Title  グリーン・カード 38  緑の札 38  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月十二日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  グラス、ハウス 一  Description  湖岸----。             ヽヽ  小波の囁き、朝の光りにきらめ    ヽヽ く波のひれ。  ヽ  す----と霞に包まれて走る漁船           ヽヽヽ の微に尾をひく波面のうねり。  九月の深い緑に埋もれてゐる湖        てんてつ2  岸の森から森に點綴する水晶の家 ……。  こゝは商工都市に活躍する人々 の居住地だ。市街からこゝは二十 里も北の地點だ。  グラス・ハウス! 水晶の家の 屋上には、どの屋上にも飛行機の 格納庫が設置され自家用の高級な 小型飛行機が備へられてゐる、こ の飛行機は、ハウス・ヒロインを 僅か十五分で商工都市に運ぶので ある。          ヽヽ  朝の、湖上の霧がすつきりと晴 れると、湖面には輕快なランチが 波を切つて縱横に走る。居住地の 人々の朝の運動だ。  ×ウズキ・シノブの家----。  紺青なバベの葉の繁つてゐる岸 にア力デミツクな水晶の家があ る、ハザクラ・テアトルの人氣者 ウズキ・シノブのサムマー・ハウ スだ。  眞紅なカーテンが十二の窓を閉 してゐたが湖面の霧が晴れる頃 に、そのカーテンが絞られた。  十二の窓には掃空機が廻轉を續 け、七つの室を通じて冷空機の管  ヽヽヽ がめぐらされてゐる。  家の周圍は夏のお花畑だ。雜混 種の夏草の花が、一面に咲き亂れ てゐる、南洋猿が小猫のやうにお 花畑を飛び跳ねてゐる、多分シノ ブの晝の戲れの相手であらう。  一人の少女がお花畑に現れた。  彼女はこゝの召使ひの一人だ。  おどけ者の猿が彼女に戲れを初 めたが、彼女は知らない顏でお花 畑の中から五六本の白百合を摘み 採ると、慌てゝ家にかき消えた。  ×シノブの部室----。  ヽヽヽ  めざめたばかりのシノブが、大 きい姿見の前で、入念な朝のお化 粧を始めてゐる。  白百合を摘んだ少女がこの室に 現はれた。 「お早うございます………」  少女は朝の最敬禮を捧げる。鏡 の中のシノブの顏が微笑んだ。  少女は姿見の敷ワクに吊るされ てゐる花筒に、その白百合を投込 むと、靜かに目禮して室を去る。  姿見の前を去つたシノブはちよ               テーブル2 つと白百合の花に口吻けをして卓 子の前に置かれた絹張りの肱掛け              ヽヽ 椅子に身を沈めると、寶石のちり ヽヽヽ ばんだシガレツト・ケースから、 細い金口を二本の指で摘み出して 自動發火器のボタンを叩いた。  漸て仄かに紫紺色の煙が一筋、 彼女の眞紅な唇から吹き上げら れたのである。  圓い輪が窓の外へ一つ、二つ、 三つ……。  この時少女は冷たいオレンヂ水 を運んできた。同時に少女の手に は今朝の新聞が持たれてゐる。  少女が去ると、彼女は金口を捨 てゝオレンヂ水のカツプに唇を 寄せた。  End  Data  トツプ見出し:   資料不十分を理由に   審査不能を奉答か   伊東委員長、各委員と堅急協議   亊態極めて重大化  廣告:   毛髮若返り香油 ビ夕オール 定價一圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月十二日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月10日 フローリング張替え工事手伝い  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月27日    $Id: gc38.txt,v 1.8 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $