとうづむ春の雪はいはゐにうくもこほりとぞみる  0113 はる風の花のふぶきにうづまれてゆきもやられぬしがのやまみち  0114 立ちまがふみねの雲をばはらふとも花をちらさぬあらしなりせば  0115 よしの山花ふきぐしてみねこゆるあらしはくもとよそにみゆらん  0116 をしまれぬ身だにもよにはあるものをあなあやにくの花の心や  0117 うきよにはとどめおかじとはるかぜのちらすは花ををしむなりけり  0118 もろともにわれをもぐしてちりね花うきよをいとふ心ある身ぞ  0119 おもへただはなのちりなんこのもとになにをかげにて我が身すみなん  0120 ながむとてはなにもいたくなれぬればちるわかれこそかなしかりけれ  0121 をしめどもおもひげもなくあだにちるはなは心ぞかしこかりける  0122 こずゑふく風のこころはいかがせんしたがふはなのうらめしきかな  0123 いかでかはちらであれともおもふべきしばしとしたふなげきしれはな  0124 このもとの花にこよひはうづもれてあかぬこずゑをおもひあかさん  0125 このもとにたびねをすればよしの山はなのふすまをきするはるかぜ  0126 ゆきとみえて風にさくらのみだるればはなのかさきる春のよの月  0127 ちる花ををしむこころやとどまりてまたこんはるのたねになるべき  0128 はるふかみえだもゆるがでちる花は風のとがにはあらぬなるべし  0129 あながちに庭をさへはくあらしかなさこそ心にはなをまかせめ  0130 あだにちるさこそこずゑの花ならめすこしはのこせ春の山風  0131 こころえつただひとすぢに今よりは花ををしまで風をいとはん  0132 吉野山さくらにまがふしら雲のちりなんのちははれずもあらなん  0133 花とみばさすがなさけをかけましをくもとて風のはらふなるべし  0134 風さそふ花のゆくへはしらねどもをしむ心は身にとまりけり  0135 花ざかりこずゑをさそふ風なくてのどかにちらすはるにあはばや  0136  庭花似波と云ふ事を 風あらみこずゑのはなのながれきてにはになみたつしらかはのさと  0137  しらかはの花にはおもしろかりけるをみて あだにちるこずゑの花をながむれば庭にはきえぬゆきぞつもれる  0138  高野にこもりたりけるころ、草のいほりに花のちりつみければ ちる花のいほりのうへをふくならばかぜいるまじくめぐりかこはん  0139  夢中落花と云ふ事を、せか院の斎院にて人人よみけるに 春風のはなをちらすと見るゆめはさめてもむねのさわぐなりけり  0140  風前落花 山ざくらえだきる風のなごりなく花をさながらわがものにする  0141  雨中落花 こずゑうつあめにしをれてちる花のをしき心をなににたとへん  0142  遠山残花 よしの山ひとむら見ゆるしらくもはさきおくれたるさくらなるべし  0143  花歌十五首よみけるに よしの山人に心をつけがほにはなよりさきにかかるしら雲  0144 山さむみ花さくべくもなかりけりあまりかねてもたづねきにける  0145 かたばかりつぼむとはなをおもふよりそらまたこころものになるらん  0146 おぼつかなたにはさくらのいかならんみねにはいまだかけぬしら雲  0147 はなときくはたれもさこそはうれしけれおもひしづめぬ我がこころかな  0148 はつはなのひらけはじむるこずゑよりそばへてかぜのわたるなりけり  0149 おぼつかなはなは心の春にのみいづれのとしかうかれそめけん  0150 いざことしちれとさくらをかたらはんなかなかさらば風やおしむと  0151 風ふくとえだをはなれておつまじくはなとぢつけよあをやぎのいと  0152 ふく風のなめてこずゑにあたるかなかばかり人のをしむさくらに  0153 なにとかくあだなるはるのいろをしも心にふかくそめはじめけん  0154 おなじみのめづらしからずをしめばや花もかはらずさけばちるらん  0155 みねにちる花はたになる木にぞさくいたくいとはじ春の山風  0156 山おろしにみだれて花のちりけるをいははなれたるたきとみたれば  0157 花もちり人もみやこへかへりなばやまさびしくやならんとすらん  0158  ちりてのち花を思ふと云ふ事を 青葉さへ見ればこころのとまるかなちりにし花のなごりとおもへば  0159  すみれ あとたえてあさぢしげれる庭のおもに誰わけいりてすみれつみてん  0160 誰ならんあらたのくろにすみれつむ人は心のわりなかるべし  0161  さわらび なほざりにやきすてしののさわらびはをる人なくてほどろとやなる  0162  かきつばた ゐまみづにしげるまこものわかれぬをさきへだてたるかきつばたかな  0163  山路躑躅 にはつたひをらでつつじをてにぞとるさかしきやまのとりどころには  0164  つつじ山のひかりたり つつじさく山のいはかげゆふばえてをぐらはよそのなのみなりけり  0165  山ぶき きしちかみうゑけん人ぞうらめしきなみにをらるるやまぶきの花  0166 山ぶきのはなさくさとになりぬればここにもゐでとおもほゆるかな  0167  かはづ ますげおふるやまだにみづをまかすればうれしがほにもなくかはづかな  0168 みさびゐて月もやどらぬにごりえにわれすまんとてかはづなくなり  0169  春のうちに郭公をきくと云ふ事を うれしともおもひぞわかぬ郭公はるきくことのならひなければ  0170  伊せにまかりたりけるに、みつと申す所にて、海辺暮と云ふ事を神主どもよみけるに すぐるはるしほのみつよりふなでしてなみのはなをやさきにたつらん  0171  三月一日たらでくれにけるによみける 春ゆゑにせめてもものをおもへとやみそかにだにもたらでくれぬる  0172 けふのみとおもへばながき春の日もほどなくくるるここちこそすれ  0173 ゆく春をとどめかねぬるゆふぐれはあけぼのよりもあはれなりけり  Subtitle  夏  0174 かぎりあればころもばかりはぬぎかへてこころははるをしたふなりけり  0175  夏歌中に くさしげるみちかりあけてやまざとははな見し人の心をぞしる  0176  みつの上のうの花 たつた河きしのまがきを見わたせばゐせきの浪にまがふうの花  0177  よるのうの花 まがふべき月なきころのうのはなはよるさへさらすぬのかとぞ見る  0178  社頭卯花 神がきのあたりにさくもたよりあれやゆふかけたりとみゆるうの花  0179  無言なりけるころ、郭公のはつこゑをききて 郭公ひとにかたらぬをりにしもはつねきくこそかひなかりけれ  0180  たづねざるに郭公をきくと云ふ事を賀茂社にて人人よみける ほととぎすうづきのいみにいこもるをおもひしりてもきなくなるかな  0181  ゆふぐれの郭公 さとなるるたそがれどきのほととぎすきかずがほにてまたなのらせん  0182  郭公 我がやどにはなたちばなをうゑてこそ山ほととぎすまつべかりけれ  0183 たづぬればききがたきかとほととぎすこよひばかりはまちこころみん  0184 郭公まつこころのみつくさせてこゑをばをしむさ月なりけり  0185  人にかはりて まつ人の心をしらばほととぎすたのもしくてやよをあかさまし  0186  郭公をまちてむなしくあけぬと云ふ事を ほととぎすきかであけぬとつげがほにまたれぬとりのねぞきこゆなる  0187 郭公きかであけぬるなつのよのうらしまのこはまことなりけり  0188  郭公歌五首よみけるに ほととぎすきかぬものゆゑまよはまし春をたづねぬ山路なりせば  0189 まつことははつねまでかとおもひしにききふるされぬほととぎすかな  0190 ききおくるこころをぐしてほととぎたかまのやまのみねこえぬなり  0191 おほゐ川をぐらの山のほととぎすゐせきにこゑのとまらましかば  0192 ほととぎすそののちこえんやまぢにもかたらふこゑはかはらざらなん  0193  ほととぎすを 郭公おもひもわかぬひと声をききつといかが人にかたらん  0194 ほととぎすいかばかりなる契にてこころつくさで人のきくらん  0195 かたらひしそのよのこゑはほととぎすいかなるよにもわすれんものか  0196 ほととぎすはなたちばなはにほふとも身をうの花のかきねわすれな  0197  雨中待郭公と云ふ事を 郭公しのぶうづきもすぎにしを猶こゑをしむさみだれのそら  0198  雨中郭公 さみだれのはれまも見えぬ雲ぢより山ほととぎすなきてすぐなり  0199  山寺郭公人人よみける 郭公きくにとてしもこもらねどはつせのやまはたよりありけり  0200  五月つごもりに、山ざとにまかりて、たちかへりけるを、郭公もすげなくききすててかへりし事など、人の申しつかはしたりける返事に ほととぎすなごりあらせてかへりしがききすつるにもなりにけるかな  0201  題不知 空はれてぬまのみかさをおとさずはあやめもふかぬさ月なるべし  0202  高野の中院と申す所に、あやめふきたる房の侍りけるにさくらのちりけるがめづらしくおぼえて、よみける 桜ちるやどをかざれるあやめをばはなさうぶとやいふべかるらん  0203  坊なるちごこれをききて ちるけふをけふのあやめのねにかけてくすだまともやいふべかるらん  0204  さる事ありて、人のもの申しつかはしたりける返事に、五日 をりにあひて人にわが身やひかれましつくまのぬまのあやめなりせば  0205  五月五日、山寺へ人のけふいる物なればとて、しやうぶをつかはしたりける返事に にしにのみこころぞかかるあやめ草このよばかりのやどと思へば  0206 みな人の心のうきはあやめ草にしにおもひのひかぬなりけり  0207  さみだれ みづたたふいは間のまこもかりかねてむなでにすぐるさみだれのころ  0208 さみだれにみづまさるらしうち橋やくもでにかかるなみのしらいと  0209 五月雨はいはせくぬまのみづふかみわけしいしまのかよひどもなし  0210 こざさしくふるさとをののみちのあとをまたさはになすさみだれのころ  0211 つくづくと軒のしづくをながめつつ日をのみくらすさみだれの比  0212 あづまやのをがやがのきのいとみづにたまぬきかくるさみだれの比  0213 さみだれにをだのさなへやいかならんあぜのうきつちあらひこされて  0214 さみだれのころにしなればあらをだに人もまかせぬみづたたひけり  0215  あるところにさみだれの歌十五首よみ侍りしに、人にかはりて さみだれにほすひまなくてもしほ草けぶりもたてぬうらのあま人  0216 みなせ川をちのかよひぢみづみちてふなわたりするさみだれのころ  0217 ひろせがはわたりのおきのみをじるしみかさぞふかきさみだれの比  0218 はやせ川つなでのきしをおきにみてのぼりわづらふさみだれの比  0219 みづわくるなにはほりえのなかりせばいかにかせましさみだれのころ  0220 ふねすゑしみなとのあしまさをたてて心ゆくらんさみだれのころ  0221 みなそこにしかれにけりなさみだれてみつのまこもをかりにきたれば  0222 さみだれのをやむはれまのなからめやみづのかさほせまこもかるふね  0223 さみだれにさののふなはしうきぬればのりてぞ人はさしわたるらん  0224 五月雨のはれぬ日かずのふるままにぬまのまこもはみがくれにけり  0225 みづなしとききてふりにしかつまたのいけあらたむるさみだれの比  0226 さみだれはゆくべきみちのあてもなしをざさがはらもうきにながれて  0227 五月雨はやまだのあぜのたきまくらかずをかさねておつるなりけり  0228 かはばたのよどみにとまるながれぎのうきはしわたすさみだれの比  0229 おもはずにあなづりにくきこがはかなさつきの雨に水まさりつつ  0230  となりのいづみ 風をのみはななきやどはまちまちていづみのすゑをまたむすぶかな  0231  水辺納涼と云ふ事を、北白川にてよみける 水の音にあつさわするるまとゐかなこずゑのせみの声もまぎれて  0232  深山水鶏 杣人のくれにやどかるここちして庵をたたく水鶏なりけり  0233  題不知 夏山のゆふしたかぜのすずしさにならのこかげのたたまうきかな  0234  なでしこ かきわけてをればつゆこそこぼれけれあさぢにまじるなでしこの花  0235  雨中撫子 露おもみそののなでしこいかならんあらく見えつるゆふだちの空  0236  夏野草 みまぐさにはらのをすすきしがふとてふしどあせぬとしかおもふらん  0237  旅行草深と云ふ事を 旅人のわくるなつのの草しげみはずゑにすげのをがさはづれて  0238 ひばりあがるおほののちはらなつくればすずむこかげをたづねてぞ行く  0239  ともし ともしするほぐしのまつもかへなくにしかめあはせであかすなつのよ  0240  題不知 夏のよはしののこたけのふしちかみそよやほどなくあくるなりけり  0241 なつの夜の月みることやなかるらんかやりびたつるしづのふせやは  0242  海辺夏月 つゆのちるあしのわか葉に月さえてあきをあらそふなにはえのうら  0243  泉にむかひて月をみると云ふ事を むすびあぐるいづみにすめる月影はてにもとられぬかがみなりけり  0244 むすぶてにすずしきかげをしたふかなしみづにやどるなつのよの月  0245  夏月歌よみけるに 夏のよもをざさがはらにしもぞおく月のひかりのさえしわたれば  0246 山川のいはにせかれてちる浪をあられと見する夏の夜の月  0247  池上夏月 かげさえて月しもことにすみぬれば夏のいけにもつららゐにけり  0248  蓮満池と云ふ事を おのづから月やどるべきひまもなくいけにはちすの花さきにけり  0249  雨中夏月 ゆふだちのはるれば月ぞやどりけるたまゆりすうるはすのうきはに  0250  涼風如秋 まだきより身にしむ風のけしきかな秋さきだつるみやまべのさと  0251  松風如秋と云ふ事を北白川なる所にて人人よみて、又水声に有秋と云ふ事をかさねけるに 松風のおとのみならずいしばしる水にも秋はありけるものを  0252  山家待秋 山ざとはそとものまくずはをしげみうらふきかへす秋をまつかな  0253  みなづきばらへ みそぎしてぬさきりながす河のせにやがてあきめく風ぞすずしき  Subtitle  秋  0254  山家初秋 さまざまのあはれをこめてこずゑふく風に秋しるみやまべのさと  0255  山居初秋 秋たつと人はつげねどしられけりみ山のすその風のけしきに  0256  ときはのさとにて、初秋月と云ふ事を人人よみけるに 秋たつとおもふにそらもただならでわれてひかりをわけん三か月  0257  はじめの秋ごろ、なるをと申す所にて松風の音をききて つねよりも秋になるをの松風はわきて身にしむここちこそすれ  0258  七夕 いそぎおきてにはのこぐさのつゆふまんやさしきかずに人やおもふと  0259 くれぬめりけふまちつけてたなばたはうれしきにもやつゆこぼるらん  0260 あまの川けふのなぬかはながきよのためしにもひきいみもしつべし  0261 船よするあまの河辺のゆふ暮はすずしき風やふきわたるらん  0262 まちつけてうれしかるらんたなばたの心のうちぞ空にしらるる  0263  くものいかきけるをみて ささがにのくもでにかけてひくいとやけふたなばたにかささぎのはし  0264  草花みちをさいぎると云ふ事を ゆふ露をはらへばそでにたまきえてみちわけかぬるをののはぎはら  0265  野径 すゑ葉ふく風はのもせにわたるともあらくはわけじはぎのしたつゆ  0266  草花得時と云ふ事を いとすすきぬはれてしかのふすのべにほころびやすきふぢばかまかな  0267  行路草花 をらで行くそでにも露ぞこぼれけるはぎのはしげきのべのほそみち  0268  霧中草花 ほにいづるみやまがすそのむらすすきまがきにこめてかこふ秋ぎり  0269  終日見野花 みだれさくのべのはぎはらわけくれて露にも袖をそめてけるかな  0270  萩満野 さきそはん所の野べにあらばやは萩よりほかのはなも見るべき  0271  萩満野亭 わけているにはしもやがてのべなれば萩のさかりをわがものにみる  0272  野萩似錦 けふぞしるそのえにあらふからにしきはぎさくのべに有りけるものを  0273  草花を しげりゆきしはらのした草をばないでてまねくはたれをしたふなるらん  0274  薄当道繁 はなすすきこころあてにぞわけてゆくほのみしみちのあとしなければ  0275  古籬苅萱 まがきあれてすすきならねどかるかやもしげきのべとも成にけるものを  0276  女郎花 をみなへしわけつるのべとおもはばやおなじつゆにしぬるとみてそは  0277 をみなへしいろめくのべにふればはんたもとにつゆやこぼれかかると  0278  草花露重 けさみればつゆのすがるにをれふしておきもあがらぬをみなへしかな  0279 おほかたの野べの露にはしをるれどわがなみだなきをみなへしかな  0280  女郎花帯露 はながえに露のしらたまぬきかけてをる袖ぬらすをみなへしかな  0281 をらぬよりそでぞぬれぬる女郎花露むすぼれてたてるけしきに  0282  水辺女郎花 いけのおもにかげをさやかにうつしてもみづかがみ見るをみなへしかな  0283 たぐひなきはなのすがたを女郎花いけのかがみにうつしてぞみる  0284  女郎花水近 女郎花いけのさなみにえだひぢてものおもふそでのぬるるがほなる  0285  荻 おもふにもすぎてあはれにきこゆるは荻のはみだるあきのゆふ風  0286 おしなべて木草のすゑのはらまでになびきて秋のあはれ見えけり  0287  荻風払露 をしかふすはぎさくのべの夕露をしばしもためぬをぎのうはかぜ  0288  隣夕荻風 あたりまであはれしれともいひがほにをぎのおとこすあきの夕風  0289  秋歌中に ふきわたす風にあはれをひとしめていづくもすごき秋の夕ぐれ  0290 おぼつかな秋はいかなるゆゑのあればすずろにもののかなしかるらん  0291 なにごとをいかにおもふとなけれどもたもとかわかぬ秋のゆふぐれ  0292 なにとなくものがなしくぞ見えわたるとばたのおもの秋の夕ぐれ  0293  野亭秋夜 ねざめつつながきよかなといはれのにいくあきさてもわが身へぬらん  0294  露を おほかたの露にはなにのなるならんたもとにおくはなみだなりけり  0295  やまざとに人人まかりてあきの歌よみけるに 山ざとのそとものをかのたかき木にそぞろがましきあきぜみのこゑ  0296  人人秋歌十首よみけるに たまにぬく露はこぼれてむさしののくさのはむすぶ秋のはつかぜ  0297 ほにいでてしののをすすきまねくのにたはれてたてるをみなへしかな  0298 はなをこそのべのものとは見にきつれくるればむしのねをもききけり  0299 をぎのはをふきずぎてゆく風の音に心みだるる秋のゆふぐれ  0300 はれやらぬみやまのきりのたえだえにほのかにしかのこゑきこゆなり  0301 かねてよりこずえのいろをおもふかなしぐれはじむるみやまべのさと  0302 しかのねをかきねにこめてきくのみかつきもすみけりあきの山ざと  0303 いほにもる月の影こそさびしけれやまだはひたのおとばかりして  0304 わづかなるにはのこ草のしら露をもとめてやどる秋のよの月  0305 なにとかくこころをさへはつくすらんわがなげきにてくるるあきかは  0306  月 秋のよの空にいづてふなのみしてかげほのかなるゆふづくよかな  0307 あまのはらつきたけのぼるくもぢをばわきても風のふきはらはなん  0308 うれしとやまつ人ごとにおもふらん山のはいづる秋のよの月  0309 なかなかに心つくすもくるしきにくもらばいりね秋の夜の月  0310 いかばかりうれしからまし秋のよの月すむ空にくもなかりせば  0311 はりまがたなだのみおきにこぎいでてあたりおもはぬ月をながめん  0312 いざよはでいづるは月のうれしくているやまのははつらきなりけり  0313 水のおもにやどる月さへいりぬるはいけのそこにもやまやあるらん  0314 したはるるこころやゆくとやまのはにしばしないりそ秋のよの月  0315 あくるまでよひよりそらにくもなくてまたこそかかる月みざりつれ  0316 あさぢはら葉ずゑの露のたまごとにひかりつらぬく秋のよの月  0317 秋のよの月をゆきかとまがふれば露もあられのここちこそすれ  0318  閑待月 月ならでさしいるかげのなきままにくるるうれしき秋の山ざと  0319  海辺月 きよみがた月すむ空のうきくもは富士のたかねのけぶりなりけり  0320  池上月 みさびゐぬいけのおもてのきよければやどれる月もめやすかりけり  0321  同じ心を、遍照寺にて人人よみけるに やどしもつ月のひかりのををしさはいかにいへどもひろさはのいけ  0322 いけにすむ月にかかれるうきくもははらひのこせるみさびなりけり  0323  月似池 水なくてこほりぞしたるかつまたの池あらたむる秋のよの月  0324  名所月 きよみがたおきのいはこすしら波にひかりをかはす秋のよの月  0325 なべてなほ所のなをやをしむらんあかしはわきて月のさやけき  0326  海辺明月 なにはがた月のひかりにうらさえてなみのおもてにこほりをぞしく  0327  月前遠望 くまもなき月のひかりにさそはれていくくもゐまでゆく心ぞも  0328  終夜見月 たれきなん月のひかりにさそはれてとおもふによはのあけぬなるかな  0329  八月十五夜 山のはをいづるよひよりしるきかなこよひしらする秋のよの月  0330 かぞへねどこよひの月のけしきにて秋のなかばを空にしるかな  0331 あまのがはなにながれたるかひありてこよひの月はことにすみけり  0332 さやかなるかげにてしるし秋の月とよにあまれるいつかなりけり  0333 うちつけにまたこん秋のこよひまで月ゆゑをしくなるいのちかな  0334 秋はただこよひひとよのななりけりおなじくもゐに月はすめども  0335 おいもせぬ十五のとしもあるものをこよひの月のかからましかば  0336  くもれる十五夜を 月見ればかげなくくもにつつまれてこよひならずばやみに見えまし  0337  月歌あまたよみけるに いりぬとやあづまに人はをしむらんみやこにいづる山のはの月  0338 まちいでてくまなきよひの月みれば雲ぞ心にまづかかりける  0339 秋風やあまつ雲井をはらふらんふけゆくままに月のさやけき  0340 いづくとてあはれならずはなけれどもあれたるやどぞ月はさびしき  0341 よもぎわけてあれたる庭の月みればむかしすみけん人ぞ恋しき  0342 身にしみてあはれしらする風よりも月にぞ秋のいろはありける  0343 むしのねにかれゆく野べの草むらにあはれをそへてすめる月かげ  0344 ひとも見ぬよしなき山のすゑまでにすむらん月のかげをこそおもへ  0345 このまもる有明の月をながむればさびしさそふるみねのまつ風  0346 いかにせんかげをばそでにやどせども心のすめば月のくもるを  0347 くやしくもしづのふせやとおとしめて月のもるをもしらですぎける  0348 あばれたる草の庵にもる月を袖にうつしてながめつるかな  0349 月をみて心うかれしいにしへのあきにもさらにめぐりあひぬる  0350 なにごともかはりのみゆく世の中におなじかげにてすめる月かな  0351 夜もすがら月こそ袖にやどりけれむかしの秋をおもひいづれば  0352 ながむればほかのかげこそゆかしけれかはらじものをあきのよの月  0353 ゆくへなく月に心のすみすみてはてはいかにかならんとすらん  0354 月影のかたぶく山をながめつつをしむしるしや有明の空  0355 ながむるもまことしからぬ心ちしてよにあまりたる月の影かな  0356 ゆくすゑの月をばしらずすぎきつるあきまたかかるかげはなかりき  0357 まことともたれかおもはんひとり見てのちにこよひの月をかたらば  0358 月のためひるとおもふがかひなきにしばしくもりてよるをしらせよ  0359 あまのはらあさひやまよりいづればや月のひかりのひるにまがへる  0360 有明の月のころにしなりぬればあきはよるなき心ちこそすれ  0361 なかなかにときどきくものかかるこそ月をもてなすかざりなりけれ  0362 雲はるるあらしのおとは松にあれや月もみどりの色にはえつつ  0363 さだめなく鳥やなくらんあきのよの月のひかりをおもひまがへて  0364 誰もみなことわりとこそさだむらめひるをあらそふ秋のよの月  0365 かげさえてまことに月のあかきよは心も空にうかれてぞすむ  0366 くまもなき月のおもてにとぶ雁のかげをくもかとまがへつるかな  0367 ながむればいなや心のくるしきにいたくなすみそ秋のよの月  0368 雲も見ゆ風もふくればあらくなるのどかなりつる月のひかりを  0369 もろともにかげをならぶるひともあれや月のもりくるささのいほりに  0370 なかなかにくもると見えてはるるよの月はひかりのそふここちする  0371 うき雲の月のおもてにかかれどもはやくすぐるはうれしかりけり  0372 すぎやらで月ちかくゆくうき雲のただよふみるはわびしかりけり  0373 いとへどもさすがにくものうちちりて月のあたりをはなれざりけり  0374 雲はらふあらしに月のみがかれてひかりえてすむあきの空かな  0375 くまもなき月のひかりをながむればまづをばすてのやまぞこひしき  0376 月さゆるあかしのせとに風ふけばこほりのうへにたたむしらなみ  0377 あまのはらおなじいはとをいづれどもひかりことなる秋のよの月  0378 かぎりなくなごりをしきは秋のよの月にともなふあけぼのの空  0379  九月十三夜 こよひはと心えがほにすむ月のひかりもてなすきくのしらつゆ  0380 雲きえし秋のなかばの空よりも月はこよひぞなにおへりける  0381  後九月、月をもてあそぶと云ふ事を 月みればあきくははれるとしはまたあかぬ心も空にぞありける  0382  月照滝 雲きゆるなちのたかねに月たけてひかりをぬけるたきのしらいと  0383  久待月 いでながらくもにかくるる月かげをかさねてまつやふたむらの山  0384  雲間待月 秋のよのいざよふ山のはのみかは雲のたえまもまたれやはせぬ  0385  月前薄 をしむよの月にならひて有明のいらぬをまねくはなすすきかな  0386 はなすすき月のひかりにまがはましふかきますほのいろにそめずば  0387  月前荻 月すむとをぎうゑざらんやどならばあはれすくなき秋にやあらまし  0388  月照野花 月なくはく【る】れはやどへやかへらましのべには花のさかりなりとも      (脱カ)  0389  月前野花 はなのころをかげにうつせば秋のよの月も野もりのかがみなりけり  0390  月前草花 月の色をはなにかさねてをみなへしうはものしたにつゆをかけたる  0391 よひのまの露にしをれて女郎花ありあけの月のかげにたはるる  0392  月前女郎花 庭さゆる月なりけりなをみなへししもにあひぬるはなとみたれば  0393  月前虫 月のすむあさぢにすだくきりぎりす露のおくにや秋をしるらん  0394 露ながらこぼさでをらん月かげにこはぎがえだのまつむしのこゑ  0395  深夜聞蛬 わがよとやふけゆく空をおもふらんこゑもやすまぬきりぎりすかな  0396  田家月 夕露のたましくをだのいなむしろかぶすほずゑに月ぞすみける  0397  月前鹿 たぐひなき心ちこそすれ秋のよの月すむみねのさをしかの声  0398  月前紅葉 このまもる有あけの月のさやけきに紅葉をそへてながめつるかな  0399  霧隔月 たつた山月すむみねのかひぞなきふもとにきりのはれぬかぎりは  0400  月前懐旧 いにしへをなににつけてかおもひいでん月さへくもるよならましかば  0401  寄月述懐 世の中のうきをもしらですむ月のかげはわが身のここちこそすれ  0402 よの中はくもりはてぬる月なれやさりともとみしかげもまたれず  0403 いとふよも月すむ秋になりぬればながらへずばとおもふなるかな  0404 さらぬだにうかれてものをおもふ身の心をさそふあきのよの月  0405 すてていにしうきよに月のすまであれなさらば心のとまらざらまし  0406 あながちに山にのみすむこころかなたれかは月のいるををしまぬ  0407  春日にまゐりたりけるに、つねよりも月あかくてあはれなりければ ふりさけし人の心ぞしられぬるこよひみかさの月をながめて  0408  月明寺辺 ひるとみゆる月にあくるをしらましやときつくかねのおとせざりせば  0409  人人すみよしにまゐりて、月をもてあそびけるに かたそぎのゆきあはぬまよりもる月やさえてみそでの霜におくらん  0410 浪にやどる月をみぎはにゆりよせてかがみにかくるすみよしのきし  0411  たびまかりけるとまりにて あかずのみみやこにてみしかげよりも旅こそ月はあはれなりけれ  0412 見しままにすがたもかげもかはらねば月ぞみやこのかたみなりける  0413  旅宿思月 月はなほよなよなごとにやどるべしわがむすびおくくさのいほりに  0414  心ざすことありてあきの一宮へまゐりけるに、たかとみのうらと申す所に、風にふきとめられてほどへにけり、とまふきたるいほりより月のもりくるをみて なみのおとを心にかけてあかすかなとまもる月のかげをともにて  0415  まゐりつきて、月いとあかくてあはれにおぼえければ もろともにたびなる空に月もいでてすめばやかげのあはれなるらん  0416  旅宿月 あはれしる人見たらばとおもふかなたびねのとこにやどる月影  0417 月やどるおなじうきねのなみにしもそでしをるべき契り有りける  0418 みやこにて月をあはれとおもひしはかずよりほかのすさびなりけり  0419  船中初雁 おきかけてやへのしほぢをゆくふねはほかにぞききしはつかりの声  0420  朝聞雁 よこ雲の風にわかるるしののめにやまとびこゆるはつかりのこゑ  0421  入夜聞雁 からすばにかくたまづさの心ちして雁なきわたる夕やみの空  0422  雁声遠近 しら雲をつばさにかけてゆく雁のかどたのおものともしたふなり  0423  霧中雁 玉章のつづきは見えで雁がねのこゑこそきりにけたれざりけれ  0424  霧上雁 空いろのこなたをうらにたつきりのおもてにかりのかけるたまづさ  0425  霧 うづらなくをりにしなればきりこめてあはれさびしきふかくさのさと  0426  霧隔行客 なごりおほきむつごとつきてかへりゆく人をばきりも立ちへだてけり  0427  山家霧 たちこむるきりのしたにもうづもれて心はれせぬみやまべのさと  0428 よをこめてたけのあみどにたつきりのはればやがてやあけんとすらん  0429  鹿 しだりさくはぎのふるえに風かけてすかひすかひにをしかなくなり  0430 はぎがえのつゆためずふく秋風にをしかなくなりみやぎののはら  0431 夜もすがらつまこひかねてなくしかのなみだやのべの露と成るらん  0432 さらぬだに秋はもののみかなしきをなみだもよほすさをしかのこゑ  0433 やまおろしにしかのねたぐふ夕暮にものがなしとはいふにや有るらん  0434 しかもわぶ空のけしきもしぐるめりかなしかれともなれる秋かな  0435 なにとなくすままほしくぞおもほゆるしかあはれなる秋の山ざと  0436  をぐらのふもとにすみ侍りけるに、しかのなきけるをききて をしかなくをぐらの山のすそちかみただひとりすむ我が心かな  0437  暁鹿 よをのこすねざめに聞くぞあはれなるゆめののしかもかくやなくらん  0438  夕聞鹿 しのはらやきりにまがひてなく鹿の声かすかなる秋の夕ぐれ  0439  幽居聞鹿 となりゐぬはらのかりやにあかすよはしかあはれなるものにぞ有りける  0440  田庵鹿 をやまだの庵ちかくなく鹿の音におどろかされておどろかすかな  0441  人を尋ねてをのにまかりたりけるに、鹿のなきければ 鹿のねをきくにつけてもすむ人の心しらるるをのの山ざと  0442  独聞擣衣 ひとりねのよさむになるにかさねばやたがためにうつころもなるらん  0443  隔里擣衣 さよ衣いづくのさとにうつならんとほくきこゆるつちのおとかな  0444  としごろ申しなれたる人の、ふしみにすむとききて、たづねまかりたりけるに、にはのくさ道も見えぬほどにしげりて、むしのなきければ わけているそでにあはれをかけよとて露けきにはにむしさへぞなく  0445  むしの歌よみ侍りけるに ゆふざれやたまおく露のこざさふに声はつならすきりぎりすかな  0446 秋風にほずゑなみよるかるかやのしたばにむしのこゑみだるなり  0447 きりぎりすなくなるのべはよそなるをおもはぬそでに露のこぼるる  0448 秋風のふけゆくのべのむしのねにはしたなきまでめるるそでかな  0449 むしのねをよそにおもひてあかさねばたもとも露はのべにかはらじ  0450 野べになく虫もやものはかなしきにこたへましかばとひてきかまし  0451 秋のよをひとりやなきてあかさましともなふむしの声なかりせば  0452 秋のよにこゑもやすまずなく虫を露まどろまでききあかすかな  0453 秋の野のをばなが袖にまねかせていかなる人をまつむしのこゑ  0454 よもすがらたもとに虫のねをかけてはらひわづらふ袖のしらつゆ  0455 きりぎりす夜さむになるをつげがほにまくらのもとにきつつなくなり  0456 虫の音をよわりゆくかときくからに心に秋のひかずをぞふる  0457 秋ふかみよわるはむしのこゑのみかきくわれとてもたのみやはある  0458 むしの音につゆけかるべきたもとかはあやしやこころものおもふべし  0459  独聞虫 ひとりねのともにはなれてきりぎりすなくねをきけばもの思ひそふ  0460  故郷虫 草ふかみわけいりてとふ人もあれやふりゆく跡のすずむしのこゑ  0461  雨中虫 かべにおふるこぐさにわぶるきりぎりすしぐるるにはのつゆいとふべし  0462  田庵聞虫 こはぎさく山だのくろのむしのねにいほもる人や袖ぬらすらん  0463  暮路虫 うちすぐる人なきみちのゆふざれはこゑにておくるくつわむしかな  0464  田家秋夕 ながむれば袖にも露ぞこぼれけるそとものをだの秋の夕ぐれ  0465 ふきすぐる風さへことに身にぞしむ山田の庵のあきの夕ぐれ  0466  京極太政大臣中納言と申しけるをり、きくをおびただしき程にしたてて、鳥羽院にまゐらせ給ひたりけり、鳥羽の南殿の東面のつぼに、ところなきほどにうゑさせ給ひたりけり、公重の少将、人人すすめてきくもてなされけるに、くははるべきよしありければ 君がすむやどのつぼをばきくぞかざる仙のみやとやいふべかるらん  0467  菊 いくあきにわれあひぬらんながつきのここぬかにつむやへのしらぎく  0468 秋ふかみならぶはななき菊なればところをしものおけとこそおもへ  0469  月前菊 ませなくばなにをしるしに思はまし月にまがよふしら菊の花  0470  あき、ものへまかりけるみちにて こころなき身にもあはれはしられけりしぎたつさはの秋の夕ぐれ  0471  さがにすみけるころ、となりの坊に、申すべきことありてまかりけるに、みちもなくむぐらのしげりければ 立よりてとなりとふべきかきにそひてひまなくはへるやへむぐらかな  0472  題不知 いつよりかもみぢの色はそむべきとしぐれにくもるそらにとはばや  0473  紅葉未遍 いとか山しぐれに色をそめさせてかつがつおれるにしきなりけり  0474  山家紅葉 そめてけり紅葉のにろのくれなゐをしぐると見えしみやまべのさと  0475  秋のすゑにまつむしをききて さらぬだにこゑよわかりしまつむしの秋のすゑにはききもわかれず  0476 こずゑあればかれゆくのべはいかがせんむしのねのこせ秋のやまざと  0477  寂然、高野にまゐりて、深秋紅葉と云ふ事をよみけるに さまざまのにしきありける深山かなはなみしみねをしぐれそめつつ  0478  紅葉色深 かぎりあればいかがは色のまさるべきあかずしぐるるをぐらやまかな  0479 もみぢばのちらでしぐれのひかずへばいかばかりなる色にはあらまし  0480  霧中紅葉 にしきはる秋のこずゑを見せぬかなへだつる霧のやみをつくりて  0481  いやしかりける家に、つたの紅葉のおもしろかりけるをみて おもはずによしあるしづのすみかかなつたのもみぢを軒にははせて  0482  あづまへまかりけるに、しのぶのおくに侍りけるやしろの紅葉を ときはなるまつのみどりに神さびてもみぢぞ秋はあけのたまがき  0483  草花の野路の紅葉 もみぢちるのばらをわけてゆく人ははなならぬまたにしききるべし  0484  秋のすゑに法輪にこもりてよめる おほゐ何ゐせきによどむみづの色にあきふかくなるほどぞしらるる  0485 小倉山ふもとに秋の色はあれやこずゑのにしきかぜにたたれて  0486 わがものとあきのこずゑをおもふかなをぐらのさとにいへゐせしより  0487 山ざとは秋のすゑにぞおもひしるかなしかりけりこがらしのかぜ  0488  暮秋 くれはつる秋のかたみにしばしみんもみぢちらすなこがらしのかぜ  0489 秋くるる月なみわくるやまがつの心うらやむけふのゆふぐれ  0490  夜すがら秋ををしむ をしめどもかねのおとさへかはるかなしもにやつゆをむすびかふらん  Subtitle  冬  0491  長楽寺にて、よるもみぢを思ふと云ふ事を、人人よみけるに 夜もすがらをしげなくふくあらしかなわざとしぐれのそむるこずゑを  0492  題不知 ねざめする人のこころをわびしめてしぐるるをとはかなしかりけり  0493  十月はじめつかた、やまざとにまかりたりけるに、きりぎりすのこゑのわづかにしければよめる しもうづむむぐらがしたのきりぎりすあるかなきかのこゑきこゆなり  0494  山家落葉 みちもなしやどはこのはにうづもれてまだきせさするふゆごもりかな  0495  暁落葉 このはちれば月に心ぞあらはるるみやまがくれにすまんとおもふに  0496 時雨かとねざめのとこにきこゆるは嵐にたへぬこのはなりけり  0497  水上落葉 たつたひめそめし木ずゑのちるをりはくれなゐあらふやまがはの水  0498  落葉 あらしはくにはのこのはのをしきかなまことのちりに成りぬとおもへば  0499  月前落葉 山おろしの月にこのはをふきかけてひかりにまがふかげを見るかな  0500  滝上落葉 こがらしにみねの木のはやたぐふらんむらごに見ゆる滝のしらいと  0501  山家時雨 やどかこふははそのしばの時雨さへしたひてそむるはつしぐれかな  0502  閑中時雨 おのづからおとする人ぞなかりけるやまめぐりする時雨ならでは  0503  時雨歌よみけるに あづまやのあまりにもふる時雨かなたれかはしらぬかみなづきとは  0504  落葉留網代 もみぢよるあじろのぬのの色そめてひをくくりとは見えぬなりけり  0505  山家枯草と云ふ事を、覚範僧都房にて人人よみけるに かきこめしすそののすすきしもがれてさびしさまさるしばのいほかな  0506  野辺寒草と云ふ事を、双林寺にてよみけるに さまざまに花さきけりと見しのべのおなじいろにもしもがれにける  0507  枯野草 わけかねしそでに露をばとどめおきてしもにくちぬるまののはぎはら  0508 霜かづくかれのの草のさびしきにいづくは人のこころとむらん  0509 しもがれてもろくくだくるおぎのはをあらくわくなるかぜのおとかな  0510  冬歌よみけるに なにはえのみぎはのあしにしもさえてうら風さむきあさぼらけかな  0511 たまかけしはなのすがたもおとろへてしもをいただくをみなへしかな  0512 山ざくらはつゆきふればさきにけりよしのはさとにふゆごもれども  0513 さびしさにたへたる人のまたもあれないほりならべん冬の山ざと  0514  水辺寒草 しもにあひていろあらたむるあしのほのさびしく見ゆるなにはえのうら  0515  山家冬 たままきしかきねのまくず霜がれてさびしく見ゆる冬の山ざと  0516  寒夜旅宿 旅ねするくさのまくらにしもさえてあり明の月のかげぞまたるる  0517  山家冬月 ふゆがれのすさまじげなるやまざとに月のすむこそあはれなりけれ  0518 月いづるみねのこのはもちりはててふもとのさとはうれしかるらん  0519  月照寒草 はなにおくつゆにやどりしかげよりもかれのの月はあはれなりけり  0520 こほりしくぬまのあしはら風さえて月もひかりぞさびしかりける  0521  閑夜冬月 霜さゆる庭の木のはをふみわけて月は見るやととふ人もがな  0522  庭上冬月 さゆと見えて冬ふかくなる月影はみづなき庭にこほりをぞしく  0523  鷹狩 あはせつるこゐのはしたかそばえかしいぬかひ人のこゑしきりなり  0524  雪中鷹狩 かきくらす雪にきぎすは見えねどもはおとにすずをくはへてぞやる  0525 ふる雪にとだちも見えずうづもれてとりどころなきみかりのの原  0526  庭雪似月 このまもる月のかげとも見ゆるかなはだらにふれる庭のしらゆき  0527  雪のあした、霊山と申す所にて、眺望を人人よみけるに たちのぼる朝日の影のさすままに都の雪はきえみきえずみ  0528  かれのに雪のふりたりけるを かれはつるかやがうはばにふる雪はさらにをばなのここちこそすれ  0529  雪の歌よみけるに たゆみつつそりのはやをもつけなくにつもりにけりなこしのしらゆき  0530  雪埋路 ふる雪にしをりししばもうづもれておもはぬやまに冬ごもりぬる  0531  あきごろ、高野へまゐるべきよしたのめてまゐらざりける人のもとへ、ゆきふりてのち、申しつかはしける 雪ふかくうづみてけりなきみくやともみぢのにしきしきし山ぢを  0532  雪朝待人 わがやどに庭よりほかのみちもがなとひこん人のあとつけでみん  0533  雪にいほりうづみて、せんかたなくおもしろかりけり、いまもきたらば、とよみけんことおもひいでて、見けるほどに、しかのわけてとほりけるを見て 人こばとおもひて雪をみる程にしかあとつくることもありけり  0534  雪朝会友 あととむるこまのゆくへはさもあらばあれうれしく君にゆきにあひぬる  0535  雪埋竹と云ふ事を 雪うづむそののくれ竹をれふしてねぐらもとむるむらすずめかな  0536  賀茂臨時祭返立の御神楽、土御門内裏にて侍りけるに、竹のつぼに雪のふりたりけるを見て うらがへすをみのころもと見ゆるかなたけのうれはにふれるしらゆき  0537  社頭雪 たまがきはあけもみどりもうづもれてゆきおもしろきまつのをの山  0538  雪歌よみけるに なにとなくくるるしづりのおとまでも雪あはれなるふかくさのさと  0539 雪ふればのぢも山ぢもうづもれてをちこちしらぬたびのそらかな  0540 あをねやまこけのむしろの上にしく雪はしらねのここちこそすれ  0541 うの花のここちこそすれ山ざとのかきねのしばをうづむしらゆき  0542 をりならぬめぐりのかきのうの花をうれしく雪のさかせつるかな  0543 とへなきみゆふぐれになるにはの雪をあとなきよりはあはれならまし  0544  舟中霰 せとわたるたななしをぶねこころせよあられみだるるしまきよこぎる  0545  深山霰 杣人のまきのかりやのあだぶしにおとするものはあられなりけり  0546  さくらの木にあられのたばしりけるを見て ただはおちでえだをつたへるあられかなつぼめる花のちるここちして  0547  月前炭竈 かぎりあらんくもこそあらめすみがまのけぶりに月のすすけぬるかな  0548  千鳥 あはぢ島いそわの千鳥こゑしげみせとのしほかぜさえわたるよは  0549 あはぢ島せとのしほひのゆふぐれにすまよりかよふちどりなくなり  0550 しもさえて汀ふけゆくうらかぜをおもひしりげになくちどりかな  0551 さゆれどもこころやすくぞききあかすかはせの千鳥ともぐしてけり  0552 やせわたるみなとのかぜに月ふけてしほひるかたに千鳥なくなり  0553  題不知 千鳥なくゑじまのうらにすむ月をなみにうつして見るこよひかな  0554  氷留山水 いはまゆくこのはわけこし山水をつゆもらさぬはこほりなりけり  0555  滝上氷 みなかみに水や氷をむすぶらんくるとも見えぬ滝のしらいと  0556  氷いかだをとづと云ふ事を こほりわるいかだのさをのたゆければもちやこさましほづの山ごえ  0557  冬歌十首 はなもかれもみぢもちらぬ山ざとはさびしさをまたとふ人もがな  0558 ひとりすむかた山かげのともなれやあらしにはるる冬のやまざと  0559 つのくにのあしのまろやのさびしさは冬こそわけてとふべかりけれ  0560 さゆる夜はよそのそらにぞをしもなくこほりにけりなこやの池みづ  0561 よもすがらあらしの山に風さえておほ井のよどにこほりをぞしく  0562 さえわたるうらかぜいかにさむからんちどりむれゐるゆふさきの浦  0563 山ざとはしぐれしころのさびしさにあらしのおとはややまさりけり  0564 かぜさえてよすればやがてこほりりつつかへるなみなきしがのからさき  0565 よしの山ふもとにふらぬ雪ならばはなかとみてやたづねいらまし  0566 やまごとにさびしからじとはげむべしけぶりこめたりをののやまざと  0567  題不知 山ざくらおもひよそへてながむれば木ごとのはなはゆきまさりけり  0568  仁和寺の御室にて、山家閑居見雪と云ふ事をよませ給ひけるに ふりうづむ雪をともにて春きては日をおくるべきみ山べの里  0569  山家冬深 とふ人ははつ雪をこそわけこしかみちとぢてけりみやまべのさと  0570  山居雪 としのうちはとふ人さらにあらじかし雪も山ぢもふかきすみかを  0571  よをのがれてくらまのおくに侍りけるに、かけひこほりて水まうでこざりけり、はるになるまでかく侍るなりと申しけるをききてよめる わりなしやこほるかけひの水ゆゑにおもひすててしはるのまたるる  0572  みちのくににて、としのくれによめる つねよりも心ぼそくぞおもほゆるたびのそらにてとしのくれぬる  0573  山家歳暮 あたらしきしばのあみどをたてかへてとしのあくるをまちわたるかな  0574  東山にて歳暮述懐 としくれてそのいとなみはわすられてあらぬさまなるいそぎをぞする  0575  としのくれに、高野よりみやこなる人のもとにつかはしける おしなべておなじ月日のすぎゆけばみやこもかくやとしはくれぬる  0576  としのくれに、人のもとへつかはしける おのづからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほどにとしのくれぬる  0577  つねなきことによせて いつかわれむかしの人といはるべきかさなるとしをおくりむかへて  Subtitle  恋  0578  聞名尋恋 あはざらんことをばしらでははきぎのふせやとききて尋ねきにけり  0579  自門帰恋 たてそめてかへる心はにしきぎのちつかまつべき心ちこそせね  0580  涙顕恋 おぼつかないかにと人のくれはとりあやむるまでにぬるる袖かな  0581  夢会恋 なかなかに夢にうれしきあふことはうつつに物をおもふなりけり  0582 あふとみることをかぎれる夢ぢにてさむる別のなからましかば  0583 夢とのみおもひなさるるうつつこそあひみしことのかひなかりけれ  0584  後朝 けさよりぞ人の心はつらからであけはなれ行く空をうらむる  0585 あふことをしのばざりせばみちしばの露よりさきにおきてこましや  0586  後朝郭公 さらぬだにかへりやられぬしののめにそへてかたらふ郭公かな  0587  後朝花橘 かさねてはこひえまほしきうつりがをはなたちばなにけさたぐへつつ  0588  後朝霧 やすらはんおほかたのよはあけぬともやみとかいへる霧にこもりて  0589  かへるあしたの時雨 ことづけてけさの別をやすらはんしぐれをさへや袖にかくべき  0590  逢不遭恋 つらくともあはずはなにのならひにか身の程しらず人をうらみん  0591 さらばたださらでぞ人のやみなましさてのちもさはさもあらじとや  0592  恨 もらさじとそでにあまるをつつまましなさけを忍ぶなみだなりせば  0593  再絶恋 から衣たちはなれにしままならばかさねてものはおもはざらまし  0594  寄糸恋 しづのめがすそとるいとにつゆそひておもひにたがふ恋もするかな  0595  寄梅恋 をらばやとなにおもはまし梅のはななつかしからぬにほひなりせば  0596 ゆきずりにひとえだをりしむめがかのふかくも袖にしみにけるかな  0597  寄花恋 つれもなき人にみせばやさくらばなかぜにしたがふ心よわさを  0598 はなをみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ  0599  寄残花恋 はがくれにちりとどまれるはなのみぞしのびし人にあふ心ちする  0600  寄帰雁恋 つれもなくたえにし人をかりがねのかへる心とおもはましかば  0601  寄草花恋 くちてただしをればよしや我が袖もはぎのしたえの露によそへて  0602  寄鹿恋 つまこひて人めつつまぬしかのねもうらやむ袖のみさをなるかは  0603  寄苅萱恋 ひとかたにみだるともなき我が恋や風さだまらぬのべのかるかや  0604  寄霧恋 夕ぎりのへだてなくこそおもほゆれかくれて君があはぬなりけり  0605  寄紅葉恋 わがなみだしぐれの雨にたぐへばやもみぢの色の袖にまがへる  0606  寄落葉恋 あさごとにこゑをとどむる風の音はよをへてかかる人のこころか  0607  寄氷恋 春をまつすはのわたりもあるものをいつをかぎりにすべきつららぞ  0608  寄水鳥恋 わがそでのなみだかかるとぬれであれなうらやましきは池のをしどり  0609  賀茂のかたにささきと申すさとに、冬ふかく侍りけるに、隆信などまできて、山家恋と云ふ事をよみけるに かけひにも君がつららやむすぶらん心ぼそくもたえぬなるかな  0610  売人に付文恋と云ふ事を おもひかねいちのなかには人おほみゆかりたづねてつくるたまづさ  0611  海路恋 なみしのぐことをもなにかわづらはん君にあふべきみちとおもはば  0612  松風増恋 いはしろの松かぜきけば物おもふ人もこころぞむすぼほれける  0613  九月ふたつありけるとし、閏月をいむ恋と云ふ事を人人よみけるに ながつきのあまりにつらき心にていむとは人のいふにやあるらん  0614  みあれのころ、かもにまゐりたりけるに、精進憚恋を人人よみけるに ことづくるみあれのほどをすぐしてもなほやうづきの心なるべき  0615  同じ社にて祈神恋と云ふ事を、神主どもよみけるに あまくだるかみのしるしのありなしをつれなき人の行へにてみん  0616  月 月まつといひなされつるよひのまの心のいろをそでにみえぬる  0617 しらざりき雲井のよそにみし月のかげをたもとにやどすべしとは  0618 あはれともみる人あらばおもひなん月のおもてにやどる心は  0619 月みればいでやとよのみおもほえてもたりにくくもなる心かな  0620 ゆみはりの月にはづれて見しかげのやさしかりしはいつか忘れん  0621 おもかげのわすらるまじき別かな名残を人の月にとどめて  0622 秋のよの月やなみだをかこつらん雲なきかげをもてやつすとて  0623 あまのはらさゆるみそらははれながらなみだぞ月の雲になりける  0624 ものおもふ心のたけぞしられぬるよなよな月をながめあかして  0625 月をみる心のふしをとがにしてたよりえがほにぬるる袖かな  0626 おもひいづることはいつともいひながら月にはたへぬ心なりけり  0627 あしびきのやまのあなたに君すまばいるとも月ををしまざらまし  0628 なげけとて月やは物をおもはするかこちがほなるわがなみだかな  0629 きみにいかで月にあらそふ程ばかりめぐりあひつつかげをならべん  0630 しろたへのころもかさぬる月かげのさゆるまそでにかかる白露  0631 忍びねのなみだたたふる袖のうらになづまずやどる秋のよの月  0632 ものおもふそでにも月はやどりけりにごらですめるみづならねども  0633 こひしさをもよほす月のかげなればこぼれかかりてかこつなみだか  0634 よしさらばなみだのいけにそでなれて心のままに月をやどさん  0635 うちたえてなげくなみだに我が袖のくちなばなにに月をやどさん  0636 よよふともわすれがたみのおもひ出はたもとに月のやどるばかりか  0637 なみだゆゑくまなき月ぞくもりりぬるあまのはらはらとのみなかれて  0638 あやにくにしるくも月のやどるかなよにまぎれてとおもふたもとに  0639 おもかげに君がすがたをみつるよりにはかに月のくもりぬるかな  0640 よもすがら月をみがほにもてなして心のやみにまよふ比かな  0641 あきの月ものおもふ人のためとてやうきおもかげにそへていづらん  0642 へだてたる人の心のくまにより月をさやかにみぬがかなしさ  0643 なみだゆゑ月はくもれる月なればながれぬをりぞはれまなりける  0644 くまもなきをりしも人をおもひいでて心と月をやつしつるかな  0645 物おもふ心のくまをのごひうててくもらぬ月をみるよしもがな  0646 こひしさやおもひよわるとながむればいとど心をくだく月影  0647 ともすれば月すむ空にあくがるる心のはてをしるよしもがな  0648 ながむるになぐさむことはなけれども月をともにてあかす比かな  0649 ものおもひてながむるころの月の色にいかばかりなるあはれそむらん  0650 あま雲のわりなきひまをもる月のかげばかりだにあひみてしがな  0651 あきの月しのだのもりの千えよりもしげきなげきやくまなかるらん  0652 おもひしる人ありあけのよなりせばつきせず身をばうらみざらまし  0653  恋 かずならぬ心のとがになしはてじしらせてこそは身をもうらみめ  0654 うちむかふそのあらましのおもかげをまことになしてみるよしもがな  0655 やまがつのあらのをしめてすみそむるかただよりなる恋もするかな  0656 ときは山しひのしたしばかりすてんかくれておもふかひのなきかと  0657 なげくともしらばやひとのおのづからあはれとおもふこともあるべき  0658 なにとなくさすがにをしき命かなありへば人やおもひしるとて  0659 なにゆゑかけふまでものをおもはまし命にかへてあふよなりせば  0660 あやめつつ人しるとてもいかがせんしのびはつべきたもとならねば  0661 なみだがはふかくながるるみをならばあさき人めにつつまざらまし  0662 しばしこそ人めつつみにせかれけれはてはなみだやなるたきの川  0663 ものおもへばそでにながるるなみだがはいかなるみをにあふせなりなん  0664 うきにだになどなど人をおもへどもかなはでとしのつもりぬるかな  0665 なかなかになれぬおもひのままならばうらみばかりや身につもらまし  0666 なにせんにつれなかりしを恨みけんあはずばかかるおもひせましや  0667 むかはらばわれがなげきのむくいにて誰ゆゑ君が物をおもはん  0668 身のうさのおもひしらるることわりにおさへられぬはなみだなりけり  0669 日をふればたもとのあめのあしそひてはるべくもなき我が心かな  0670 かきくらすなみだのあめのあししげみさかりにもののなげかしきかな  0671 ものおもへどもかからぬ人もあるものをあはれなりける身のちぎりかな  0672 なほざりのなさけは人のあるものをたゆるはつねのならひなれども  0673 なにとこはかずまへられぬ身の程に人をうらむるこころなりけん  0674 うきふしをまづおもひしるなみだかなさのみこそはとなぐさむれども  0675 さまざまにおもひみだるる心をば君がもとにぞつかねあつむる  0676 ものおもへばちぢに心ぞくだけぬるしのだのもりの千えならねども  0677 かかる身におほしたてけんたらちねのおやさへつらき恋もするかな  0678 おぼつかななにのむくいのかへりきて心せたむるあたとなるらん  0679 かきみだる心やすめぬことぐさはあはれあはれとなげくばかりか  0680 身をしれば人のとがにはおもはぬにうらみがほにもぬるる袖かな  0681 なかなかになるるつらさにくらぶればうときうらみはみさをなりけり  0682 人はうしなげきはつゆもなぐさまずさはこはいかにすべき心ぞ  0683 ひにそへてうらみはいとどおほうみのゆたかなりけるわがおもひかな  0684 さることのあるなりけりとおもひ出でて忍ぶ心をしのべとぞ思ふ  0685 けふぞしるおもひいでよとちぎりしはわすれんとてのなさけなりけり  0686 なにはがたなみのみいとどかずそひてうらみのひまや袖のかわかん  0687 心ざしありてのみやは人をとふなさけはなどとおもふばかりぞ  0688 なかなかにおもひしるてふことのははとはぬにすぎてうらめしきかな  0689 などかわれことのほかなるなげきせでみさをなる身にむまれざりけん  0690 くみてしる人もあらなんおのづからほりかねの井のそこの心を  0691 けぶりたつふににおもひのあらそひてよだけきこひをするがへぞ行く  0692 なみだがはさかまくみをのそこふかみみなぎりあへぬわが心かな  0693 いそのまになみあらげなるをりをりはうらみをかづく里のあま人  0694 せとぐちにたけるうしほのおほよどみよどむとしひのなき涙かな  0695 あづまぢやあひの中山ほどせばみ心のおくのみえばこそあらめ  0696 いつとなくおもひにもゆる我が身かなあさまのけぶりしめるよもなく  0697 はりまぢやこころのすまにせきすゑていかで我が身の恋をとどめん  0698 あはれてふなさけに恋のなぐさまばとふことのはやうれしからまし  0699 ものおもへばまだゆふぐれのままなるにあけぬとつぐるしばどりのこゑ  0700 夢をなどよごろたのまですぎきけんさらであふべき君ならなくに  0701 さはといひて衣かへしてうちふせどめのあはばやはゆめもみるべき  0702 こひらるるうき名を人にたてじとてしのぶわりなき我がたもとかな  0703 なつぐさのしげりのみゆくおもひかなまたるる秋のあはれしられて  0704 くれなゐの色にたもとのしぐれれつつそでににあきある心ちこそすれ  0705 あはれとてとふ人のなどなかるらんものおもふやどの荻のうはかぜ  0706 わりなしやさこそものおもふ袖ならめあきにあひてもおける露かな  0707 秋ふかき野べの草ばにくらべばやものおもふころの袖の白露  0708 いかにせんこむよのあまとなるほども見るめかたくてすぐるうらみを  0709 ものおもふとなみだややがてみつせがは人をしづむるふちとなるらん  0710 あはれあはれこのよはよしやさもあらばあれこんよもかくやくるしかるべき  0711 たのもしなよひあかつきのかねのおとものおもふつみもつきざらめやは  Book   本是以下ガ下帖  Subtitle  雑  0712 つくづくとものをおもふにうちそへてをりあはれなるかねの音かな  0713 なさけありしむかしのみなほしのばれてながらへまうき世にも有るかな  0714 のきちかきはなたちばなに袖しめてむかしをしのぶなみだつつまん  0715 なにごともむかしをきくはなさけ有りてゆゑあるさまにしのばるるかな  0716 わが宿は山のあなたにあるものをなににうきよをしらぬこころぞ  0717 くもりなうかがみのうへにゐるちりをめにたててみるよとおもはばや  0718 ながらへんとおもふ心ぞつゆもなきいとふにだにもたへぬ浮身は  0719 おもひいづるすぎにしかたをはづかしみあるに物うきこの世なりけり  0720  世につかうべかりける人の、こもりゐたりけるもとへつかはしける よの中にすまぬもよしやあきの月にごれるみづのたたふさかりに  0721  五日、菖蒲を人のつかはしたりける返事に よのうきにひかるる人はあやめぐさ心のねなき心ちこそすれ  0722  寄花橘述懐 よのうさをむかしがたりになしはててはなたちばなにおもひいでめや  0723  世にあらじと思ひたちけるころ、東山にて、人人、寄霞述懐と云ふ事をよめる そらになる心は春のかすみにてよにあらじともおもひたつかな  0724  同じ心を 世をいとふ名をだにもさはとどめおきてかずならぬ身のおもひでにせん  0725  いにしへごろ、東山にあみだ房と申しける上人の庵室にまかりてみけるに、なにとなくあはれにおぼえてよめる しばのいほときくはくやしきななれどもよにこのもしきすまひなりけり  0726  よをのがれけるをり、ゆかりありける人のもとへいひおくりける 世のなかをそむきはてぬといひおかんおもひしるべき人はなくとも  0727  はるかなる所にこもりて、みやこなる人のもとへ、月の比つかはしける 月のみやうはのそらなるかたみにておもひもいでば心かよはん  0728  世をのがれて伊勢のかたへまかりけるに、すずか山にて すずか山うき世をよそにふりすてていかになり行くわが身なるらん  0729  述懐 なにごとにとまる心のありければさらにしもまたよのいとはしき  0730  侍従大納言成通のもとへ、のちのよの事おどろかし申したりける返事に おどろかすきみによりてぞながき世のひさしきゆめはさむべかりける  0731  返事 おどろかぬ心なりせばよの中を夢ぞとかたるかひなからまし  0732  中院右大臣、出家おもひたつよしの事かたり給ひけるに、月いとあかくて、よもすがらあはれにて、あけにければかへりにけり、そののち、その夜のなごりおほかりしよしいひおくりたまふとて よもすがら月をながめてちぎりおきしそのむつごとにやみははれにき  0733  返し すむといひし心の月しあらはればこの世もやみのはれざらめやは  0734  ためなり、ときはにだう供養しける、よをのがれて山寺にすみ侍りけるしたしき人人、まうできたるとききて、いひつかはしける いにしへにかはらぬ君がすがたこそけふはときはのかたみなりけれ  0735  返し 色かへでひとりのこれるときはぎはいつをまつとか人はみるらん  0736  ある人、さまかへて仁和寺のおくなるところにすむとききて、まかりてたづねければ、あからさまに京にとききてかへりにけり、そののち人つかはしてかくなんまゐりたりしと申したりける返事に たちよりてしばのけぶりのあはれさをいかがおもひし冬の山ざと  0737  返事 山里にこころはふかくいりながらしばのけぶりのたちかへりにし  0738  この歌もそへられたりける をしからぬ身をすてやらでふる程にながきやみにや又まよひなん  0739  返し よをすてぬ心のうちにやみこめてまよはんことは君ひとりかは  0740  したしき人人あまたありければ、おなじ心に誰も御覧ぜよとてつかはしたりける返事に又 なべてみなはれせぬやみのかなしさをきみしるべせよひかりみゆやと  0741  又かへし おもふともいかにしてかはしるべせんをしふるみちにいらばこそあらめ  0742  のちのよの事、むげにおもはずしもなしとみえける人のもとへつかはしける よのなかに心ありあけの人はみなかくてやみにはまよはぬものを  0743  返し 世をそむく心ばかりはありあけのつきせぬやみは君にはるけん  0744  ある所の女房、よをのがれて西山にすむとききて、たづねければ、すみあらしたるさまして、人のかげもせざりけり、あたりの人にかくと申しおきたりけるをききて、いひおくれりける しほなれしとまやもあれてうき浪による方もなきあまとしらずや  0745  返し とまのやになみたちよらぬけしきにてあまりすみうきほどはみえにき  0746  侍賢門院中納言のつぼね、よをそむきてをぐら山のふもとにすまれけるころ、まかりたりけるに、ことがらまことにいうにあはれなりけり、風のけしきさへことにかなしかりければ、かきつけける やまおろすあらしのおとのはげしさをいつならひける君がすみかぞ  0747  あはれなるすみかとひにまかりたりけるに、この歌をみてかきつけける                     同じ院の兵衛の局 うき世をばあらしのかぜにさそはれて家をいでにしすみかとぞみる  0748  をぐらをすみすてて、高野のふもとあまのと申す山にすまれけり、おなじ院の帥のつぼね、みやこのほかのすみかとひ申さでいかでかとて、わけおはしたりける、ありがたくなん、かへるさにこかはへまゐられけるに、御山よりいであひたりけるを、しるべせよとありければ、ぐし申してこかはへまゐりたりけり、かかるついでは、いまはあるまじきことなり、ふきあげみんといふこと、ぐせられたりける人人申しいでて、ふきあげへおはしけり、道よりおほあめ風ふきて、きようなくなりにけり、さりとてはふきあげにゆきつきたりけれども、見所なきやうにて、やしろにこしかきすゑて、おもふにもにりけり、能因が、なはしろ水にせきくだせ、とよみていひつたへられたるものをとおもひて、やしろにかきつけける あまくだるなをふきあげの神ならば雲はれのきてひかりあらはせ  0749 なはしろにせきくだされしあまの川とむるもかみのこころなるべし  かくかきつけたりければ、やがてにしのかぜふきかはりて、たちまちにくもはれてうらうらと日になりにけり、すゑのよなれど、こころざしいたりぬる事には、しるしあらたなりけることを人人申しつつ、しんおこして、ふきあげわかのうらおもふやうにみてかへられにけり  0750  侍賢門院の女房堀河のつぼねもとよりいひおくられける この世にてかたらひおかんほととぎすしでのやまぢのしるべともなれ  0751  返し ほととぎすなくなくこそはかたらはめしでの山路に君しかからば  0752  天王寺へまゐりけるに、あめのふりければ、江口と申す所にやどをかりけるに、かさざりければ よのなかをいとふまでこそかたからめかりのやどりををしむ君かな  0753  返し いへをいづる人としきけばかりのやど心とむなとおもふばかりぞ  0754  ある人よをのがれて、きた山でらにこもりゐたりとききて、たづねまかりたりけるに、月のあかかりければ よをすててたにそこにすむ人見よとみねのこのまを分くる月影  0755  あるみやばらにつけつかうまつりける女房、よをそむきて、みやこはなれてとほくまからんとおもひたちて、まゐらせけるにかはりて くやしきはよしなき君になれそめていとふみやこのしのばれぬべき  0756  だいしらず さらぬだに世のはかなさをおもふ身にぬえなきわたるあけぼのの空  0757 とりべのを心のうちにわけゆけばいぶきの露に矢ごぞそぼつる  0758 いつのよにながきねぶりの夢さめておどろくことのあらんとすらん  0759 世の中を夢とみるみるはかなくも猶おどろかぬわがこころかな  0760 なき人もあるをおもふもよの中はねぶりのうちの夢とこそみれ  0761 きしかたの見しよのゆめにかはらねばいまもうつつのここちやはする  0762 こととなくけふくれぬめりあすもまたかはらずこそはひますぐるかげ  0763 こえぬればまたもこの世にかへりこぬしでの山こそかなしかりけれ  0764 はかなしやあだににのちのつゆきえて野べに我が身やおくりおくらん  0765 つゆの玉はきゆればまたもおくものをたのみもなきは我が身なりけり  0766 あればとてたのまれぬかなあすはまた昨日とけふをいはるべければ  0767 秋の色はかれ野ながらもあるものをよのはかなさやあさぢふのつゆ  0768 とし月をいかでわが身におくりけんきのふの人もけふはなき世に  0769  范蠡長男の心を すてやらでいのちをこふる人はみなちぢのこがねをもてかへるなり  0770  暁無常を つきはてしそのいらあひのほどなさをこのあかつきにおもひしりぬる  0771  寄霞無常を なき人をかすめる空にまがふるは道をへだつるこころなるべし  0772  花のちりたりけるにならびてさきはじめける桜をみて ちると見ればまたさくはなのにほひにもおくれさきだつためしありけり  0773  月前述懐 月をみていづれのとしの秋までかこの世にわれがちぎりあるらん  0774  七月十五夜、月あかかりけるに、ふなをかにまかりて いかでわれこよひの月を身にそへてしでの山路の人をてらさん  0775  物こころぼそくあはれなりけるをりしも、きりぎりすのこゑの枕にちかくきこえければ そのをりのよもぎがもとの枕にもかくこそむしのねにはむつれめ  0776  とりべ山にてとかくのわざしけるけぶりなかより、よふけていでける月のあはれに見えければ とりべのやわしのたかねのすゑならんけぶりを分けていづる月かげ  0777  諸行無常の心を はかなくてすぎにしかたをおもふにもいまもさこそはあさがほの露  0778  同行に侍りける上人、例ならぬ事大事に侍りけるに、月のあかくてあはれなりければよみける もろともにながめながめてあきの月ひとりにならんことぞかなしき  0779  侍賢門院、かくれさせおはしましにける御あとに、人人またのとしの御はてまで候はれけるに、みなみおもての花ちりけるころ、堀河の局のもとへ申しおくりける たづぬともかぜのつてにもきかじかし花とちりにし君が行へを  0780  返し ふくかぜの行へしらするものならばはなとちるにもおくれざらまし  0781  近衛院の御はかに人人ぐしてまゐりたりけるに、つゆのふかかりければ みがかれし玉のすみかを露ふかき野べにうつして見るぞかなしき  0782  一院かくれさせおはしまして、やがての御所へわたしまゐらせけるよ、高野よりいであひてまゐりあひたりける、いとかなしかりけり、この、のちおはしますべき所御覧じはじめけるそのかみの御ともに、右大臣さねよし、大納言と申しける、候はれけり、しのばせおはしますことにて、又人さぶらはざりけり、その御ともにさぶらひけることのおもひいでられて、をりしもこよひにまゐりあひたる、むかしいまの事おもひつづけられてよみける こよひこそおもひしらるれあさからぬ君にちぎりのあるみなりけり  0783  をさめまゐらせける所へわたしまゐらせけるに みちかはるみゆきかなしきこよひかなかぎりのたびと見るにつけても  0784  をさめまゐらせてのち、御ともにさぶらはれける人人、たとへんかたなくかなしながら、かぎりある事なればかへられにけり、はじめたることありて、あくるまでさぶらひてよめる とはばやとおもひよらでぞなげかましむかしながらの我が身なりせば  0785  右大将公能、父の服のうちにははなくなりぬとききて、高野よりとぶらひ申しける かさねきるふぢのころもをたよりにて心の色をそめよとぞ思ふ  0786  返し ふぢ衣かさぬる色はふかけれどあさき心のしまぬはかなさ  0787  おなじなげきし侍りける人のもとへ 君がためあきはよにうきをりなれやこぞもことしも物思ひにて  0788  返し はれやらぬこぞのしぐれのうへにまたかきくらさるる山めぐりかな  0789  ははなくなりて山ざとにこもりゐたりける人を、程へておもひいでて人のとひたりければ、かはりて おもひいづるなさけを人のおなじくはそのをりとへなうれしからまし  0790  ゆかりありける人はかなくなりにけり、とかくのわざにとりべ山へまかりて、かへりけるに かぎりなくかなしかりけりとりべ山なきをおくりてかへる心は  0791  おやかくれ、たのみたりけるむこなどうせて、なげきしける人の、又ほどなくむすめにさへおくれにけりとききて、とぶらひけるに このたびはさきざきみけん夢よりもさめずやものはかなしかるらん  0792  五十日のはてつかたに、二条院の御はかに御仏供養しける人にぐしてまゐりたりけるに、月あかくてあはれなりければ こよひ君しでの山ぢの月をみてくものうへをやおもひいづらん  0793  御あとに、みかはの内侍候ひけるに、九月十三夜、人にかはりて かくれにし君がみかげの恋しさに月にむかひてねをやなくらん  0794  返し わがきみのひかりかくれし夕よりやみにぞまよふ月はすめども  0795  寄紅葉懐旧と伝ふ事を、宝金剛院にてよみける いにしへをこふるなみだの色ににてたもとにちるはもみぢなりけり  0796  故郷述懐と伝ふ事を、ときはの家にてためなりよみけるに、まかりあひて しげきのをいくひとむらに分けなしてさらにむかしをしのびかへさん  0797  十月なかのころ、宝金剛院のもみぢみけるに、上西門院おはしますよしききて、侍賢門院の御時思ひいでられて、兵衛殿の局にさしおかせける もみぢみてきみがためとやしぐるるらんむかしのあきの色をしたひて  0798  かへし 色ふかきこずゑをみてもしぐれつつふりにしことをかけぬ日ぞなき  0799  周防内侍、われさへのきの、とかきつけけるふるさとにて、人人思ひをのべける いにしへはついゐしやどもあるものをなにをかけふのしるしにはせん  0800  みちのくににまかりたりけるに、野の中につねよりもとおぼしきつかのみえけるを、人にとひければ、中将のみはかと申すはこれがことなりと申しければ、中将とは誰がことぞと、又とひければ、さねかたの御事なりと申しける、いとかなしかりけり、さらぬだにものあはれにおぼえけるに、しもがれのすすきほのぼの見えわたりて、のちにかたらんもことばなきやうにおぼえて くちもせぬそのなばかりをとどめ置きてかれののすすき形見にぞみる  0801  ゆかりなくなりて、すみうかれにける古郷へかへりゐける人のもとへ すみすてしそのふるさとをあらためてむかしにかへる心ちもやする  0802  おやにおくれてなげきける人を、五十日すぐるまでとはざりければ、とふべき人のとはぬ事をあやしみて、人にたづぬとききて、かくおもひていままで申さざりつるよし申してつかはしける人にかはりて なべてみな君がなげきをとふかずにおもひなされぬことのはもがな  かくおもひて程へ侍りにけりと申して、返事かくなん  0803  ゆかりにつけてものおもひける人のもとより、などかとはざらんと、うらみつかはしたりける返事に あはれとも心におもふほどばかりいはれぬべくはとひこそはせめ  0804  はかなくなりてとしへにける人の文を、もののなかより見いだしてむすめに侍りける人のもとへみせにつかはすとて なみだをやしのばん人はながすべきあはれにみゆるみづぐきのあと  0805  同行に侍りける上人、をはりよく思ふさまなりとききて、申しおくりける                     寂然 みだれずとをはりきくこそうれしけれさてもわかれはなぐまねども  0806  かへし この世にてまたあふまじきかなしさにすすめし人ぞ心みだれし  0807  とかくのわざはてて、あとのことどもひろひて、かうやへまゐりてかへりたりけるに                     寂然 いるさにはひろふかたみものこりけりかへる山路の友はなみだか  0808  返し いかにともおもひわかずぞすぎにける夢に山路を行く心ちして  0809  侍従大納言入道はかなくなりて、よひあかつきにつとめする僧おのおのかへりける日、申しおくりける ゆきちらんけふのわかれをおもふにもさらになげきやそふ心ちする  0810  返し ふししづむ身には心のあらばこそさらになげきもそふ心ちせめ  0811  この歌もかへしのほかにぐせられたりける たぐひなきむかしの人のかたみには君をのみこそたのみましけれ  0812  返し いにしへのかたみになるときくからにいとどつゆけきすみ染の袖  0813  おなじ日、のりつながもとへつかはしける なきあともけふまではなほのこりけるをあすや別をそへて忍ばん  0814  かへし おもへただけふのわかれのかなしさにすがたをかへて忍ぶ心を  やがてその日、さまかへてのち、この返事かく申したりけり、いとあはれなり  0815  おなじさまに世のがれて大原にすみ侍りけるいもうとの、はかなくなりにけるあはれとぶらひけるに いかばかりきみおもはましみちにいらでたのもしからぬ別なりせば  0816  返し                     寂然 たのもしきみちにはいりてゆきしかどわが身をつめばいかがとぞおもふ  0817  院の二位のつぼねみまかりけるあとに、十首歌人人よみけるに ながれ行くみづにたまなすうたかたのあはれあだなるこの世なりけり  0818 きえぬめるもとのしづくをおもふにも誰かはすゑの露の身ならぬ  0819 おくりおきてかへりしのべのあさ露を袖にうつすは涙なりけり  0820 ふなをかのすそののつかのかずそへてむかしの人に君をなしつる  0821 あらぬ世の別はけふぞうかりけるあさぢがはらをみるにつけても  0822 のちのよをとへとちぎりしことのはやわすらるまじきかたみなるべき  0823 おくれゐてなみだにしづむ古郷をたまのかげにもあはれとやみん  0824 あとをとふみちにやきみはいりぬらんくるしきしでの山へかからで  0825 名残さへほどなくすぎばかなし世になぬかのかずをかさねずもがな  0826 あとしのぶ人にさへまたわかるべきその日をかねてちるなみだかな  0827  あとのことどもはてて、ちりぢりになりけるに、成範、脩憲なみだながして、けふにさへ又と申しけるほどに、みなみおもてのさくらにうぐひすのなきけるをききてよみける さくら花ちりぢりになるこのもとになごりををしむうぐひすのこゑ  0828  返し                     少将ながのり ちるはなはまたこん春もさきぬべしわかれはいつかめぐりあふべき  0829  おなじ日、暮れけるままに、雨のかきくらしふりければ あはれしる空も心のありければなみだに雨をそふるなりけり  0830  返し                     院少納言の局 あはれしるそらにはあらじわび人のなみだぞけふは雨とふるらん  0831  行きちりて、又のあしたつかはしける けさいかにおもひの色のまさるらん昨日にさへもまたわかれつつ  0832  返し                     少将ながのり 君にさへたち別れつつけふよりぞなぐさむかたはげになかりける  0833  あにの入道想空はかなくなりにけるを、とはざりければいひつかはしける                     寂然 とへかしな別の袖につゆしげきよもぎがもとの心ぼそさを  0834 まちわびぬおくれさきだつあはれをも君ならでさは誰かとふべき  0835 わかれにし人をふたたびあとを見ばうらみやせましとはぬ心を  0836 いかがせんあとのあはれはとはずとも別れし人のゆくへたづねよ  0837 中中にとはぬはふかきかたもあらん心あさくもうらみつるかな  0838  返し 分けいりてよもぎがつゆをこぼさじとおもふも人をとふにあらずや  0839 よそにおもふわかれならねばたれをかは身より外にはとふべかりける  0840 へだてなきのりのことばにたよりえてはちすの露にあはれかくらん  0841 なき人を忍ぶおもひのなぐさまばあとをもちたびとひこそはせめ  0842 みのりをばことばなけれどとくときけばふかきあはれはとはでこそ思へ  0843  これはぐしてつかはしける つゆふかきのべになり行くふるさとはおもひやるにも袖しをれけり  0844  無常の歌あまたよみける中に いづくにかねぶりねぶりてたふれふさんとおもふかなしきみちしばのつゆ  0845 おどろかんとおもふ心のあらばやはながきねぶりの夢も覚むべき  0846 かぜあらきいそにかかれるあま人はつながぬふねの心ちこそすれ  0847 おほなみにひかれいでたる心ちしてたすけぶねなきおきにゆらるる  0848 なきあとをたれとしらねどとりべ山おのおのすごきつかの夕暮  0849 なみたかきよをこぎこぎて人はみなふなをか山をとまりにぞする  0850 しにてふさんこけのむしろを思ふよりかねてしらるるいはかげの露  0851 つゆときえばれんだいのにをおくりおけねがふ心をなにあらはさん  0852  なちにこもりてたきに入堂し侍りけるに、このうへに一二のたきおはします、それへまゐるなりと申す常住の僧の侍りけるに、ぐしてまゐりけり、はなやさきぬらんとたづねまほしかりけるをりふしにて、たよりあるここちしてわけまゐりたり、二のたきのもとへまゐりつきたる、如意輪のたきとなん申すとききて、をがみければ、まことにすこしうちかたぶきたるやうにながれくだりて、たふとくおぼえけり、花山院の御庵室のあとの侍りけるまへに、としふりたりける桜の木の侍りけるをみて、すみかとすれば、とよませ給ひけんことおもひいでられて このもとにすみけるあとをみつるかななちのたかねの花を尋ねて  0853  同行に侍りける上人、月のころ天王寺にこもりたりとききていひつはしける いとどいかににしへかたぶく月かげをつねよりもけに君したふらん  0854  堀河の局、仁和寺にすみけるに、まゐるべきよし申したりけれども、まぎるる事ありて程へにけり、月の比、まへをすぎけるをききていひおくりける にしへ行くしるべとたのむ月かげのそらだのめこそかひなかりけれ  0855  かへし さしいらでくもぢをよぎし月かげはまたぬ心ぞそらにみえける  0856  寂超入道談義すとききてつかはしける ひろむらんのりにはあはぬ身なりともなをきくかずにいらざらめやは  0857  返し つたへきくながれなりとものりの水くむ人からやふかくなるらん  0858  さだのぶの入道、観音寺にだうつくるに、結縁すべきよし申しつかはすとて                     観音寺入道生光 てらつくるこのわがたににつちうめよ君ばかりこそ山もくづさめ  0859  かへし やまくづすそのちからねはかたくとも心たくみをそへこそはせめ  0860  あざり勝命、千人あつめて法花経結縁せさせけるに、又の日つかはしける つらなりしむかしにつゆもかはらじとおもひしられし法のにはかな  0861  人にかはりて、これもつかはしける いにしへにもれけんことのかなしさはきのふのにはに心ゆきにき  0862  六波羅太政入道、持経者千人あつめて津国わだと申す所にて供養侍りけり、やがてそのついでに万灯会しけり、よふくるままに、ともし火のきえけるを、おのおのともしつぎけるを見て きえぬべきのりのひかりのともしびをかかぐるわだのとまりなりけり  0863  天王寺へまゐりてかめ井の水をみてよみける あさからぬちぎりの程ぞくまれぬるかめ井の水にかげうつしつつ  0864  心ざすことありて、あふぎを仏にまゐらせけるに、院より給はりけるに、女房うけ給はりて、つつみがみにかきつけられける ありがたきのりにあふぎのかぜならば心のちりをはらへとぞ思ふ  0865  御返事たてまつりける ちりばかりうたがふ心なからなんのりをあふぎてたのむとならば  0866  心性さだまらずと云ふ事を題にて、人人よみけるに ひばりたつあらのにおふるひめゆりのなににつくともなき心かな  0867  懺悔業障と云ふ事を まどひつつすぎけるかたのくやしさになくなく身をぞけふはうらむる  0868  遇教待竜花と云ふ事を あさ日まつほどはやみにやまよはまし有明の月のかげなかりせば  0869  寄藤花述懐 にしをまつ心にふぢをかけてこそそのむらさきの雲をおもはめ  0870  見月思西と云ふ事を 山端にかくるる月をながむればわれと心のにしにいるかな  0871  暁念仏と云ふ事を 夢さむるかねのひびきにうちそへてとたびのみなをとなへつるかな  0872  易往無人の文の心を 西へ行く月をやよそにおもふらん心にいらぬ人のためには  0873  人命不停速於山水の文の心を 山川のみなぎる水の音きけばせむるいのちぞおもひしらるる  0874  菩提心論に乃至身命而不悋惜文を あだならぬやがてさとりにかへりけり人のためにもすつる命は  0875  疏文に悟心証心心 まどひきてさとりうべくもなかりつる心をしるは心なりけり  0876  観心 やみはれて心のそらにすむ月はにしの山べやちかくなるらん  0877  序品 ちりまがふはなのにほひをさきだててひかりを法のむしろにぞしく  0878 はなのかをつらなるそでにふきしめてさとれと風のちらすなりけり  0879  深着五欲の文 こりもせずうき世のやみにまがふかな身をおもはぬは心なりけり  0880  譬喩品 のりしらぬ人をぞけふはうしと見るみつのくるまに心かけねば  0881  はかなくなりにける人のあとに、五十日のうちに一品経供養しけるに  化城喩品 やすむべきやどをおもへばなかぞらのたびもなににかくるしかるべき  0882  五百弟子品 おのづからきよき心にみがかれてたまときかくるのりをしりぬる  0883  提婆品 いさぎよきたまを心にみがき出でていはけなき身にさとりをぞえし  0884 これやさはとしつもるまでこりつめし法にあふこのたきぎなりける  0885 いかにしてきくことのかくやすからんあだにおもひてえける法かは  0886  勧持品 あまぐものはるるみそらの月影にうらみなぐさむをばすての山  0887 いかにしてうらみしそでにやどりけんいでがたくみし有明の月  0888  寿量品 わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり  0889 さとりえし心の月のあらはれてわしのたかねにすむにぞ有りける  0890  なき人のあとに一品経くやうしけるに、寿量品を人にかはりて 雲はるるわしのみやまの月影を心すみてや君ながむらん  0891  一心欲見仏の文を人人よみけるに わしの山誰かは月をみざるべき心にかかる雲しはれなば  0892  神力品 行すゑのためにととかぬのりならばなにか我が身にたのみあらまし  0893  普賢品 ちりしきしはなのにほひの名残おほみたたまうかりし法のにはかな  0894  心経 なにごともむなしきのりの心にてつみある身とはつゆもおもはじ  0895  無上菩提の心をよみける わしの山うへくらからぬみねなればあたりをはらふ有明の月  0896  和光同塵結縁始と云ふ事を いかなればちりにまじりてますかがみつかふる人はきよまはるらん  0897  六道歌よみけるに地獄 つみ人のしぬるよもなくもゆるひのたきぎなるらんことぞかなしき  0898  餓鬼 あさ夕のこをやしなひにすときけばくにすぐれてもかなしかるらん  0899  畜生 かぐらうたにくさとりかふはいたけれど猶そのこまになることはうし  0900  修羅 よしなしなあらそふことをたてにしていかりをのみもむすぶ心は  0901  人 ありがたき人になりけるかひありてさとりもとむる心あらなん  0902  天 くものうへのたのしみとてもかひぞなきさてしもやがてすみしはてねば  0903  心におもひける事を にごりたる心の水のすくなきになにかは月の影やどるべき  0904 いかでわれきよくくもらぬ身になりて心の月のかげをみがかん  0905 のがれなくつひにゆくべきみちをさはしらではいかがすぐべかりける  0906 おろかなるこころにのみやまかすべきしとなることもあるなるものを  0907 のにたてるえだなき木にもおとりけりのちの世しらぬ人の心は  0908  五首述懐 身のうさをおもひしらでややみなましそむくならひのなき世なりせば  0909 いづくにか身をかくさましにとひてもうき世にふかき山なかりせば  0910 身のうさのかくれがにせん山ざとは心ありてぞすむべかりける  0911 あはれしるなみだの露ぞこぼれけるくさのいほりをむすぶちぎりは  0912 うかれいづる心は身にもかなはねばいかなりとてもいかにかはせん  0913  高野より京なる人につかはしける すむことは所がらぞといひながらたかのはもののあはれなるかな  0914  仁和寺御室にて、道心逐年深と云ふ事をよまさせ給ひけるに あさくいでし心のみづやたたふらんすみ行くままにふかくなるかな  0915  閑中暁 あらしのみときどきまどにおとづれてあけぬる空の名残をぞ思ふ  0916  ことのほかにあれさむかりけるころ、宮の法印、高野にこもらせ給ひて、この程のさむさはいかがとて、こそで給はせたりける又のあした申しける こよひこそあはれみあつき心ちしてあらしのおとをよ所にききつれ  0917  みたけより笙のいはやへまゐりけるに、もらぬいはやも、とありけんをりおもひいでられて 露もらぬいはやもそではぬれけりときかずはいかがあやしからまし  0918  をざさのとまりと申す所にて、つゆのしげかりければ 分けきつるをざさのつゆにそほちつつほしぞわづらふすみぞめの袖  0919  あざり源賢、よをのがれて高野にすみ侍りける、あからさまに仁和寺へいでて、かへりもまゐらぬことにて、僧都になりぬとききて、いひつかはしける けさの色やわかむらさきにそめてけるこけのたもとをおもひかへして  0920  秋ごろ、風わづらひける人をとぶらひたりける返事に きえぬべき露の命もきみがとふことのはにこそおきゐられけれ  0921  かへし ふきすぐる風しやみなばたのもしみ秋ののもせの露の白玉  0922  院の小侍従、例ならぬ事大事にふししづみて、とし月へにけりときこえて、とぶらひにまかりたりけるに、この程すこしよろしきよし申して、人にもきかせぬ和琴のてひきならしけるをききて ことのねになみだをそへてながすかなたえなましかばと思ふあはれに  0923  返し たのむべきこともなき身をけふまでもなににかかれる玉のをならん  0924  かぜわづらひて山でらにかへりけるに、人人とぶらひて、よろしくなりなばまたとくと申し侍りけるに、おのおのの心ざしをおもひて さだめなし風わづらはぬをりだにもまたこんことをたのむべきよか  0925 あだにちるこのはにつけておもふかなかぜさそふめる露の命を  0926 われなくはこのさと人やあきふかきつゆをたもとにかけて忍ばん  0927 さまざまにあはれおほかるわかれかな心を君がやどにとどめて  0928 かへれども人のなさけにしたはれて心は身にもそはずなりぬる  かへしどもありけり、ききおよばぬはかかず  0929  新院、歌あつめさせおはしますとききて、ときはにためただが歌の侍りけるを、かきあつめてまゐらせけるを、おほはらよりみせにつかはすとて                     寂超 もろともにちることのはをかくほどにやがてもそでのそほちぬるかな  0930  かへし としふれどくちぬときはのことの葉をさぞしのぶらんおほはらのさと  0931  寂超、ためただが歌に我が歌かきぐし、又おとうとの寂然が歌などとりぐして、新院へまゐらせけるを、人にとりつたへてまゐらせさせけりとききて、あにに侍りける想空がもとより いへのかぜつたふばかりはなけれどもなどかちらさぬなげのことのは  0932  返し いへのかぜむねとふくべきこのもとはいまちりなんとおもふことのは  0933  新院百首歌めしけるにたてまつるとて、右大将きんよしのもとよりみせにつかはしたりける、返し申すとて いへのかぜふきつたへけるかひありてちることのはのめづらしきかな  0934  返し にへのかぜふきつたふともわかのうらにかひあることのはにてこそしれ  0935  題しらず こがらしにこの葉のおつるやまざとはなみだこそさへもろくなりけれ  0936 みねわたるあらしはげしき山ざとにそへてきこゆる滝川の水  0937 とふ人もおもひたえたる山ざとのさびしさなくはすみうからまし  0938 あかつきのあらしにたぐふかねのおとを心のそこにこたへてぞきく  0939 またれつるいりあひのかねのおとすなりあすもやあらばきかんとすらん  0940 松かぜの音あはれなる山ざとにさびしさそふるひぐらしのこゑ  0941 たにのまにひとりぞまつも立てりけるわれのみともはなきかとおもへば  0942 いり日さすやまのあなたはしらねども心をかねておくりおきつる  0943 なにとなくくむたびにすむ心かないは井の水にかげうつしつつ  0944 みづのおとはさびしきいほのともなれやみねのあらしのたえまたえまに  0945 うづらふすかりたのひつちおひいでてほのかにてらすみか月のかげ  0946 あらしこすみねのこのまを分けきつつ谷のしみづにやどる月影  0947 にごるべきいは井の水にあらねどもくまばやどれる月やさわがん  0948 ひとりすむいほりに月のさしこずばなにか山べの友にならまし  0949 尋ねきてこととふ人のなきやどにこのまの月の影ぞさしくる  0950 しばのいほはすみうきこともあらましを友なふ月の影なかりせば  0951 かげきえてはやまの月はもりもこず谷はこずゑの雪とみえつつ  0952 雲にただこよひの月をまかせてんいとふとてしもはれぬものゆゑ  0953 月を見るほかもさこそはいとふらめくもただここの空にただよへ  0954 はれまなく雲こそ空にみちにけれ月みることはおもひたえなん  0955 ぬるれども雨もる宿のうれしきはいりこん月をおもふなりけり  0956 分けいりて誰かは人をたづぬべきいはかげ草のしげる山路を  0957 山ざとは谷のかけひのたえだえにみづこひどりのこゑきこゆなり  0958 つがはねどうつればかげをともとしてをしすみけりな山川の水  0959 つらならでかぜにみだれてなくかりのしどろにこゑのきこゆなるかな  0960 はれがたき山路の雲にうづもれてこけのたもとはきりくちにけり  0961 つづらはふはやまはしたもしげければすむ人いかにこぐらかるらん  0962 くまのすむこけのいはやまおそろしみむべなりけりな人もかよはぬ  0963 おとはせでいはにたばしるあられこそよもぎのまどの友となりけれ  0964 あはれにぞものめかしくはきこえけるかれたるならのしばのおちばは  0965 しばかこふいほりのうちはたびだちてすどほるかぜもとまらざりけり  0966 谷風はとをふきあけているものをなにとあらしのまどたたくらん  0967 春あさきすずのまがきにかぜさえてまだ雪きえぬしがらきのさと  0968 みをよどむあまのかはぎしなみたたで月をばみるやさへさみのかみ  0969 ひかりをばくもらぬ月ぞみがきけるいなばにかかるあさひこのたま  0970 いはれののはぎがたえまのひまびまにこのてがしはのはなさきにけり  0971 衣でにうつりしはなの色かれてそでほころぶるはぎが花ずり  0972 をざさはらはずゑの露はたまににていしなき山を行く心ちする  0973 まさきわるひだのたくみやいでぬらん村雨過ぐるかさとりの山  0974 かはあいやまきのすそやまいしたててそま人いかに涼しかるらん  0975 ゆきとくるしみみにしたくかざさきのみちゆきにくきあしがらの山  0976 ねわたしにしるしのさをやたてつらんこびきまちつるこしのなか山  0977 くもとりやしこの山路はさておきてをぐちがはらのさびしからぬか  0978 ふもと行くふな人いかにさむからんくま山だけをおろす嵐に  0979 をりかくるなみのたつかとみゆるかなさすがにきゐるさぎの村とり  0980 わづらはで月にはよるもかよひけりとなりへつたふあぜのほそみち  0981 あれにけるさはだのあぜにくららおひて秋まつべくもなきわたりかな  0982 つたひくるうちひをたえずまかすれば山田は水もおもはざりけり  0983 身にしみしをぎのおとにはかはれどもしぶく風こそげには物うき  0984 こぜりつむさはのこほりのひまたえて春めきそむるさくらゐのさと  0985 くる春はみねにかすみをさきだてて谷のかけひをつたふなりけり  0986 はるになるさくらのえだはなにとなくはななけれどもむつましきかな  0987 空わたる雲なりけりなよしの山はなもてわたる風とみたれば  0988 さらに又かすみに暮るる山路かな春をたづぬるはなのあけぼの  0989 雲もかかれはなとをはるはみてすぎんいづれの山もあだにおもはで  0990 雲かかるやまみればわれもおもひいでに花ゆゑなれしむつび忘れず  0991 山ふかみかすみこめたるしばの庵にこととふ物はうぐひすのこゑ  0992 うぐひすはゐなかの谷のすなれどもだびたるねをばなかぬなりけり  0993 うぐひすのこゑにさとりをうべきかはきくうれしきもはかなかりけり  0994 すぎて行くはかぜなつかしうぐひすになづさひけりな梅の立枝に  0995 山もなきうみのおもてにたなびきてなみの花にもまがふしら雲  0996 おなじくは月のをりさけ山ざくらはなみるよはのたえまあらせじ  0997 ふるはたのそばのたつきにゐるはとの友よぶこゑにすごき夕暮  0998 なみにつきていそわにいますあらがみはしほふむきねをまつにや有るらん  0999 しほかぜにいせのはまをぎふせばまづほすしほなみのあらたむるかな  1000 あらいそのなみにそなれてはふまつはみさごのゐるぞたよりなりける  1001 うらちかみかれたる松のこずゑにはなみのおとをや風はかるらん  1002 あはぢしませとのなごろはたかくともこのしほにだにおしわたらばや  1003 しほぢ行くかこみのともろ心せよまたうづはやきせとわたる程  1004 いそにをるなみのけはしくみゆるかなおきになごろやたかく行くらん  1005 おぼつかないぶきおろしのかざさきにあさづまぶねはあひやしぬらん  1006 くれふねよあさづまわたりけさなせそにぶきのたけに雪しまくめり  1007 あふみぢやのぢのたび人いそがなんやすがはらとてとほからぬかは  1008 さと人のおほぬさこぬさたてなめてむまがたむすぶのべになりけり  1009 いたけもるあま見るときになりにけりえぞかけしまを煙こめたり  1010 もののふのならすすさみはおもだたしあちそのしさりかものいれくび  1011 むつのくのおくゆかしくぞおもほゆるつぼのいしぶみそとのはまかぜ  1012 あさかへるかりゐうなこのむらともははらのをか山こえやしぬらん  1013 すがるふすこぐれがしたのくずまきを吹きうらがへす秋の初かぜ  1014 もろごゑにもりかきみかぞきこゆなるいひあはせてやつまをこふらん  1015 すみれさくよこののつばなさきぬればおもひおもひに人かよふなり  1016 くれなゐの色なりながらたでのほのからしや人のめにもたてぬは  1017 よもぎふはさまことなりや庭のおもにからすあふぎのなぞしげるらん  1018 かりのこす水のまこもにかくろへてかげもちがほになくかはづかな  1019 やなぎはらかはかぜふかぬかげならばあつくやせみのこゑにならまし  1020 ひさぎおひてすずめとなれるかげなれやなみうつきしに風わたりつつ  1021 月のためみさびすゑじとおもひしにみどりにもしく池のうき草  1022 おもふことみあれのしめにひくすずのかなはずばよもならじとぞ思ふ  1023 みくまののはまゆふおふるうらさびて人なみなみにとしぞかさなる  1024 いそのかみふるきすみかへ分けいれば庭のあさぢに露のこぼるる  1025 とをちさすひたのおもてにひくしほにしづむ心ぞかなしかりける  1026 ませにさくはなにむつれてとぶてふのうらやましくもはかなかりけり  1027 うつり行く色をばしらずことのはのなさへあだなるつゆくさのはな  1028 かぜふけばあだにやれ行くばせをばのあればと身をもたのむべきかは  1029 古郷のよもぎはやどのなになればあれ行く庭にまづしげるらん  1030 ふるさとはみし世にもにずあせにけりいづちむかしの人ゆきにけん  1031 しぐるれば山めぐりする心かないつまでとのみうちしをれつつ  1032 はらはらとおつるなみだぞあはれなるたまらずもののかなしかるべし  1033 なにとなくせりときくこそあはれなれつみけん人の心しられて  1034 やま人よ吉野のおくのしるべせよはなもたづねんまたおもひあり  1035 わび人のなみだににたるさくらかなかぜみにしめばまづこぼれつつ  1036 よしの山やがていでじとおもふ身をはなちりなばと人やまつらん  1037 人もこず心もちらで山かげははなをみるにもたよりありけり  1038 かぜの音にものおもふわれか色そめて身にしみわたる秋の夕暮  1039 われなれやかぜをわづらふしのだけはおきふしものの心ぼそくて  1040 こん世にもかかる月をし見るべくばいのちををしむ人なからまし  1041 この世にてながめられぬる月なればまよはんやみもてらさざらめや  Book  山家集下  Subtitle  雑(下)  1042  八月、月のころ、よふけてきたしらかはへまかりけり、よしあるやうなる家の侍りけるに、ことのおとのしければ、たちとまりてききけり、をりあはれに秋風楽と申すがくなりけり、庭を見いれければ、あさぢのつゆに月のやどれるけしきあはれなり、そひたるをぎの風身にしむらんとおぼえて、申しいれてとほりける 秋風のことに身にしむこよひかな月さへすめる庭のけしきに  1043  いづみのぬしかくれて、あとつたへたりける人のもとにまかりて、いづみにむかひてふるきを思ふと云ふ事を、人人よみけるに すむ人の心くまるるいづみかなむかしをいかにおもひいづらん  1044  逢友恋昔と云ふ事も いまよりはむかしがたりはこころせんあやしきまでに袖しをれけり  1045  あきのすゑに、寂然高野にまゐりてくれの秋によせて思ひをのべけるに なれきにし都もうとく成りはててかなしさそふる秋のくれかな  1046  あひしりたりける人の、みちの国へまかりけるに、別歌よみけるに 君いなば月まつとてもながめやらんあづまのかたの夕ぐれの空  1047  大原に良暹がすみける所に、人人まかりて、述懐歌よみて、妻戸に書付けける おほはらやまだすみがまもならはずといひけん人を今あらせばや  1048  大覚寺の滝殿の石ども、閑院にうつされて、あともなくなりたりとききて、見にまかりたりけるに、赤染が、いまだにかかり、とよみけん思ひ出でられて、あはれに覚えければ いまだにもかかりといひしたきつせのそのをりまでは昔なりけん  1049  深夜水声と云ふ事を、高野にて人人よみけるに まぎれつるまどのおらしの声とめてふくるをつぐる水の音かな  1050  竹風驚夢 たまみがく露ぞまくらにちりかかる夢おどろかす竹の嵐に  1051  山家夕と云ふ事を人人よみけるに みねおろすまつのあらしの音に又ひびきをそふる入あひのかね  1052  暮山路 ゆふざれやひばらのみねをこえ行けばすごくきこゆるやまばとのこゑ  1053  海辺重旅宿 なみちかき磯の松がねまくらにてうらがなしきはこよひのみかは  1054  俊恵、天王寺にこもりて、人人ぐして住吉にまゐりて歌よみけるにぐして すみよしの松がねあらふなみのおとをこずゑにかくおきつしほかぜ  1055  寂然、高野にまゐりて、たちかへりて、大原よりつかはしける へだてこしそのとし月もあるものをなごりおほかる峰の秋ぎり  1056  返し したはれしなごりをこそはながめつれ立ちかへりにし峰の秋霧  1057  つねよりも、みちたどらるる程に雪ふかかりける比、高野へまゐるとききて、中宮大夫のもとより、かかる雪にはいかに思ひたつぞ、みやこへはいつ出づべきぞ、と申したりける返事に ゆきわけてふかき山路にこもりなばとしかへりてや君にあふべき  1058  返し わけてゆく山ぢの雪はふかくともとくたちかへれとしにたぐへて  1059  やまごもりして侍りけるに、としをこめてはるになりぬとききけるからに、かすみわたりて、山河のおとひごろにもにずきこえければ かすめどもとしのうちはとわかぬまに春をつぐなる山河の水  1060  としのうちにはるたちて、あめのふりければ はるとしもなほおもはれぬ心かなあめふるとしのここちのみして  1061  野に人のあまた侍りけるを、なにする人にかととひければ、なつむものなりとこたへければ、としのうちにたちかはるはるのしるしのわかなか、さはと思ひてよめる としははや月なみかけてこえにけりむべつみはへししばのわかだち  1062  はるたつ日よみける なにとなく春になりぬときく日より心にかかるみよしののやま  1063  正月元日にあめふりけるに いつしかもはつ春さめぞふりにけるのべのわかなもおひやしぬらん  1064  山ふかくすみ侍りける、春たちぬとききて 山路こそゆきのした水とけざらめ都のそらは春めきぬらん  1065  深山不知春 雪分けてと山がたにの鶯はふもとの里に春やつぐらん  1066  さがにまかりたりけるに、ゆきふかかりけるをみおきていでし、となど申しつかはすとて おぼつかな春の日かずのふるままにさがのの雪はきえやしぬらん  1067  返し                     静忍法師 立ちかへり君やとひくと待つほどにまだきえやらずのべのあは雪  1068  なきたえたりけるうぐひすの、すみ侍りけるたににこゑのしければ おもひはててふるすにかへる鶯はたびのねぐらやすみうかりつる  1069  はるの月あかかりけるに、花まだしきさくらの枝を、かぜのゆるがしけるをみて 月みればかぜに桜のえだなえてはなよとつぐる心ちこそすれ  1070  くにぐにめぐりまはりて、春かへりて、よしののかたへまゐらんとしけるに、人の、このほどはいづくにかあととむべきと申しければ 花をみしむかしの心あらためてよしのの里にすまんとぞ思ふ  1071  みやたてと申しけるはした物の、としたかくなりて、さまかへなどして、ゆかりにつきて、よしのにすみ侍りけり、おもひかけぬやうなれども、供養をのべんれうにとて、くだ物をつかはしたりけるに、花と申すものの侍りけるをみてつかはしける おもひつつはなのくだ物つみてけり吉野のひとのみやたてにして  1072  かへし                     みやたて こころざしふかくはこべるみやたてをさとりひらけん春にたぐへよ  1073  さくらにならびてたてりける柳に、花のちりかかりけるをみて 吹きみだる風になびくとみる程に春をむすべる青柳の糸  1074  寂然、もみぢのさかりに高野にまゐりていでにけり、またのとしの花のをりに申しつかはしける もみぢみしたかののみねの花ざかりたのめぬ人のまたるるやなに  1075  かへし                     寂然 共にみしみねのもみぢのかひなれや花のをりにも思ひ出でける  1076  天王寺へまゐりたりけるに、松にさぎのゐたりけるを、月のひかりにみてよめる にはよりはさぎゐる松のこずゑにぞ雪はつもれる夏の夜の月  1077  夏、熊野へまゐりけるに、いはたと申す所にすずみて、下向しける人につけて、京へ、西住上人のもとへつかはしける まつがねのいはたの岸の夕すずみ君があれなとおもほゆるかな  1078  かづらきをすぎ侍りけるに、をりにもあらぬもみぢの見えけるを、なにぞととひければ、まさきなりと申しけるを聞きて かづらきやまさきの色は秋ににてよそのこずゑはみどりなるかな  1079  高野よりいでたりけるに、かくくゑん阿闍梨きかぬさまなりければ、きくをつかはすとて くみてなど心かよはばとはざらんいでたるものをきくの下水  1080  返し                     かくくゑん たにふかくすむかとおもひてとはぬまに恨をむすぶ菊の下水  1081  たびまかりけるに、入あひをききて おもへただ暮れぬとききし鐘のおとは都にてだにかなしかりしを  1082  秋、とほく修行し侍りけるに、ほどへけるところより、侍従大納言成通のもとへ申送りける あらし吹くみれのこのはにともなひていづちうかるる心なるらん  1083  返し なにとなくおつるこのはも吹くかぜにちりゆくかたはしられやはせぬ  1084  宮の法印、高野にこもらせ給ひて、おぼろけにてはいでじと思ふに、修行のせまほしきよしかたらせ給ひけり、千日はてて、みたけにまゐらせ給ひて、いひつかはしける あくがれしこころを道のしるべにて雲にともなふ身とぞ成りぬる  1085  返し やまのはに月すむまじとしられにき心のそらになるとみしより  1086  としごろ申しなれたりける人に、とほく修行するよし申してまかりたりけり、なごりおほくてたちけるに、もみぢのしたりけるをみせまほしくて、まちつるかひなく、いかにと申しければ、このもとにたちよりてよみける こころをばふかきもみぢの色にそめてわかれてゆくやちるに成るらん  1087  するがのくにくのの山でらにて、月をみてよみける なみだのみかきくらさるるたびなれやさやかにみよと月はすめども  1088  題不知 身にもしみ物あはれなるけしきさへあはれをせむる風のおとかな  1089 いかでかはおとに心のすまざらんくさ木もなびくあらしなりけり  1090 松かぜはいつもときはに身にしめどわきてさびしきゆふぐれのそら  1091  とほく修行に思ひたち侍りけるに、遠行の別と云ふ事を、人人まできてよみ侍りしに ほどふればおなじみやこのうちだにもおぼつかなさはとはまほしきを  1092  としひさしくあひたのみたりける同行にはなれて、とほく修行してかへらずもやと思ひける、なにとなくあはれにて さだめなしいくとせ君になれなれてわかれをけふはおもふなるらん  1093  としごろききわたりける人に、はじめて対面申してかへりけるあしたに わかるともなるるおもひやかさねましすぎにしかたのこよひなりせば  1094  修行して伊せにまかりけるに、月のころみやこ思ひ出でられて みやこにも旅なる月のかげをこそおなじくも井の空にみるらめ  1095  そのかみまゐりつかうまつりけるならひに、世をのがれてのちもかもにまゐりけり、としたかくなりて、四国のかたへ修行しけるに、またかへりまゐらぬこともやとて、仁安二年十月十日の夜まゐり、幣まゐらせけり、うちへもいらぬ事なれば、たなうのやしろに、とりつぎてまゐらせ給へとて、心ざしけるに、このまの月ほのぼのに、つねよりも神さびあはれにおぼえて、よみける かしこまるしでになみだのかかるかな又いつかはとおもふあはれに  1096  はりまの書写へまゐるとて、野中のし水をみける事、ひとむかしになりにけり、としへてのち、修行すとてとほりけるに、おなじさまにてかはらざりければ むかし見しのなかのし水かはらねばわがかげをもや思ひ出づらん  1097  四国の方へぐしてまかりたりける同行、みやこへかへりけるに かへりゆく人のこころを思ふにもはなれがたきは都なりけり  1098  ひとりみおきて、かへりまかりなんずるこそあはれに、いつかみやこへはかへるべき、など申しければ 柴のいほのしばしみやこへかへらじとおもはんだにもあはれなるべし  1099  たびの歌よみけるに 草枕たびなる袖におく露をみやこの人や夢にみゆらん  1100 こえきつる都へだつる山さへにはてはかすみに消えぬめるかな  1101 わたのはらはるかに波をへだてきて都にいでし月をみるかは  1102 わたの原波にも月はかくれけりみやこの山を何いとひけん  1103  西の国の方へ修行してまかり侍りけるに、みづのと申す所にぐしならひたる同行の侍りけるが、したしきものの例ならぬ事侍るとて、ぐせざりければ やましろのみづのみくさにつながれてこまものうげにみゆる旅かな  1104  大みねのしんせんと申す所にて、月をみてよみける ふかき山にすみける月を見ざりせば思出もなき我が身ならまし  1105 みねのうへもおなじ月こそてらすらめ所がらなるあはれなるべし  1106 月すめばたににぞくもはしづむめるみね吹きはらふ風にしかれて  1107  をばすてのみねと申す所のみわたされて、思ひなしにや、月ことに見えければ をばすてはしなのならねどいづくにも月すむみねの名にこそ有りけれ  1108  こいけと申すすくにて いかにしてこずゑのひまもをもとめえてこいけにこよひ月のすむらん  1109  ささのすくにて いほりさすくさのまくらに友なひてささの露にもやどる月かな  1110  へいちと申すすくにて、月をみけるに、こずゑの露のたもとにかかりければ こずゑもる月もあはれをおもふべしひかりにぐして露のこぼるる  1111  あづまやと申す所にて、しぐれののち月をみて 神無月しぐれはるればあづまやの峰にぞ月はむねとすみける  1112 かみな月たににぞ雲はしぐるめる月すむ峰はあきにかはらで  1113  ふるやと申すすくにて 神無月しぐれふるやにすむ月はくもらぬかげもたのまれぬかな  1114  平等院の名かかれたるそとばに、もみぢのちりかかりけるをみて、はなよりほかの、とありける、ひとむかしとあはれにおぼえてよめる あはれとてはなみしみねになをとめてもみぢぞけふはともにふりける  1115  千くさのたけにて わけて行く色のみならずこずゑさへ千くさのたけは心そみけり  1116  ありのとれたりと申す所にて ささふかみきりこすくきをあさたちなびきわづらふありのとわたり  1117  行者がへり、ちごのとまり、つづきたるすくなり、春の山ぶしはびやうぶだてと申す所をたひらかにすぎんことをばただ思ひて、行者、ちごのとまりにて、思ひわづらふなるべし びやうぶにや心をたてておもひけん行者はかへりちごはとまりぬ  1118  三重のたきををがみけるに、ことにたふとくおぼえて、三業のつみもすすがるるここちしければ 身につもることばのつみもあらはれて心すみぬるみかさねのたき  1119  天ぽふりんのたけと申す所にて、釈迦の説法の座のいしと申す所をがみて こここそはのりとかれける所よときくさとりをもえつるけふかな  1120  修行してとほくまかりけるをり、人の思ひへだてたるやうなる事の侍りければ よしさらばいくへともなく山こえてやがても人にへだてられなん  1121  おもはずなる事おもひたつよしきこえける人のもとへ、高野よりいひつかはしける しをりせじなほ山ふかくわけいらんうき事きかぬ所ありやと  1122  しほゆにまかりたりけるに、ぐしたりけるひと、九月つごもりにさきにのぼりければ、つかはしける人にかはりて あきはくれ君はみやこへかへりなばあはれなるべき旅の空かな  1123  返し                     大宮の女房加賀 君をおきてたち出づる空の露けさに秋さへくるる旅のかなしさ  1124  しほゆいでて、京へかへりまできて、ふるさとのはな、しもがれける、あはれなりけり、いそぎかへりし人のもとへ、又かはりて 露おきし庭のこはぎもかれにけりいづら都に秋とまるらん  1125  かへし                     おなじ人 したふ秋は露もとまらぬ都へとなどていそぎしふなでなるらん  1126  みちのくにへ修行してまかりけるに、白川のせきにとどまりて、ところがらにや、つねよりも月おもしろくあはれにて、能因が、秋風ぞ吹く、と申しけんをりいつなりけんと思ひいでられて、なごりおほくおぼえければ、せきやのはしらにかきつけける しらかはのせきやを月のもるかげは人の心をとむるなりけり  1127  せきにいりて、しのぶと申すわたり、あらぬよのことにおぼえてあはれなり、みやこいでし日かずおもひつづけられて、かすみとともに、と侍ることのあと、たどりまできにける心ひとつに思ひしられてよみける みやこいでてあふさかこえしをりまでは心かすめし白川のせき  1128  たけくまのまつもむかしになりたりけれども、あとをだにとてみにまかりてよみける かれにける松なきあとのたけくまはみきといひてもかひなかるべし  1129  ふりりたるたなはしをもみぢのうづみたりける、れたりにくくてやすらはれて、人にたづねければ、おもはくのはしと申すはこれなり、と申しけるをききて ふままうきもみぢのにしきちりしきて人もかよはぬおもはくのはし  しのぶのさとよりおくへ二日ばかりいりてあるはしなり  1130  なとり河をわたりけるに、きしのもみぢのかげをみて なとり河きしのもみぢのうつるかげはおなじにしきをそこにさへしく  1131  十月十二日、ひらいづみにまかりつきたりけるに、ゆきふり、あらしはげしく、ことのほかにあれたりけり、いつしか衣河みまほしくて、まかりむかひてみけり、かはのきしにつきて、衣河の城しまはしたる、ことがらやうかはりてものをみる心ちしけり、みぎはこほりてとりわきさえければ とりわきて心もしみてさえぞわたる衣河みにきたるけふしも  1132  又のとしの三月に出羽国にこえて、たきの山と申す山寺に侍りけるに、さくらのつねよりもうすくれなゐの色こき花にて、なみたてりけるを、てらの人人も見きようじければ たぐひなきおもひいではのさくらかなうすくれなゐの花のにほひは  1133  下野国にてしばのけぶりをみて みやこちかきをの大はらを思ひ出づるしばのけぶりのあはれなるかな  1134  おなじたびにて かぜあらきしばの庵はつねよりもねざめぞものはかなしかりける  1135  津の国にやまもとと申す所にて、人をまちて日かずへければ なにとなくみやこのかたをきくそらはむつまじくてぞながめられける  1136  新院さぬきにおはしましけるに、たよりにつけて女房のもとより みづぐきのかきながすべきかたぞなき心のうちはくみてしらなん  1137  かへし ほどとほみかよふ心のゆくばかりなほかきながせみづぐきの跡  1138  又、女房つかはしける いとどしくうきにつけてもたのむかな契りし道のしるべたがふな  1139 かかりける涙にしづむ身のうさを君ならで又誰かうかべん  1140  かへし たのむらんしるべもいさやひとつよの別にだにもまどふ心は  1141 ながれ出づる涙にけふはしづむともうかばんすゑを猶思はなん  1142  とほく修行する事ありけるに、菩提院のさきの斎宮にまゐりたりけるに、人人わかれの歌つかうまつりけるに さりともと猶あふことをたのむかなしでの山ぢをこえぬわかれは  1143  おなじをり、つぼのさくらのちりけるをみて、かくなんおぼえ侍ると申しける この春は君にわかれのをしきかな花のゆくへを思ひ忘れて  1144  かへしせよとうけ給はりて、ひあふぎにかきてさしいでける                     女房六角の局 君がいなんかたみにすべき桜さへ名残りあらせず風さそふなり  1145  西国へ修行してまかりけるをり、こじまと申す所に、八幡のいははれたまひたりけるに、こもりたりけり、としへて又そのやしろを見けるに、松どものふるきになりたりけるをみて むかし見し松はおい木に成りにけり我がとしへたるほどもしられて  1146  山里へまかりて侍りけるに、竹の風の、をぎにまがへてきこえければ 竹のおとも荻ふくかぜのすくなきにたぐへて聞けばやさしかりけり  1147  世のがれてさがにすみける人のもとにまかりて、のちのよの事おこたらずつとむべきよし、申してかへりけるに、竹のはしらを立てたりけるをみて よよふとも竹のはしらの一すぢに立てたるふしはかはらざらなん  1148  題不知 あばれたる草のいほりのさびしさは風よりほかにとふ人ぞなき  1149 あはれなりよりよりしらぬのの末にかせぎを友になるるすみかは  1150  高野にこもりたりける人を、京より、なにごとか又いつかいづべきと申したるよしききて、其人にかはりて 山水のいついづべしとおもはねば心ぼそくてすむとしらずや  1151  松のたえまより、わづかに月のかげろひて見えけるをみて かげうすみ松のたえまをもりきつつ心ぼそしやみかづきのそら  1152  木蔭納涼と云ふ事を人人よみけるに けふもまた松のかぜふくをかへゆかんきのふすずみしともにあふやと  1153  いりひのかげかくれけるままに、月のまどにさしいりければ さしきつるまどのいり日をあらためてひかりをかふる夕づくよかな  1154  月蝕を題にて歌よみけるに いむといひてかげにあたらぬこよひしもわれて月みるなやたちぬらん  1155  寂然入道、大原にすみけるにつかはしける 大原はひらのたかねのちかければゆきふるほどをおもひこそやれ  1156  かへし おもへただみやこにてだに袖さえしひらのたかねの雪のけしきを  1157  高野のおくの院のはしのうへにて、月あかかりければ、もろともにながめあかして、そのころ西住上人京へいでにけり、その夜の月わすれがたくて、又おなじはしの月のころ、西住上人のもとへいひつかはしける こととなく君こひわたるはしのうへにあらそふ物は月の影のみ  1158  かへし                     西住 おもひやるこころはみえではしの上にあらそひけりな月の影のみ  1159  忍西入道、よしの山のふもとにすみける、あきの花いかにおもしろかるらんとゆかしう、と申しつかはしたりける返事に、いろいろの花ををりあつめて しかのねや心ならねばとまるらんさらではのべをみな見するかな  1160  かへし しかのたつのべのにしきのきりはしはのこりおほかる心ちこそすれ  1161  人あまたして、ひとりにかくして、あらぬさまにいひなしけることの侍りけるをききて、よみける ひとすぢにいかでそま木のそろひけんいつはりつくる心たくみに  1162  陰陽頭に侍りけるものに、ある所のはした物もの申しけり、いとおもふやうにもなかりければ、六月つごもりにつかはしけるにかはりて わがためにつらき心をみなつきのてづからやがてはらへうてなん  1163  ゆかりありける人の、新院のかんだうなりけるを、ゆるしたぶべきよし、申しいれたりける御返事に もがみ川なべてひくらんいなぶねのしばしがほどはいかりおろさん  1164  御返したてまつりける つよくひくつなでとみせよもがみ川そのいなぶねのいかりをさめて  かく申したりければ、ゆるしたびてけり  1165  屏風の絵を人人よみけるに、うみのきはに、をさなくいやしきもののある所を いそなつむあまのさをとめ心せよおき吹く風になみたかくなる  1166  同じ絵に、とまのうちに人の子おどろきたる所を いそによるなみに心のあらはれてねざめがちなるとまやかたかな  1167  庚申の夜、孔子くばりをして歌よみけるに、古今、後撰、拾遺、これを、むめ、さくら、やまぶき、によせたる題をとりてよみける  古今、梅によす くれなゐのいろこきむめををるる人の袖にはふかきかやとまるらん  1168  後撰、さくらをよす 春風の吹きおこせむに桜花となりくるしくぬしやおもはん  1169  拾遺に、山ぶきをよす やまぶきのはなさくゐでのさとこそはやしうゐたりとおもはざらなん  1170  いはひ ひまもなくふりくる雨のあしよりも数かぎりなき君がみよかな  1171 ち世ふべきものをさながらあつむとも君がよはひをしらんものかは  1172 こけうづむゆるがぬいはのふかきねは君がちとせをかためたるべし  1173 むれたちてくも井にたづのこゑすなり君がちとせや空にみゆらん  1174 さはべよりすだちはじむるつるのこは松のえだにやうつりそむらん  1175 おほうみのしほひてやまになるまでに君はかはらぬ君にましませ  1176 君が世のためしになにをおもはましかはらぬ松の色なかりせば  1177 君がよはあまつそらなるほしなれや数もしられぬここちのみして  1178 ひかりさす三笠の山の朝日こそげによろづ世のためしなりけれ  1179 よろづよのためしにひかんかめ山のすそのの原にしげる小松を  1180 かずかくる波にしづえのいろ染めて神さびまさるすみよしの松  1181 若葉さすひらのの松はさらに又枝にやちよの数をそふらん  1182 竹の色もきみがみどりにそめられていくよともなくひさしかるべし  1183  むまごまうけてよろこびける人のもとへいひつかはしける 千世ふべきふたばの松のおひさきをみる人いかにうれしかるらん  1184  五葉のしたに、ふたばなる小松どもの侍りけるを、ねのびにあたりける日、をりびつにひきうゑて、京へつかはすとて きみがためごえふのねの日しつるかなたびたびちよをふべきしるしに  1185  ただのまつをひきそへて、このまつの思ひ合はする事申すべくなんとて ねのびするのべのわれこそぬしなるをごえふなしとてひく人のなき  1186  世につかへぬべきゆかりあまたありける人の、さもなかりけることを思ひて、きよみづにとしこしにこもりたりけるに、つかはしける このはるはえだえだまでにさかゆべしかれたる木だに花はさくめり  1187  これもぐして あはれにぞふかきちかひのたのもしききよきながれのそこくまれつつ  1188  八条院、宮と申しけるをり、しらかはどのにて、女房むしあはせられけるに、人にかはりてむしぐして、とりいだしける物に、水に月のうつりたるよしをつくりて、その心をよみける ゆくすゑの名にやながれんつねよりも月すみわたる白川の水  1189  内にかひあはせせんとせさせ給ひけるに、人にかはりて かぜたたで波ををさむるうらうらにこがひをむれてひろふなりけり  1190 なにはがたしほひばむれて出でたたんしらすのさきのこがひひろひに  1191 かぜふけばはなさくなみのをるたびに桜がひよるみしまえのうら  1192 なみあらふ衣のうらの袖がひをみぎはに風のたたみおくかな  1193 なみかくるふきあげのはまのすだれがひ風もぞおろすいそぎひろはん  1194 しほそむるますほのこがひひろふとていろのはまとはいふにやあるらん  1195 なみふするたけのとまりのすずめがひうれしきよにもあひにけるかな  1196 なみよするしららのはまのからすがひひろひやすくもおもほゆるかな  1197 かひありなきみがみそでにおほはれて心にあはぬこともなきよは  1198  入道寂然、大原に住み侍りけるに、高野よりつかはしける やまふかみさこそあらめときこえつつおとあはれなる谷の川水  1199 山ふかみまきのはわくる月かげははげしきもののすごきなりけり  1200 山ふかみまどのつれづれとふものはいろづきそむるはじのたちえだ  1201 山ふかみこけのむしろのうへにゐて何心なくなくましらかな  1202 やまふかみいはにしだるる水ためんかつがつおつるとちひろふほど  1203 山ふかみけぢかきとりのおとはせで物おそろしきふくろふのこゑ  1204 やまふかみこぐらきみねのこずゑよりものものしくもわたる嵐か  1205 山ふかみほたきるなりと聞えつつところにぎはふをののおとかな  1206 やまふかみいりてみと見るものはみなあはれもよほすけしきなるかな  1207 山ふかみなるるかせぎのけぢかさによにとほざかるほどぞしらるる  1208  かへし                     寂然 あはれさはかうやときみもおもひやれ秋くれがたのおほ原のさと  1209 ひとりすむおぼろのしみづともとては月をぞすますおほはらのさと  1210 すみがまのたなびくけぶり一すぢに心ぼそきは大原のさと  1211 なにとなくつゆぞこぼるるあきの田にひたひきならす大原のさと  1212 水のおとはまくらにおつるここちしてねざめがちなる大原のさと  1213 あだにふく草のいほりのあはれよりそでに露おく大原のさと  1214 やまかぜにみねのささぐりはらはらと庭におちしく大原の里  1215 ますらをがつまきにあけびさしそへて暮るればかへる大原のさと  1216 むぐらはふかどはこのはにうづもれて人もさしこぬ大原の里  1217 もろともに秋もやまぢもふかければしかぞかなしき大原の里  1218  承安元年六月一日、院、熊野へまゐらせ給ひける跡に、すみよしに御幸ありけり、修行しまはりて、二日、かの社にまゐりたりけるに、すみのえあたらしくしたてたりけるを見て、後三条院のみゆき、神、思ひ出で給ひけんとおぼえてよみける たえたりし君が御幸をまちつけてかみいかばかりうれしかるらん  1219  松のしづえをあらひけんなみ、いにしへにかはらずやとおぼえて いにしへの松のしづえをあらひけん波を心にかけてこそみれ  1220  斎院おはしまさぬ比にて、まつりのかへさもなかりければむらさきのもとほるとて むらさきの色なき比の野べなれやかたまつりにてかけぬあふひは  1221  きたまつりのころ、かもにまゐりたりけるに、をりうれしくて、またるるほどぞつかひまゐりたり、はし殿につきて、ついふしをがまるるまではさる亊にて、まひ人のけしきふるまひ、みしよのことともおぼえず、あづまあそびにことうつ陪従もなかりけり、さこそすゑのよならめ、神いかにみたまふらむと、はづかしきここちしてよみ侍りける 神のよもかはりにけりと見ゆるかなそのことわざのあらずなるにも  1222  ふけけるままに、みたらしのおとかみさびてきこえければ みたらしのながれはいつもかはらじをすゑにしなればあさましのよや  1223  伊勢にまかりたりけるに、大神宮にまゐりてよみける さかきばに心をかけんゆふしでておもへば神もほとけなりけり  1224  斎院おりさせ給ひて、本院のまへをすぎけるに、人のうちへいりければ、ゆかしくおぼえて、ぐして見侍りけるに、かうやはありけんとあはれにおぼえて、おりておはしましける所へ、せんじのつぼねのもとへ申しつかはしける 君すまぬみうちはあれてありすがはいむすがたをもうつしつるかな  1225  かへし おもひきやいみこし人のつてにしてなれしみうちにきかん物とは  1226  伊せに斎王おはしまさで、としへにけり、斎宮、こだちばかりさかと見えて、ついかきもなきやうになりたりけるを見て いつかまたいつきの宮のいつかれてしめのみうちにちりをはらはん  1227  世の中に大事いできて、新院あらぬさまにならせおはしまして、御ぐしおろして、仁和寺の北院におはしましけるにまゐりて、けんげんあざりいであひたり、月あかくてよみける かかるよにかげもかはらずすむ月をみる我がみさへうらめしきかな  1228  さぬきにおはしましてのち、歌と云ふ事のよにいときこえざりければ、寂然がもとへいひつかはしける ことのはのなさけたえにし折節にありあふ身こそかなしかりけれ  1229  かへし                     寂然 しきしまやたえぬる道になくなくも君とのみこそ跡を忍ばめ  1230  さぬきにて、御こころひきかへて、のちのよの御つとめひまなくせさせおはしますとききて、女房のもとへ申しける、この文をかきぐして、若人不嗔打、以何修忍辱 世の中をそむくたよりやなからましうき折ふしに君あはずして  1231  これもついでにぐしてまゐらせけれ あさましやいかなるゆゑのむくいにてかかることしも有る世なるらん  1232 ながらへてつひにすむべき都かは此世はよしやとてもかくても  1233 まぼろしの夢をうつつにみる人はめもあはせでや世をあかすらん  1234  かくてのち、人のまゐりけるにつけてまゐらせける 其日よりおつる涙をかたみにておもひ忘るる時のまもなし  1235  かへし                     女房 めの前にかはりはてにし世のうさに涙を君にながしけるかな  1236 松山の涙はうみにふかくなりてはちすの池にいれよとぞ思ふ  1237 波のたつ心のみづをしづめつつさかんはちすを今はまつかな  1238  老人述懐と云ふ事を人人よみけるに 山深みつゑにすがりている人の心のおくのはづかしきかな  1239  左京大夫俊成、歌あつめらるると聞きて、歌つかはすとて はなならぬことのはなれどおのづから色もやあると君ひろはなん  1240  かへし                     俊成 世をすてて入りにし道のことのはぞあはれも深き色もみえける  1241  恋百十首 おもひあまりいひ出でしこそ池水の深き心のほどはしられめ  1242 なき名こそしかまのいちにたちにけれまだあひそめぬ恋するものを  1243 つつめども涙の色にあらはれてしのぶ思ひは袖よりもちる  1244 わりなしや我も人めをつつむまにしひてもいはぬ心づくしは  1245 なかなかにしのぶけしきやしるからんかはる思ひにならひなき身は  1246 けしきをばあやめて人のとがむとも打ちまかせてはいはじとぞ思ふ  1247 心にはしのぶとおもふかひもなくしるきは恋の涙なりけり  1248 色に出でていつより物はおもふぞととふ人あらばいかがこたへん  1249 あふ事のなくてやみぬる物ならば今みよ世にもありやはつると  1250 うき身とてしのばばこひのしのばれて人のなたてに成りもこそすれ  1251 みさをなる涙なりせばから衣かけても人にしられましやは  1252 なげきあまり筆のすさみにつくせども思ふばかりはかかれざりけり  1253 わがなげく心のうちのくるしさも何にたとへて君にしられん  1254 いまはただしのぶ心ぞつつまれぬなげかば人や思ひしるとて  1255 こころには深くしめども梅の花をらぬにほひはかひなかりけり  1256 さりとよとほのかに人をみつれどもおぼえぬ夢のここちこそすれ  1257 きえかへりくれまつ袖ぞしをれぬるおきつる人は露ならねども  1258 いかにせんそのさみだれのなごりよりやがてをやまぬ袖のしづくを  1259 さるほどの契りは君に有りながらゆかぬ心のくるしきやなぞ  1260 いまはさはおぼえぬ夢になしはてて人にかたらでやみねとぞ思ふ  1261 をる人のてにはとまらで梅の花たがうつりがにならんとすらん  1262 うたたねの夢をいとひし床の上にけさいかばかりおきうかるらん  1263 ひきかへてうれしかるらん心にもうかりしことは忘れざらなん  1264 七夕はあふをうれしとおもふらん我は別れのうきこよひかな  1265 おなじくはさきそめしよりしめおきて人にをられぬ花と思はん  1266 朝露にぬれにし袖をほす程にやがてゆふだつ我が袂かな  1267 まちかねて夢にみゆやとまどろめばねざめすすむる荻のうはかぜ  1268 つつめども人しる恋やおほゐがは井せきのひまをくぐる白波  1269 あふまでの命もがなとおもひしにくやしかりける我が心かな  1270 いまよりはあはで物をばおもふとものちうき人に身をばまかせじ  1271 いつかはとこたへんことのねたきかな思ひしらずとうらみきかせば  1272 袖の上の人めしられしをりまではみさをなりける我が涙かな  1273 あやにくに人めもしらぬ涙かなたへぬ心にしのぶかひなく  1274 荻のおとは物おもふわれか何なればこぼるる露の袖におくらん  1275 草しげみさはにぬはれてふすしぎのいかによそだつ人の心ぞ  1276 あはれとて人の心のなさけあれな数ならぬにはよらぬなげきを  1277 いかにせんうき名をばよにたてはてて思ひもしらぬ人の心を  1278 わすられんことをばかねて思ひにき何おどろかす涙なるらん  1279 とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬここちこそすれ  1280 つらからん人ゆゑ身をばうらみじと思ひしことも叶はざりけり  1281 今さらに何かは人もとがむべきはじめてぬるる袂ならねば  1282 わりなしな袖になげきのみつままに命をのみもいとふ心は  1283 色ふかき涙の川のみなかみは人を忘れぬこころなりけり  1284 待ちかねてひとりはふせどしきたへの枕ならぶるあらましぞする  1285 とへかしななさけは人の身のためをうき我とても心やはなき  1286 ことのはのしもがれにしにおもひにき露のなさけもかからましとは  1287 よもすがらうらみを袖にたたふれば枕に波の音ぞきこゆる  1288 ながらへて人のまことを見るべきに恋に命のたえんものかは  1289 たのめおきしそのいひごとやあだなりし波こえぬべき末の松山  1290 かはのせによにきえやすきうたかたの命をなぞや君がたのむる  1291 かりそめにおく露とこそ思ひしか秋にあひぬる我が袂かな  1292 おのづからありへばとこそ思ひつれ憑なくなる我が命かな  1293 身をもいとひ人のつらさもなげかれて思ひ数あるころにも有るかな  1294 すがのねのながく物をばおもはじとたむけし神にいのりしものを  1295 うちとけてまどろまばやはから衣よなよなかへすかひも有るべき  1296 我がつらきことにをなさんおのづから人めをおもふ心ありやと  1297 ことといへばもてはなれたるけしきかなうららかなれや人のこころの  1298 物思ふ袖になげきのたけ見えてしのぶしらぬは涙なりけり  1299 草のはにあらぬたもとも物思へば袖に露おく秋の夕暮  1300 あふことのなきやまひにて恋ひしなばさすがに人やあはれと思はん  1301 いかにぞやいひやりたりしかたもなく物をおもひて過ぐる比かな  1302 わればかり物おもふ人や又もあるともろこしまでも尋ねてしがな  1303 君にわれいかばかりなる契りありて二なく物を思ひそめけん  1304 さらぬだにもとの思ひのたえぬみになげきを人のそふるなりけり  1305 我のみぞわが心をばいとほしむあはれぶ人のなきにつけても  1306 恨みじとおもふ我さへつらきかなとはで過ぎぬる心づよさを  1307 いつとなきおもひはふじのけぶりにて打ちふす床やうき島がはら  1308 これもみな昔のことといひながらなど物おもふ契りなりけん  1309 などかわれつらき人ゆゑ物をおもふ契りをしもはむすびおきけん  1310 くれなゐにあらふ袂のこき色はこがれて物をおもふなりけり  1311 せきかねてさはとてながす滝つせにわくしら玉は涙なりけり  1312 なげかじとつつみし比の涙だにうちまかせたるここちやはせし  1313 今はわれ恋せん人をとぶらはん世にうきこととおもひしられぬ  1314 ながめこそうき身のくせに成りはてて夕ぐれならぬをりもせらるれ  1315 おもへどもおもふかひこそなかりけれ思ひもしらぬ人をおもへば  1316 あやひねるささめのこみのきぬにきん涙の雨もしのぎがてらに  1317 なぞもかくことあたらしく人のとふ我物おもふふりにしものを  1318 しなばやと何おもふらんのちの世も恋はよにうきこととこそきけ  1319 わりなしやいつをおもひのはてにして月日を送る我がみなるらん  1320 いとほしやさらに心のをさなびてたまぎれらるる恋もするかな  1321 君したふ心のうちはちこめきて涙もろくもなるわが身かな  1322 なつかしき君が心のいろをいかで露もちらさで袖につつまん  1323 いくほどもながらふまじき世の中に物をおもはでふるよしもがな  1324 いつかわれちりつむ床をはらひあげてこんと憑めん人をまつべき  1325 よだけたつ袖にたたへて忍ぶかな袂のたきにおつる涙を  1326 うきによりつひに朽ちぬる我が袖を心づくしに何しのびけん  1327 こころから心に物を思はせて身をくるしむる我が身なりけり  1328 ひとりきてわが身にまとふから衣しほしほとこそなきぬらさるれ  1329 いひたててうらみばいかにつらからんおもへばうしや人の心は  1330 なげかるる心のうちのくるしさを人のしらばや君にかたらん  1331 人しれぬ涙にむせぶゆふぐれはひきかづきてぞ打ちふされける  1332 おもひきやかかる恋路に入りそめてよくかたもなき歎きせんとは  1333 あやふさに人めぞつねによがれける岩のかどふむほきのかけ道  1334 しらざりき身にあまりたる歎きしてひまなく袖をしぼるべしとは  1335 吹く風に露もたまらぬくずのはのうらがへれとは君をこそ思へ  1336 われからともにすむむしのなにしおへば人をばさらに恨みやはする  1337 むなしくてやみぬべきかなうつせみのこの身からにて思ふ歎きは  1338 つつめども袖よりほかにこぼれいでてうしろめたきは涙なりけり  1339 われながらうたがはれぬる心かなゆゑなく袖をしぼるべきかは  1340 さることのあるべきかはとしのばれて心いつまでみさをなるらん  1341 とりのこしおもひもかけぬ露はらひあなくらたかのわれが心や  1342 君にそむ心の色のふかさにはにほひもさらにみえぬなりけり  1343 さもこそは人めおもはず成りはててあなさまにくの袖のしづくや  1344 かつすすぐ沢のこぜりのねをしろみきよげに物をおもはずもがな  1345 いかさまにおもひつづけてうらみましひとへにつらき君ならなくに  1346 うらみてもなぐさめてまし中中につらくて人のあはぬと思へば  1347 うちたえで君にあふ人いかなれやわが身もおなじよにこそはふれ  1348 とにかくにいとはまほしきよなれども君がすむにもひかれぬるかな  1349 なにごとにつけてかよをばいとはましうかりし人ぞけふはうれしき  1350 あふとみしそのよの夢のさめであれなながきねぶりはうかるべけれど  この歌、題も又人にかはりたることどもも、ありげなれども、かかず  この歌ども、やまざとなる人のかたるにしたがひて、かきたるなり、さればひがことどもや、むかしいまのこと、とりあつめたれば、とき、をりふしたがひたることども  1351  このしふをみてかへしけるに 院の少納言のつぼね まきごとにたまのこゑせしたまづさのたぐひは又も有りけるものを  1352  かへし よしさらばひかりなくともたまといひてことばのちりは君みがかなん  1353  さぬきにまうでて、まつやまのつと申す所に、院おはしましけん御あとたづねけれど、かたもなかりければ まつ山のなみにながれてこしふねのやがてむなしく成りにけるかな  1354 まつ山のなみのけしきはかはらじをかたなく君はなりましにけり  1355  しろみねと申しける所に、御はかの侍りけるにまゐりて よしやきみむかしのたまのゆかとてもかからん後は何にかはせん  1356  おなじくにに、大師のおはしましける御あたりの山に、いほりむすびてすみけるに、月いとあかくて、うみのかたくもりなく見えければ くもりなき山にてうみの月みればしまぞこほりのたえまなりける  1357  すみけるままに、いほりいとあはれにおぼえて いまよりはいとはじ命あればこそかかるすまひのあはれをもしれ  1358  いほりのまへに、まつのたてりけるをみて ひさにへてわが後のよをとへよまつ跡しのぶべき人もなきみぞ  1359 ここをまたわれすみうくてうかれなばまつはひとりにならんとすらん  1360  ゆきのふりけるに まつのしたはゆきふるをりの色なれや皆白妙にみゆる山ぢに  1361 雪つみて木もわかずさく花なれやときはの松もみえぬなりけり  1362 はなと見るこずゑの雪に月さえてたとへんかたもなきここちする  1363 まがふいろはむめとのみみてすぎゆくに雪のはなにはかぞなかりける  1364 をりしもあれうれしく雪のうづむかなかきこもりなんとおもふ山ぢを  1365 中中にたにのほそみちうづめゆきありとて人のかよふべきかは  1366 谷の庵にたまのすだれをかけましやすがるたるひののきをとぢずは  1367  はなまゐらせけるをりしも、をしきにあられのちりけるを しきみおくあかのをしきのふちなくは何にあられの玉とちらまし  1368 いはにせくあか井の水のわりなきに心すめともやどる月かな  1369  大師のむまれさせ給ひたる所とて、めぐりのしまはして、そのしるしにまつのたてりけるをみて あはれなりおなじの山にたてる木のかかるしるしの契りありける  1370  又ある本に  まんだらじの行だうどころへのぼるは、よの大事にて、手をたてたるやうなり、大師の、御経かきてうづませをりましたるやまのみねなり、ばうのそとは、一丈ばかりなるだんつきてたてられたり、それへ日ごとにのぼらせおはしまして、行道しをりましけると、申しつたへたり、めぐり行道すべきやうに、だんも二重につきまはされたり、のぼるほどのあやふさ、ことに大事なり、かまへてはひまはりつきて めぐりあはんことのちぎりりぞ有りがたききびしき山のちかひみるにも  1371  やがてそれが上は、大師の、御師にあひまゐらせさせをりましたるみねなり、わがはいしさと、その山をば申すなり、その辺の人は、わがはいしとぞ申しならひたる、山もじをばすてて、申さず、又ふでの山ともなづけたり、とほくてみればふでににて、まろまろと山のみねのさきのとがりたるやうなるを、申しならはしたるなめり、行道どころより、かまへてかきつきのぼりて、みねにまゐりたれば、師にあはせおはしましたる所のしるしに、たふをたておはしましたりけり、たふのいしずゑ、はかりなくおほきなり、高野の大たふなどばかりなりけるたふのあととみゆ、こけはふかくうづみたれども、いしおほきにして、あらはに見ゆ、ふでのやまと申すなにつきて ふでの山にかきのぼりてもみつるかなこけのしたなる岩のけしきを  善通寺の大師の御影には、そばにさしあげて、大師の御師かきぐせられたりき、大師の御てなどもおはしましき、四の門のがく少少われて、おほかたはたがはずして侍りき、すゑにこそいかがなりなんずらんと、おぼつかなくおぼえ侍りしか  1372  備前国に、小島と申す島にわたりたりけるに、あみと申す物とる所は、おのおのわれわれしめて、ながきさをにふくろをつけて、たてわたすなり、そのさをのたてはじめをば、一のさをとぞなづけたる、なかにとしたかきあま人のたてそむるなり、たつるとて申すなることばきき侍りしこそ、なみだこぼれて、申すばかりなくおぼえて、よみける たてそむるあみとるうらのはつさをはつみのなかにもすぐれたるかな  1373  ひび、しぶかはと申す方へまはりて、四国のかたへわたらんとしけるに、風あしくて、ほどへけり、しぶかはのうらと申す所に、をさなきものどもの、あまたものをひろひけるをとひければ、つみと申す物ひろふなり、と申しけるをききて おりたちてうらたにひろふあまのこはつみよりつみをならふなりけり  1374  まなべと申す島に、京よりあき人どものくだりて、やうやうのつみのものどもあきなひて、又しわくの島にわたり、あきなはんずるよし申しけるをききて まなべよりしわくへかよふあき人はつみをかひにて渡るなりけり  1375  くしにさしたる物をあきなひけるを、なにぞととひければ、はまぐりをほして侍るなり、と申しけるをききて おなじくはかきをぞさしてほしもすべきはまぐりよりはなもたよりあり  1376  うしまどのせとにあまのいでいりて、さだえと申すものをとりて、ふねにいれいれしけるをみて さだえすむせとの岩つぼもとめいでていそぎしあまのけしきなるかな  1377  おきなるいはにつきて、あまどものあはびとりけるところにて いはのねにかたおもむきになみうきてあはびをかづくあまのむらきみ  1378  題不知 こだひひくあみのうけなはよりくめりうきしわざあるしほざきのうら  1379 かすみしくなみのはつはなをりかけて桜だひつる沖のあま舟  1380 あま人のいそしくかへるひじきものはこにしはまぐりがうなしただみ  1381 いそなつまんいまおひそむるわかふのりみるめぎばさひじきこころぶと  1382  伊せのたふしと申す島には、こいしのしろのかぎり侍る浜にて、くろはひとつもまじらず、むかひてすがじまと申すは、くろのかぎり侍るなり すがじまやたふしのこいしわけかへてくろしろまぜよ浦の浜かぜ  1383 さきしまのこいしのしろをたか波のたふしの浜に打ちよせてける  1384 からすざきのはまのこいしと思ふかなしろもまじらぬすが島のくろ  1385 あはせばやさぎとからすとごをうたばたふしすが島くろしろのはま  1386  伊せのふたみのうらに、さるやうなるめのわらはどものあつまりて、わざとのこととおぼしく、はまぐりをとりあつめけるを、いふかひなきあま人こそあらめ、うたてきことなりと申しければ、かひあはせに京より人の申させ給ひたれば、えりつつとるなりと申しけるに いまぞしるふた見の浦のはまぐりをかひあはせとておほふなりけり  1387  いらこへわりたりけるに、いがひと申すはまぐりに、あこやのむねと侍るなり、それをとりたるからをたかくつみおきたりけるをみて あこやとるいがひのからをつみおきてたからのあとをみするなりけり  1388  おきのかたより風のあしきとて、かつをと申すいをつりけるふねどものかへりけるに いらこざきにかつをつりぶねならびうきてはがちの波にうかびつつぞよる  1389  ふたつありけるたかの、いらこわたりをすると申しけるが、ひとつのたかはとどまりて、きのすゑにかかりて侍ると申しけるをききて すたかわたるいらこがさきをうたがひてなほきにかへる山がへりかな  1390 はしたかのすずろがさでもふるさせてすゑたる人の有りがたのよや  1391  うぢがはをくだりけるふねの、かなつきと申す物をもて、こひのくだるをつきけるをみて うぢ川のはやせおちまふれふぶねのかづきにちがふこひのむらまけ  1392 こはえつどふぬまのいりえのもの下は人つけおかぬふしにぞありける  1393 たねつくるつぼ井の水のひくすゑにえぶなあつまるおちあひのわだ  1394 しらなはにこあゆひかれてくだるせにもちまうけたるこめのしきあみ  1395 みるもうきはうなはににぐるいろくづをのがらかさでもしたむもちあみ  1396 秋かぜにすずきつりぶねはしるめり其ひとはしのなごりしたひて  1397  新宮より伊勢のかたへまかりけるに、みきしまにふねのさたしける浦人の、くろきかみはひとすぢもなかりけるをよびよせて としへたるうらのあま人こととはん波をかづきていくよ過ぎにき  1398 くろかみはすぐるとみえし白波をかづきはててたる身にはしれあま  1399  ことりどものうたよみける中に こゑせずばいろこくなるとおもはまし柳のめはむひはの村とり  1400 ももぞのの花にまがへるてりうそのむれたつをりはちるここちする  1401 ならびゐてともをはなれぬこがらめのねぐらに憑むしひの下えだ  1402  月のよ、かもにまゐりてよみ侍りける 月のすむみおやが原に霜さえて千鳥とほだつ声きこゆなり  1403  くまのへまゐりけるに、ななこしのみねの月をみて、よみける 立ちのぼる月のあたりに雲きえて光かさぬるななこしのみね  1404  さぬきのくにへまかりて、みのつと申すつにつきて、月あかくて、ひびのてもかよはぬほどに、とほく見えわたりたりけるに、みづとりのひびのてにつきてとびわたりけるを しきわたす月のこほりをうたがひてひびのてまはるあぢのむらとり  1405 いかでわれ心の雲にちりすゑでみるかひありて月をながめん  1406 ながめをりて月のかげにぞよをばみる住むもすまぬもさなりけりとは  1407 雲はれて身にうれへなき人の身ぞさやかに月のかげはみるべき  1408 さのみやはたもとにかげをやどすべきよわし心よ月なながめそ  1409 月にはぢてさし出でられぬ心かなながむか袖にかげのやどれば  1410 心をばみる人ごとにくるしめて何かは月のとりどころなる  1411 つゆけさはうき身の袖のくせなるを月みるとがにおほせつるかな  1412 ながめきて月いかばかりしのばれんこのよしくものほかになりなば  1413 いつかわれこのよのそらをへだたらんあはれあはれと月をおもひて  1414 露もありつかへすがへすも思ひしりてひとりぞみつるあさがほのはな  1415 ひときれはみやこをすてていづれどもめぐりてはなほきそのかけはし  1416 すてたれどかくれてすまぬ人になれば猶よにあるににたるなりけり  1417 世の中をすててすてえぬここちしてみやこはなれぬ我がみなりけり  1418 すてしをりのこころをさらにあらためてみるよの人に別れはてなん  1419 おもへこころ人のあらばや世にもはぢむさりとてやはといさむばかりぞ  1420 くれ竹のふししげからぬよなりせばこの君はとてさしいでなまし  1421 あしよしをおもひわくこそくるしけれただあらざればあられけるみを  1422 ふかく入るは月ゆゑとしもなきものをうきよしのばんみよしのの山  1423  さがのの、みしよにもかはりて、あらぬやうになりて、人いなんとしたりけるをみて この里やさがのみかりのあとならん野山もはてはあせかはりけり  1424  大覚寺の金岡がたてたるいしをみて 庭のいはにめたつる人もなからましかどあるさまに立てしおかずば  1425  たきのわたりのこだちあらぬことになりて、松ばかりなみたちたりけるをみて ながれみしきしのこだちもあせはてて松のみこそは昔なるらめ  1426  りうもんにまゐるとて せをはやみみやたきがはをれたり行けば心のそこのすむここちする  1427 おもひ出でてたれかはとめてわけもこんいるやまみちの露の深さを  1428 呉竹の今いくよかはおきふしていほりのまどをあげおろすべき  1429 そのすぢにいりなば心なにしかも人めおもひてよにつつむらん  1430 みどりなるまつにかさなる白雪は柳のきぬを山におほへる  1431 さかりならぬ木もなく花のさきにけるとおもへば雪を分くる山みち  1432 波と見ゆるゆきをわけてぞこぎ渡るきそ