Title  『西行峠』甲斐の民話  Note  1959.3.31 土橋里木編 未来社  *前記の西行峠と同文であるが、文章表現が若干違いますので、掲載いたします。  Description  駿河から富士川に沿つて、甲斐に入る道筋の万沢村に、西行峠という峠があります。  むかし西行法師が歌修行のために、諸国をめぐっていた頃、自分の歌の上手なのを鼻にかけて、自分より豪い歌よみがあるものかと思いながら、この山道にさしかかると、途中で一人のきこりに出あいました。「甲斐の国にも歌をよむ人がいるかな。」西行がきこりにたずねますと、薪を背負ったきこりは立ちどまって、「なんでぇ、お前は歌よみけぇ。そんじゃぁ、おれも歌ぁ一つよむから間いておくんねぇ」といって次の歌をよみました。    いきっちな、つぼみし花が、きっちなに         ぶっぴらいたる、樋とじの花  これを聞いた西行法師は、いくら考えても、この意味がよくわかりません。 「甲州では、きこりさえこんな歌をよむくらいだから、国中へ入ったら、どんな目にあわされるかも知れぬ。甲州へは、いま少し修行したあとで来た方がよい。」  西行法師が驚いて、そこからまた駿河へ引き返したので、西行峠の名ができたのだそうです。きこりがよんだ歌の意味は、行くときに蕾んでいた桜の花が、帰るときにはもう咲いていたということで、樋とじの花とは、桜の花のことです。桜の皮は曲げ物や樋を締めるのに使うから桜の花のことを樋綴といったのです。  また一説には、西行法師はこの峠で、籠を背員い鎌を手にした農家の子供にあい、「子供や、お前は何しに行くのだ」とたずねますと、子供が答えていいました。「おらぁな、冬青む夏枯れ草を刈りにいくところだ。」  西行法師はこの答えの意味がよくわからなかったので、驚いてそこから引き返したともいい伝えております。冬青む【夏】枯れ草とは麦のことをいうのです。   *山中共古氏「日本伝説集」および「甲山峡水」および「地歴の甲斐」より  End   底本:  西行峠の伝説と文学   発行:  平成二年三月三十一日   編者:  富沢町/富沢町教育委員会   発行者: 富沢町/富沢町教育委員会   国際標準図書番号:   入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThinkPad s30 2639-42J   入力日: 2003年12月08日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年12月14日  $Id: minwa.txt,v 1.5 2019/07/09 02:30:53 saigyo Exp $