Title 伊勢參宮名所圖會  Book 伊勢參宮名所圖會卷之一  Book 伊勢參宮名所圖會卷之二  Subtitle えぞ櫻  Description 「親後撰集」  いせの勅使にともなひて鈴鹿の關を越るとて                定家 えぞ過ぬこれやすゞかの關ならんふり捨がたき花のかげかな 吐櫻は地藏堂より半町ばかり西南側小櫻屋喜兵衞庭前のものを其古 樹なりといふ エゾと云は初五文字のえぞ過ぬの言をとりていひつ たへたるなるべし 蝦夷人の枝をさしたるが生ひ出たるとも又西行 の杖に切たる跡の朽木より芽を出したるなど勢陽府志の説は信じが たし  Book 伊勢參宮名所圖會卷之三  Subtitle 四足八鳥山觀音寺  Description 濱宮内院とも云泊り村東にあり四日市へ直に出る道なり 【中略】                西行 昨日たちけふ立見れば日永なる洲崎にみゆるもりの一村  Figure 0208  Description 西行法師埀水成就寺へ 參られけるに小童傍の木に かきのぼりけるを見て さる兒と みるより 早く木に のぼる といひければ小童 犬のやう なる 法師 來れば と付たり西行 不思議の思ひを なしぬ  Subtitle 澁見  Description 津より廿町納所村の西 【中略】                西行 青柳のしぶみの山のうしろ田にのりをりおけとふくろうの鳴  Book 伊勢參宮名所圖會卷之四  Subtitle 風宮  Description 土宮の東の方にあり 【中略】  「名寄」                西行 この春は花をおしまでよそならむ心を風の宮にまかせて  Subtitle 菩提山神宮寺  Description 眞言宗なり下中村にあり 聖武帝勅願によりて天平十六年の草創開基行基菩薩 文治元年良仁上人これを中興す 西行歌集に菩提山上人によみて送るといふ歌あるは此上人なり 承元三年正月十九日入寂九十七歳  Figure 0336-0337 菩提山 神宮寺  Description 【中略】 「山家集別本」  伊勢にて菩提山上人月に對して述懷せしに                西行 めぐりあはて雲井のよそになりぬとも月になれ行くむつひわするな  Subtitle 西行谷神照寺  Description 宇治の町東の山際にあり 建久の頃圓位上人暫寓居ありし所なり又西行自作鉈造りといふ像あ り西行谷の扁額は廣澤の書なり今は文人詩歌集會の席とす今の客殿 烏丸大納言光廣卿の御寄附なりといへり今は比丘尼住持す尚畫上に 記す ○谷戸松 門前にあり諸人愛觀せしかど今は枯れぬ西行の歌に 谷の戸に獨りぞ松は立るなり我のみ友はなきと思へば  Figure 0346-0347 西行谷 神照寺  Description 西行物語ニ云西行 一名圓位後鳥羽 院の御時北面ニ召 遣はれし左兵衞尉 憲清といひて定家 同時の人也文治の頃 出家して西山に住 間もなく大神宮に 詣で詠歌多く名にし おふ二見の浦に庵をむすび 思ひ きや二見の浦の月をみて明暮袖に 波かけんとは 神路山の櫻は芳野の山 にも勝たりければ留まる事三年許にして 東の方へ赴き所々の歌多し 終ニ東山双林寺 の邊に建久九年二月十五日ニ寂す 兼て思ひ入たる 歌 ねがはくは花のもとにて我死む そのきさらぎのもち月のころ 俗傳云西行の妻にてありし者 尋て此庵にきたりしかば一夜の うちに我像を造り殘し 杳然として*を*す妻は 爰に髮をおろして終に *果て今に尼僧を*へ 神照寺といへり像は鉈造り といひて後又尼の像を 副て安置す かくは**つたへたれども西行 物語に見れば妻はむすめ とともに高野天野に尼 と成りて往生をとげ たり娘も正治元年八月 同所に終りけるとぞ 即その*今に 殘れり  Book 伊勢參宮名所圖會卷之五  Subtitle 内宮正殿 天照皇大神一座  Subtitle 相殿 東手力雄命 西萬幡豐秋津姫命  Description 【中略】 「西行の歌とて」 何事のおはしますかはしらねども有がたさにぞ涙こぼるゝ  Subtitle 神路山 宮域のめぐり東南の惣號なり  Description 一名大山 天照山 宇治山 鷲日山ともいふ 鷲の日山とは天竺靈鷲山に比したる名なればもとよりさるべき名に はあらで西行の歌よりいひはじめたるなるべし好んで呼ぶ名にはあ らず 「千載集」  高野の山を住うかれて後伊勢國二見の浦の山寺に侍りけるに大神  宮の御山をば神路山と申 大日如來の御埀迹をおもひて                圓位法師 ふかく入て神路のおくを尋れば又うへもなき峯の松風 「歌枕」                後鳥羽院御製 かくしつゝそむかんまでもわするなよ天照山の秋の夜の月  Subtitle 百枝松    内宮御神木にて神路山に立りといひ傳ふれども其地詳ならず  Description  西行上人のすすめ侍りけるみもすそ川の歌合刻してつかはしける  時                俊成 藤波もみもすそ川の末なれやしづえをかけよ松の百枝に  Subtitle 櫻宮 大道の左の方石壇なり  Description 所祭木花開耶姫命なり 櫻御前とも云小朝熊の内櫻大刀自神なり 神殿なく只櫻の一木を神體と崇む 則ち小朝熊六座ともに此に併せ遙拜す 「續古今」                西行 神風に心やすくぞまかせつる櫻のみやの花のさかりは  Subtitle 瀧宮並宮 瀧原の宮にならび座す  Description 「夫木」                西行 浪と見る花のしづえの岩枕瀧の宮にや音よどむらむ 「同」                爲家 瀧の原ならびの宮の神だから猶末つゞく沖津しら浪  Subtitle 山田原 鹽合のさし入の村三津村のつゞきなり  Description 左の歌は西行物語には後鳥羽院障子の繪に付てよみたるなり又みも すそ川歌合にみえたれば爰をよみたるにや定かならず 「新古今」                西行 きかずともここをせにせん時鳥山田の原の杉のむら立 ○西行法師の舊跡 山田原村のみなみなり 寺ありしかども今はなし所を安養山とも西行谷とも云 宇治の西行谷よりはふるく住居せられて年數も長かりしやと覺ゆ 千載集詞書に高野の山を住うかれて伊勢ノ國二見山に侍りけると 云々 今は苔むして木二三本殘りあり宮川歌合は此地にて撰ばれ し歟 此所は溝口村の領なり  Subtitle 三津浦 又三津の入江 三津の濱とも云  Description 舟わたしあり爰を引舟のわたしといふ 俗にくり舟といふ二見郷三津村の南の方にあり 「山家集」  伊勢にまかりけるにみつと申所にて海邊春暮と  いふ事を神主よみけるに                西行 過る春鹽のみつより船出して浪の花をやさきに立らん 「夫木」                長明 我もさぞ願はかゝる伊勢島や戀しき人をみつのうら波  Subtitle 音無山  Description 此名所當國に二ツあり一ツは外宮神前の山一ツは二見の山なり二見 の音無は鴨長明が伊勢ノ記に  二見の音無山に人々のぼりて遙に海山を見るに東は三河遠江駿河  などを見越て富士の山ほのかに見ゆ艮に當つて甲斐の白根信濃の  みさかあり北に美濃尾張の山どものうへより加賀の白山見ゆ乾に  多度の山鈴鹿の三ツ子山西に布引山あさか山伊賀國の山ども名も  しらず南は朝熊山志摩國の方なり朝熊川を隔て晝川の横根と云山  あり其山の西のはなに鏡の宮おはします海月も遙かに見え渡りて  なん云々 或云二見にしていづれをさして云やらん土俗も是をしらず爰に山彦 のなき山ありこれなん面白しとは思へ共小き山にて長明がいへるに はかなはず或云西行法師の住給ひし安養山と云高山は是にかなへり 即ち長明がのぼりし時も西行法師の住ける安養山と云所に人々連歌 などして大中臣又西行などともなひてのぼりたると見えたりいづれ 此菴室近き高山なるべし 「名寄に」 松やあらぬ風やむかしの風ならぬいづれの秋か音なしの山  Subtitle 立石崎 江村へ行道の渚なり  Description ○海中左右に立る大石あり注連をはりて垢離かき場といふこの二ツ の石立つ故に立石崎といふなり 此所の藻を湯に*して沐浴し汚を洗ふ是を無垢鹽と云前の山を御鹽 山とも云 「夫木」                西行 さかおろす立石崎の白浪はあらき汐にもかゝりけるかな 山田宇治に住む人參宮せんとおもふ前には先かならず此ところに垢 離かきて後にあらざれば宮中に入らず  Subtitle 二見浦 此邊をすべて二見といふ  Description 【中略】 「參詣記云」 【前略】 磯山がけの道をつたひ行程にあはれに心すごき古寺あり安養山と申 所なり是は西行上人のすみ侍りける舊跡とかやぞうけたまはる【中略】 宮川の歌合をも此所にて集めけるとぞうけたまはる然れば兩宮の祠 官も此風をまなび一寺の僧俗も彼跡をこそしたひ侍りしに今は磯邊 によするもしほ草かき置すさみばかりは此世にとゞまり波間にひろ ひし玉の跡とは尋ぬべき道にもあらず云々【下略】  Subtitle 神崎山  Description 松下村の後の山をいふ いせ記に西行法師の 侍りける安養山といふ所に人 歌よみ連歌などし侍りし時 海邊の落花と云を                長明 秋をやく神崎山は色きへて あらしの末にあまのもしほ火  Subtitle 波賀地濱  Description 又はかせとも云いらこ鳥羽に ならへり鰹を取る 「山家集」                西行 いらこ崎に鰹釣舟ならび浮てはかちの濱に流てぞよる  Subtitle 酢我島  Description 一名夏見浦鳥羽より東南二里半 「山家集」                西行 すが島やたふしのご石分かへて白黒まぜよ浦の濱風 すが島や夏見の浦による波のあいたもおきて我おもはなくに  Book 伊勢參宮名所圖會卷之付録一  End  底本の親本::   書名:  伊勢參宮名所圖會   發行:  寛政九年   著者:  不詳   畫 :  蔀關月  底本::   書名:  日本圖會全集二期第四卷        伊勢參宮名所圖會   發行:  昭和四年二月二十五日   發行所: 日本隨筆大成刊行會  入力::   入力者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力機: SHARP Zaurus MI-E21   編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日: 2006年03月12日 $Id: zue_ise.txt,v 1.11 2019/07/09 02:30:53 saigyo Exp $